みんなは「コープの法則」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。進化に関する法則の1つなのですが、高校生物の教科書にはあまり登場しない用語だから、聞き慣れないという人も少なくないでしょう。そんなコープの法則はどんなものなのか、自然選択説にも触れながら、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

コープの法則って何?

Fossil of Megaloceros Giganteus.jpg
Momotarou2012 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

「コープの法則」は生物の進化に関する法則の1つで、アメリカの古生物学者であるエドワード・ドリンカー・コープによって提唱された説です。コープの法則とは、「系統発生の過程で体が小型から大型へと変化する傾向にあること」を言います。つまり生物は進化して行くにつれて、徐々にその体のサイズが大きくなるということになりますね。

コープの法則は、高校生物でもほとんど登場しない説ですが、進化の正しい考え方を得るにために重要なヒントとなるので、しっかり学習しましょう。

定向進化説と自然選択説

実は、コープの法則は「定向進化説」の1つなのです。この学説を初めて耳にする人も少なくないでしょう。この定向進化説とは何なのか、また、定向進化説が提唱されるまでに至った経緯について学習していきましょう。

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定向進化説とは?

20世紀初頭の進化について研究していた学者の間で、ある説が支持されるようになりました。それが「定向進化説」だったのです。定向進化説とは、「生物は進化する時に、ある一定の方向に進む」ということを意味します。コープの法則は、生物の体のサイズが進化するにつれて巨大化するのでしたね。このことから、コープの法則は生物の体の大きさに着目した定向進化だといえるでしょう。

定向進化説の具体例

定向進化説の具体例

image by Study-Z編集部

定向進化説の例としてウマの進化を見ていきましょう。初期のウマは背の高さが数10cmしかなく、しかも足の指も4本あったといいます。その後いくつかの中間的な姿をした種を介して、現在はおよそ1m〜2mと大型化し、足指が一本の姿へと進化しました。このように、ウマの進化は「大型化する」と「足指が1本になる(減る)」という方向に進化が進んだとみなされました。

その他にも、すでに絶滅したギカンテウスオオツノシカも定向進化説を裏付ける生物とされていたのです。肩高約2.3m、体長3.1m、体重700kgに達し、ツノは最大3.6m以上、重量は50kgほどあったと言われています。ここまで巨大化すると逆に不便で実用性が無さそうと考えられました。

このように、コープの法則を含む定向進化説のように、生物の進化は、その特徴が生存に有利か不利なのか関係なく、その方向に進化すると考えられるようになったのです。

なぜ定向進化説が生まれた?

定向進化説が誕生したのは、自然科学者のチャールズ・ダーウィンが唱えた「自然選択説」が関係していると言われています。

自然選択説とは、生活する上で有利な特徴を持つものが生存競争に勝ち、それが子孫を残すという自然選択のもとで生物は進化する学説です。つまり、生存競争に勝って生き残る生物の特徴は、生きていく上で有利になるはずですよね。しかし、生物によっては明らかに生きていく上で有利ではない、むしろ不利になりそうな特徴を持つものも存在するのです。例えば、キサントパンスズメガというガは、通常のガと比べて、その口器は30cmと長く、少し不便そうで生存に有利とは言えません。

このような生物の存在から、コープなどの一部の古生物学者は一度ある進化が始まると、その進化を抑えることができず、その方向へと進化し続けると考え、定向進化説を唱えたのです。

定向進化説の落とし穴

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コープの法則などの定向進化説には、自然選択説では説明できない進化の仕方に注目して生まれた学説でしたね。しかし、ここには落とし穴があったのです。

個体ごとに起こる変異で生じる様々な特徴は、生活環境に合えば生き残り、そうでなければ死んでしまいます。これが世代ごとに繰り返されて進化することが自然選択説でしたね。ここで、注意しないといけないのは、「生物たちはこの特徴は生存に有利だ」と思って進化しているわけではないということです。一見、生存には必要のない体の大きさ、特徴を持っていたとしても、生物が「この方向に進化しよう!」と思ったのではなく、「この特徴を持ったものが、偶然ここまで生き残った」ということになります。

定向進化説を支持する学者たちは、進化は偶然ではなく、何か意味を持って起こることだと考えていたのだと言われているそうです。そのため、定向進化説が誕生したのでしょう。

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コープの法則は成り立つの?成り立たないの?

