みんなは魚類の心臓の構造を説明できるでしょうか。魚類の心臓は脊椎動物の中で最も単純な構造をしており、血液の循環系も非常にシンプルなのです。そんな魚類の心臓のほかにも、両生類や爬虫類、哺乳類などの脊椎動物の心臓のつくり、魚類の心臓の研究をめぐる研究成果について、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

そもそも心臓は何のためにあるの?

そもそも心臓は何のために動物たちの体の中にあるのでしょうか。血液は常に全身に存在する全ての細胞に、酸素や栄養分を与えます。また、それと同時に、細胞で生じた二酸化炭素などの不要物を回収するのです。そんな血液の循環の「ポンプ」のような役割を果たすのは「心臓」。この重要な役割を果たす「心臓」がなければ動物は生きることができません。

魚の心臓の特徴とは?

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同じ脊椎動物の中でも種類によって心臓の特徴は異なります。ここでは、魚の心臓の特徴について学んでいきましょう。

特徴1. 1心房1心室

特徴1.  1心房1心室

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魚の心臓は、脊椎動物の中で最も単純なつくりになっています。心房と心室は1つずつしかありません。心臓は全身を回ってきた酸素が少ない静脈血をえらに送る役割をしています。1心房1心室でありながらも、効率よく酸素と二酸化炭素の交換ができるのです。

\次のページで「特徴2. 単純な循環系」を解説!/

特徴2. 単純な循環系

後ほど詳しく説明しますが、両生類やは虫類、鳥類、哺乳類には体循環と肺循環があります。しかし、魚には1種類の循環しかありません。つまり、心臓から押し出された血液はえらを通り、直接、体中の組織へと流れてから心臓に戻ります。このように、魚の血液循環も非常にシンプルになっているのです。

魚類以外の脊椎動物の心臓

脊椎動物の心臓の構造は進化するにつれて、心臓の形が徐々に複雑になってきました。これは陸上への進出が深く関係していると言われています。陸に上がった動物たちは、体中の組織に血液を送り出す必要があるのです。そのため、より強いポンプのような心臓が必要不可欠になりました。このように、陸上での生活に上手く適応するために、心臓の構造や血液循環が発達していったのだと考えられます。

そこで、ここでは魚以外の脊椎動物の心臓のつくりについて学習していきましょう。

1. 両生類

1.  両生類

image by Study-Z編集部

両生類は、水中で幼生期を過ごし、その間はえらで呼吸します。そして、変態を経て成体へと成長すると肺呼吸へと移り変わります。両生類の心臓は2心房1心室です。血液の循環の仕方を肺循環と体循環のそれぞれで見ていきましょう。

<肺循環>
1.血液が心室から肺へ送り出される。
2.肺で血液に酸素が与えられ、動脈血になる。
3.動脈血が左心房へと戻る。
4.左心房に入った動脈血は心室へと押し出される。

<体循環>
1.血液が心室から体中の組織へと送り出される。
2.全身の組織に酸素を届けることで、静脈血になる。
3.静脈血が右心房へと戻る。
4.右心房に入った静脈血は心室へと押し出される。

このように、動脈血と静脈血は最終的に同じ心室に辿り着くので、両者は混ざってしまうのです。心室から肺や全身の組織へと血液(動脈血+静脈血)が送り出されるため、酸素と二酸化炭素の交換はあまり効率よく行えないそう。

これを補うために、両生類は「皮膚呼吸」も行います。皮膚呼吸は、体の表面に露出させた生細胞によって空気の交換が行われるのです。この生細胞は水分が無いと機能しなくなるので、両生類は水場がないところでは生きていくことができません。

このように、両生類は魚と比べると血液循環と心臓のつくりが少し複雑になりましたが、酸素と二酸化炭素の交換が非効率的なのです。

2. 爬虫類

爬虫類の心臓のつくりと血液循環は両生類とほとんど同じですが、両者の間で、唯一異なる点は、心室の構造です。両生類の心室は全く分かれていませんでしたね。しかし、爬虫類の場合、心室の中央あたりに不完全な壁があるのです。部分的に心室が分かれている形にはなっていますが、やはり両生類と同じように、心室では動脈血と静脈血が混ざっています。

3. 鳥類・哺乳類

3.  鳥類・哺乳類

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陸上で生活する鳥類と哺乳類の心臓のつくりは全く同じで、どちらも2心房2心室です。もちろん、どちらにも肺循環と体循環の2種類の循環があります。それぞれの循環について見ていきましょう。

