中学の理科や高校生物の遺伝の範囲で出てくる「純系」。みんなは純系とは何を意味するのか説明できるでしょうか。純系を理解するには遺伝子や形質について学ぶ必要がある。そこで、今回は純系だけでなく、遺伝子や形質、さらに純系の利用について、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

純系って何?

純系って何?

image by Study-Z編集部

純系(じゅんけい)とは、上記の図のように「世代を重ねても、ある性質(形質)が代々同じになる」という意味を持ちます。メンデルのエンドウを使った遺伝の実験を例に挙げてみましょう。

メンデルの実験では、「背丈の高い個体」と「背丈の低い個体」を用いて遺伝の法則を明らかにしました。この「高い」や「低い」といった「性質」は親や子、さらには孫の世代まで引き継がれるのです。メンデルの実験では、「背丈の高い個体と低い個体を交配させたらどうなるのか」などの実験を行いました。その実験でより正確な結果を出すには、性質が確実に次の世代に現れる、純系のエンドウが必要だったのです。

このように、純系とは注目した性質が何世代に渡っても同じであることを意味します。

形質と遺伝子とは?

純系について深く理解するために、形質と遺伝子について学習しましょう。形質と遺伝子とは何なのか、また両者は一体どんな関係性なのでしょうか。それぞれについて詳しく解説していきます。

遺伝法則の発見

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1865年にメンデルは遺伝に関する法則をいくつか発表しました。この法則の発見に至った実験では、エンドウを交配させ、種子の形(しわか丸いか)や背丈(高いか低いか)などの7組のエンドウの性質に着目し、その次世代への伝わり方について明らかにしたのです。このエンドウの種子の性質を伝えるものが何なのかは、当時はまだわかっていませんでした。

メンデルの実験から、エンドウのある性質何かしらの物質によって親から子へと伝わるという仮説を立てました。ここからは、この「性質」と今では明らかになった「何かしらの物質」について解説していきます。

形質:生物が持つ性質や特徴

「形質」とは、生物が持つ性質や特徴のことで、親から子へと遺伝するものです。メンデルの実験で言えば、エンドウの性質である種子の形や背丈に当たりますね。他にも、植物の場合、花や種子の色、ツルの長さなどが挙げられます。人間で言えば、髪の毛の色や耳たぶの形、身長などがありますね。このように、いわゆる「目で見てわかる」形質のことを「形態形質」と呼ぶのです。

この他にも、遺伝子型や遺伝配列、塩基配列などの性質のことを「分子形質」、適温や耐性などの性質を「生理形質」、行動などの性質のことを「生態形質」と言いますよ。

\次のページで「遺伝子:遺伝情報の1つの単位」を解説!/

遺伝子:遺伝情報の1つの単位

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遺伝子とは、遺伝情報の1つの単位のことで、その実体は細胞の核の中に存在する「DNA」なのです。つまり、メンデルの実験の結果から仮説が立てられた「何らかの物質」に相当しますね。この遺伝子が形質を支配しており、ある遺伝子を持っていれば、それに相当する形質を発現することになります。

純系の作り方と変異について

純系とは、親や子、孫が持つある形質が全て同じであることでした。この純系を作るには、自家受精をするか、もしくは自家受精ができない動物などの場合、親子間や兄弟間などで近親交配をし、これを何世代に渡って繰り返す必要があります。ここでは、純系の作り方の例を学習しましょう。

また、純系で起こる突然変異についても解説します。

自家受精:同じ個体の卵細胞と精細胞の間で受精する

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自家受精について、エンドウを例に解説していきますね。エンドウの花には、雄しべと雌しべがどちらも存在します。このため、雄しべでできた花粉は直接、雌しべの柱頭に着くことで、自家受粉がされるのです。そして、その後、胚のうで卵細胞と精細胞が受精します。

自家受精をするということは、遺伝的に同じものが受精し、そこに親と同じ遺伝子を持つ個体が生まれることになるのです。この方法をとることで、特定の形質が何世代にも渡って発現する純系が出来上がります。

突然変異:親になかった分子形質が子に現れる

純系であることから、形質が同じであれば遺伝的にも同じであることが考えられますよね。しかし、まれに、遺伝的に純系であっても形質が異なる(変異する)ということがあります。この変異は形質が環境による影響を受けることで起こることなのです。そのため、この形質は次の世代に遺伝することはありません。

また、自家受精や近親交配を繰り返していくと突然変異が起こりやすくなってしまいます。突然変異とは、親になかった分子形質などが突然、子供に現れ、それが遺伝する現象のことです。メンデルのような実験を行う場合、この現象は非常に厄介なものになるので注意する必要があります。

\次のページで「純系の活用」を解説!/

純系の活用

植物が自然に交配していても、なかなか純系が生まれることはありません。純系を得るにはやはり人の手が必要になりますね。なぜ、人はわざわざ植物などで純系を作るのでしょうか。

1つ目の理由はメンデルが行なったように「遺伝実験を行うため」です。遺伝実験では特定の形質を確実に遺伝させるために純系が必要になるのでしたね。2つ目の理由として、「新しい品種の育成をするため」があります。ここでは、純系を使った品種育成について学習していきましょう。

分離育種法とは?

