今回は、「用不用説(ようふようせつ)」について学習していこう。

「生物の進化論といえばダーウィン」と思う人もいるでしょう。しかし、その50年も前に生物の進化に関する仮説をたてた人物がいたことをご存じでしょうか?その人物は、「用不用説を提唱したラマルク」です。自然選択説との違いからラマルクが考えた進化のメカニズムについて知り、用不用説がなぜ否定されているのかについて理解していこう。

高校・大学にて生物を専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していくぞ!

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

進化論とは

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進化論は、“生物は長期間かけて変化した”という仮説のもと提唱されました。これは、生物が進化したことを認める考えと生物の進化のメカニズムについての説明に分類でき、今回紹介する用不用説は後者に当たります。

ラマルクの進化論

Jean-baptiste lamarck2.jpg
Jules Pizzetta - Galerie des naturalistes de J. Pizzetta, Paris: Ed. Hennuyer, 1893, パブリック・ドメイン, リンクによる

生物学者であるラマルクは、「生物は長い期間をかけて変化する」という考えを持ち、その説明として用不用説を提唱しました。ここでは、ラマルクが考えた進化のメカニズムに関する仮説について3つのポイントを理解していきましょう。

ポイント1:生物は単純から複雑に進化する

ラマルクは、無脊椎動物の分類研究から「生物は単純から複雑に進化する」という考えを持ちました。この考えと、支持していた自然発生説(生物は物質から生まれることがあるとする説)から生まれたのが以下に示す考えです。

\次のページで「ポイント2:用不用説」を解説!/

「異なる種は別々に誕生し(自然発生説)、誕生したときの単純なものから時間がたつほど複雑なものに進化する」=「最も昔に誕生した生物が、最も複雑に進化した生物である」

ポイント2:用不用説

上記のポイントを前提に提唱されたのが用不用説。用不用説は、「生物がよく使う器官や機能はより発達、使わなければ縮小・退化し、この変化が雌雄共通であればその変化が子供へ受け継がれる」という説です。次の用不用説と自然選択説で考える“キリンの首の進化”のところで詳しく解説します。

ポイント3:獲得形質の遺伝

獲得形質の遺伝とは、用不用説の後半の部分を指し、親の変化(親が得た形質)が子供に受け継がれる(遺伝する)というものです。

用不用説と自然選択説で考える“キリンの首の進化”

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ラマルクが提唱した用不用説とダーウィンが『種の起源』において提唱した自然選択説。その具体的な例でよくあげられる“キリンの首の進化”についてそれぞれご紹介します。また、そこから考えられる用不用説と自然選択説との大きな違いについても理解していきましょう。

“キリンの首の進化”を用不用説で説明

用不用説は、「生物がよく使う器官はより発達・使わなければ縮小し、この変化が雌雄共通であればその変化が子供に遺伝する」という説でした。これを“キリンの首の進化”に当てはめて見ていきましょう。

1. キリンの首はもともと短かった

2. 高い枝の葉を食べるために、いつも首を伸ばし続けた

3. 少し首が長くなった

4. 少し首が長くなった(獲得形質)オスとメスのキリンに子供ができた

5. その子供は、親のキリンが生まれたときよりも少し首が長くなっていた

6. 2~5が長い年月繰り返され、キリンという種全体の首が長くなった

“キリンの首の進化”を自然選択説で説明

自然選択説は、「生物の変化には特定の目的はなく、起きた変化がたまたま生存に有利だった」とする説です。これを“キリンの首の進化”に当てはめると以下のようになります。

1. 短い首のキリンと長い首のキリンがいた、もしくは短い首のキリンの中に突然変異で長い首のキリンが生まれた

2. 高い枝の葉を食べることができた長い首のキリンの方が生存に有利だった

3. 長い首のオスとメスのキリンに子供ができた

4. その子供は首が長くなる遺伝子を受け継いでいるので首が長かった

5. 2~4が長い年月繰り返され、長い首のキリンだけになった

\次のページで「用不用説と自然選択説の違い」を解説!/

用不用説と自然選択説の違い

用不用説と自然選択説の大きな違いは、以下の2つが考えられます。どちらも、キリンの例で解説していきますね。

1つ目の違いは、ある形質がどのように子孫に遺伝するかです。用不用説では、高い枝の葉を食べるという目的をもって“長い首”という形質が子孫に遺伝するという考え方でした。対して自然選択説では、“長い首”という形質がたまたま生存に有利だったので結果的にその形質が子孫に遺伝するという考え方になります。

