なあ、鉄の色は何色か答えられるか?純度の高い鉄は、銀白色ですね。ですが、鉄の溶液は何色か答えられるでしょうか?実は、鉄はイオン、沈殿物、化合物と変わるたびに色が変化する元素なんです。その性質を生かして化粧品なんかにも使われているぞ。
今回はそんな鉄の溶液が出てくる話です。化学に詳しいライターの小春と解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。大学の共通教育で行われた実験では無機化学が一番面白かったという。

塩酸に鉄を入れるとどのような反応が起きる?

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まずは想像してみましょう。塩酸の中に鉄を入れると、どのような反応が起こるでしょう?

反応1.気体発生!その正体は水素?なぜ発生する?

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塩酸の中に鉄くぎを入れてみると、激しく泡が発生して溶けていきます。この泡の正体は何か分かるでしょうか?正解は、水素です。

発生した気体が水素であることを確かめるために、気体を容器の中に集めてみましょう。容器にマッチ棒や線香の火を近づけると、ポンと音を立てて爆発します。水素の特徴ですね。

この水素の発生源は塩酸(HCl)です。塩酸が分解されて、水素が発生したというわけですね。

反応2.鉄が溶ける…なぜ?

鉄に塩酸が溶け、水素が発生したということは、水素と鉄を比べたときに、鉄の方がイオンになりやすく、水素の方が単体になりやすいということです。これは高校化学で習う「金属のイオン化傾向」というもので鉄と水素を比較すると分かります。

塩酸に鉄を入れた様子を化学反応式で示すと?

塩酸に鉄を入れた様子を化学反応式で表すとこうなります。

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Fe + 2HCl → FeCl2 + H2

鉄が溶けて塩化鉄(II)になっていくことがこの式から分かるでしょうか。なぜこのとき、塩化鉄(II)であって塩化鉄(Ⅲ)にはならないのか?簡単にというと、塩酸にそれほどの力がないからです。鉄(単体)を二価の鉄イオンにしたのち、さらに二価の鉄イオンを三価の鉄イオンにするには、相当な酸化力が必要になってしまいます。

この辺りの詳しい内容は、大学に入り「電気化学」の授業(もしくは物理化学の授業)で習うことですが、詳しく知りたい方は「標準電極電位」などで検索してみると、面白いことが分かるかもしれません。

塩酸と鉄以外の金属の反応

塩酸と鉄以外の金属の反応

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鉄以外の金属を塩酸に入れたとき、どのような反応が起こるでしょうか?鉄と全く同じでしょうか?それとも鉄の反応とか異なるのでしょうか?主な金属ごとに反応の違いを確認してみましょう。

銅:変化なし

まず、10円玉に使われている金属である銅の反応を見てみましょう。塩酸に銅を入れると、なんと全く反応が起きません。泡も出ず、何も変化が見られないのです。

塩酸に対して反応しない金属は、銅の他にもあります。金属や銀、白金でも変化は起きません。

アルミニウム:鉄よりも激しく泡を発生して溶ける

次に、1円玉の原料であるアルミニウムではどうでしょうか?アルミニウムを塩酸に入れると、激しく泡を出して溶けていきます。泡の出方は鉄よりも激しいです。

鉄よりも泡の出方が激しい金属には、マグネシウムや亜鉛も挙げられます。泡が激しい順に、マグネシウム>アルミニウム>亜鉛>鉄の順です。

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【補足】金属のイオン化傾向とは?

【補足】金属のイオン化傾向とは?

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塩酸に対してどのように反応するかは、高校で習う「金属のイオン化傾向」に従っています。

金属のイオン化傾向とは、金属が単体からイオンになりやすい傾向の順に並べたものです。この順番は、大学で習う標準電極電位というものに基づいているのですが、残念ながら高校化学ではただ順番を覚えるしかありません。

金属の、イオンになりやすい性質が強いほど、水素イオンに電子を受け渡してどんどんイオン化して(=溶けて)いきます。しかし、水素に比べて水素よりもイオン化傾向が小さければ、水素に電子を受け渡すことができず、変化しないのです。

これまで見てきた、鉄、アルミニウム、銅の反応もこのイオン化傾向で説明できます。イオン化傾向がアルミニウム>鉄>(水素)>銅なので、アルミニウムから順に塩酸と激しく反応するというわけです。

水や、水酸化ナトリウム水浴液と金属の反応

水や、水酸化ナトリウム水浴液と金属の反応

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塩酸との反応が分かったところで、応用です。水や水酸化ナトリウムと金属の反応がどうなるかも見ていきましょう。