<肺循環>
1.血液(静脈血)が右心室から肺へ送り出される
2.静脈血は肺動脈を通り、肺で酸素が与えられ、動脈血になる。
3.動脈血が肺静脈を通り、左心房へと戻る。
4.左心房に入った動脈血は左心室へと押し出される。

<体循環>
5.血液(動脈血)が左心室から体中の組織へと送り出される。
6.動脈血は大動脈を通り、全身の組織に酸素を届けて、静脈血になる。
7.静脈血が大静脈を通り、右心房へと戻る。
8.右心房に入った静脈血は右心室へと押し出される。

このように、鳥類と哺乳類の心臓は完全に4つの部屋に分かれているため、効率良く酸素と二酸化炭素の交換が行うことができるのです。陸上での生活に適応するために、強い心臓と肺を持ち、確実に酸素と二酸化炭素を交換できる体へと進化したのですね。

\次のページで「魚類の心臓に関する研究」を解説!/

魚類の心臓に関する研究

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ここでは、東京大学の研究グループが2016年に発表した魚類の心臓の研究について、簡単に解説していきます。

高校生物よりも少し発展的な内容になりますが、動物の進化の研究の発展に欠かせない重要な結果が得られたので、ご紹介しますね。

真骨魚類の心臓の構造について

今回の研究成果について解説する前に、既に知られていた知見について学習しましょう。

魚類の心臓は1心房1心室であることを学びました。しかし、実際の心臓はもう少し複雑な構造をしています。

原始的な脊椎動物である古代魚の心臓には心房と心室のほかに、「流出路」があり、この流出路は心房や心室と同じ心筋(横紋筋)からできていたそうです。しかし、魚類の中で最も進化したグループである「真骨魚類」の心臓には、流出路がありません。その代わり、平滑筋でできている「動脈球」があります。この動脈球は心臓の補助ポンプのような役割を担っており、えらにかかる血圧を調節しているそうです。これにより、魚類は水中の環境により適応できるようになったと言われています。

細胞運命の転換の要因が明らかに!

真骨魚類は、流出路から動脈球へと進化したことで、水中環境に適応したのでした。しかし、どのように心筋(流出路)から平滑筋(動脈球)へと変化したのかが不明でした。

今回の研究で、魚類の進化の過程で「elastin b」と呼ばれ遺伝子が発見され、この働きにより、流出路の細胞が心筋から平滑筋へと転換したことで動脈球が形成されたことが明らかになりました。

この研究結果により、生物学の根源的な疑問である「生物は進化をする過程でどのように新しい器官を手に入れるのか」に関して理解を深めることができたのだと言われています。また、この研究結果から細胞の運命を人為的にできるようになれば、医療への応用にも繫がるそうですよ。

魚類の心臓はシンプル!

魚類は地球上で初めて背骨を持った動物です。そのため、心臓のつくりや血液の循環の仕方はそのほかの脊椎動物と比べてシンプルなのでした。私たち人間の心臓の構造は2心房2心室であるところ、魚類の場合、1心房1心室という心臓を持ちます。また、血液循環も体循環と肺循環はなく、心臓からえら、直接全身を経て、心臓に戻ってくるのでした。非常にシンプルな構造でありながらも、効率よく酸素と二酸化炭素の交換ができているのは非常に興味深いですね。

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理科生き物・植物生物生物の分類・進化

魚の心臓の構造とは?役割や脊椎動物の心臓についても現役理系学生がわかりやすく解説

みんなは魚類の心臓の構造を説明できるでしょうか。魚類の心臓は脊椎動物の中で最も単純な構造をしており、血液の循環系も非常にシンプルなのです。そんな魚類の心臓のほかにも、両生類や爬虫類、哺乳類などの脊椎動物の心臓のつくり、魚類の心臓の研究をめぐる研究成果について、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

そもそも心臓は何のためにあるの?

そもそも心臓は何のために動物たちの体の中にあるのでしょうか。血液は常に全身に存在する全ての細胞に、酸素や栄養分を与えます。また、それと同時に、細胞で生じた二酸化炭素などの不要物を回収するのです。そんな血液の循環の「ポンプ」のような役割を果たすのは「心臓」。この重要な役割を果たす「心臓」がなければ動物は生きることができません。

魚の心臓の特徴とは?

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同じ脊椎動物の中でも種類によって心臓の特徴は異なります。ここでは、魚の心臓の特徴について学んでいきましょう。

特徴1. 1心房1心室

特徴1.  1心房1心室

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魚の心臓は、脊椎動物の中で最も単純なつくりになっています。心房と心室は1つずつしかありません。心臓は全身を回ってきた酸素が少ない静脈血をえらに送る役割をしています。1心房1心室でありながらも、効率よく酸素と二酸化炭素の交換ができるのです。

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