今日は液体空気について見ていこう!液体空気はその名の通り空気が液体になったものです。普段目にすることはほとんどないが空気もちゃんと液体になるんです。ただ、約-190℃と超低温であったり、爆発しやすかったりと取扱いが難しいんだ...。大学で化学を学び、今も現役の研究者として活躍する化学に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で有機化学や合成化学、生物学について学び、化学や生物に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

液体空気ってどんなもの?

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私たちは生きていくために空気を吸い込んで体内に酸素を吸収し、体内の二酸化炭素を放出しています。この空気を圧縮または冷却して液化したものが液体空気です。薄く青みがかった溶液で、沸点は−約190度の超低温の溶液になので、通常の環境では直ぐに気化して気体になってしまいます。

液体空気は空気中に含まれる窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴンなどの様々なものが液化している混合溶液です。加圧されると沸点の低いものから順に気化していくので、工業的に空気から窒素と酸素を得るのに利用されています

液体空気ってどうやって作るの?

Joule James sitting.jpg
Henry Roscoe - The Life & Experiences of Sir Henry Enfield Roscoe (Macmillan: London and New York), p. 120, パブリック・ドメイン, リンクによる

液体空気は、大気中の空気を加圧し圧縮し、これを断熱膨張させて冷却することで空気の温度が次第に降下させることで作ることができます

加圧した空気を断熱膨張することで空気の温度が降下する現象はジュール=トムソン効果です。ジュール=トムソン効果はジェームズ・プレスコット・ジュールとウィリアム・トムソンによって1861年に提唱されました。これは、2つの容器をつなぐ細管の中央に綿など多孔性物質をおき、両側の圧力をそれぞれ一定に保ちながら、外部との熱の出入を断って気体を高圧側から低圧側へゆっくり流すと、気体の温度が圧力差に比例して変化する現象です。これにより、低圧側に流れた気体の温度は下がり、液体化します。

液体空気の作製に初めて成功したのはカール・フォン・リンデで100年以上も前の1895年のことです。その後、ジョルジュ・クロードによって工業的な大量生産が可能になりました。

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液体空気ってどんな用途があるの?

液体空気は空気を低温にして液体にしたものです。液体の温度は約−190℃なので、取り扱いが難しいので一般的に使われることはまずありません。使用用途の多くが工業的な利用です

使用例1: 窒素、酸素、アルゴンなどの工業的製造

使用例1: 窒素、酸素、アルゴンなどの工業的製造

image by Study-Z編集部

窒素、酸素、アルゴンなどの空気中に含まれる物質を大量に得るために液体空気は使用されます

空気はそのままだと扱いにくいのでまず、圧縮しなければなりません。空気は圧縮すると温度が上昇しますが(この現象は圧縮熱と呼ばれています。)、これば分子が速く動くようになるためです。圧縮により空気の温度が上がってしまったので、次に一度約10℃まで冷却します。そうすると水や二酸化炭素などの低温で固化する物質が出てくるのでこれらを吸着除去した後に、熱交換器で-200℃近くまで冷却することで液体空気を得るのです。この液体空気を精留塔に導入し、各ガスの沸点の差を利用して分離して取り出します。こうして、空気から窒素や酸素などを得る方法を深冷分離法といいますが、この方法は化学反応を用いないので安全に酸素や窒素を製造できるのが特徴です

使用例2: 空気の運搬

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液体空気は空気を運搬しやすくするためにも使用されます

空気(ガス)は通常は気体ですが、気体のままでは体積が大きいため運ぶことがとても困難です。なので、圧力をかけたり冷却したりすることで体積を小さくすることで運びやすくなります

例えば、酸素は冷却して液体酸素にすることで体積を1/800まで小さくできるのです。高圧ガスのラベルがあるトラックなどを見たことがあるのではないかと思いますが、これらはまさに液体空気を運搬しています。

使用例3: 低温実験用の寒剤

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液体空気は急速に物質を固めたい時や冷やしたい時などの低温実験用の寒剤として用いられます。実験用としてはほとんどの場合で使用されるのは液体空気ではなく液体窒素です。

急速に物質を凍結させたり、細胞などの室温で保存できないものを低温で保存するために使用したりします。

液体窒素は液体空気と同じく取扱いに注意が必要です。液体窒素は沸点が-196℃なので容易に気化しやすいので、密室で使用すると窒素が大量に発生し、酸欠を起こす恐れがあるので十分に換気された場所で使用する必要があります。

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液体空気って爆発しやすくて危険ってホント?

