今回は、「蝶の羽の仕組み」について学習していこう。

春になると花畑の上をひらひら飛ぶ蝶をよく見かける。諸君は、そんななじみの深い蝶の羽には複雑な構造があり、その構造は私たちの生活にも応用されているということを知っているでしょうか?この記事では、蝶の羽の構造から考える色、飛行、熱吸収の仕組みとそれを応用したバイオミメティクスについて理解していこう。

高校・大学にて化学も専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

蝶の羽って何枚?

蝶の羽は、前翅2枚と後翅2枚の計4枚からなり、そのすべてが胸部から出ています。

蝶の羽の模様や色はどう作られている?

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蝶の羽の最大の特徴と言えるのが、鱗粉(りんぷん)です。体毛が変化したものと言われている鱗粉が、羽の模様や構造色を生み出していることが分かっています。

その1.鱗粉の色が羽の模様を作る

蝶の羽を顕微鏡で見てみると、花びらのような形をした鱗粉が、屋根瓦のように規則正しく並んでいるのが観察できるでしょう。また、1つの鱗粉の中に何色も色があるのではなく、1つの鱗粉の色は1色だということが分かるかと思います。つまり、蝶の羽の模様はドット絵のように作られているのですね。

その2.鱗粉の形が羽の色を作る(構造色)

その2.鱗粉の形が羽の色を作る(構造色)

image by Study-Z編集部

蝶の羽の色は、鱗粉の色素のよるものと鱗粉の形によるものがあります。そのうちここで紹介したいのは、後者の鱗粉の形による構造色と呼ばれるものです。

蝶の羽の構造色でよく知られているのがモルフォチョウ。モルフォチョウは光沢のある青い羽が特徴ですが、モルフォチョウの鱗粉には青い色素がなく、ほとんど透明なタンパク質からできています。ではなぜ、モルフォチョウの羽は青く見えるのでしょうか?それは、鱗粉の構造が青い光を反射するのにちょうどよかったからです。

蝶が飛ぶ仕組みは?

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蝶が飛ぶ様子を見ていると、鳥とは違う飛び方をしているように見えませんか?ここでは、蝶が飛ぶ仕組みについて3つのポイントを見ていきましょう。

\次のページで「ポイント1:羽の重なり」を解説!/

ポイント1:羽の重なり

飛んでいるときの蝶の羽は、前翅と後翅バラバラに動くのではなく、一緒に動きます。その理由は、後翅が少し前翅の方に出っ張っていているから。つまり、蝶を上から見ると、後翅の上に前翅が重なっているのです。これにより、蝶の羽は意識しなくても一体となって動くのですね。

ポイント2:飛ぶ力を生む翅脈

翅脈とは、蝶の羽に見られる筋のこと。翅脈は前翅の前縁に集中しているので、前縁が太くなっています。この構造は飛行機の翼とよく似ており、羽の面積を大きくし揚力(ここでは、蝶を浮かせる力を指す)を大きくする役割があるのです。

ポイント3:羽のねじれ

羽のねじれとは、鳥の羽とは違って柔らかい蝶の羽の形が、はばたきによって変化すること。蝶は、前翅が振り下ろされ後翅が後からついてくるようにはばたきます。上記で説明した通り、前翅と後翅は一緒に動くのですが、蝶の羽が柔らかいのでこのように見えるのです。

そして、蝶の羽にある翅脈は、後翅よりも前翅に集中しているので、後翅より前翅の翅脈に力が強く伝えられる構造になっています。このため、はばたくことで自然と羽にねじれが生じるのです。

蝶の羽による熱吸収の仕組み

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変温動物である蝶は、自身の体温が外部の気温に左右されるので、体が冷えないように羽を広げて日向ぼっこをします。

\次のページで「熱吸収に役立つ羽の構造」を解説!/

熱吸収に役立つ羽の構造

日向ぼっこをする蝶から、「蝶の羽は太陽光の熱吸収に優れているのではないか」と考えたカルフォルニア工科大学のRadwanul Siddiqueたちは、“ベニモンアゲハ”の構造を研究しました。ベニモンアゲハの羽を顕微鏡で見ると、無数の小さな穴がランダムにあることが観察され、その穴に入った光が散乱することで効率よく熱が吸収されるということが分かったのです。さらに、光を吸収するためには位置と順序が重要であり、形状は重要でないことを突き止めました。

バイオミメティクスとは?

バイオミメティクスとは、コトバンクにおいて以下のように定義されています。

生体のもつ優れた機能や形状を模倣し、工学・医療分野に応用すること。

出典:“バイオミメティクス”.コトバンク. https://kotobank.jp/word/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%9F%E3%83%A1%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9-598510,(参照2022/4/18).

