この記事では「釜中の魚」について解説する。

端的に言えば「釜中の魚」の意味は「死が迫っていることのたとえ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「釜中の魚」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「釜中の魚」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「釜中の魚(ふちゅうのうお)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「釜中の魚」の意味は?

「釜中の魚」には、次のような意味があります。

《「資治通鑑」漢紀から》まもなく煮られようとしている釜の中の魚。死が迫っていることをいう語。魚の釜中に遊ぶが如し。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「釜中の魚」

この言葉は、「死が間際に迫っていることを」例えたことわざです。「釜」とは訓読みで「かま」。食材を煮るのに使ったりする調理器具のことですね。壺などの入れ物ではなく調理器具なわけですから、そこに魚が入っているとしたら、もう料理される目前。死が近い、という意味になっています。

自分の死が近いことを理解して諦めているのかもしれませんし、あるいは理解せずにのんびりしている愚かな様子を表しているのかもしれません。このことわざだけではどちらの意味にも使えますので、文脈から読み取ることが必要です。

また、「ふちゅうのうお」という読み方にも注意。読みを書かされる問題が出ることもありますよ。他にも余談ですが、「釜中魚を生ず」という慣用句も。こちらは「釜をずっと使っていないのでボウフラがわく=きわめて貧乏なこと」という意味です。言葉が近いため、混同しないように注意してくださいね。

「釜中の魚」の語源は?

次に「釜中の魚」の語源を確認しておきましょう。この言葉は、中国の歴史書『資治通鑑(しじつがん)』に見ることができます。反乱軍の首領が、降伏時に自分たちについて述べる際に使ったのがこの言葉。「自分たちは、釜中で泳いでいる魚のように(生きていたけれど~)」という内容です。

改心をするシーンであったため、自分たちの愚かしさを反省する意味合いが込められている言葉でした。実際、茹でられる直前にも関わらずゆったりと泳いでいるとしたら、あまり賢いとは言えませんね。

危険性を理解していないというニュアンスが感じられやすいため、現代でもあまりいい意味には取られないでしょう。その人の愚かしさを強調することにもなりえますので、実際に使う時には注意が必要と言えそうです。

\次のページで「「釜中の魚」の使い方・例文」を解説!/

「釜中の魚」の使い方・例文

「釜中の魚」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・自信満々で始めたサービスだったけれど、既に同業他社の似たようなビジネスが大量にあって、スタートした時点で釜中の魚のようなものだった。
・二股をしているのがバレていないと思っていた彼は、彼女に調子の良い事ばかり話していたが、実はもう一人の彼女も後ろで待機していて、完全に釜中の魚だった。
・勉強なんてしてないけどテストくらいヤマカンで余裕さ、と言っているあの子だけど、今回は筆記問題しか出ないはずだから、釜中の魚としか言いようがなかった。

「ほとんど死にそう、死が間近に迫っている」というニュアンスが伝わりますでしょうか。

今回の例文では、本当に死ぬと言うよりもたとえの意味での「死」を用いてみました。現代的な使い方をするとしたら、このようにややコミカルな感じのほうがわかりやすいかもしれません。

必ずしも肉体的な死ではなく、経済的だったり社会的だったりも考えられますので、どんな「死」なのかに注目しましょう。そして、その間際に迫っている「死」に気付かないというのは愚かで、時には笑えてしまうことも。その人物が置かれている状況にも注意です。

「釜中の魚」の類義語は?違いは?

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「釜中の魚」の類義語は「少水の魚」を紹介します。

「少水の魚」:危険が差し迫っている

これは「水の少ないところにいる魚」のことで「いつ死んでもおかしくない、危険が差し迫っていること」をたとえた表現です。「釜中の魚」によく似ていますが「死に気付いていない」というニュアンスはなく、「危険が近い」ということに焦点が当たっています。

他にも「まないたの鯉」という慣用句もありますが、これは「相手のなすがままで逃げ場がない事」を意味するもの。「魚」を使った表現は色々とありますが、意味がそれぞれ異なっていて咄嗟に区別するのが難しいかもしれません。ここで覚えてしまいましょう。

\次のページで「「釜中の魚」の対義語は?」を解説!/

災害が起きたときには、危険地域にとどまっているのは少水の魚のようなものであって、すぐにでも避難しなければならない。

「釜中の魚」の対義語は?

