ヨーロッパに旅行することに不可欠なのが「ユーロ」。欧州連合27か国のうち19か国で使われている通貨です。もともとは、それぞれの国で通貨を持っていましたが、どうして共通化されるようになったのでしょうか。

ユーロが導入される背景、経済効果、現在の課題について、世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

アメリカの歴史や文化を専門とする元大学教員。海外旅行や海外出張する際、手に取ることが多いのがユーロ。ヨーロッパ旅行のときはとても便利ですが、どうしてユーロが使われるようになったのが気になり、まとめてみた。

ユーロとはどのような通貨?

image by PIXTA / 47068650

ユーロは、欧州連合(EU)に加盟している国で、公式に使用されている通貨のこと。加盟国ではないものの、EUに加盟している相手国がある小国が、公式通貨として採用しているケースもあります。

ユーロが導入されているのは欧州連合(EU)

ユーロを公式通貨として導入しているのはEUに加盟している国々です。EUとは、ヨーロッパの国々をひとつにまとめる政治的・経済的な連合。統合を推進するための施策のひとつとしてユーロが構想されました。ただ、すべての国が採用しているわけではなく、27か国中19か国にとどまっています。

世界の大国というと、アメリカやロシアのイメージが強いと思いますが、EUとして考えると、かなりの規模に。そのためユーロも、アメリカドルに続いて、世界でもっとも使われている基軸通貨となりました。また、取引高も世界2位を誇っています。

ユーロの導入は、EUをさらに統合させる取り組みと不可欠に結びついています。1993年に欧州連合条約(マーストリヒト条約)が発行。そこで、経済通貨の統合、外交と安全保障の共通化、内務の協力が目標として定められました。ユーロは、この3つの目標のひとつ、経済通貨の統合に該当。段階を踏みながら通貨統合の準備が行われ、1999年に最終段階。各国の通貨が廃止され、共通の通貨であるユーロが導入されました。

ユーロが構想されたのは第二次世界大戦後

第一次世界大戦、第二次世界大戦と、ふたつの世界大戦の影響により、ヨーロッパはたびたび経済的な危機にさらされてきました。これらの世界大戦は、ヨーロッパ諸国同士の衝突が引き金になって引き起こされた一面もあります。

そこでヨーロッパ諸国の足並みをそろえ、共に発展していくことが不可欠と考えられ、共通の通貨であるユーロが構想されました。貨幣を共通化することで、ヨーロッパ諸国内の通商がスムーズになり、モノやカネの移動が自由になると考えられました。

ユーロが導入されるまでの経緯

image by PIXTA / 62570409

ユーロが構想されたのは1960年代までさかのぼりますが、実際に導入されるまでには1990年代まで待つことになります。ヨーロッパ諸国は、さまざまな歴史や文化、価値観を持つ国から構成。そのため合意が成立するのに時間がかかったからです。

\次のページで「ユーロという名称が決定されるまで」を解説!/

ユーロという名称が決定されるまで

EU諸国の共通の通貨の導入を実現するにあたり、もっとも大きな問題となったのが、どのような名称にするのかです。さまざまな案が出され、議論されました。最初の有力案は「ヨーロッパ・フラン」。しかし、スペインの独裁者フランシスコ・フランコを思い出させると、却下されました。

ユーロという案を出したのはドイツの連邦財務相だったテオドール・ヴァイゲル。1995年に欧州理事会のなかで提案しました。言葉としては「ヨーロッパの」という意味です。

特定の肖像画を使わないユーロ紙幣

特定の国を想起させないことがユーロの絶対条件。そのため、紙幣のデザインにも、そのような配慮がなされています。一般的に紙幣というと、その国の歴史に関わる人物やが印刷されるもの。しかしユーロにはそのようなデザインは一切ありません。

ユーロ紙幣に印刷されているのは、ヨーロッパ諸国に共通する歴史。ギリシャ・ローマ時代から現代にいたるまでの、ヨーロッパを代表する建築物が描かれました。表には「窓」、裏には「橋」。これは国が開かれた関係にあることをあらわしています。

ユーロが発足した当初、それを導入したのは11か国。それが徐々に増えて、今では19か国に及んでいます。2022年の時点で、オーストリア、ベルギー、キプロス、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、リトアニア、ラトビア。ユーロ導入を希望している国は多く、今後も増えることが予想されます。

ヨーロッパでユーロが導入されるメリット・デメリット

image by PIXTA / 83115463

ユーロを導入することは、ヨーロッパにとって、メリットとデメリットがあります。そのため、完全に移行するまで、課題などが徹底的に議論されました。また、EUには加盟しているものの、あえてユーロは導入しない選択をする国もあります。ただ、デメリットよりもメリットのほうが大きいと判断され、導入するに至りました。

