今鏡は単なる「むかしばなし」の域には収まらない。歴史物語としてどのような特徴があるのか、日本史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。
- 今鏡(いまかがみ)とは?
- 今鏡の特徴は「ありのままに映す」
- 今鏡の文体である紀伝体とは?
- 数人の聞き手がいる今鏡
- 今鏡の語り手は150歳越えの老女
- 今鏡は「打ち聞き」により記されている
- 崩壊寸前の宮廷の姿を残そうとした今鏡
- 抒情的な今鏡の文体
- 今鏡と社会の変動
- 武士が力をつける時代に生まれた今鏡
- 平安末期に出現した悪僧たち
- 混乱の時代に武士が勃興
- 平家の滅亡を知らない今鏡
- 今鏡が愛する貴族社会の崩壊
- 二つの乱の陰にある有仁親王
- 今鏡の作者と類推されている人たち
- 1.藤原為経(ふじわらのためつね)
- 2.中山忠親(なかやまただちか)
- 3.源通親(みなもとのみちちか)
- 今鏡は何をありのままに映しているのか?
この記事の目次
ライター/ひこすけ
アメリカの歴史と文化を専門とする元大学教員。平安時代にも興味があり、気になることがあったら調べている。今回は、紫式部に仕えたと称する老女あやめを語り部とする今鏡の謎について調べてみた。
今鏡(いまかがみ)とは?
今鏡とは、平安末期の歴史物語。全10巻から構成されています。作者は藤原為経(ためつね)という説が有力ですが詳しくは分かりません。成立は嘉応2年説が有力。150歳を超えた老女あやめの語りという体裁で、万寿2年から嘉応2年まで、後一条天皇から高倉天皇の時代を記しています。
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今鏡の特徴は「ありのままに映す」
平安末期から南北朝に賭けて成立した歴史物語は4つ。「大鏡」「今鏡」「水鏡」「増鏡」の四鏡(しきょう)です。四鏡の中で今鏡の成立は二番目。三種の神器の一つに「八咫(やた)の鏡」があるように、古代において鏡は神聖なものでした。そこで「鏡のように物事をありのままに映し出す書物」と意味づけられました。
語り手のあやめは、大鏡に語り手として設定された大宅世継の子孫。源氏物語の作者紫式部に仕えたと称する老女です。その老女の昔語りを筆記したという形をとりました。大鏡の続きという意味で「続世継」、また現在の歴史という意味で小鏡、老女の語りという点から「つくも髪の物語」とも呼ばれます。
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今鏡の文体である紀伝体とは?
今鏡は「紀伝体」で書かれています。紀伝体とは人物一人一人に焦点を当てて歴史を叙述する形式。伝記を集めたものです。帝王の伝記「本紀」、臣下の伝記「列伝」、部門別の記録を載せた「志」、年表・系譜の「表」から子構成。中国の歴史書の正史や大鏡が同じ形式を採用しています。特定の人物を知りたい場合はこの紀伝体がベスト。古事記や大日本史がこの体裁をとっています。
紀伝体に対する形式が「編年体」。起こった出来事を年代順に書いたもの。それぞれの時代や世相を知りたければ、この形が分かりやすいでしょう。日本書紀や栄花物語がこれに当たります。
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数人の聞き手がいる今鏡
今鏡は、老女の昔語りを何人かで聞きながら記述する形式をとっています。話される内容は、「帝紀」のほかに「列伝」として「藤原氏」「村上氏」「皇親」。最後の2巻が「雑史」となっています。
今鏡の語り手は150歳越えの老女
今鏡の語り手は、紫式部に仕えたと称する老女あやめ。150.歳を超えている老女です。彼女の昔語りを何人かで記述する形をとりました。紫式部が関わってくるのは、今鏡の作者が源氏物語に強い関心を持っていたからだと思われます。
今鏡は「かな」を多用。宮廷行事、衣装、しきたりなどが詳しく記述されています。作者は男性とする説がありますが、天皇近辺で仕えていた女性であってもおかしくありません。
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