EUの正式名称は欧州連合(European Union)。経済的そして政治的に結びついた連合で、ヨーロッパなどの27か国が加盟しています。EUに加盟することもメリットは、共通の法制度が適応されるため、お金や人の移動がより自由になること。

そんなEUがヨーロッパ諸国の発展にどのように影響しているのか、世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

アメリカの歴史と文化を専門とする元大学教員。近年、ロシアのウクライナ進攻をうけて、ヨーロッパの連携の在り方について議論されている。そこで、EUがどのような役割を担うのか気になり、調べてみることにした。

EUとはどのような制度?

image by PIXTA / 84671048

テレビのニュースなどで話題になることが多いEU。とくに有名なのが共通の通貨であるユーロでしょう。ただ、名称はよく聞くものの、実際はどのような連合なのか、把握しきれていないと思います。そこでEUについて概要をまとめました。

多様なヨーロッパ諸国をひとつにまとめるEU

ヨーロッパはさまざまな背景がある国から構成されています。歴史的にも衝突することが多く、戦争に発展することも多々ありました。そこで、多様な国々をひとつにまとめ、ヨーロッパ全体として発展していこうと考えます。このような趣旨のもと設立されたのがEUです。

EUを構成するのはヨーロッパの27か国。国境を取り去ってみると、総面積は4,233,255.3平方キロメートルに及びます。すべての人口はなんと約4億4700万ほど。加盟国は、同意した場合に限り、共通の法制度のもと行動することができます。

EUによりヨーロッパは法律と経済が共通化

通常、それぞれの国が、独自の法制度や通貨などの経済制度を持っているもの。しかしながら、EUに加盟するとそれらが共通化され、ひとつにまとまった共同体として行動できます。なかでもEUに加盟することで大きく変化するのが市場。EU域内は単一の市場と見なされ、通貨も共通の「ユーロ」が使用できるからです。

国境を超えて輸出や輸入をすると税金がかかるのが通常。しかしEU域内は単一の市場のため税金は課されません。また、仕事や旅行で移動することも簡単になります。自由な移動を支えているのが法制度。自由な移動を保障するために、貿易、農業、漁業、地域開発などの法律を策定するなど、政策をEUのなかで共通化を進めてきました。

ユーロとは、EU加盟国のうち19か国で導入されている通貨です。EUは現在24か国。つまり、すべてがユーロを採用しているわけではありません。また、加盟国ではないものの、相手国がユーロを導入したことを理由に、法定通貨とした国もあります。

EUが確立するまでの経緯

European Parliament Strasbourg Hemicycle - Diliff.jpg
By Diliff - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

これまで歴史的に、ヨーロッパを統合する動きはありましたが、それが本格化するのは第二次世界戦後。ヨーロッパ国内の戦争の歴史の反省、そしてソ連による反共の波に対抗することが、当初の趣旨でした。

EUの設立を推進したのはアメリカ

ヨーロッパを統合する動きは、必ずしもヨーロッパ諸国の主導で行われたわけではありません。アメリカが、1948年に設立された統合ヨーロッパのためのアメリカ委員会を通じて、資金等のバックアップをしてきました。

ソ連との対立が深まるアメリカにとって、ヨーロッパの共産化の波を食い止めることは不可欠です。そこでアメリカは、ヨーロッパ諸国を防波堤にして、ソ連の影響力の拡大を抑え込もうと考えました。

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経済分野で段階的にEUが形作られる

EUの出発点となる動きのひとつがシューマン宣言。1950年5月9日に、フランスと西ドイツが石炭と鉄鋼産業を共同で管理することを表明しました。それもあり、当初はエネルギー分野から統合がすすめられます。

ヨーロッパ統合が組織化されるきっかけになったのが1965年のブリュッセル条約の調印。これまで国は別々に活動していましたが、1つの運営機関のもと統合を推進することになります。

ソ連の崩壊によりEU加盟国が増加

West and East Germans at the Brandenburg Gate in 1989.jpg
英語版ウィキペディアLear 21さん, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

EUのミッションのひとつがソ連の共産化の波を食い止めること。しかし、そのソ連の求心力が徐々に低下していきます。東ヨーロッパの政変、ベルリンの壁の崩壊、そしてソ連崩壊により、さらなるEU統合が進められました。

社会主義国家だった東ドイツも加盟

東ヨーロッパの民主化の流れはポーランドからスタート。ナチス・ドイツの支配を逃れたものの、次にソ連の支配下に置かれていたポーランドは、1989年から1991年にかけて民主化されていきます。

東ヨーロッパの劇的な変化を象徴するのがベルリンの壁の崩壊。1990年には東西に分断していたドイツが統合されます。それにより、もともと西ドイツのみでしたが、共産圏だった東ドイツもEUに加盟することになりました。