ユーロのメリットはヨーロッパの経済の活性化

ユーロを導入するメリットは、通貨が共通になることで、為替の取引コストがなくなること。通商にかかわる税金が撤廃されるため、輸出や輸入が活発になることも期待されました。それにより企業の生産性がたかまり、企業にさらに活力を与えられると考えられたのです。

とくにユーロ導入による恩恵を受けたのがドイツ。ドイツは、ドイツマルク高により苦しんでいましたが、ユーロを導入することにより経済が活性化します。輸出による利益を大きく伸ばし、失業率を下げることに成功しました。

ユーロのデメリットは経済格差に対する対応

ヨーロッパとひとことで言っても、ヨーロッパ諸国の経済力は一律ではありません。また、それぞれの国で、生産性、インフレ率、景気サイクルなどが変化していきます。そのため国のあいだで格差が発生したとき、どう対処するのかが疑問視されました。

また、共通の通貨があることで、ヒトの移動が自由になり、生産性が高まる一方で、移民や難民が想定以上に流入することも危惧されました。ただ、これらのデメリットよりもメリットのほうが大きいと判断。導入が決断されました。

\次のページで「ユーロの流通を管理している欧州中央銀行」を解説!/

ユーロの流通を管理している欧州中央銀行

Frankfurt EZB.Nordwest-2.20141228.jpg
By Epizentrum - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

ユーロ通貨政策を担っているのは欧州中央銀行(ECB)。本店はドイツのフランクフルトにあり、ドイツ連邦銀行をモデルに組織化されました。銀行の役員は、ユーロを導入している国の全体一致により決定されますが、ヨーロッパの大国から選出されることが多いのが実情です。

物価の安定と雇用の創出が主なミッション

欧州中央銀行は、ユーロ圏の物価を安定させる、雇用を生み出す、このふたつをミッションとしています。このミッションは、欧州連合条約のなかでも定められたもの。このミッションを遂行するため、欧州中央銀行はさまざまなことをしています。

とくに欧州中央銀行が大きな役割を果たしたのが2009年のギリシャ危機。ギリシャに対して、財務を健全化させるように通達を出すのみならず、支援するためにさまざまな手配をしました。そうすることで、ユーロの価値が下がることを抑えるのです。

欧州中央銀行の多岐に渡るユーロ圏内業務

EUに加盟している国の民間銀行の資金を預かっているのが欧州中央銀行。加盟国の銀行に融資を行うこともあります。それぞれの国にも中央銀行があり、ユーロの準備金を持っていますが、それらは欧州中央銀行に預けることが決まり。欧州中央銀行が管理したり、運用したりしています。

そのほか、ユーロ圏内の財務状況を調べることも欧州中央銀行の役割。ただし、欧州中央銀行は独立した存在のため、どこの国からも政治的な介入を受けないことになっています。そのため運営の方法が不透明という批判もありました。

2009年10月にギリシアでは政権交代が起こり、旧政権が赤字を隠していたことが発覚しました。そこで新政権が財政を健全化する計画を発表します。しかしその内容はあまりに楽観的。そこでギリシャ国債が格下げされました。それによりユーロの国債価値も下落。財政不安があるEU加入国は他にもあり、ユーロは安定している通貨とは言い切れない現実があります。そのため、これからユーロを新たに導入する国は、厳しく審査されることになるでしょう。

ユーロ導入による今後の課題

image by PIXTA / 85606009

日本人のあいだでも広く知られているユーロですが、ユーロ圏に含まれる国の実情はさまざま。多様だからこそ、その都度解決しなければならない課題が数多く残されています。

\次のページで「ドルには及ばないユーロの現実」を解説!/

ドルには及ばないユーロの現実

ヨーロッパをEUによりひとつにまとめ、その手段のひとつしてユーロが導入されました。とくに近年はアメリカドルに匹敵する貨幣となることが期待されています。しかしながら、準備通貨や決済通貨としても、資産防衛、資金調達の手段としても、ドルには勝てない状況が続いてきました。

ドルとの差が開いてしまった要因のひとつが、2010年欧州ソブリン危機(通称ユーロ危機)。前に紹介したギリシアの経済危機から始まる、相次ぐ経済危機です。欧州中央銀行がざまざまに対応したものの、ユーロの信頼を損ねるかたちになりました。