2つ目の違いは、環境変化の前と後どちらで形質の変化が起きるのかです。用不用説は、まずキリンの生息地において高い木が増えるという環境変化が先に起き、後に高い木の葉を食べるために“短い首”から“長い首”に形質が変化するという考えでした。一方自然選択説は、“長い首”のキリンが先に存在していて、後からキリンの生息地において高い木が増えるという環境変化が起き、その形質が生存に有利だったという考え方です。

用不用説に対して否定的な結果となった実験

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1943年、マックス・デルブリュックとエドワード・ルリアによってバクテリオファージ(細菌に寄生するウイルス:以下ファージと示す)を使った実験が行われました。これは、上記で説明した環境変化の前と後どちらで形質の変化が起きるのかに着目した実験です。

ルリア・デルブリュックの実験

ルリア・デルブリュックの実験

image by Study-Z編集部

ウイルスの進化が、用不用説ではなく自然選択説に基づくだろうということが示されたルリア・デルブリュックの実験。この実験の流れについて、図を見ながらざっくり解説しますね。

ルリア・デルブリュックの実験

1. ファージが感染する大腸菌を培養し、4つに分ける

2. さらに十分な時間培養した大腸菌をファージ入りの培地にそれぞれ入れる

3. 突然変異によってファージに耐性をもつ大腸菌が生まれる

4. ファージに耐性をもつ大腸菌だけが分裂し、コロニーを作る

5. コロニーの数=ファージに耐性をもつ大腸菌の数とすることができる

6. シャーレごとのコロニーの数にばらつきが出た

図を見て分からない部分は、実験結果を示す6のところではないでしょうか?

もしこの実験が用不用説で説明できるとするならば、シャーレごとのコロニーの数は同じような数を示すと考えられます。なぜなら、用不用説は環境の変化に適用しようとして、環境変化の後に突然変異(形質の変化)が起こるから。つまり、すべての大腸菌がファージに感染されまいと耐性を獲得しようとするので、ファージに耐性をもつ大腸菌が同じ数になると考えられるのです。

対して、もしこの実験が自然選択説で説明できるとすれば、シャーレごとのコロニーの数はばらつきが出ると考えられます。なぜなら、自然選択説は環境の変化よりも前に突然変異が起きて、その形質が生存に有利だったから。つまり、ファージに耐性をもつ大腸菌が突然変異によって生まれる確率はランダムになるので、ファージに耐性をもつ大腸菌の数にはばらつきが出ると考えられるのです。

つまりこの実験で、ウイルスの進化は用不用説でなく自然選択説に基づくということが示されました

権力者の圧に負けない強い心

娘に「後の世の人が称賛してくれます。復習してくれますよ、お父さん」と言われているラマルク。このことからも、不遇な人生を送っていたことが想像できます。実際、ラマルクの進化論は多くの研究によって否定されました。しかし、生物の進化に関心を持ち、初めて言葉で説明しようとした功績は大きいでしょう。

イラスト使用元:いらすとや

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体の仕組み・器官理科環境と生物の反応生物

用不用説とは?自然選択説との違いや否定されている理由についても農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は、「用不用説(ようふようせつ)」について学習していこう。

「生物の進化論といえばダーウィン」と思う人もいるでしょう。しかし、その50年も前に生物の進化に関する仮説をたてた人物がいたことをご存じでしょうか?その人物は、「用不用説を提唱したラマルク」です。自然選択説との違いからラマルクが考えた進化のメカニズムについて知り、用不用説がなぜ否定されているのかについて理解していこう。

高校・大学にて生物を専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していくぞ!

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

進化論とは

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進化論は、“生物は長期間かけて変化した”という仮説のもと提唱されました。これは、生物が進化したことを認める考えと生物の進化のメカニズムについての説明に分類でき、今回紹介する用不用説は後者に当たります。

ラマルクの進化論

Jean-baptiste lamarck2.jpg
Jules Pizzetta – Galerie des naturalistes de J. Pizzetta, Paris: Ed. Hennuyer, 1893, パブリック・ドメイン, リンクによる

生物学者であるラマルクは、「生物は長い期間をかけて変化する」という考えを持ち、その説明として用不用説を提唱しました。ここでは、ラマルクが考えた進化のメカニズムに関する仮説について3つのポイントを理解していきましょう。

ポイント1:生物は単純から複雑に進化する

ラマルクは、無脊椎動物の分類研究から「生物は単純から複雑に進化する」という考えを持ちました。この考えと、支持していた自然発生説(生物は物質から生まれることがあるとする説)から生まれたのが以下に示す考えです。

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