今日は中和熱について学習していこう。中和熱とは酸と塩基が反応して水ができる時に発生する熱で化学反応によって発生します。場合によっては吸熱反応が起こることもあるぞ。大学で化学を学び、今も現役の研究者として活躍する化学に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で有機化学や合成化学、生物学について学び、化学や生物に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

中和熱ってどんなもの?わかりやすく解説!

Neutralization reaction between sodium hydroxide and hydrochloric acid.jpg
Bluescan sv.wiki - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

物質の生成の過程で、放出されたり吸収されたりする熱のことを反応熱と言います。中和熱とは、酸と塩基を各1当量ずつとって中和させたとき発生する熱量のことです

反応する酸・塩基の種類、濃度、温度などによって異なりますが、基本的には希薄溶液における強酸と強塩基の中和については、その種類によらずほとんどの場合H++OH-→H2Oの反応熱に一致します。18℃では1mol(モル)あたり57.3kjの熱量です

中和熱はなぜ発生する?

中和熱はなぜ発生する?

image by Study-Z編集部

中和熱が発生する理由には物質のもつ位置エネルギーが関係します。イオン同士は分子間力及び、クーロン力で引き付け合っていますが、イオンが周りの物体に衝突するなどして速度エネルギーを熱量に変えた結果、発熱が起こるのです

発熱反応と吸熱反応の見分け方は?

中和熱が発生するときに発熱反応なのか、吸熱反応なのかは反応する酸や塩基の状態に依存します。中和熱は、1molの酸(H+)と塩基(OH-)から1molのH2Oが生じる時に発生する熱量ですので、酸や塩基の種類によって大きさは変わりません。

しかし、酸や塩基が弱酸・弱塩基の場合は、物質のもつエネルギーが生成物よりも低いため吸熱反応が起こります

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中和熱以外の熱反応にはどんなものがある?

中和熱は化学変化に関連した熱反応ですが、中和熱の他にも燃焼熱や生成熱が化学変化に関連した熱反応です。化学変化を伴わない熱反応には昇華熱、気化熱、蒸発熱、溶解熱などがありますが、これらは液体から気体や固体から液体など、物質の状態変化にともなって発生する熱になります。

例えば、水が蒸発して水蒸気になる時に発生するのは蒸発熱で、固体の氷から気体の水蒸気になる時は昇華熱です。また、物質が溶液に溶解する際に発生する熱は溶解熱になります。

具体例1:燃焼熱

燃焼熱は物質1molが完全燃焼するときに発生する熱になります。完全燃焼というのは、物質が酸素と反応して二酸化炭素(CO2)、水(H2O)、二酸化硫黄(SO2)になる事です。これら以外の物質が生成される反応は、燃焼反応ではありません。また、物質が完全燃焼するためには酸素が必要です。

例えば化学燃料のプロパンC3H8の燃焼熱は、

C3H8(気)+5O2(気)=3CO2(気)+4H2O(液)+2219kJ

になります。反応式の通り、プロパンは酸素と反応して、二酸化炭素と水に変化するのでこの反応で発生する熱は燃焼熱です。

具体例2:生成熱

単体の元素同士が反応して、新たに化合物1molを生成する際に発生する熱は生成熱です。例えば、水素分子(H)と酸素分子(O)から水が生成される場合の熱化学反応式は、

H2+1/2 O2=H2O(aq)+286kj

となります。

同じ水分子が生成する反応でも生成熱と中和熱で発生する熱量が異なるのは、反応する物質がもつエネルギーが異なるからです。中和熱で水分子が生成するときにはエネルギー量の少ないイオン分子同士が反応して起こるので熱量が小さくなります。

生成熱の身近な例はカイロです。カイロには鉄が含まれており、これが空気中の酸素と反応して酸化する時に熱を生じます。カイロを温めるときに振ったりするのは、鉄と酸素を反応しやすくするためです。全ての鉄が反応して酸化反応が起こらなくなるとカイロは熱を発生しなくなります。

そもそも中和ってどんな現象?