共産圏だった国々のEU加盟

これにより、共産圏だった国々が続々とEUに加盟することが予想されるようになりました。これまで法制度と経済の統合にとどまっていたものの、政治的なつながりも強めていく必要性がでてきます。

そこで、1992年2月7日に欧州連合条約が調印され、次の年の11月1日に欧州連合が発足するに至りました。これによりEUの枠組みはさらに拡大。単一通貨ユーロが創設され、安全保障や移民・難民問題、警察事案の協力関係も確率されます。

EUが掲げる「多様性における統一」

EAP demonstrerar mot EU - 2008-05-01 - 1.jpg
Gabbe - I, Gabriel Ehrnst Grundin, took this photo on May 1, 2008 at the intersection of Drottninggatan and Kungsgatan in Stockholm., パブリック・ドメイン, リンクによる

EUに加盟する国々は、歴史的背景、文化、言語など、あらゆるものが異なります。経済的発展の度合いもざまざま。旧共産圏の国も含まれています。そこでEUは「多様性における統一」を標語として掲げて実践しました。

EU加盟により統合されるもの

EUをひとつにまとめるシンボルは旗。12個の星を円のように配置したデザインの旗をEU旗としました。EUはテーマ曲としてベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章である「歓喜の歌」を採用。合意に至りました。

国の経済に大きな影響を与えたのが紙幣。これまで各国が独自の通貨を保有していましたが、共通のデザインのユーロに統一されます。パスポートも統一。欧州連合を意味する表記が、それぞれの国の言語で表記されました。

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自分たちを特定の国家に属しているものと考えるのが普通ですよね。日本であれば日本国民という感じです。EUはさまざまなものを統合することにより、「ヨーロッパの市民」あるいは「欧州連合の市民」という捉え方を推奨。ただ、やはり国民意識が強いのが現状のようです。

EUのなかで認められている多様性

あらゆるもののEU圏内での統合を目指す一方、多様性も認められています。EUの公用語は23言語。EU加盟国は、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語など、ざまざまな言語を使用しているため、ひとつにまとめることはしません。

「多様性における統一」という標語は23言語で表記されています。EUの関連機関で作成される文書も23言語。さらには、ウェブサイトもいくつかの言語で作られています。

旧ソビエト連邦の加盟も視野に入るEU

image by PIXTA / 78755084

EUの加盟国は、イスラム圏なども含めて多様化しています。なかでも今後、加盟が加速すると言われているのが旧ソ連を構成していた国々。そこで将来的なEU加盟を視野に「東方パートナーシップ」という枠組みが作られました。

旧ソ連国家とは地域協力として連携

東方パートナーシップの対象となるのは、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ジョージア、モルドバ、ウクライナの6か国。経済的・政治的な統合はありませんが、地地域を安定化する、共有の価値を構築するなどの取り組みが進められています。

東方パートナーシップのなかでEU加盟を目標としているのは、ウクライナ、モルドバ、ジョージアの3か国。加盟申請が試みられていますが、さまざまな条件を満たす必要があり、正式に加盟するには至っていません。

ロシアのウクライナ進攻によりEU加盟が加速

2022年2月28日に加盟申請を行ったのがウクライナ。ロシアがウクライナに侵攻してきたことを受けて、早急に加盟できるように訴えています。後を追うように、ジョージアとモルドバも加盟申請を行いました。

ただ、ロシア侵攻を理由に、特別な手続きでウクライナを加盟させることには、反対の声が目立っています。現時点で、ウクライナは、EU加盟の条件であるコペンハーゲン基準を満たしていないから。加盟への道のりは遠そうです。

コペンハーゲン基準とは、欧州連合に加盟するのにふさわしいのかを判断する基準。政治が民主化されているか、人権が尊重されているか、市場経済を機能させる体制があるのか、EUの義務と目的を受け入れられるのかなどが審査されます。ウクライナは、まだ政治腐敗が解決されていないなど、コペンハーゲン基準未到達と判断されました。

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EUから距離を置いている国々

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Gabbe - I, Gabriel Ehrnst Grundin, took this photo on May 1, 2008 at the intersection of Drottninggatan and Kungsgatan in Stockholm., パブリック・ドメイン, リンクによる

加盟を望む国がいる一方、離脱を決定する、あえて加盟しない国もあります。EUを構成する国の経済格差は大きく、発展している国の経済的負担が大きくなっていることも一因です。

EUに衝撃を走らせたイギリスの離脱

EU離脱で大きなインパクトを与えたのがイギリス。2016年6月23日に行われた国民投票で、わずかな差ではありましたが、EU離脱派が勝利しました。その結果、EUではじめての離脱国となります。

