この記事では黄銅と真鍮の違いに着目していきます。どちらも銅をベースとした合金で、比較的安価な上に加工がしやすいため多くの用途で使われている。はたして両者に違いはあるのでしょうか?ほかにも、銅そのものや黄銅以外の銅合金について、大学で金属工学を学んだライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学部出身の理系だが、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。今回は大学で金属工学を学んだ経験と知識から、詳しく解説していく。

黄銅と真鍮の違いとは?

財布の中の5円硬貨から、オーケストラで存在感を示す金管楽器まで、実にさまざまな場所で使われる金色の金属・黄銅(おうどう、こうどう)真鍮(しんちゅう)という別名もありますが、黄銅真鍮に違いはあるのでしょうか。

黄銅と真鍮は銅と亜鉛の合金

結論から言うと、黄銅と真鍮は全く同じです。銅と亜鉛の合金で、特に亜鉛が20%以上のものを指します。

ここで合金について説明しましょう。純粋な金属に、1種類以上の他の材料を混ぜた金属材料が合金です。金属を合金にする目的は、ベースとなる金属の長所をさらに伸ばすベースとなる金属の短所を補った上で新しい特性を生み出すことであり、現在まで数多くの合金が作られてきました。合金は金属同士だけでなく、金属と非金属でも作られ、代表的な例として鋼(鉄と炭素)があります。

黄銅(真鍮)の特徴

image by iStockphoto

英語ではbrass。金管楽器の主材料であるため、金管楽器のバンドをbrass bandと呼びます。硬さ、強さ、伸びなどの特性に優れている上、さびにくく水にも強いという、汎用性の高い合金です

黄銅の物性を決めるのは銅と亜鉛の配合。鉛の割合が増えるにつれ見た目が銅赤色から金色に変化し、硬くなっていきますが、同時にもろくもなります。一般的な割合は銅65%・亜鉛35%です。亜鉛の割合が45%を超えると物性が完全に変わり、実用に耐えない代物に。

さらに削る加工をしやすくするためにを加えた快削黄銅、海水にさらされてもさびないようスズを添加したネーバル黄銅などがあります。

黄銅(真鍮)の用途

優れた特性がある上に加工しやすく、さらに比較的安価であることから、あらゆるところで使われています。一番身近なのは5円硬貨ですね。ほかの用途としては、前述の金管楽器や時計など精密機器の部品、水回りの配管など。殺菌効果もあるので、ドアノブなどの人の手に触れるところにも使われます。海水に強い黄銅は船舶部品に最適です。

また、金色の美しい見た目から、仏具やアクセサリーにも黄銅が使われています。意外なところでは、時代劇で使われる偽物の小判も!

黄銅(真鍮)の歴史

黄銅の歴史は発祥がはっきりしないほど古く、少なくとも紀元前4000年ごろからすでに貨幣などに使われていました。初めのころは、もともと亜鉛が多く含まれる銅鉱石を製錬して作ったと考えられています。その後、銅と粉末にした亜鉛鉱石、木炭を混ぜて加熱するという製法が普及しました。

黄銅は古代の中国や朝鮮半島、日本でも使われており、当時の呼び方は鍮石(とうせき、ちゅうせき、ちゅうじゃく)真鍮の名の由来です。正倉院にも黄銅で作られた宝物がいくつか収められています。

黄銅(真鍮)以外の銅合金 

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やみくもに金属とほかの材料を混ぜても、合金はできません。材料同士にも相性があり、組み合わせによっては水と油のように混じり合わないからです。その点、銅はほかの材料と合金を作りやすい性質があります

銅は使い勝手が良い上、自然界に金属として存在するので容易に手に入れることができますが、金属としては柔らかく強度がないのが欠点です。その欠点を補うために、古来よりさまざまな銅合金が作られました。

1.電気関係には必要不可欠:銅

まず合金の基本となるから解説します。英語でcopper電気を伝えやすい性質(導電性)があり、電気・電子関連では欠かせない金属材料です。熱を伝える性質(熱伝導性)も良く、銅製の鍋やフライパンは食材に素早くムラなく熱を加えることができると、プロの料理人から好評を得ていますね。

ほかにも、前述の通り柔らかい性質があるので加工しやすい高い耐食性や抗菌作用など、優れた特性が数多くあります。

\次のページで「2.時代となった金属:青銅」を解説!/

2.時代となった金属:青銅

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銅とスズ(Sn)の合金です。英語でbronze。名前の由来は酸化することで表面に帯びる緑青(ろくしょう)で、本来は光沢のある金属です。19世紀ごろまでは大砲の砲身に使われていたため、砲金(ほうきん:gunmetal)の別名もあります。主な用途は10円硬貨や銅像、建築材料など。

青銅の歴史は黄銅よりさらに古く、人類が石器の次に使ったのが青銅器でした。硬い上に加工しやすい、融点が低いので容易に溶かして形作ることができるなどのメリットがあり、鉄が普及するまで武器や農具などに広く用いられたのです(青銅器時代)。

日本には鉄と同時に伝来したため、実用的な道具より祭器として使われました。

3.銀に代わる硬貨の材料:白銅

銅とニッケルの合金で、英語でcupronickelニッケルを多く含むと銀白色になるので、銀の代用品として貨幣に使われます。日本においても、戦後100円硬貨は銀貨だったのですが、銀の高騰を受け1967年より白銅貨になりました。現在の50円・100円硬貨、初代500円硬貨は銅75%ニッケル25%の白銅です。

4.高級カトラリーの証:洋白

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英語でGerman silverまたはnickel silver銅と亜鉛とニッケルの合金で、割合は用途によって異なります。美しい見た目から装飾品や洋食器、楽器に使われており、2代目500円硬貨も洋白です。電気・電子部品に用いられることも。

特にカトラリーにおいては、銀メッキの洋白製が純銀製に次いで高級とされ、ホテルやレストランなどで使われています。”German silver”や”nickel silver”、”E.P.N.S”(Electric Plated Nickel Silver)の刻印があれば洋白製です。

黄銅と真鍮は全く同じ!

