今回は「アンチモン」という元素について解説していきます。アンチモンは知名度が低い元素ではありますが、昨今注目されている重要な金属です。アンチモンが含まれている製品は身近に存在しているため、この機会に学んでいこう。この記事では、アンチモンの用途や性質等を化学に詳しいライターY.oBと一緒に解説していきます。

ライター/Y.oB(よぶ)

大学・大学院と合成化学を専攻した後、化学メーカーで研究職として勤務。大学から現在まで化学に携わってきた元素に詳しいライター。

アンチモンとは何?

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アンチモンという元素をご存じでしょうか?この元素は中学理科や高校化学でもほとんど紹介されず、大学でもほぼ出てこないほど影が薄い存在です。しかしながら、アンチモンは古くから現在まで身近に存在している元素の一つで、その用途は様々あります。一部分野ではなくてはならない存在です。

この章では注目のアンチモンについて、特徴や性質について学んでいきましょう。

アンチモンの特徴

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原子番号51、元素記号Sbの希少金属の一つ。単体は銀白色で硬く脆い金属です。炎色反応では淡青色に呈色します。アンチモンの命名は諸説あり、ギリシャ語で孤独-嫌い(aniti-monos)等の説です。孤独嫌いは自然界に単体で存在しないからと言われています。

原子記号のSbは輝安鉱(Stibium)が由来です。この輝安鉱はアンチモンの硫化物の事で、日本最古の貨幣にも使用されています。

アンチモンの物理的な性質とは?

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アンチモンは単体では銀白色で周期表の第15族に属する半金属のレアメタルになります。半金属とは金属と非金属の中間の性質を示す元素です。アンチモンは展延や延性に乏しく、融点は約630℃で、一度溶かしてから再度冷えて固まる際に体積が増える性質があります。

アンチモンの化学的な性質とは?

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アンチモンは周期表同族のヒ素と似た性質を持ちます。単体は塩酸やフッ酸、アルカリに不溶で、溶けるものは王水のような混酸や熱濃硫酸です。ヒ素と同族のため、毒性が確認されています。アンチモン化合物のほとんどは三酸化アンチモンとしての利用です。この三酸化アンチモンはタンニンによく吸着するため、緑茶を飲むと効率良く排出されるとされています。

また、三酸化アンチモンはポリマー重合の優れた触媒です。

アンチモンの歴史について解説!

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アンチモンはどのように発見され、地球上にどのくらい存在しているでしょうか。また、地球上に満遍なく存在しているのか。この章ではアンチモン発見の歴史と主要な産出国についてご紹介します。

アンチモンを発見したのは?

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アンチモンを発見したのは紀元前の話のため、誰がどのように発見したかは不明です。しかし、これは混合物としての発見と利用になります。アンチモンの鉱物を分析し、その後アンチモン単体を得ることに成功したのは、フランスの化学者N.レムリーです。レムリーはアンチモンの分析結果と特性をまとめました。

アンチモンの利用は古いもので紀元前4000年の壺の装飾に用いられています。かなり昔から身近にあった元素の一つです。

アンチモンの精製方法

アンチモンの精製方法

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アンチモンは単体としての利用はほぼなく、酸化アンチモンや硫化アンチモンを取り出して使用しています。単体を得るための製法は原料鉱石の組成に依存するため、精製方法は様々です。一般的に硫化アンチモンを鉱石から溶かして分離し、鉄屑で還元すると単体が得られます。

また、硫化物を酸化物に変換した後、炭素熱還元によっても単体を得ることが可能です。

アンチモンの産出国と希少性は?

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アンチモンは地球上に偏在しているレアメタルの一つで、希少性が高いものになります。主な産出国は中国、ロシアです。特に中国はロシアの産出量の倍以上を生産しています。日本にも鉱床があり、鹿児島湾の海底で発見されました。推定で90万トンの鉱床が発見されましたが、現状はそこでの生産はなく、輸入がほとんどです。

\次のページで「アンチモンの用途について解説!」を解説!/

アンチモンの用途について解説!

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アンチモンは古くは貨幣、薬、壺の装飾等に利用されてきました。歴史は古く紀元前4000年前から身近に存在していた元素の一つです。用途を変え、アンチモンは現在でも身の回りの製品に使用されています。ここでは現代のアンチモンの用途例について学んでいきましょう。

アンチモンの難燃剤とは?

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三酸化アンチモンはプラスチック等の樹脂に難燃剤として添加されています。難燃剤とは可燃性の素材に混ぜることで燃えにくくし、燃え広がらないようにするための添加剤です。三酸化アンチモン自体は難燃性の効果はほぼないですが、ハロゲン系難燃剤と併用するとより強い難燃性を出すことができます。

身近なもので三酸化アンチモンが添加されているものは電線やケーブル等です。

アンチモンのガラス清澄剤とは?

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ガラス製造時に酸化アンチモンを清澄剤として添加する用途が知られています。ガラス製造時における清澄剤とは発生する泡を除去する添加剤のことです。ディスプレイに使用するガラスは小型化、軽量化に伴い、ガラスを薄くする必要があります。泡が残っていると光の透過率が悪くなり、かつ強度も低下するため泡の除去は大事です。

清澄剤としての酸化アンチモンは液晶ディスプレイ等に使用されています。

アンチモンの触媒とは?

