今回は「イットリウム」という元素について解説していきます。

イットリウムは知名度が低い元素ではありますが、希土類(レアアース)に分類される金属元素であり、資源的な価値は高いぞ。それゆえ、イットリウムは人類の生活を支える重要な物質と言えるでしょう。この記事では、イットリウムの化学的な性質はもちろんのこと、それがどのような技術や製品に用いられているのかという点も解説していく。ぜひ、この機会にイットリウムについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

イットリウムについて学ぼう!

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Alchemist-hp (www.pse-mendelejew.de) - 投稿者自身による著作物, FAL, リンクによる

皆さんはイットリウムという元素のことをどの程度知っているでしょうか?この元素は中学や高校の理科の授業でほとんど紹介されない上に、元素周期表の中でも下のほうに位置するので、影の薄い存在であると言えます。しかしながら、イットリウムは私たちの生活を支えるために不可欠な資源です

今回の記事では、化学だけでなく物理学・工学などの視点も加えて、イットリウムが一体どのような元素であるのかを解明していきます。それでは早速、イットリウムについて詳しく学んでいきましょう!

イットリウムとは?

イットリウムとは?

image by Study-Z編集部

イットリウムは原子番号が39であり、元素記号がYである遷移元素です。イットリウムは遷移元素でありながら、ランタノイドと化学的性質が極めて似ているため、希土類元素に分類されます。ランタノイドとは、原子番号が57のランタンから原子番号が71のルテチウムまでの元素群のことを指しますよ。

単体のイットリウムは銀白色の金属光沢をもっています。イットリウムの単体結晶は空気中で酸化被膜をつくり不動態となりますよ。また、イットリウムの単体結晶は六方最密構造をとるものと体心立方格子をとるものがあり、それぞれ同素体として区別されるのです。

イットリウム発見の歴史

人類がはじめてイットリウムを発見したのは1787年とされています。カール・アクセル・アレニウスという人物が、スウェーデンのイッテルビーという村の石切り場で見つけた黒い岩石にイットリウムが含まれていたのです。しかしながら、当時はイットリウムではなく、タングステンがその岩石に含まれていると考えられていました。

その2年後、ヨハン・ガドリンアンデルス・エーケベリによってアレニウスが見つけた岩石からイットリウムの酸化物である『イットリア』が抽出され、イットリウムの発見へと至ったのです。さらに、1843年にはフリードリヒ・ヴェーラーが単体のイットリウムを取り出すことに成功しています

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イットリウムの毒性

続いて、イットリウムという物質がもつ毒性について考えていきましょう。イットリウムは、ヒトを含むほとんどの生物の血液中に含まれることがわかっています。そのため、少量のイットリウムは人体にほとんど影響を与えないと考えられていますよ。

しかしながら、多量のイットリウムが人間の体内に入ると肺や肝臓に損傷を与え、呼吸困難などの症状があらわれます。それゆえ、イットリウム化合物の人間への暴露量を規制する法律がある国も存在しますよ。

イットリウム鉱物の分布

イットリウムの単体は自然界には存在せず、化合物として鉱石中に存在しています。イットリウムはゼノタイムやフェルグソン石などの希土類鉱物に含まれていますよ。また、ウラン鉱石にも微量のイットリウムが含まれることが知られています。

イットリウム鉱物の分布には偏りがあり、その大部分が中華人民共和国周辺に集中していますよ。実際、日本で使われるイットリウムの95%以上が中国産です。中国以外では、インド・ブラジル・マレーシア・アメリカがイットリウムの生産国として挙げられますよ。

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イットリウムの用途

ここまで、イットリウムの化学的な性質について一通り学んできました。以下では、イットリウムがどのような用途で利用されているのかを、具体的な事例を通して考えていきましょう。イットリウムの用途について知ることで、イットリウム自体についての理解も深まりますよ。

今回は、蛍光体酸素イオン伝導体添加剤超伝導体という4つの事例をご紹介しますね。それぞれの用途が、イットリウムのどの性質を活かしたものであるのかを考えながら、記事を読み進めてみてください。

蛍光体:赤色を表現

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ユウロピウムイオンを添加した酸化イットリウム・硫化イットリウム・バナジン酸イットリウムなどの化合物は赤色蛍光体として知られています。過去、ブラウン管カラーテレビで赤色を表現するために、この赤色蛍光体は使われていました

また、現在では赤色LEDを製造する際にイットリウム系の化合物が利用されていますよ。赤色は光の三原色であるため、イットリウムの蛍光体としての役割がいかに重要であるかがわかりますよね。

酸素イオン伝導体:燃料電池の電極

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酸化ジルコニウムに少量の酸化イットリウムを添加した『イットリア安定化ジルコニア』は、酸素イオン伝導体として知られています。電子が金属結晶中を流れるように、酸素イオン伝導体は酸素イオンを結晶中に流すことができるのです。