中和とは、酸性とアルカリ性の水溶液を混ぜることで、どちらの性質でもない中性にすることです。この時の溶液はpH7-8付近になります。

酸性溶液にはH+、アルカリ性水溶液にはOH-というイオンが溶けていて、この両者が結び付いて水になることを中和というのです。また、中和をすると、水とともに塩が生じます。この塩は反応に用いる酸とアルカリの種類で変わり、例えば塩酸と水酸化ナトリウムの溶液を反応させた時に生じる塩は塩化ナトリウムです。

そのため、中和反応は酸+アルカリ=水+塩と表すことができます

具体例1: トイレの芳香剤

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トイレの消臭剤にはクエン酸が使用されていますが、中和反応を利用して消臭するためです。トイレの臭いの原因である尿はアンモニア臭を発生させます。 アンモニアはアルカリ性の性質を持つので、酸性であるクエン酸と反応して中和することで、臭いの原因であるアンモニアをクエン酸三アンモニウムという臭わない物質に変化させることができるので、臭いを大幅に減少させることができるのです。

具体例2: 胃薬

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胃の調子が悪い時に飲む胃薬は中和の原理を利用しています。胃から分泌される消化酵素である胃酸は強力な酸性です。しかし通常は胃壁の粘膜に守られていて胃自身を溶かすことはありません。しかし、疲れている時など胃壁が弱った状態だと、胃酸からの保護効果が弱まることで、胃酸は胃粘膜を荒らし、胃炎や潰瘍の原因にもなります。

胃薬には水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどのアルカリ性の物質が含まれており、過剰な胃酸を中和することで胃の粘膜を保護するのです。胃の中は通常pH1~2ですが、胃薬を使うことでpH4程度に引き上げています。

具体例3: シャンプーとリンス

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髪を洗う時に使用しているシャンプーとリンスも中和反応を利用しています

石鹸成分のシャンプーはアルカリ性で、その際に使用するリンスは酸性です。髪はアルカリ性に傾くため、きしんだような感じになるので、酸性のリンスを使用して中性に戻します。一方で、界面活性剤を使用して汚れを落とすタイプの合成シャンプーの場合は、マイナスイオンを帯びており、中性から弱酸性です。マイナスイオンを帯びた髪は静電気などが発生するので、これを中和するためにプラスイオンを帯びた界面活性剤を使用したリンスを使います。

シャンプーとリンスが一体化したリンスインシャンプーは、界面活性剤の原理です。洗浄と髪のケアの両方の効果を発揮するにはシャンプー→リンスの順に髪に作用する必要がありますが、リンスインシャンプーでは溶解度の違いを利用して、洗浄時の水の量で溶け出す順番をコントロールしています

中和の化学反応で生じる熱が中和熱

中和熱は酸と塩基(アルカリ)が中和する化学反応で発生する熱です。この中和反応は消臭剤や胃薬など、身の回りのいろんなところで利用されています。身の回りのものを調べてみると意外なものに中和反応が利用されているのがわかり面白いですよ!

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化学化学平衡原子・元素熱力学物質の状態・構成・変化理科

中和熱ってどんな反応?なぜ起こる?発熱反応・吸熱反応・具体例も現役の研究者がわかりやすく解説!

今日は中和熱について学習していこう。中和熱とは酸と塩基が反応して水ができる時に発生する熱で化学反応によって発生します。場合によっては吸熱反応が起こることもあるぞ。大学で化学を学び、今も現役の研究者として活躍する化学に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で有機化学や合成化学、生物学について学び、化学や生物に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

中和熱ってどんなもの?わかりやすく解説!

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物質の生成の過程で、放出されたり吸収されたりする熱のことを反応熱と言います。中和熱とは、酸と塩基を各1当量ずつとって中和させたとき発生する熱量のことです

反応する酸・塩基の種類、濃度、温度などによって異なりますが、基本的には希薄溶液における強酸と強塩基の中和については、その種類によらずほとんどの場合H++OH-→H2Oの反応熱に一致します。18℃では1mol(モル)あたり57.3kjの熱量です

中和熱はなぜ発生する?

中和熱はなぜ発生する?

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中和熱が発生する理由には物質のもつ位置エネルギーが関係します。イオン同士は分子間力及び、クーロン力で引き付け合っていますが、イオンが周りの物体に衝突するなどして速度エネルギーを熱量に変えた結果、発熱が起こるのです

発熱反応と吸熱反応の見分け方は?

中和熱が発生するときに発熱反応なのか、吸熱反応なのかは反応する酸や塩基の状態に依存します。中和熱は、1molの酸(H+)と塩基(OH-)から1molのH2Oが生じる時に発生する熱量ですので、酸や塩基の種類によって大きさは変わりません。

しかし、酸や塩基が弱酸・弱塩基の場合は、物質のもつエネルギーが生成物よりも低いため吸熱反応が起こります

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