黄銅と真鍮はどちらも銅と亜鉛の合金で全く同じであることのほかに、黄銅の特徴や用途、銅やほかの銅合金について解説しました。はるか遠い昔から、私たち人類の生活は銅や銅合金に支えられ、発展してきたのです。現在の5円硬貨と紀元前4000年前の貨幣が同じ材料だと考えると、感慨深いですね。

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黄銅と真鍮の違いとは?銅合金としての特徴や用途、他の銅合金について雑学好きライターが詳しくわかりやすく解説!

この記事では黄銅と真鍮の違いに着目していきます。どちらも銅をベースとした合金で、比較的安価な上に加工がしやすいため多くの用途で使われている。はたして両者に違いはあるのでしょうか?ほかにも、銅そのものや黄銅以外の銅合金について、大学で金属工学を学んだライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学部出身の理系だが、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。今回は大学で金属工学を学んだ経験と知識から、詳しく解説していく。

黄銅と真鍮の違いとは?

財布の中の5円硬貨から、オーケストラで存在感を示す金管楽器まで、実にさまざまな場所で使われる金色の金属・黄銅(おうどう、こうどう)真鍮(しんちゅう)という別名もありますが、黄銅真鍮に違いはあるのでしょうか。

黄銅と真鍮は銅と亜鉛の合金

結論から言うと、黄銅と真鍮は全く同じです。銅と亜鉛の合金で、特に亜鉛が20%以上のものを指します。

ここで合金について説明しましょう。純粋な金属に、1種類以上の他の材料を混ぜた金属材料が合金です。金属を合金にする目的は、ベースとなる金属の長所をさらに伸ばすベースとなる金属の短所を補った上で新しい特性を生み出すことであり、現在まで数多くの合金が作られてきました。合金は金属同士だけでなく、金属と非金属でも作られ、代表的な例として鋼(鉄と炭素)があります。

黄銅(真鍮)の特徴

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英語ではbrass。金管楽器の主材料であるため、金管楽器のバンドをbrass bandと呼びます。硬さ、強さ、伸びなどの特性に優れている上、さびにくく水にも強いという、汎用性の高い合金です

黄銅の物性を決めるのは銅と亜鉛の配合。鉛の割合が増えるにつれ見た目が銅赤色から金色に変化し、硬くなっていきますが、同時にもろくもなります。一般的な割合は銅65%・亜鉛35%です。亜鉛の割合が45%を超えると物性が完全に変わり、実用に耐えない代物に。

さらに削る加工をしやすくするためにを加えた快削黄銅、海水にさらされてもさびないようスズを添加したネーバル黄銅などがあります。

黄銅(真鍮)の用途

優れた特性がある上に加工しやすく、さらに比較的安価であることから、あらゆるところで使われています。一番身近なのは5円硬貨ですね。ほかの用途としては、前述の金管楽器や時計など精密機器の部品、水回りの配管など。殺菌効果もあるので、ドアノブなどの人の手に触れるところにも使われます。海水に強い黄銅は船舶部品に最適です。

また、金色の美しい見た目から、仏具やアクセサリーにも黄銅が使われています。意外なところでは、時代劇で使われる偽物の小判も!

黄銅(真鍮)の歴史

黄銅の歴史は発祥がはっきりしないほど古く、少なくとも紀元前4000年ごろからすでに貨幣などに使われていました。初めのころは、もともと亜鉛が多く含まれる銅鉱石を製錬して作ったと考えられています。その後、銅と粉末にした亜鉛鉱石、木炭を混ぜて加熱するという製法が普及しました。

黄銅は古代の中国や朝鮮半島、日本でも使われており、当時の呼び方は鍮石(とうせき、ちゅうせき、ちゅうじゃく)真鍮の名の由来です。正倉院にも黄銅で作られた宝物がいくつか収められています。

黄銅(真鍮)以外の銅合金 

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やみくもに金属とほかの材料を混ぜても、合金はできません。材料同士にも相性があり、組み合わせによっては水と油のように混じり合わないからです。その点、銅はほかの材料と合金を作りやすい性質があります

銅は使い勝手が良い上、自然界に金属として存在するので容易に手に入れることができますが、金属としては柔らかく強度がないのが欠点です。その欠点を補うために、古来よりさまざまな銅合金が作られました。

1.電気関係には必要不可欠:銅

まず合金の基本となるから解説します。英語でcopper電気を伝えやすい性質(導電性)があり、電気・電子関連では欠かせない金属材料です。熱を伝える性質(熱伝導性)も良く、銅製の鍋やフライパンは食材に素早くムラなく熱を加えることができると、プロの料理人から好評を得ていますね。

ほかにも、前述の通り柔らかい性質があるので加工しやすい高い耐食性や抗菌作用など、優れた特性が数多くあります。

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