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三酸化アンチモンはポリエステルの重合反応に優れた触媒効果を示します。重合反応とは単量体(モノマー)をつなげていき、重合体(ポリマー)を合成する反応のことです。この反応に三酸化アンチモンを添加すると反応が促進されます。熱的に安定で逆反応を起こさない条件を満たしたものは少なく、優秀な触媒です。

この触媒を利用した製品はPETボトルや衣服用の繊維があります。

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アンチモンは製品に付加価値をつける大事な元素

近年、デバイス等に使用されている材料分野は要求される物性が高度になってきています。ただ材料を大量に製造するだけでは要求には対応できません。世界中の企業がより高い機能を持った材料や製品の開発に力を注いでいます。その流れの中でアンチモンは様々な用途に利用され、必要不可欠な存在です。

より透明で強度があるガラスや、火災時でも燃えにくい製品、より複雑な構造を持つ樹脂の製造。これらのように付加価値を持つ製品開発にアンチモンが使用されている事を覚えておきましょう。

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化学原子・元素理科生活と物質

アンチモンとは一体何?用途や性質・毒性・規制などを現役研究員が5分でわかりやすく解説!

今回は「アンチモン」という元素について解説していきます。アンチモンは知名度が低い元素ではありますが、昨今注目されている重要な金属です。アンチモンが含まれている製品は身近に存在しているため、この機会に学んでいこう。この記事では、アンチモンの用途や性質等を化学に詳しいライターY.oBと一緒に解説していきます。

ライター/Y.oB(よぶ)

大学・大学院と合成化学を専攻した後、化学メーカーで研究職として勤務。大学から現在まで化学に携わってきた元素に詳しいライター。

アンチモンとは何?

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アンチモンという元素をご存じでしょうか?この元素は中学理科や高校化学でもほとんど紹介されず、大学でもほぼ出てこないほど影が薄い存在です。しかしながら、アンチモンは古くから現在まで身近に存在している元素の一つで、その用途は様々あります。一部分野ではなくてはならない存在です。

この章では注目のアンチモンについて、特徴や性質について学んでいきましょう。

アンチモンの特徴

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原子番号51、元素記号Sbの希少金属の一つ。単体は銀白色で硬く脆い金属です。炎色反応では淡青色に呈色します。アンチモンの命名は諸説あり、ギリシャ語で孤独-嫌い(aniti-monos)等の説です。孤独嫌いは自然界に単体で存在しないからと言われています。

原子記号のSbは輝安鉱(Stibium)が由来です。この輝安鉱はアンチモンの硫化物の事で、日本最古の貨幣にも使用されています。

アンチモンの物理的な性質とは?

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アンチモンは単体では銀白色で周期表の第15族に属する半金属のレアメタルになります。半金属とは金属と非金属の中間の性質を示す元素です。アンチモンは展延や延性に乏しく、融点は約630℃で、一度溶かしてから再度冷えて固まる際に体積が増える性質があります。

アンチモンの化学的な性質とは?

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アンチモンは周期表同族のヒ素と似た性質を持ちます。単体は塩酸やフッ酸、アルカリに不溶で、溶けるものは王水のような混酸や熱濃硫酸です。ヒ素と同族のため、毒性が確認されています。アンチモン化合物のほとんどは三酸化アンチモンとしての利用です。この三酸化アンチモンはタンニンによく吸着するため、緑茶を飲むと効率良く排出されるとされています。

また、三酸化アンチモンはポリマー重合の優れた触媒です。

アンチモンの歴史について解説!

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アンチモンはどのように発見され、地球上にどのくらい存在しているでしょうか。また、地球上に満遍なく存在しているのか。この章ではアンチモン発見の歴史と主要な産出国についてご紹介します。

アンチモンを発見したのは?

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アンチモンを発見したのは紀元前の話のため、誰がどのように発見したかは不明です。しかし、これは混合物としての発見と利用になります。アンチモンの鉱物を分析し、その後アンチモン単体を得ることに成功したのは、フランスの化学者N.レムリーです。レムリーはアンチモンの分析結果と特性をまとめました。

アンチモンの利用は古いもので紀元前4000年の壺の装飾に用いられています。かなり昔から身近にあった元素の一つです。

アンチモンの精製方法

アンチモンの精製方法

image by Study-Z編集部

アンチモンは単体としての利用はほぼなく、酸化アンチモンや硫化アンチモンを取り出して使用しています。単体を得るための製法は原料鉱石の組成に依存するため、精製方法は様々です。一般的に硫化アンチモンを鉱石から溶かして分離し、鉄屑で還元すると単体が得られます。

また、硫化物を酸化物に変換した後、炭素熱還元によっても単体を得ることが可能です。

アンチモンの産出国と希少性は?

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アンチモンは地球上に偏在しているレアメタルの一つで、希少性が高いものになります。主な産出国は中国、ロシアです。特に中国はロシアの産出量の倍以上を生産しています。日本にも鉱床があり、鹿児島湾の海底で発見されました。推定で90万トンの鉱床が発見されましたが、現状はそこでの生産はなく、輸入がほとんどです。

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