今日は冷媒について見ていこう。冷媒は冷蔵庫や空調、エアコンなどに使用されているんですが、物を冷やすことができる機能をもつ機械には不可欠なものです。ただ、冷媒には環境への悪影響が報告されいるから、その性質をしっかりと理解しておくことは大事です。大学で化学を学び、今も現役の研究者として活躍する化学に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。
ライター/ポスドクランナー
大学で有機化学や合成化学、生物学について学び、化学や生物に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。
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冷媒とは、冷蔵庫やエアコンなど機器の中で、熱を温度の低い所から高い所へ移動させるために使用される流体のことです。例えば、エアコンの場合は室内機と室外機をつなぐパイプの中に充填されています。
一般的に液体が気体になるときには周囲から熱を奪い、気体が液体になるときには周囲に熱を放出していますが、冷媒は液体が気化するときに周囲の熱を奪うという性質を利用して冷却しているのです。この時、圧縮による液化・放熱、気化・吸熱を繰り返しています。
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クロロフルオロカーボン(CFC)は塩素(クロロ)・フッ素(フルオロ)・炭素(カーボン)のみからなり、初期の冷房装置、冷温冷凍機やカーエアコン、電気冷蔵庫で使われてきた冷媒です。
しかし、オゾン層を破壊している原因であることが発見され、1987年に採択されたモントリオール議定書において、生産中止・全面廃止が決定されて今では使用されていません。
ハイドロフルオロカーボン(HFC)は炭化水素化合物(ハイドロカーボン)を構成する水素の一部または全部をフッ素で置換した化合物です。
現在、代替フロンと呼ばれ、冷媒として用いられるフロンの主流になっています。HFCのなかでも地球温暖化係数やエネルギー効率の点から、R32が主流です。
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冷媒の用途としてはその名の通り、物を冷やすための機械に多く使用されています。
例えば、家庭用の冷蔵庫、エアコンや空調、スーパーの食品ショーケースなど、冷暖房装置や冷凍冷蔵装置など全般です。もちろんエアコンで暖房を使用するときにも冷媒は働きます。
\次のページで「冷媒はどうやって物を冷やすの?その仕組みを解説!」を解説!/
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冷媒が物質を冷やすために大事な働きは熱交換です。液体から気体に変化するとき、周囲から熱を奪い、逆に、気体から液体に変化するときには周囲に熱を放出します。前者の奪われる熱を気化熱、後者の放出される熱を凝縮熱です。
冷媒は気化熱によって周囲から熱を奪い、別の場所に移動してから凝縮熱によって熱を放出することで熱を運ぶ役割を果たします。これが熱交換です。この熱交換を連続的に行うことで、空間の気温を下げることができ、これは冷凍サイクルと呼ばれます。冷凍サイクルを効率的に繰り返すためには気体と液体それぞれの状態を容易に行き来しなければならないため、冷媒には特定の温度域を持つガスが選ばれるのです。
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冷媒に使われているフロンは長年環境への悪影響が懸念されています。
中でもオゾン層の破壊と地球温暖化に与える影響が大きな問題です。フロンの中には燃えやすかったり、人体に有毒なものがあり、地球環境にも人体にも影響の少ないフロンの開発が求められています。なので、環境に対して配慮された冷媒(ガス)の開発が求められているのです。
NASA - http://www.nasa.gov/vision/earth/lookingatearth/ozone_record.html, パブリック・ドメイン, リンクによる
冷媒が環境に与える悪影響の最も代表的なものがオゾン層の破壊です。
クロロフルオロカーボンなどのフロンと総称される物質は塩素(クロロ)を含む化合物ですが、不燃性・無毒性であり、化学的に安定しています。安定性が高いので大気中に放出されても、ほとんど分解されないまま成層圏に至りますが、太陽からの紫外線によって分解され塩素分子を放出するのです。この塩素分子のせいでオゾン層は破壊されます。
そのため、クロロフルオロカーボンは初期の冷房装置、冷温冷凍機やカーエアコン、電気冷蔵庫で使われてきた冷媒ですが、1987年に採択されたモントリオール議定書において、生産中止・全面廃止が決定され、特定フロンと呼ばれるようになったのです。現在ではハイドロフルオロカーボンが主流であり、代替フロンと呼ばれています。
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冷媒が環境に与える悪影響として、オゾン層の破壊以外にも地球温暖化があります。理由は冷媒が温室効果ガスとして働くからです。
太陽からの光で温められた熱は、地表から地球の外に向かって放射されます。この時、温室効果ガスは放射された赤外線を吸収し、地表を温めるのですが、このことを温室効果といい、この効果をもたらす気体が温室効果ガスです。
一般的に二酸化炭素が温室効果ガスの代表としてよく知られています。しかし、ハイドロフルオロカーボンなどの冷媒の地球温暖化係数は二酸化炭素の数百倍から1万倍であり、二酸化炭素よりも非常に強力な温室効果ガスなのです。
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冷媒の使用されている家電はそのままゴミとして廃棄できず、専門の業者が処理しなければならないので注意が必要です。
製造メーカーや販売店に引き取ってもらったり、ごみ処理業者に依頼したり、県に登録を有するフロン類充填回収業者に依頼してフロンガス抜いた後に廃棄する必要があります。
現在、使用されている冷媒で環境に悪影響がないものは残念ながらありません。
オゾン層破壊への影響がないことからハイドロフルオロカーボンが、現在使用されている冷媒の主流ですが、地球温暖化への影響は依然として残ったままです。
最近では、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)がオゾン層への影響もなく、地球温暖化への影響が低い(ハイドロフルオロカーボンの約1/6)ことから、注目されていますが、燃焼性は高いことや、毒性による人体への影響が課題となっています。その他、プロパンガスやブタン、プロピレンなども候補ですが、地球温暖化係数は低く効率もいいものの、燃焼性が高いため安全性は低くなるのが課題です。
\次のページで「家電を見直し環境に良い冷媒を使った家電に切り替えよう!」を解説!/
冷蔵庫やエアコンなどの冷却機能は私達の生活に欠かせないものです。しかし、これらを使用するのことで、知らずしらずのうちに環境破壊を招いています。例えばエアコンは室外機を見ればどんな冷媒を使用しているか書いてありますよ。地球環境を守るためにも使用されている冷媒を意識して今一度家電を見直してみませんか?
いらすと使用元:いらすとや