今回は「雨粒の速度」について解説していきます。

子どもに「雨の落ちてくるスピードはどのくらい速いの?」と尋ねられて、すぐに答えることのできる大人はどの程度いるでしょうか。おそらく少ない人数になってしまうでしょうな。このように身近な現象でありながら、メカニズムを理解できていないケースは多いはずです。ですが、この記事を読めば、このような問いに自信を持って答えられるようになるぞ。ぜひこの機会に、「雨粒の速度」についての理解を深めてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

雨粒の力学

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私のたちとって、雨が降るという現象は非常に身近です。ですが、その雨粒が落下しているときの速度について考えたことがある方は一体どれほどいるでしょうか?今回の記事では、わかりそうでわからない雨粒の力学について考えます。最後まで記事を読むと、雨粒の落下を計算で推定することができるようになりますよ。

最初のチャプターでは、中学や高校で学習する落体の運動法則と雨粒の落体運動の間に、どのような相違点が存在するのかを考えることしましょう。特に、物理学の教科書に載っている一般的な落体と雨粒では、作用する力の数が異なっているという点が重要になりますよ。それでは早速、解説をはじめます。

一般的な落体と雨粒の違い

物理学の教科書で説明される一般的な落体には、原則として重力のみが作用します。重力は地球が物体を引き寄せる力のことです。重力が存在することで、物体は地面の方向へと落下していますよね。学校の理科の授業では、ここまでの説明がメインになります。

一方、雨粒の落下のように実世界で見られる現象はこれほど単純ではありません。なぜなら、雨粒は大気の中を通り、空高くから地面に到達するからです。大気は空気の集まりですから、その中に存在する雨粒には空気抵抗が存在しています。つまり、雨粒に作用する力には重力に加えて、空気抵抗が存在するのです

終端速度の概念

雨粒の落下速度を考える上で重要になる概念は「終端速度」です。雨粒に作用する空気抵抗は、速度の増大に伴って大きくなります。それゆえ、雨粒の速度が大きくなると、加速度が鈍化することになるのです

そして、空気抵抗の大きさと重力の大きさがつりあうと、雨粒に作用する力は正味でゼロになります。このとき、雨粒の加速は止まり、等速直線運動に移行しますよ。そして、最終的に等速直線運動になったときの速度を終端速度と呼んでいるのです。

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雨粒の速度公式を求めよう!

予備知識が揃ったので、ここからは本題である雨粒の速度を求めることができる公式について述べます。また、今回は雨粒の終端速度を、雨粒の速度として定義しますね。以下では、雨粒に作用する重力雨粒が受ける空気抵抗雨粒の速度の順番で公式を導きます。

なお、以下では様々なパラメータが登場しますよ。そこでは、そのパラメータが大気に関する値であるのか、それとも雨粒に関する値であるのかという点が重要になります。

1.雨粒に作用する重力

1.雨粒に作用する重力

image by Study-Z編集部

雨粒に作用する重力は、(雨粒の質量)×(重力加速度)で導出できます。雨粒の形状がであると仮定すると、その体積は(4/3)πr3となりますよね。ここで、πは円周率、rは雨粒の半径です。さらに、質量と密度の積は質量になるので、雨粒の密度をρとすると雨粒の質量は(4/3)πr3ρとなります

次に重力加速度について考えましょう。地球上では、重力加速度はほぼ同じ値になることが知られています。一般に、重力加速度g=9.8[m/s2]になるのです。したがって、雨粒に作用する重力を数式で表現すると、(4/3)πr3ρgとなります

2.雨粒が受ける空気抵抗

2.雨粒が受ける空気抵抗

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雨粒に作用する空気抵抗は、(ρv2πr2Cd)/2となります。ここで、ρは雨粒の密度、vは雨粒の落下速度、πは円周率、rは雨粒の半径、Cdは抗力係数です。この式から、雨粒に作用する空気抵抗の大きさは、落下速度の2乗に比例することがわかります

また、抗力係数Cdはレイノルズ数という指標に依存する値ですが、今回は議論を簡単にするために定数として扱うことにしますね。また、ここで紹介した空気抵抗の式は雨粒のように小さい物体にのみ適応可能であることも重要な事項となります。

3.雨粒の速度

3.雨粒の速度

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終端速度の理論により、雨粒の落下速度は重力と空気抵抗のつりあいを考えることで導出できます。両者のつりあいの式は、(4/3)πr3ρg=(ρv2πr2Cd)/2となりますよ。この式を、雨粒の落下速度vについて解くと、v=√(8rg/3Cd)となります

ここで、重力加速度gおよび抗力係数Cdは定数ですから、雨粒の半径rが大きいほど雨粒の落下速度vも大きくなることがわかるのです。傘をさしているときの感覚を思い出すと、雨粒の小さい小雨よりも大粒のゲリラ豪雨のほうが、雨粒のぶつかる速度が大きいですよね。

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実際の雨粒の速度は?

