
水和とは?水和の原理と水和物の問題を理系ライターがわかりやすく解説!
今回のテーマは水和です。水和とは、水分子が様々な化学物質に付加することをいうぞ。水分子は簡単な構造をしているが、非常に特殊な性質を持っており、物質が水に溶ける際も水和が深く関わっているぞ。
さらに、水分子が付加した状態が安定の水和物も存在し、水和物を扱った問題はテストでも頻出です。
今回は、水和をテーマに「物質が水に溶ける際に起きていること」と「テストで頻出、水和物の再結晶の問題」を化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。
ライター/リック
高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。
水分子の特徴をおさらい
Autor:Patrick-Emil Zörner (Paddy), CC BY-SA 2.0 de, リンクによる
まず、今回の主役「水分子」の性質をおさらいしていきましょう。水分子の化学式はH2Oです。1つの酸素原子に2つの水素原子が結合した簡単な分子構造をしていますが、特徴的な性質があります。
水分子最大の特徴は、大きく分極した極性分子であることです。その特徴は、融点・沸点の数値に現れています。水の沸点は100℃、融点は0℃ですよね。同じような分子量の分子と比較すると、融点・沸点ともに非常に高い温度です。
例えば、水分子と同程度の分子量を持つメタン分子を見てみましょう。メタン分子は分子量16、1つの炭素原子に4つの水素原子が結合した極性を持たない分子で、融点が-183℃、沸点は-162℃です。通常、分子量が大きくなるほど融点・沸点は高くなっていきますが、水の融点・沸点の高さは異常だと分かります。
この原因が水分子の極性です。極性分子は今回の大切なポイントなので、ぜひ覚えておいてください。
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2つの水和とは?
ここからは、今回のテーマ「水和」とはどのような現象か、解説していきます。水和とは、ある化学種へ水分子が付加することです。水和という現象は大きく2つに分けることができるので、1つずつ解説していきます。
水分子が引き寄せられてくっつく「水和」
1つ目の水和は、「水分子が電気的に引き寄せられ、イオンや極性分子にくっつく現象」です。
水分子は酸素原子がマイナスに、水素原子がプラスに分極した極性分子でした。酸素原子がプラスのイオンに引き寄せられ、水素原子がマイナスのイオンに引き寄せられ、発生するのが双極子相互作用です。
また、水分子は同じように分極した結合を持っている分子とは、水素結合を形成します。例えば、アンモニアは電気陰性度の高い窒素原子に水素原子が結合した化合物なので、極性分子ですね。そのため、分極したアンモニア分子に同じく分極した水分子が近づいていき、水素結合を形成します。
プラスとマイナスが引き合って、水分子がくっつくイメージが1つ目の「水和」です。
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電子を渡し、水分子が結合する「水和」
2つ目の水和は、「水分子が電子を渡しながらくっつく現象」です。この現象は大学化学の考え方なので、理解するのが難しいかもしれません。
分子や原子は、電子を共有することで、共有結合を作っています。実は、化学反応は「電子がどのように移動するか」がとても大切なんです。水分子は電気陰性度の違いから、酸素原子がマイナスに分極している状態でしたよね。つまり、酸素原子は電子をたくさん持っている状態なんです。
マイナスに分極した酸素原子はプラスに分極した炭素原子などに電子を渡すことができ、酸素-炭素の共有結合を新しく作ることができます。「ある原子から別の原子に電子が流れ込むこと」は化学反応のはじまりなんです。
2つ目の「水和」では、マイナスに分極した酸素原子からプラスに分極した原子に電子が流れこむことで新しい共有結合が形成され、水分子が別の原子にくっつきます。
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原子同士の「共有結合」について化学系学生ライターがわかりやすく解説
共有結合を作る水和の例に出したのはカルボニル炭素への水和ですが、「カルボニル炭素へ電子が流れ込み始まる反応」は有機化学で多用される反応です。また、大学化学ではプラスイオンのことを「カチオン」マイナスイオンのことを「アニオン」と呼びます。
溶質が溶けるとき「水和」が起きる

image by iStockphoto
先ほどまでに、「2つの水和」について紹介してきましたが、水に塩や砂糖が溶けるとき「水和」が起きています。このとき起きているのは、1つ目のに紹介した「水和」です。
塩が水に溶けることを考えてみましょう。塩はNaClのイオン結晶ですね。塩を水に溶かすと、プラスのナトリウムイオンとマイナスの塩化物イオンに分かれて、溶けていくことはご存じと思います。この時、「水和」が起きているんです。
塩を水に入れると、ナトリウムイオンにはマイナスに分極した酸素原子が、塩化物イオンにはプラスに分極した水素原子がいくつも近づいていき、双極子相互作用が発生します。水分子がイオンの周りを取り囲むことで、食塩はイオンの状態で水に溶けることができるんです。
砂糖は1分子ずつ「水和」する
次は、砂糖を水に溶かすことを考えてみましょう。砂糖はショ糖とも呼ばれ、分子式はC12H22O11です。化学ではスクロースと呼ばれ、分子内にヒドロキシ基を多く持っています。
ヒドロキシ基部分に水分子が集まることで形成されるのが、水素結合です。スクロース1分子の周りを水分子が取り囲むので、スクロースは水に1分子ずつ溶けていくんですね。
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