鉄:高温の水蒸気に反応、水酸化ナトリウムには反応せず

鉄は高温の水蒸気に反応します。反応式は以下の通りです。

3Fe + 4H2O → Fe3O4 + 4H2

生成した物質は四酸化三鉄と呼ばれています。このとき発生する気体も水素です。ただし、鉄は水酸化ナトリウムには反応しません。

鉄は、金属のイオン化傾向の中でも中間くらいに位置しています。特徴的なのは、濃硝酸や熱濃硫酸には溶けずに不動態を形成する点です。この特徴は、アルミニウム、ニッケルも持っています。

銅:水、水酸化ナトリウムともに反応せず

銅はイオンになりにくいので、水にも水酸化ナトリウムにも反応しません。比較的安定な金属と言えるでしょう。

ただし、銅も空気中では酸化されます。空気中で徐々に酸化されることにより、表面に酸化皮膜が形成されるのです。

銅を溶かすことができるのは、酸化力の強い溶液(硝酸、熱濃硫酸、王水)のみ。王水は金や白金もを溶かすことができる液体で、濃硝酸と濃硫酸を1:3で混合して作ります。

アルミニウム:高温の水蒸気、水酸化ナトリウムに反応する

アルミニウムは、鉄や銅に比べイオン化傾向が大きく、反応性が高いです。高温の水蒸気と反応するほか、水酸化ナトリウムとも反応します。

アルミニウムよりも反応性が高い金属は、リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウムです。周期表からアルカリ金属、アルカリ土類金属とも分類されます。このうち、リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウムは空気中で速やかに酸化されるため、保管が難しいです。冷水とも激しく反応して大変危険ですので、灯油などの液体内で保存することもあります。

マグネシウムは、リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウムよりは反応性が低いです。熱水と反応し、空気中でも徐々に酸化されてしまいますので、保管方法は厳しく指定されています。

塩酸に鉄を入れると発生する気体は水素!金属のイオン化傾向で説明ができる

塩酸に鉄を入れたときに発生する気体は水素です。塩酸の水素イオンが鉄から電子を受け取って単体の水素となり、発生します。他にもアルミニウムを塩酸に入れたときも水素が発生しますが、銅の場合は反応が起きません。この理由は、アルミニウムと鉄は水素よりもイオン化傾向が大きく、銅は水素よりもイオン化傾向が小さいからなのです。

イオン化傾向の成り立ちの理解には大学で習う標準電極電位が必要となってきますので、高校化学までは丸覚えしてしまう方が便利ですよ。

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化学理科

鉄に塩酸を加えると何ができる?水素が出るのはなぜ?反応や化学反応式・鉄以外の金属の反応も阪大院卒ライターが分かりやすくわかりやすく解説!

なあ、鉄の色は何色か答えられるか?純度の高い鉄は、銀白色ですね。ですが、鉄の溶液は何色か答えられるでしょうか?実は、鉄はイオン、沈殿物、化合物と変わるたびに色が変化する元素なんです。その性質を生かして化粧品なんかにも使われているぞ。
今回はそんな鉄の溶液が出てくる話です。化学に詳しいライターの小春と解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。大学の共通教育で行われた実験では無機化学が一番面白かったという。

塩酸に鉄を入れるとどのような反応が起きる?

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まずは想像してみましょう。塩酸の中に鉄を入れると、どのような反応が起こるでしょう?

反応1.気体発生!その正体は水素?なぜ発生する?

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塩酸の中に鉄くぎを入れてみると、激しく泡が発生して溶けていきます。この泡の正体は何か分かるでしょうか?正解は、水素です。

発生した気体が水素であることを確かめるために、気体を容器の中に集めてみましょう。容器にマッチ棒や線香の火を近づけると、ポンと音を立てて爆発します。水素の特徴ですね。

この水素の発生源は塩酸(HCl)です。塩酸が分解されて、水素が発生したというわけですね。

反応2.鉄が溶ける…なぜ?

鉄に塩酸が溶け、水素が発生したということは、水素と鉄を比べたときに、鉄の方がイオンになりやすく、水素の方が単体になりやすいということです。これは高校化学で習う「金属のイオン化傾向」というもので鉄と水素を比較すると分かります。

塩酸に鉄を入れた様子を化学反応式で示すと?

塩酸に鉄を入れた様子を化学反応式で表すとこうなります。

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