それゆえ、イットリア安定化ジルコニアは酸素センサーを製造するために用いられていますよ。また、酸素と水素を反応させて電気を作り出す燃料電池にも酸素イオン伝導体が使われています。家庭用燃料電池の主力であるSOFC(固体酸化物形燃料電池)の電極にはイットリア安定化ジルコニアが利用されているのです。

添加剤:金属の強度・耐熱性・耐腐食性が向上

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他の金属結晶にイットリウムを少量添加すると、主体の金属結晶の強度・耐熱性・耐腐食性が向上することがあります。また、イットリウムと他の金属の合金は結晶粒度が小さくなる傾向があり、加工が簡単になるというメリットもあるのです。それゆえ、イットリウムは合金の添加剤として頻繁に利用されます。

イットリウムと添加することで、上記ような恩恵を受けることができる金属としては、クロム・モリブデン・チタン・ジルコニウム・アルミニウム・マグネシムなどがありますよ。そして、イットリウムと鉄・コバルトの合金は永久磁石として利用されています

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超伝導体:未来の送電システムを支える技術

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超伝導体は低温において電気抵抗が完全にゼロになる金属のことを指します。それゆえ、超伝導体を使って電気を運ぶと、途中で電気エネルギーを一切ロスしないのです。このようなことから、超伝導体は未来の送電システムを支える技術になることが期待されています。

この超伝導体の中に、イットリウム化合物が含まれているのです。イットリウム・バリウム・銅酸化物(YBCO)は1987年に発見された超伝導体で、-180℃で電気抵抗がゼロになることが知られていますよ

イットリウムについて学ぶ意義

イットリウムは私たち生活を支える重要な資源です。また、イットリウムを活用した次世代技術は多数存在し、これからも需要は高まっていくことが予想されます。しかしながら、産出国には大きな偏りがあり、イットリウムをめぐる安全保障上の問題も今後の課題になりますよね。

この記事では、イットリウムについて期待と課題の両側面から考察を行いました。ぜひこの機会に、イットリウムについての知識を身につけてみてくださいね。

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化学原子・元素無機物質理科生活と物質

イットリウムとはどのような元素?特徴や用途は?現役理系学生ライターが5分で徹底わかりやすく解説!

今回は「イットリウム」という元素について解説していきます。

イットリウムは知名度が低い元素ではありますが、希土類(レアアース)に分類される金属元素であり、資源的な価値は高いぞ。それゆえ、イットリウムは人類の生活を支える重要な物質と言えるでしょう。この記事では、イットリウムの化学的な性質はもちろんのこと、それがどのような技術や製品に用いられているのかという点も解説していく。ぜひ、この機会にイットリウムについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

イットリウムについて学ぼう!

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皆さんはイットリウムという元素のことをどの程度知っているでしょうか?この元素は中学や高校の理科の授業でほとんど紹介されない上に、元素周期表の中でも下のほうに位置するので、影の薄い存在であると言えます。しかしながら、イットリウムは私たちの生活を支えるために不可欠な資源です

今回の記事では、化学だけでなく物理学・工学などの視点も加えて、イットリウムが一体どのような元素であるのかを解明していきます。それでは早速、イットリウムについて詳しく学んでいきましょう!

イットリウムとは?

イットリウムとは?

image by Study-Z編集部

イットリウムは原子番号が39であり、元素記号がYである遷移元素です。イットリウムは遷移元素でありながら、ランタノイドと化学的性質が極めて似ているため、希土類元素に分類されます。ランタノイドとは、原子番号が57のランタンから原子番号が71のルテチウムまでの元素群のことを指しますよ。

単体のイットリウムは銀白色の金属光沢をもっています。イットリウムの単体結晶は空気中で酸化被膜をつくり不動態となりますよ。また、イットリウムの単体結晶は六方最密構造をとるものと体心立方格子をとるものがあり、それぞれ同素体として区別されるのです。

イットリウム発見の歴史

人類がはじめてイットリウムを発見したのは1787年とされています。カール・アクセル・アレニウスという人物が、スウェーデンのイッテルビーという村の石切り場で見つけた黒い岩石にイットリウムが含まれていたのです。しかしながら、当時はイットリウムではなく、タングステンがその岩石に含まれていると考えられていました。

その2年後、ヨハン・ガドリンアンデルス・エーケベリによってアレニウスが見つけた岩石からイットリウムの酸化物である『イットリア』が抽出され、イットリウムの発見へと至ったのです。さらに、1843年にはフリードリヒ・ヴェーラーが単体のイットリウムを取り出すことに成功しています

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