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液体空気などは超低温なので取扱いの際には凍傷や低温火傷に注意が必要なのはよく知られていますが、爆発しやすい性質もあるので極めて危険で注意が必要です。衝撃や摩擦、熱などにより容易に起爆し、液体、空気自体の移し替えやその際の打撃、摩擦、静電気火花によっても起爆すると言われています。

液体空気の爆発が起こる原因は物理的爆発です。液体空気は空気を圧縮しているので相当な圧力がかかっています。液体空気は沸点が低いので室内の温度では容易に気化してしまい、このときに一気に膨張するので圧縮していた大量の圧力が解放されるのです。大量の圧力が密閉された容器や、限られた面積しかない空間で解放されると、圧力が解放しきれずに爆発に繋がります。

この特徴を利用して、過去には液体空気はダイナマイトと同じく爆薬(液体空気爆薬)として使用されたりもしていました。

密閉容器に入っていなくても爆発するのはなぜ?

大量の燃料が一瞬で燃えると、頑丈な容器に密閉されていなくても爆発が起こることがあります。

これは急激な膨張(圧力変化)は速度が非常に速く、周囲の空気が圧力の変化に追いつけず、空気が密閉容器の壁のように働くからです。非常に急激な圧力変化では、圧力が広がる速度が音速を超えることもあります

気体も液体にすることで目に見える形になる!

私たちの身の回りにある空気は生きていく上で必要不可欠なものですが目でみることはできませんが、圧力をかけ-190℃のような超低温にすることで液体空気にすることができ、初めて空気を目で見ることができます。身の回りにある他の気体も液体にしてみると面白いですよ。思いがけないような色をしていることもありますよ。

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化学暮らし物質の状態・構成・変化理科

液体空気ってどんなもの?液体?気体?爆発しやすくて危険ってホント?現役の研究者がわかりやすく解説!

今日は液体空気について見ていこう!液体空気はその名の通り空気が液体になったものです。普段目にすることはほとんどないが空気もちゃんと液体になるんです。ただ、約-190℃と超低温であったり、爆発しやすかったりと取扱いが難しいんだ…。大学で化学を学び、今も現役の研究者として活躍する化学に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で有機化学や合成化学、生物学について学び、化学や生物に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

液体空気ってどんなもの?

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私たちは生きていくために空気を吸い込んで体内に酸素を吸収し、体内の二酸化炭素を放出しています。この空気を圧縮または冷却して液化したものが液体空気です。薄く青みがかった溶液で、沸点は−約190度の超低温の溶液になので、通常の環境では直ぐに気化して気体になってしまいます。

液体空気は空気中に含まれる窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴンなどの様々なものが液化している混合溶液です。加圧されると沸点の低いものから順に気化していくので、工業的に空気から窒素と酸素を得るのに利用されています

液体空気ってどうやって作るの?

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Henry Roscoe – The Life & Experiences of Sir Henry Enfield Roscoe (Macmillan: London and New York), p. 120, パブリック・ドメイン, リンクによる

液体空気は、大気中の空気を加圧し圧縮し、これを断熱膨張させて冷却することで空気の温度が次第に降下させることで作ることができます

加圧した空気を断熱膨張することで空気の温度が降下する現象はジュール=トムソン効果です。ジュール=トムソン効果はジェームズ・プレスコット・ジュールとウィリアム・トムソンによって1861年に提唱されました。これは、2つの容器をつなぐ細管の中央に綿など多孔性物質をおき、両側の圧力をそれぞれ一定に保ちながら、外部との熱の出入を断って気体を高圧側から低圧側へゆっくり流すと、気体の温度が圧力差に比例して変化する現象です。これにより、低圧側に流れた気体の温度は下がり、液体化します。

液体空気の作製に初めて成功したのはカール・フォン・リンデで100年以上も前の1895年のことです。その後、ジョルジュ・クロードによって工業的な大量生産が可能になりました。

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