磁気モーメントとは
磁性を決めるのは、物質内にある磁気モーメントです。磁気モーメントは、磁石としての強さとその向き(S極からN極)を表すベクトル量で、磁石はもちろんのこと、ループ状の電流(円電流)、小さいところでは電子や分子、大きいところでは地球も磁気モーメントを持っています。
磁性の担い手
image by Study-Z編集部
物質の磁性の担い手となるのは、電子に由来する2つの磁気モーメントです。
1つは軌道磁気モーメントと呼ばれる、原子核の周りを回る電子が円電流を作ることから生じる磁気モーメントで、主に反磁性に寄与します。もう1つが、電子に固有のスピン磁気モーメントです。この磁気モーメントは軌道磁気モーメントよりはるかに大きく、強磁性や常磁性に重要な役割を果たします。原子全体の磁気モーメントは、この2つの磁気モーメントの量子力学的総和です。
ほかにも、原子核が持つ核磁気モーメントがあります。前述の2つに比べ非常に小さいため、磁性の担い手としての役割はほぼありませんが、固有の周波数の電磁波と共鳴する、いわゆる核磁気共鳴の重要なファクターです。
スピン磁気モーメントについて
スピン磁気モーメントについて、もう少し詳しく解説しましょう。
量子力学が確立する前の古典電磁気学において、この磁気モーメントは電子の自転運動(スピン)による円電流が発生させたものと考えられていました。しかし、実際に計測されたスピン磁気モーメントの大きさは、自転運動の解釈から導き出される値よりずっと大きかったのです。その後、古典電磁気学では説明しようのないこの電子の挙動について、量子力学的な概念が導入されました。そして、多くの研究者が理論と実験を重ねて実証したこの概念に、改めてスピンの名がつけられたのです。
スピンの状態は2つあり、それぞれ「上向き」と「下向き」と表現されますが、各々が逆向きを向いているだけで実際の方向とは全く関係ありません。
スピンに量子力学的な意味合いを持たせた現在でも、分かりやすく説明するために「スピンは電子の自転運動である」の解釈が用いられることがあります。
不対電子とは
image by Study-Z編集部
電子の軌道を原子軌道といい、多電子原子は多くの原子軌道を持ちます。しかし、量子力学において1つの原子軌道に入れる電子は2つまでで、かつ2つの電子のスピンはお互い反対向きでなくてはいけません。これをパウリの排他律といい、この規則に基づいて原子軌道を占有する2つの電子を電子対、軌道に1つしかなく電子対を作っていない電子を不対電子と呼びます。
電子対は互いのスピンが逆向きであるため、磁気モーメントも逆向きで打ち消し合い差し引き0です。一方、不対電子のスピン磁気モーメントはそのままで、原子全体の磁気モーメントに大きく影響します。
そもそも、あらゆる物質は弱い反磁性を持っていますが、あまりにも微弱なため、不対電子ひいてはスピン磁気モーメントがあると容易に打ち消され表に出てきません。不対電子がない、もしくは不対電子があっても磁性に寄与しない物質のみが、もともとの反磁性を示すのです。
\次のページで「各磁性のスピン磁気モーメント配列」を解説!/