この章では、上記で見てきた蝶の羽の仕組みがどのように私たちの生活に取り入れられているのか学習しましょう。

蝶の羽の構造色の応用

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蝶の羽の構造色は、現在すでに車の塗料・繊維・化粧品などに応用されています。構造色の長所について、以下の3つを紹介しましょう。

・光沢のある美しい輝き

・寿命が長い

・人や環境にやさしい

\次のページで「蝶が飛ぶのに必要な羽の形の応用」を解説!/

言葉だけでは分かりづらい、2番目の寿命が長いということについて説明します。例として、印刷されたポスターを想像してください。ポスターは貼られた場所にかかわらず、程度や期間の差はあれ色が薄くなりますよね?これは、インクの色素が劣化することで起こります。一方、色素を含まない構造色では、その構造が壊れない限り発色するので、寿命が長いということです。

また、3番目の人や環境にやさしいというのは、構造色が人体への影響や環境負荷が大きい重金属を原料とする顔料や色素を使用しないことを指します。これは、構造色がもともと生物(自然)に存在したので、生物や自然に悪影響を及ぼさないためと考えられるでしょう。

蝶が飛ぶのに必要な羽の形の応用

皆さんは、渡り鳥のように長距離を飛ぶ蝶がいることを知っていますか?その蝶の羽は、少ない力で長く飛ぶことができる形になっています。その羽の形を応用した扇風機が、すでに開発されているそうです。

蝶の羽による熱吸収の応用

太陽光を吸収し、電気エネルギーに変換する“太陽光発電”。この太陽光発電の課題は以下の2つがあげられます。

・家屋の屋根に設置することもあり、できるだけ薄く軽いソーラーパネルを作りたいが、その場合の発電効率が低下すること

・発電量が気候条件に左右されること

この悩みを解決するかもしれないのが、蝶の羽の研究です。鱗粉の熱吸収の構造をソーラーパネルに再現できれば、太陽光発電の効率は倍以上改善されると推測されています。

蝶の羽の仕組みを知ることは人間の生活を豊かにすることにつながる

蝶の羽だけでもこれだけ多くのことが、私たちの生活に利用されている、または研究されているということがわかったことでしょう。そして、今後さらに研究が進められることで、蝶の羽由来の新しい製品がもっともっと作られる可能性があります。

何か新しいものを作り出すときは、すばらしいものの真似をすることから始めると良いかもしれませんね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 蝶の羽の仕組みって?構造から考える色・飛行・熱吸収の仕組みとバイオミメティクスについて農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説! – Study-Z
体の仕組み・器官理科生き物・植物生物

蝶の羽の仕組みって?構造から考える色・飛行・熱吸収の仕組みとバイオミメティクスについて農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は、「蝶の羽の仕組み」について学習していこう。

春になると花畑の上をひらひら飛ぶ蝶をよく見かける。諸君は、そんななじみの深い蝶の羽には複雑な構造があり、その構造は私たちの生活にも応用されているということを知っているでしょうか?この記事では、蝶の羽の構造から考える色、飛行、熱吸収の仕組みとそれを応用したバイオミメティクスについて理解していこう。

高校・大学にて化学も専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

蝶の羽って何枚?

蝶の羽は、前翅2枚と後翅2枚の計4枚からなり、そのすべてが胸部から出ています。

蝶の羽の模様や色はどう作られている?

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蝶の羽の最大の特徴と言えるのが、鱗粉(りんぷん)です。体毛が変化したものと言われている鱗粉が、羽の模様や構造色を生み出していることが分かっています。

その1.鱗粉の色が羽の模様を作る

蝶の羽を顕微鏡で見てみると、花びらのような形をした鱗粉が、屋根瓦のように規則正しく並んでいるのが観察できるでしょう。また、1つの鱗粉の中に何色も色があるのではなく、1つの鱗粉の色は1色だということが分かるかと思います。つまり、蝶の羽の模様はドット絵のように作られているのですね。

その2.鱗粉の形が羽の色を作る(構造色)

その2.鱗粉の形が羽の色を作る(構造色)

image by Study-Z編集部

蝶の羽の色は、鱗粉の色素のよるものと鱗粉の形によるものがあります。そのうちここで紹介したいのは、後者の鱗粉の形による構造色と呼ばれるものです。

蝶の羽の構造色でよく知られているのがモルフォチョウ。モルフォチョウは光沢のある青い羽が特徴ですが、モルフォチョウの鱗粉には青い色素がなく、ほとんど透明なタンパク質からできています。ではなぜ、モルフォチョウの羽は青く見えるのでしょうか?それは、鱗粉の構造が青い光を反射するのにちょうどよかったからです。

蝶が飛ぶ仕組みは?

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蝶が飛ぶ様子を見ていると、鳥とは違う飛び方をしているように見えませんか?ここでは、蝶が飛ぶ仕組みについて3つのポイントを見ていきましょう。

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