イギリスがEUを離脱するに至ったのは、EUの政策に不信感が積もったこと。そのほか、移民が大量に流れてくること難色を示す国民が増えたことも影響しました。移民流入はEU圏内で人が自由に動けることで起こった問題と言えるでしょう。

EU加盟の意思がない国々

EU加盟の条件を満たしているものの、あえて加盟しない国もあります。それがノルウェー、アイスランド、スイスです。理由は国ごとに異なりますが、基本的には自国の主権を最大限に尊重したいから。国内の政策を、EUの方針に合わせることに抵抗があるからです。

ノルウェーでは国民投票が行われたものの、いずれも反対票が上回る結果に。失業率が低いアイスランドでは加盟のメリットがないと判断。スイスも国民投票で非加盟が選択されました。EU加盟の是非は国民投票で決定されることが多いようです。

地域内格差の解決がEU発展の鍵

近年は、続々とEU加盟国が増加。しかし、所得が低い国が多いのが実情です。そういう国の労働者が、EU圏内を渡り歩いて出稼ぎすることで、その国の経済的発展が停滞。移民の受け入れ国の経済的・人的な負担も増えています。すべての加盟国が平等に発展できるような仕組みを作ることが、EU発展の鍵。今後は、加盟国を増やすのではなく、地域内の格差をどう解決していくのかも、考えていく必要があるでしょう。

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ヨーロッパの歴史世界史

ヨーロッパ諸国の経済的発展を支える「EU」とは?歴史・仕組み・課題などを元大学教員が5分でわかりやすく解説

EUの正式名称は欧州連合(European Union)。経済的そして政治的に結びついた連合で、ヨーロッパなどの27か国が加盟しています。EUに加盟することもメリットは、共通の法制度が適応されるため、お金や人の移動がより自由になること。

そんなEUがヨーロッパ諸国の発展にどのように影響しているのか、世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

アメリカの歴史と文化を専門とする元大学教員。近年、ロシアのウクライナ進攻をうけて、ヨーロッパの連携の在り方について議論されている。そこで、EUがどのような役割を担うのか気になり、調べてみることにした。

EUとはどのような制度?

image by PIXTA / 84671048

テレビのニュースなどで話題になることが多いEU。とくに有名なのが共通の通貨であるユーロでしょう。ただ、名称はよく聞くものの、実際はどのような連合なのか、把握しきれていないと思います。そこでEUについて概要をまとめました。

多様なヨーロッパ諸国をひとつにまとめるEU

ヨーロッパはさまざまな背景がある国から構成されています。歴史的にも衝突することが多く、戦争に発展することも多々ありました。そこで、多様な国々をひとつにまとめ、ヨーロッパ全体として発展していこうと考えます。このような趣旨のもと設立されたのがEUです。

EUを構成するのはヨーロッパの27か国。国境を取り去ってみると、総面積は4,233,255.3平方キロメートルに及びます。すべての人口はなんと約4億4700万ほど。加盟国は、同意した場合に限り、共通の法制度のもと行動することができます。

EUによりヨーロッパは法律と経済が共通化

通常、それぞれの国が、独自の法制度や通貨などの経済制度を持っているもの。しかしながら、EUに加盟するとそれらが共通化され、ひとつにまとまった共同体として行動できます。なかでもEUに加盟することで大きく変化するのが市場。EU域内は単一の市場と見なされ、通貨も共通の「ユーロ」が使用できるからです。

国境を超えて輸出や輸入をすると税金がかかるのが通常。しかしEU域内は単一の市場のため税金は課されません。また、仕事や旅行で移動することも簡単になります。自由な移動を支えているのが法制度。自由な移動を保障するために、貿易、農業、漁業、地域開発などの法律を策定するなど、政策をEUのなかで共通化を進めてきました。

ユーロとは、EU加盟国のうち19か国で導入されている通貨です。EUは現在24か国。つまり、すべてがユーロを採用しているわけではありません。また、加盟国ではないものの、相手国がユーロを導入したことを理由に、法定通貨とした国もあります。

EUが確立するまでの経緯

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これまで歴史的に、ヨーロッパを統合する動きはありましたが、それが本格化するのは第二次世界戦後。ヨーロッパ国内の戦争の歴史の反省、そしてソ連による反共の波に対抗することが、当初の趣旨でした。

EUの設立を推進したのはアメリカ

ヨーロッパを統合する動きは、必ずしもヨーロッパ諸国の主導で行われたわけではありません。アメリカが、1948年に設立された統合ヨーロッパのためのアメリカ委員会を通じて、資金等のバックアップをしてきました。

ソ連との対立が深まるアメリカにとって、ヨーロッパの共産化の波を食い止めることは不可欠です。そこでアメリカは、ヨーロッパ諸国を防波堤にして、ソ連の影響力の拡大を抑え込もうと考えました。

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