コープの法則を含む定向進化説には、自然選択説と少し異なる考え方があることで誕生しました。しかし、実際にこの説が提唱されたのは、何かしらの事例があったからです。ここでは、コープの法則が成立する場合と、成立しない場合の例をご紹介します。

コープの法則が成り立つ場合

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恐竜の化石の解析から、コープの法則が成り立つ事例がいくつか見つかっています。例えば、ブラキオサウルスなどの竜脚類(りゅうきゃくるい)は、これまで陸上で生活した生物の中で最大の体をもつ生物と言われているのです。

ブラキオサウルスは世代を重ねるごとに体が大きくなる方向へと進化したと考えられます。

しかし、恐竜の大腿骨の化石のサイズを解析したところ、必ずしもこのコープの法則が全ての恐竜に当てはまるとは限らないことが明らかになりました。

コープの法則が成り立たない場合

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生物の中には、巨大化するのではなく、逆に小型化するものも存在しました。天敵が少ない地帯で生息した生物の体は大型化するのではなく、逆に小さくなる傾向があるそうです。例として、過去に日本列島に生息していたアケボノゾウが挙げられます。アケボノゾウはゾウにしてはかなり小さい約2mという高さしかありません。このアケボノゾウは高さ4mもある大型のミエゾウが小型化したものだと考えられていますよ。

大型化することで天敵に襲われにくいなどの利点がありますが、特殊な体構造を取ることや、個体数が減少するなどの欠点もあるため、環境変動には対応しづらいのです。大型化するエネルギーを別のものに使ったと考えられますね。

現代の研究者たちはコープの法則を認めていない

このように、コープの法則は生物の進化において、必ず成り立つものではないと考えられるようになりました。

現代のほとんどの研究者は、コープの法則のような定向進化説を認めていません。しかし、化石に関する研究では、「定向進化のような傾向がある」と表現することもあるそうです。これは、わかりやすくするために使われているだけであり、実際に生物が自発的に一定方向の進化が推し進められているとは認識していません。

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コープの法則は限定的にしか当てはまらない!

コープの法則とは、定向進化説の1つで、ある系統が進化するにつれて個体の体が大きくなるという説でした。

コープの法則を含めた定向進化は、生命自体が「より良くなろう!複雑な作りになろう!」と思っていないことに注意する必要があります。生物の進化には目的や方向性が存在せず、「多種多様な個体差の中からある特徴を持った個体が偶然生き残ってきた」ということをしっかりと覚えておきましょう。

イラスト引用元:いらすとや

" /> 生物学のコープの法則とは?成立するの?自然選択説についても現役理系学生がわかりやすく解説 – Study-Z
理科生き物・植物生物生物の分類・進化

生物学のコープの法則とは?成立するの?自然選択説についても現役理系学生がわかりやすく解説

みんなは「コープの法則」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。進化に関する法則の1つなのですが、高校生物の教科書にはあまり登場しない用語だから、聞き慣れないという人も少なくないでしょう。そんなコープの法則はどんなものなのか、自然選択説にも触れながら、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

コープの法則って何?

Fossil of Megaloceros Giganteus.jpg
Momotarou2012投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

「コープの法則」は生物の進化に関する法則の1つで、アメリカの古生物学者であるエドワード・ドリンカー・コープによって提唱された説です。コープの法則とは、「系統発生の過程で体が小型から大型へと変化する傾向にあること」を言います。つまり生物は進化して行くにつれて、徐々にその体のサイズが大きくなるということになりますね。

コープの法則は、高校生物でもほとんど登場しない説ですが、進化の正しい考え方を得るにために重要なヒントとなるので、しっかり学習しましょう。

定向進化説と自然選択説

実は、コープの法則は「定向進化説」の1つなのです。この学説を初めて耳にする人も少なくないでしょう。この定向進化説とは何なのか、また、定向進化説が提唱されるまでに至った経緯について学習していきましょう。

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