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以上の説明で、雨粒の力学についての理論が身についたかと思います。ですが、実際の雨粒の速度がどの程度であるのか理論と実際の現象の間で誤差はあるのかといった議論はできていません。

そこで本チャプターの目的は、実測された雨粒の速度を知り、それと物理公式による値にどのような違いがあるのかを明らかにすることとします。これらはあらゆる学問を学ぶ上で必要とされる重要な視点ですよ。

測定された雨粒の落下速度

まずは測定された雨粒の落下速度について考えてみましょう。雨粒の落下速度の計測はハイスピードカメラの登場により、高い精度で測定できるようになりました

直径が0.5[mm]程度の小雨の場合、落下速度は2.2[m/s]程度になります。それより少し大きい直径1.0[mm]ですと、落下速度は6.2[m/s]程度になりますよ。また、ゲリラ豪雨のような直径3.0[mm]を超える雨粒では、落下速度は7.0[m/s]を超えます。

公式と実際の速度の違い

先ほど紹介した実測値と公式を比較すると、直径が大きくなるほど誤差が大きくなることがわかります。誤差の生じる原因は複数ありますが、解に最も影響を与えている要素は雨粒の形状です。

雨粒を構成しているのは液体の水ですから、落下速度が大きくなるとひずみが発生し、形状が球から楕円体に近くなります。これにより、空気抵抗が理論値から外れ、実測値と公式の間の誤差が大きくなるのです。

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雨粒の速度について学ぶ意義

私たちにとって雨は身近な存在です。しかしながら、その速度を問われても答えられる人はほとんどいません。このように身近な現象でありながら、メカニズムを知らないものは多く存在します。

しかしながら、サイエンスの素養を育てるには、このような身近な現象と学問を結び付けて学ぶということが一番の近道になるのです。少しでも記事の内容に興味を持たれた方は、ぜひこの機会に雨粒の速度について詳しく学んでみてくださいね。

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地学大気・海洋流体力学物理物理学・力学理科

3分で簡単雨粒の速度!空気抵抗の影響とは?公式の導出方法を現役理系学生ライターが詳しくわかりやすく解説!

雨粒の速度公式を求めよう!

予備知識が揃ったので、ここからは本題である雨粒の速度を求めることができる公式について述べます。また、今回は雨粒の終端速度を、雨粒の速度として定義しますね。以下では、雨粒に作用する重力雨粒が受ける空気抵抗雨粒の速度の順番で公式を導きます。

なお、以下では様々なパラメータが登場しますよ。そこでは、そのパラメータが大気に関する値であるのか、それとも雨粒に関する値であるのかという点が重要になります。

1.雨粒に作用する重力

1.雨粒に作用する重力

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雨粒に作用する重力は、(雨粒の質量)×(重力加速度)で導出できます。雨粒の形状がであると仮定すると、その体積は(4/3)πr3となりますよね。ここで、πは円周率、rは雨粒の半径です。さらに、質量と密度の積は質量になるので、雨粒の密度をρとすると雨粒の質量は(4/3)πr3ρとなります

次に重力加速度について考えましょう。地球上では、重力加速度はほぼ同じ値になることが知られています。一般に、重力加速度g=9.8[m/s2]になるのです。したがって、雨粒に作用する重力を数式で表現すると、(4/3)πr3ρgとなります

2.雨粒が受ける空気抵抗

2.雨粒が受ける空気抵抗

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雨粒に作用する空気抵抗は、(ρv2πr2Cd)/2となります。ここで、ρは雨粒の密度、vは雨粒の落下速度、πは円周率、rは雨粒の半径、Cdは抗力係数です。この式から、雨粒に作用する空気抵抗の大きさは、落下速度の2乗に比例することがわかります

また、抗力係数Cdはレイノルズ数という指標に依存する値ですが、今回は議論を簡単にするために定数として扱うことにしますね。また、ここで紹介した空気抵抗の式は雨粒のように小さい物体にのみ適応可能であることも重要な事項となります。

3.雨粒の速度

3.雨粒の速度

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終端速度の理論により、雨粒の落下速度は重力と空気抵抗のつりあいを考えることで導出できます。両者のつりあいの式は、(4/3)πr3ρg=(ρv2πr2Cd)/2となりますよ。この式を、雨粒の落下速度vについて解くと、v=√(8rg/3Cd)となります

ここで、重力加速度gおよび抗力係数Cdは定数ですから、雨粒の半径rが大きいほど雨粒の落下速度vも大きくなることがわかるのです。傘をさしているときの感覚を思い出すと、雨粒の小さい小雨よりも大粒のゲリラ豪雨のほうが、雨粒のぶつかる速度が大きいですよね。

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