「釜中の魚」の対義語には「不死不朽」を挙げてみます。

「不死不朽」:死ぬことがなく滅びない

「不死不朽」は「死ぬことがなく、滅びないこと」、「永遠であること」を意味する四字熟語です。死が間近だった「釜中の魚」とは正反対に、死が完全に遠いという意味で紹介しました。

「死なないこと、長寿であること」を意味する言葉は「不老長寿」や「不老不死」なども聞いたことがあるでしょう。実際の生死とは関係なく、「非常に丈夫だ」と言いたい場合には「難攻不落」などもありますね。場面に応じて使い分けられるようにしましょう。

たとえ肉体は滅びても、精神だけは不死不朽であると考え、宗教や祈りに救いを求める人たちが昔から一定数いるようだ。

「釜中の魚」の英訳は?

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「釜中の魚」の英訳は「Person who is unaware of the danger of death」で表すことができます。

「Person who is unaware of the danger of death」

これは直訳して「死の危険に気づいていない人」。ことわざの意味そのままになってしまいますが、「釜の中にいる魚(Fish in the kettle)」では伝わらないため、このようなフレーズで紹介します。

慣用表現ではありませんので、単語を入れ替えたり付け加えても構いません。たとえばこの表現で、その人の「愚かさ」を伝えたいのであれば「person」の前に「foolish」や「stupid」などの形容詞をつればよりわかりやすくなるでしょう。

語源の項で紹介した故事成語のニュアンスはあまり表現できないかもしれませんが、どんな意図なのかを考えて英語を組み合わせてみてください。

\次のページで「「釜中の魚」を使いこなそう」を解説!/

That person who is unaware of the danger of death ignored his physical condition and challenged a dangerous mountain climb to death.
釜中の魚だったあの人は、体の不調も無視して危険な登山に挑み、命を落とした。

「釜中の魚」を使いこなそう

この記事では「釜中の魚」の意味・使い方・類語などを説明しました。類語の項でも紹介しましたが、「魚」に関する慣用句・ことわざは実に驚くほどたくさんあります。

「釜中の魚」のように中国の故事成句からきているものもあって、調べてみると面白いもの。歴史上の人物が釣りをしているシーンなどがマンガやドラマでも見られますが、今よりも、魚が生活に密着し文化とも深く関わっていたのではと思わせてくれますね。

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【ことわざ】「釜中の魚」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

「釜中の魚」の使い方・例文

「釜中の魚」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・自信満々で始めたサービスだったけれど、既に同業他社の似たようなビジネスが大量にあって、スタートした時点で釜中の魚のようなものだった。
・二股をしているのがバレていないと思っていた彼は、彼女に調子の良い事ばかり話していたが、実はもう一人の彼女も後ろで待機していて、完全に釜中の魚だった。
・勉強なんてしてないけどテストくらいヤマカンで余裕さ、と言っているあの子だけど、今回は筆記問題しか出ないはずだから、釜中の魚としか言いようがなかった。

「ほとんど死にそう、死が間近に迫っている」というニュアンスが伝わりますでしょうか。

今回の例文では、本当に死ぬと言うよりもたとえの意味での「死」を用いてみました。現代的な使い方をするとしたら、このようにややコミカルな感じのほうがわかりやすいかもしれません。

必ずしも肉体的な死ではなく、経済的だったり社会的だったりも考えられますので、どんな「死」なのかに注目しましょう。そして、その間際に迫っている「死」に気付かないというのは愚かで、時には笑えてしまうことも。その人物が置かれている状況にも注意です。

「釜中の魚」の類義語は?違いは?

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「釜中の魚」の類義語は「少水の魚」を紹介します。

「少水の魚」:危険が差し迫っている

これは「水の少ないところにいる魚」のことで「いつ死んでもおかしくない、危険が差し迫っていること」をたとえた表現です。「釜中の魚」によく似ていますが「死に気付いていない」というニュアンスはなく、「危険が近い」ということに焦点が当たっています。

他にも「まないたの鯉」という慣用句もありますが、これは「相手のなすがままで逃げ場がない事」を意味するもの。「魚」を使った表現は色々とありますが、意味がそれぞれ異なっていて咄嗟に区別するのが難しいかもしれません。ここで覚えてしまいましょう。

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