この記事では「三人市虎を成す」について解説する。

端的に言えば「三人市虎を成す」の意味は「嘘でも大勢がそうだと言うと真実と思われてしまうこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「三人市虎を成す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「三人市虎を成す」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

それでは早速「三人市虎を成す(さんにん、しこをなす)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「三人市虎を成す」の意味は?

「三人市虎を成す」には、次のような意味があります。

事実でなくても、多くの人がそうだと言えば、事実だと思われるようになることのたとえ。

出典:故事成語を知る辞典(小学館)「三人言いて虎を成す」

この言葉は「事実無根のことでも、大勢の人が言えば真実だと思われてしまうこと」をたとえた故事成句です。「事実無根のことでも」という前置きがポイントで、あり得そうもない事柄が引き合いに出されることもあるでしょう。

そのため、「そんなことを信じてしまうなんて」という驚きや呆れ、信じてしまう人たちの愚かさを批判する気持ちが表れてくることも。現代だと、ネットのデマなどむしろ理解のしやすい表現と言えるかもしれません。どのようなシチュエーションにこの言葉が使えそうか想像してみてください。

上の引用で「三人言いて~」となっているように、この表現には同じ意味で異なるバリエーションがいくつもあります。「三人、市虎を成す」と読点を入れても構いませんし、「三人、虎を成す」「市に虎あり」なども。どうしてそんなにあるのかは、次の語源の項で説明します。

「三人市虎を成す」の語源は?

次に「三人市虎を成す」の語源を確認しておきましょう。これは中国の書物『韓非子(かんぴし)』や『戦国策(せんごくさく)』に見られる言葉です。

他国へ行く龐恭(ほうきょう)という人物が王に「誰かが、市に虎が現れたと言ったら信じますか?」と問いかけ、「一人二人なら信じないが、三人なら信じてしまうかもしれない」と王が答えます。

このたとえをもとに、「真実ではなくても、多くの人が言うと信じてしまう(だから、他者に惑わされず私を信じてください)」という話なのですが、結局、龐恭は国に戻ってきても王に信じてもらえなかった…というオチまでつくのです。

実際、最初は信じていなかったのに多くの人が言うので信じてしまった…なんてことはないでしょうか。この時代から、そんな人間の本質を描いている面白い話です。似た言い方の慣用表現が定着したのも、人々の共感を得たからかもしれませんね。

\次のページで「「三人市虎を成す」の使い方・例文」を解説!/

「三人市虎を成す」の使い方・例文

「三人市虎を成す」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・「三人市虎を成す」で、少し考えればおかしいとわかるデマであっても、今はSNSであっという間に多くの人に信じられてしまったりする時代だ。
・いじめ問題があると、先生や学校がそんなことは無かったと否定することが多いけれど、こういうのも「三人市虎を成す」のせいかもしれない。
・一人が「宇宙人を見た」と言っても無視されていたが、同意見の人が増えてきた途端にメディアで取り上げられるなど「三人市虎を成す」にもほどがある。

「本当のことでなくても、多くの人が言うと真実だと思われてしまう」というニュアンスが伝わりますでしょうか。真実ではないものを「そうだ」と思ってしまっている人が出てくるため、不正やうさん臭さが漂う内容になることが多くあるでしょう。

あるいは、それに対して話者が憤っていたりやるせなく思っていたりも。いずれにしても、あまり良い内容の場合には使われない表現です。色々な感情やメッセージが読み取れるはずですので、文章問題などで見かけた場合はしっかり読み解くようにしてくださいね。

なお、漢文で出題されたり、四字熟語として使われる場合には「三人成虎(さんにんせいこ)」とも言えます。他の言い方と合わせて、余裕があれば押さえておきましょう。

「三人市虎を成す」の類義語は?違いは?

image by iStockphoto

「三人市虎を成す」の類義語には「浮石沈木(ふせきちんぼく)」を紹介します。

「浮石沈木」

これは、「大衆の無責任な言論が、いつの間にか世間に受け入れられてしまうこと」を意味する四字熟語。中国の歴史書『魏志』の逸話が元になってできた言葉です。

普通、石は水に沈み、木は浮くものですね。それが大勢の人がそうだと言うことで逆になってしまう(と、信じられてしまう)わけですから、まさに「三人市虎を成す」と同様の意味合いになっています。

ただ「浮石沈木」の場合は、「全くの嘘が信じられてしまう」より「無責任な発言が威力を持ってしまう」という点に重きが置かれ、政治やマスメディアの分野に用いられることが多いようです。細かい違いですが覚えておきましょう。

\次のページで「「三人市虎を成す」の対義語は?」を解説!/

今の時代、情報を発信する者は浮石沈木にならないように、どんな記事であれ裏付けをしっかり取らなければいけないだろう。

「三人市虎を成す」の対義語は?

「三人市虎を成す」の対義語には「確からしい」を紹介します。

「確からしい」:信頼できる、確実である可能性が高い

「確からしい」は「信頼できる、確実である可能性が高い様子」を意味する言葉です。形容詞のため、後ろに名詞を伴って「確からしい事柄・噂」のように使います。

確実性が高いことがわかっているため、「三人市虎を成す」のように、事実とは違う解釈をされることはないでしょう。「~らしい」と後ろについているため確率が低そうに思えてしまうかもしれませんが、そうではないことがポイントです。

現代ではあまり聞き慣れない言い方ですが、「たしか~だったと思います」の「たしか」は、この言葉の副詞形。数学を勉強している人であれば「同様に確からしい(どの確率も同じくらいである)」という言い方も聞いたことがあるかもしれません。色々な言い方を知っていると、読解力が高まりますよ。

「三人市虎を成す」の英訳は?

image by iStockphoto

「三人市虎を成す」の英訳は「Many a true word is spoken in jest.」で表すことができます。

「Many a true word is spoken in jest.」:嘘から出た誠

これは直訳すれば、「多くの真実は冗談の中で語られる」。日本語のことわざでは、「嘘から出た誠」などと訳されるフレーズです。「嘘が本当になってしまう」という点で「三人市虎を成す」の英訳として紹介しました。

ただしこちらの内容には「多くの人がそう言うために」のニュアンスは含まれていないため、「because many people say」のように付け足す必要があります。表現したい文脈に応じて意味を補ってくださいね。

Many a true word is spoken in jest,many people said it was trendy, so it really became a boom.
「三人市虎を成す」で、多くの人が流行っていると言ったら本当にブームになってしまった。

\次のページで「「三人市虎を成す」を使いこなそう」を解説!/

「三人市虎を成す」を使いこなそう

この記事では「三人市虎を成す」の意味・使い方・類語などを説明しました。現代はSNSなどもあって意味が想像しやすかったと思いますが、古代でも、王様が嘘の報告を簡単に信じて処刑してしまう…などという話は非常に多く出てきます。

人は、多くの人が言うことを信じてしまうものなのかもしれません。噂に簡単に乗ってしまわずに判断する意識を持ちたいものですね。

" /> 【慣用句】「三人市虎を成す」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説! – ページ 4 – Study-Z
国語言葉の意味

【慣用句】「三人市虎を成す」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

「三人市虎を成す」を使いこなそう

この記事では「三人市虎を成す」の意味・使い方・類語などを説明しました。現代はSNSなどもあって意味が想像しやすかったと思いますが、古代でも、王様が嘘の報告を簡単に信じて処刑してしまう…などという話は非常に多く出てきます。

人は、多くの人が言うことを信じてしまうものなのかもしれません。噂に簡単に乗ってしまわずに判断する意識を持ちたいものですね。

1 2 3 4
Share: