鉄のクリップやヘアピンなどが永久磁石に触れると、それ自身も磁石のようにほかの鉄製品をひきつけることは知っているな?このように、磁石が作り出す「磁界」によって物質が磁気を帯びる現象を「磁化」という。鉄製品はもちろんのこと、全く磁石につかない物質も、実はわずかながら磁化されている。

磁化の要因は物質が持つ「磁気モーメント」にあること、磁化の仕方によって分類ができることを、学生時代に磁性材料を研究していたライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代、磁気工学を学んだ経験と知識を生かし、磁化について分かりやすく解説していく。

磁化の仕組み

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磁石が物質に及ぼす力を磁力、その磁力が及ぶ空間を磁界または磁場といいます。磁石に触れた鉄製品が磁石と同じ振る舞いをするように、磁界によって物質が磁気を帯びること、磁石になることを磁化または帯磁と呼ぶのです。磁化するのは磁石にくっつく物質だけだと思われがちですが、それらは磁化が顕著なだけにすぎません。磁石にくっつかない物質も、実は微弱ながら磁化しているのです。

磁界は電流によっても作られ、導線が真っすぐな場合は同心円状、ループ状の場合は棒磁石と同じような磁界が発生します。右ねじの法則、右手の法則を思い出しましょう。

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磁化の単位

磁化の単位

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磁化の単位はひとつではありません。

電磁気学で使われる単位系は大きく2つに分けられます。SI単位系の一部であるMKSA単位系、昔から使われるCGS単位系です。CGS単位系にも種類があり、CGS電磁単位系(CGS-emu)CGS静電単位系(CGS-esu)、磁気に関する単位には電磁単位系、電気に関する単位には静電単位系を用いたCGSガウス単位系(CGS-ガウス)などがあります。

MKSA単位系
基本単位:メートル Metre・キログラム Kilogram・秒 Second・アンペア Ampere
CGS単位系
基本単位:センチメートル Centimetre・グラム Gram・秒 Second

問題は、単位系それぞれで物理量の定義が異なり、物理法則の公式もそれに応じたものになっていることです。そのため、別の単位系への変換が非常に複雑になっています。さらに磁界の定義にも流派(E-H対応、E-B対応)があり、どちらを採用するかでも単位が変わるのです。

また、CGS単位系は磁気の分野において長く愛用されていました。その慣習が今でも残っている上、過去の測定値をMKSA単位系に変換する際に混乱が予想されるため、現在でも磁化の単位がいくつも使われているのです。

磁化の測定方法

磁化を測る装置として、磁気てんびんや振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer, VSM)、超伝導量子干渉計 (Superconducting QUantum Interference Device, SQUID)などがあります。

磁化率とは

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鉄のように磁界に対し特徴的な挙動を示す物質以外は、磁界Hとそれにより物質内に誘発された磁化Iとの間にI=χHという比例関係が成り立ちます。このχ磁化率(または帯磁率)で、磁化のしやすさを表す物性値です。

多くの物質は磁界と同じ向きに磁化が増加する常磁性χ > 0)と、磁界の反対向きに磁化が増加する 反磁性χ < 0)に分けられます。真空の磁化率は0です。

磁化をMJPmと表現する場合もありますが、筆者が参考にした本がIとしているので、この記事でもIと表現します。このように、アルファベット1つとっても、参考書によってこれだけ違いがあるのです。

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磁化率の求め方

磁化率はχ=I/Hで求められ、物質に固有の値です。また、単に磁化率という場合は単位体積当たりの体積磁化率のことを指し、単位質量当たりの磁化率は質量磁化率、1mol当たりの磁化率はモル磁化率と呼びます。

磁気モーメントとは

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磁気モーメントは、磁石の強さとその向き(S極からN極へ)を表すベクトル量です。永久磁石はもちろんのこと、ループ状の電流、小さなものでは電子や分子、大きなものでは地球などの惑星も磁気モーメントを持っています。物質の単位体積当たりの磁気モーメントが磁化の値です。

磁気モーメントの起源

磁気モーメントの起源

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物質の磁気の担い手になるのは、電子の軌道運動不対電子の自転運動(スピン)それぞれから生ずる磁気モーメントです。

前者は軌道磁気モーメントと呼ばれ、原子核の周りを回る電子の軌道運動がループ状の電流に相当することから生じます。磁気に大きく寄与するのは、後者のスピン磁気モーメントの方で、電子の自転運動がループ電流となって生じるものです。原子の磁気モーメントはこの2つの磁気モーメントの量子力学的総和になります。

ほかに、物質中に存在する磁気モーメントとして挙げられるのが、原子核の持つ核磁気モーメントです。電子に起因する磁気モーメントに比べて非常に小さいため、一般的に無視できますが、固有の周波数の電磁波と相互作用する核磁気共鳴の重要なファクターになります。MRIで有名ですね。