政治的にまとめることが難しいユーロ圏

EU加盟国は、通貨をユーロに統一しているものの、政治的にまとまっているわけではありません。そのため、ユーロを導入している国で経済的な危機が起こったとき、他国をサポートすることに難色を示す国も少なくありません。

ユーロを導入している国は、それを市場に流通させるとき、国債を欧州中央銀行が買い取ります。しかしながら、国により経済力がバラバラのため、どの国にどれだけのユーロを流通させるのかが問題となりました。なぜなら、経済力が脆弱で、経済危機の不安がある国の国債を買い取ることは、ユーロ圏全体のリスクでもあるからです。

こうした不満から、実際にEUを離脱したのがイギリス。国民投票によりEUから離脱することが発表され、同時にユーロの信頼が落ちたことがあります。もともとイギリスはポンドのまま。自国の通貨でしたら、通貨が出回る量を国の判断で調整可能ですが、ユーロを取り入れるとお金の流れを自由にコントロールできなくなります。イギリスはこうした制約を嫌ったのでしょう。イギリスは、ヨーロッパ諸国とは地理的に離れていることもあり自立性を重視する国。だた、導入国の足並みがそろわないことで、簡単にユーロの信頼は失墜してしまう危うさを露呈させました。

政治的なまとまりもユーロ発展の鍵

私たちがヨーロッパに旅行するとき、それぞれの国の通貨を用意せず、ユーロだけで済ませられるのはメリット。とはいえ最近は、経済的に十分に発展していない、民主化の途中段階にある国が、EUの支援を受けたいがためににユーロ導入を希望するケースも目立ちます。そのため、ユーロを導入するための基準や、経済的のみならず政治的にどれだけ足並みをそろえられるのかも、今後のユーロの課題になりそうですね。

" /> EU諸国で流通している通貨「ユーロ」とは?導入の背景・経済効果・課題などを元大学教員が5分でわかりやすく解説 – ページ 3 – Study-Z
ヨーロッパの歴史世界史

EU諸国で流通している通貨「ユーロ」とは?導入の背景・経済効果・課題などを元大学教員が5分でわかりやすく解説

ユーロの流通を管理している欧州中央銀行

Frankfurt EZB.Nordwest-2.20141228.jpg
By EpizentrumOwn work, CC BY-SA 3.0, Link

ユーロ通貨政策を担っているのは欧州中央銀行(ECB)。本店はドイツのフランクフルトにあり、ドイツ連邦銀行をモデルに組織化されました。銀行の役員は、ユーロを導入している国の全体一致により決定されますが、ヨーロッパの大国から選出されることが多いのが実情です。

物価の安定と雇用の創出が主なミッション

欧州中央銀行は、ユーロ圏の物価を安定させる、雇用を生み出す、このふたつをミッションとしています。このミッションは、欧州連合条約のなかでも定められたもの。このミッションを遂行するため、欧州中央銀行はさまざまなことをしています。

とくに欧州中央銀行が大きな役割を果たしたのが2009年のギリシャ危機。ギリシャに対して、財務を健全化させるように通達を出すのみならず、支援するためにさまざまな手配をしました。そうすることで、ユーロの価値が下がることを抑えるのです。

欧州中央銀行の多岐に渡るユーロ圏内業務

EUに加盟している国の民間銀行の資金を預かっているのが欧州中央銀行。加盟国の銀行に融資を行うこともあります。それぞれの国にも中央銀行があり、ユーロの準備金を持っていますが、それらは欧州中央銀行に預けることが決まり。欧州中央銀行が管理したり、運用したりしています。

そのほか、ユーロ圏内の財務状況を調べることも欧州中央銀行の役割。ただし、欧州中央銀行は独立した存在のため、どこの国からも政治的な介入を受けないことになっています。そのため運営の方法が不透明という批判もありました。

2009年10月にギリシアでは政権交代が起こり、旧政権が赤字を隠していたことが発覚しました。そこで新政権が財政を健全化する計画を発表します。しかしその内容はあまりに楽観的。そこでギリシャ国債が格下げされました。それによりユーロの国債価値も下落。財政不安があるEU加入国は他にもあり、ユーロは安定している通貨とは言い切れない現実があります。そのため、これからユーロを新たに導入する国は、厳しく審査されることになるでしょう。

ユーロ導入による今後の課題

image by PIXTA / 85606009

日本人のあいだでも広く知られているユーロですが、ユーロ圏に含まれる国の実情はさまざま。多様だからこそ、その都度解決しなければならない課題が数多く残されています。

\次のページで「ドルには及ばないユーロの現実」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: