砂糖や塩は水に簡単に溶ける。物質が溶媒に溶けることは、当たり前のことと思うかもしれないが、実は「溶解」とはとても複雑な現象です。砂糖や塩は水に簡単に溶けるが、油は水には溶けない。この違いはいったいなんだ?
この違いを説明するためには、「溶媒和」と「相互作用」という言葉がとても大切なキーワードになる。

今回は物質が溶媒に溶ける現象を、溶媒和や相互作用という言葉を交えながら、化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

物質が溶けるとは、どういうこと?

image by iStockphoto

まずは、物質が液体に溶ける「溶解」とはどんな現象か、簡単におさらいしましょう。溶解とは、「溶質と呼ばれる固体・液体または気体が溶媒(液体)中に分散して均一系を形成する現象」です。

言葉で書くとなかなか難しいですね。ですが、溶解という現象は、日常生活の中でも目にしています。よく例として取り上げられるのが、水ですね。水も溶媒の1つです。

塩や砂糖を水に溶かすとサラッと溶けてしまいますよね。これが溶解です。この時、水を溶媒と呼び、砂糖や塩を溶質と呼びます。

「溶解」や「溶ける」は非常に難しい言葉なんです。例えば、牛乳は水に溶解しているのか?という疑問にはどう答えましょう。牛乳はコロイド状態と呼ばれて、牛乳の成分が水に均一に分散していないため、溶解とは異なる現象です。

今回解説する溶解はあくまでも、「溶質が溶媒に溶けて均一な系を形成する場合」としています。興味のある方はコロイドの分野を調べてみてください。コロイド化学も難しくて奥が深い分野です!

溶媒に溶ける物質と溶けない物質の違いは?

image by iStockphoto

ここからは、溶ける・溶けないを決めている「溶媒和」とは何なのか、解説していきますね。溶媒和という単語をwikipediaで検索してみると、次のように書いてあります。

溶媒和とは「溶質分子もしくは溶質が電離して生じたイオンと溶媒分子とが、静電気力や水素結合などによって結びつき取り囲むことで溶質が溶媒中に拡散する現象のことである。」

出典:wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%B6%E5%AA%92%E5%92%8C

\次のページで「溶媒和が起きるポイントは相互作用」を解説!/

溶媒和が起きるポイントは相互作用

溶媒和がどんな現象か、なんとなく分かりましたか?実は、塩や砂糖が水に溶けるのは、溶媒和が原因なんです。そして、溶媒和が起きるのは「相互作用」が大きなポイント。

相互作用とは、分子や原子、イオン同士の作用のことで、「水素結合」「双極子相互作用」などがあります。まずは、溶媒和を考えるうえで大切な2つの相互作用をチェックしていきましょう。

水素結合とは

3D model hydrogen bonds in water.svg
User Qwerter at Czech wikipedia: Qwerter. cs.wikipedia からコモンズに sevela.p によって移動されました。 Translated to english by by Michal Maňas (User:snek01). Vectorized by Magasjukur2 - File:3D model hydrogen bonds in water.jpg, パブリック・ドメイン, リンクによる

水素結合は、化学で特によく扱われる相互作用の一つです。電気陰性度の値が水素よりも大きい酸素や窒素などと水素が結合すると、電気陰性度の高い原子側へ電子が引っ張られます。電子を引っ張られた原子はプラスの電荷を帯びるため、酸素と結合した水素はプラスの電荷を帯び、逆に電子を引っ張った酸素原子はマイナスの電荷を帯びるんです。

プラスの電荷を帯びた水素原子はマイナスの電荷を帯びた原子と引き合うことができます。このようにプラス電荷を帯びた水素原子とマイナスの電荷を帯びた原子との間に静電気的引力が作用してできる結合が水素結合です。

水は、1つの酸素原子に2つの水素原子が共有結合で結合していますよね。そのため、酸素原子が水素原子から電子を引っ張り、酸素原子がマイナスを、水素原子がプラスの電荷を帯びています。

なので、水分子は水素結合を形成できる分子なんです。

双極子相互作用とは

ここからは、溶媒和に必要なもう一つの相互作用を紹介していきます。それが「双極子相互作用」です。双極子相互作用とは、「2つの双極子の間に働く力の作用」のことを言います。

難しいと思いますが、実は双極子相互作用もイメージは水素結合と同じです。水素結合は水素が主役の結合でした。ただ、電気陰性度が異なる原子同士が結合すると、必ず電気陰性度の差で電子がどちらかの原子側に引っ張られるんです。

すると、結合している2つの原子はプラスとマイナスに分極します。分子内にプラスとマイナスに分かれた原子がある分子を極性分子と呼び、プラスとマイナス同士で引き合いが起きるんです。

水に溶けるのは溶媒和が原因

Na+H2O.svg
Taxman - http://bio.winona.edu/berg/ILLUST/Na+H2O.gif, パブリック・ドメイン, リンクによる

ここまで「水素結合」「双極子相互作用」を解説していきました。溶媒和が起きるとき、作用している相互作用は基本的に「水素結合」と「双極子相互作用」の2つです。塩が水に溶けるときや砂糖が水に溶けるとき、溶媒和が大きく関わっています。