磁性とは

物質にはさまざまな磁化の性質すなわち磁性があり、磁化する物質を磁性体と呼びます。どんなものも大なり小なり磁化するため、あらゆる物質が磁性体であると言えるのですが、通常は後述の強磁性体のみを指す言葉です。では、実際にどのような磁性があるでしょうか。

1.常磁性:スピンの向きがバラバラ

1.常磁性:スピンの向きがバラバラ

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外部磁界がないときは磁化がなく、磁界をかけるとその方向に弱く磁化する磁性ですχ > 0)パラ磁性とも。隣り合うスピン同士に相互作用がないため、熱振動によりバラバラの方向を向いています。磁界が強くなると、熱振動が抑えられてスピンの向きがそろうようになり、結果磁化が増加するのです。

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2.強磁性:スピンが平行に配列

2.強磁性:スピンが平行に配列

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外部磁界がなくてもスピンが規則的かつ同じ向きに配列し、ひとりでに磁化を形成する磁性で、この磁化のことを自発磁化といいます。隣り合うスピンが互いに平行になろうとする磁気的結合があるため、熱振動に耐えることができるのです。

強磁性体の内部では、自発磁化の向きが異なる多くの領域(磁区)に分かれており、全体的には磁化していないように見えます。鉄などが普段磁気を持たないのはこのためです。磁界を加えると、磁区と磁区を隔てている磁壁が動き、磁界と同じ方向の磁区が大きくなります。そして最終的には磁界方向の磁区のみになり、磁化もそれ以上増加しなくなるのです(飽和磁化)。磁界を取り去ると、再び多くの磁区に分かれるので、磁化もなくなります。

また、温度を上げると熱振動が大きくなり、スピン配列が乱れて自発磁化も減少。ある温度を超えると常磁性になってしまいます。この温度をキュリー温度といい、物質に固有の値です。

3.反強磁性:スピンが反平行に配列

3.反強磁性:スピンが反平行に配列

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隣り合うスピンが交互に逆方向を向いて(反平行)規則的に配列しており、自発磁化を持たない磁性です。強磁性体と同じく、ある温度(ネール温度)を超えると熱振動によりスピン配列が乱れ、常磁性を示すようになります。

4.反磁性:スピン磁気モーメントがない!

外部磁界がないときは磁化がなく、磁界をかけると逆の向きに弱く磁化する磁性ですχ < 0)。不対電子がなく、磁気を担うスピン磁気モーメントがありません。そのため、自由電子または金属中の伝導電子に起因する反磁性(ランダウ反磁性)が表れます。また、磁界をかけることで電磁誘導が起き、電子の軌道運動が加速されて外部磁界を打ち消すような磁化が生じるのも、反磁性の要因の一つです(ラーモア反磁性)。

上記の反磁性は非磁性と呼べるほど非常に小さなものですが、磁石の上に浮上する超伝導体は例外的に大きく、完全反磁性χ = -1)を示します。

実はあらゆる物質が反磁性を持っていますが、あまりにも弱いため常磁性や強磁性ではスピン磁気モーメントに隠れてしまいます。一番身近な反磁性体は水です。

磁化の根源は物質の中の磁気モーメント

磁界によって物質が磁気を帯びるのが磁化で、物質の中の磁気モーメントに由来することを解説しました。長い話になってしまいましたが、要は「物質の中には小さな磁石がたくさんある」「磁石にくっつく物質はもちろん、くっつかない物質も少しだけ磁石になっている」ということです。

電子機器が欠かせない昨今、磁気はいろいろなところで人々の暮らしを支えています。たとえばハードディスクは磁気を応用した記録媒体ですし、ハイパワーな永久磁石は製品の小型化に一役買っていますよ。

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物理理科

3分で簡単!磁化の仕組みとは?磁化率や磁気モーメント・磁性について工学系院卒ライターがわかりやすく解説



鉄のクリップやヘアピンなどが永久磁石に触れると、それ自身も磁石のようにほかの鉄製品をひきつけることは知っているな?このように、磁石が作り出す「磁界」によって物質が磁気を帯びる現象を「磁化」という。鉄製品はもちろんのこと、全く磁石につかない物質も、実はわずかながら磁化されている。

磁化の要因は物質が持つ「磁気モーメント」にあること、磁化の仕方によって分類ができることを、学生時代に磁性材料を研究していたライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代、磁気工学を学んだ経験と知識を生かし、磁化について分かりやすく解説していく。

磁化の仕組み

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磁石が物質に及ぼす力を磁力、その磁力が及ぶ空間を磁界または磁場といいます。磁石に触れた鉄製品が磁石と同じ振る舞いをするように、磁界によって物質が磁気を帯びること、磁石になることを磁化または帯磁と呼ぶのです。磁化するのは磁石にくっつく物質だけだと思われがちですが、それらは磁化が顕著なだけにすぎません。磁石にくっつかない物質も、実は微弱ながら磁化しているのです。

磁界は電流によっても作られ、導線が真っすぐな場合は同心円状、ループ状の場合は棒磁石と同じような磁界が発生します。右ねじの法則、右手の法則を思い出しましょう。

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