交雑や突然変異で現れた形質を持った新品種は、そのまま別の個体と交配すると、その特性が失われる可能性があります。品種の特性を維持するために、「分離育種法」が必要になるのです。分離育種法の中に「純系選抜法」があります。

この純系選抜法とは、様々な形質を持つ雑種集団から純系を選抜する方法です。日本ではイネなどで利用されることが多いですよ。例えば、病気に強い個体や多くのもみを実る穂を持つ個体など、人間にとって優良な形質を持った個体は自家受粉を繰り返すことで、優良な形質を維持させます。

その他の育種法

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最近では、他の生物の遺伝子を利用して新たな形質を加える「遺伝子組換え利用育種」や、ある作物の特定の遺伝子の特定の部分だけ変えて、形質を変える「ゲノム編集技術利用育種」などがあります。

交雑では、偶然現れたある1つの形質を利用して育種するしかできませんでしたが、これらの技術によって複数の形質を変えることができるようになったのです。さらに、「偶然」を待つ必要がなく、人為的にニーズに合う品種を育種することが可能になりました。

純系は形質が何世代に渡って現れること!

純系とは、親、子、孫に渡ってある形質が代々同一であることを意味するのでした。純系はメンデルの実験のように遺伝実験で利用されることや品種育成のために利用されることがあります。

純系は遺伝の分野で重要なワードになるのでしっかりと理解しておきましょう。

イラスト引用元:いらすとや

" /> 生物の純系ってどういう意味?遺伝子や形質についても現役理系学生がわかりやすく解説 – Study-Z
理科生き物・植物生物細胞・生殖・遺伝

生物の純系ってどういう意味?遺伝子や形質についても現役理系学生がわかりやすく解説

中学の理科や高校生物の遺伝の範囲で出てくる「純系」。みんなは純系とは何を意味するのか説明できるでしょうか。純系を理解するには遺伝子や形質について学ぶ必要がある。そこで、今回は純系だけでなく、遺伝子や形質、さらに純系の利用について、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

純系って何?

純系って何?

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純系(じゅんけい)とは、上記の図のように「世代を重ねても、ある性質(形質)が代々同じになる」という意味を持ちます。メンデルのエンドウを使った遺伝の実験を例に挙げてみましょう。

メンデルの実験では、「背丈の高い個体」と「背丈の低い個体」を用いて遺伝の法則を明らかにしました。この「高い」や「低い」といった「性質」は親や子、さらには孫の世代まで引き継がれるのです。メンデルの実験では、「背丈の高い個体と低い個体を交配させたらどうなるのか」などの実験を行いました。その実験でより正確な結果を出すには、性質が確実に次の世代に現れる、純系のエンドウが必要だったのです。

このように、純系とは注目した性質が何世代に渡っても同じであることを意味します。

形質と遺伝子とは?

純系について深く理解するために、形質と遺伝子について学習しましょう。形質と遺伝子とは何なのか、また両者は一体どんな関係性なのでしょうか。それぞれについて詳しく解説していきます。

遺伝法則の発見

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1865年にメンデルは遺伝に関する法則をいくつか発表しました。この法則の発見に至った実験では、エンドウを交配させ、種子の形(しわか丸いか)や背丈(高いか低いか)などの7組のエンドウの性質に着目し、その次世代への伝わり方について明らかにしたのです。このエンドウの種子の性質を伝えるものが何なのかは、当時はまだわかっていませんでした。

メンデルの実験から、エンドウのある性質何かしらの物質によって親から子へと伝わるという仮説を立てました。ここからは、この「性質」と今では明らかになった「何かしらの物質」について解説していきます。

形質:生物が持つ性質や特徴

「形質」とは、生物が持つ性質や特徴のことで、親から子へと遺伝するものです。メンデルの実験で言えば、エンドウの性質である種子の形や背丈に当たりますね。他にも、植物の場合、花や種子の色、ツルの長さなどが挙げられます。人間で言えば、髪の毛の色や耳たぶの形、身長などがありますね。このように、いわゆる「目で見てわかる」形質のことを「形態形質」と呼ぶのです。

この他にも、遺伝子型や遺伝配列、塩基配列などの性質のことを「分子形質」、適温や耐性などの性質を「生理形質」、行動などの性質のことを「生態形質」と言いますよ。

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