晩年のボルツマン
生涯を通して数々の発見をしたボルツマンですが、彼の考え方はすべての学者に受け入れられた訳ではありませんでした。特に、原子論を支持するボルツマンがオストヴァルトと激しく対立したという話が有名です。
このような論争により、ボルツマンは少しずつ精神をすり減らすようになっていきます。最終的には、ボルツマンは精神疾患を患い、療養していたイタリアの地で自ら命を絶ってしまったのです。
熱力学を大きく前進させたボルツマン
ここからは、ボルツマンが残した功績を物理学の視点で詳しく解説していきます。はじめに、熱力学分野でボルツマンがどのような発見をしたのかを述べますね。
具体的には、ボルツマン分布とボルツマンの関係式について紹介しますよ。これらの発見が熱力学においてどのような意味を持つのかを理解することはもちろんですが、このような成果がなぜ偉大と考えられているのかという点についても考えてみてくださいね。
ボルツマン分布
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ボルツマン分布は、空間内に存在する気体分子などの粒子がもつエネルギーの分布を定式化したものになります。このような説明では直感的な理解は難しいので、簡単な例を挙げて説明しますね。
例えば、単原子分子の気体を容器内に封入したとしましょう。このとき、1つ1つの分子の運動エネルギーは異なります。つまり、同じ温度に保った場合においても、それぞれの気体分子は別々のエネルギーをとるのです。このような状態において、あるエネルギー順位をもつ分子の数が全体の何パーセントにあたるのかを定式化したものがボルツマン分布になります。
ただし、ボルツマン分布はどのような条件においても成り立つ訳ではありません。ボルツマン分布は、高温で低濃度の粒子系にのみ適応可能です。この点は注意が必要ですよ。
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ボルツマンの関係式
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ボルツマンの関係式は、熱力学におけるエントロピーを系における状態の数を結び付けた式で、S=k×logWで表されます。ここで、Sはエントロピー、kはボルツマン定数、Wは状態の数です。状態の数Wとは、注目する系において粒子があるエネルギー順位の分布をとる確率のことですよ。つまり、ありふれたエネルギー順位の分布ではWが大きくなり、珍しいエネルギー順位の分布ではWが小さくなります。
以上のような理由から、エントロピーSは「でたらめさの尺度」と解釈されますよ。そして、エントロピーSには増大測が存在しています。これは、あらゆる現象は放っておくとよりでたらめになっていくことを表しているのです。この様子は、部屋の整頓具合で説明されることが多いですよ。片付けをしても、放っておくとすぐに散らかってしまうといった具合です。
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熱力学以外の分野におけるボルツマンの実績
ボルツマンが実績を残した分野は熱力学にとどまりません。このチャプターでは、熱力学以外の分野におけるボルツマンの活躍についてご紹介しますね。
具体的には、「シュテファン・ボルツマンの法則」について述べます。以下では、その発見が世の中にどのようなインパクトを与えたのかといった点に注目して、記事を読み進めてみてくださいね。
シュテファン・ボルツマンの法則
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シュテファン・ボルツマンの法則は黒体から放出される輻射熱のエネルギーを定式化したものです。この法則を数式で表現すると、I=σT4になります。ここで、Iは輻射熱フラックス、σはシュテファン・ボルツマンの定数、Tは黒体表面の絶対温度です。輻射熱フラックスとは、単位時間・単位面積当たりで放出される熱エネルギーのことを指します。
この式を用いることで、太陽をはじめとする恒星の表面温度を導出できるので、シュテファン・ボルツマンの法則は天文学に大きな影響を与えました。また、近年は地球温暖化のシミュレーションにおいても、シュテファン・ボルツマンの法則が用いられていますよ。
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熱力学に新風を吹き込んだボルツマン
ボルツマンの関係式が発表される前、1つ1つの粒子の運動をボトムアップ的に積み上げることで熱力学を説明することは困難でした。ですが、ボルツマンがこの式を発表してから、粒子に注目した熱力学、つまりは統計力学の議論が活発化していきます。この議論は、後に誕生する量子力学や固体物理といった学問分野にも大きな影響を与えることになりますよ。
このように、ボルツマンは熱力学の世界に新しい風を吹かせ、人類の文明を大きく前進させた人物です。ぜひこの機会に、ボルツマンの偉大さと生き様を知ってみてください。