塩はNaClです。塩が水に溶解するのは、ナトリウムイオンと塩化物イオンに電離して溶媒(水)と溶媒和を起こしているから。ナトリウムイオンはプラスの電荷をもつイオン、塩化物イオンはマイナスの電荷をもつイオンでしたよね。

水分子は酸素原子がマイナスに、水素原子がプラスに分極した、極性分子でした。イオンと極性分子は双極子相互作用で引き合うので、溶媒和が起こります。

\次のページで「無極性分子同士が溶けあうのは溶媒和が起こらないから」を解説!/

無極性分子同士が溶けあうのは溶媒和が起こらないから

無極性分子同士が溶けあうのは溶媒和が起こらないから

image by Study-Z編集部

ヘキサンは化学式がC6H6で表される代表的な無極性溶媒です。炭素がつながっただけなので、分子内に電子の偏りがなく、ヘキサン分子は極性がありません。極性がない分子を無極性分子といい、溶媒和が起きるための条件の「水素結合」や「双極子相互作用」を形成することはできません。

ヘキサンは極性分子と相互作用できず、極性分子分子同士の相互作用が優先されてしまいます。溶媒のヘキサン分子は、極性を持つ溶質分子の周りを取り囲むことができないため、極性分子を溶かすことができません。

一方で、無極性分子が溶質の場合はどうでしょうか。

無極性分子である、ナフタレンやヨウ素はヘキサンに溶けます。無極性分子同士では、溶媒和は全く発生せず、無極性溶媒分子は無極性溶質分子の周りを取り囲むことができるので、無極性分子は無極性溶媒に溶けやすいんです。

溶媒と溶質の組み合わせは無限大

溶質が溶媒に溶解するためには、溶媒和が重要で、溶媒和が起きるためには、溶質分子と溶媒分子の極性のバランスが重要でした。

分子の組み合わせは無限に存在するため、溶解は研究現場では非常に重要なポイントなんです。テストや大学入試の問題では、溶質は溶媒に溶ける前提で問題が作られるので、当たり前のことかもしれません。ただ、研究現場では、自分で合成した新しい物質が溶媒に溶けないことがよくあります。

そのため、合成した分子の極性を見て、溶媒を選定することもよくあるんです。溶質が溶ける溶媒を探すところにも、化学の楽しさ・難しさが隠れています。

簡単そうに見えて奥が深い、溶解を操る溶媒和を紹介

今回は、「分子間相互作用」に着目して、溶質が溶媒に溶解する「溶媒和」について解説しました。

教科書で勉強しているうちは、溶質が溶媒に溶けることは当たり前なので、それほど意識したことはないかもしれませんが、自分で実験を行うとき「溶解」は非常に重要です。
まずは溶媒和が起きるために必要な「水素結合」と「双極子相互作用」がどのような現象か、しっかりとチェックしておいてください。

" /> 溶媒和とは?物質の溶解を操る溶媒和と相互作用を理系ライターが分かりやすくわかりやすく解説 – Study-Z
化学理科

溶媒和とは?物質の溶解を操る溶媒和と相互作用を理系ライターが分かりやすくわかりやすく解説



砂糖や塩は水に簡単に溶ける。物質が溶媒に溶けることは、当たり前のことと思うかもしれないが、実は「溶解」とはとても複雑な現象です。砂糖や塩は水に簡単に溶けるが、油は水には溶けない。この違いはいったいなんだ?
この違いを説明するためには、「溶媒和」と「相互作用」という言葉がとても大切なキーワードになる。

今回は物質が溶媒に溶ける現象を、溶媒和や相互作用という言葉を交えながら、化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

物質が溶けるとは、どういうこと?

image by iStockphoto

まずは、物質が液体に溶ける「溶解」とはどんな現象か、簡単におさらいしましょう。溶解とは、「溶質と呼ばれる固体・液体または気体が溶媒(液体)中に分散して均一系を形成する現象」です。

言葉で書くとなかなか難しいですね。ですが、溶解という現象は、日常生活の中でも目にしています。よく例として取り上げられるのが、水ですね。水も溶媒の1つです。

塩や砂糖を水に溶かすとサラッと溶けてしまいますよね。これが溶解です。この時、水を溶媒と呼び、砂糖や塩を溶質と呼びます。

「溶解」や「溶ける」は非常に難しい言葉なんです。例えば、牛乳は水に溶解しているのか?という疑問にはどう答えましょう。牛乳はコロイド状態と呼ばれて、牛乳の成分が水に均一に分散していないため、溶解とは異なる現象です。

今回解説する溶解はあくまでも、「溶質が溶媒に溶けて均一な系を形成する場合」としています。興味のある方はコロイドの分野を調べてみてください。コロイド化学も難しくて奥が深い分野です!

溶媒に溶ける物質と溶けない物質の違いは?

image by iStockphoto

ここからは、溶ける・溶けないを決めている「溶媒和」とは何なのか、解説していきますね。溶媒和という単語をwikipediaで検索してみると、次のように書いてあります。

溶媒和とは「溶質分子もしくは溶質が電離して生じたイオンと溶媒分子とが、静電気力や水素結合などによって結びつき取り囲むことで溶質が溶媒中に拡散する現象のことである。」

出典:wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%B6%E5%AA%92%E5%92%8C

\次のページで「溶媒和が起きるポイントは相互作用」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: