みんなは高校生物で学ぶ「動物の行動」は得意でしょうか。この分野はかなり複雑だから、苦手とする人も少なくはないでしょう。今回は動物の行動のうち、「走性」について学習していこう。走性とは何なのか、種類や代表的な動物などについて、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

走性って何?

「走性(そうせい)」とは、生物が外界から与えられた刺激に対して一定方向に移動や運動などの反応を示す性質のことを言います。走性は魚類や昆虫などで多くみられるのです。また、この走性は刺激の種類によっていくつかに分類されています。そんな走性について、動物の行動とはどういったものなのかも合わせながら学習していきましょう。

動物の行動とは?

走性は動物の行動の1種です。そもそも動物の「行動」とはどういった意味を持つのでしょうか。「行動」とは、外界の刺激によって動物の様々な効果器が働くことで見られる反応のことを言います。そして、この行動をもたらす神経回路の種類によって、さらに「生得的行動」「習得的行動」の2つに分けることができるのです。ちなみに走性は「生得的行動」に属します。走性について詳しく学習する前に、「生得的行動」と「習得的行動」についてと、各行動の神経回路について学習していきましょう。

1. 生得的行動

1.  生得的行動

image by Study-Z編集部

「生得的行動」とは、生まれたときから備わっている行動のことを言います。つまり、ある行動について誰かから教わる必要がなく、すぐに発現される行動なのです。また、生得的行動を引き起こす刺激のことを特に「鍵刺激」と呼びます。

生得的行動は上記の図のような神経回路によって起こるのです。ここで「固定的な神経回路」がポイントになります。神経回路が固定されているということは、特定の刺激に対して決まった行動を起こすことを意味するのです。このため、反応の誤りや遅れによって大きな危険になり得る刺激に対して非常に有効な行動であることが言えます。

私たち人間の生得的行動の例として、ご飯を食べると唾液が分泌される、手で熱いものに触れたらすぐに手を引っ込めるなどがありますね。今回、学習する「走性」も生得的行動の1つであることをしっかりと頭に入れておきましょう。

2. 習得的行動

2.  習得的行動

image by Study-Z編集部

「生得的行動」は元から備わっている行動のことでしたね。一方で、「習得的行動」とは学習によって習得した行動のことを指します。つまり、本来は備わっていないものの、経験によって定着した行動のことです。

習得的行動の神経回路は上記の図のようになります。生得的行動と大きく異なる点は固定的な神経回路ではなく「可塑性(かそせい)」がある神経回路であることです。

中枢神経の部分に学習や記憶が影響することで、様々な反応を示すことができます。このため、習得的行動は予測困難な状況や環境変化に対して、柔軟で複雑な反応を占示すことができるのです。

\次のページで「走性の種類」を解説!/

走性の種類

走性の種類

image by Study-Z編集部

走性には上記の図のようにいくつか種類があります。また、同じ走性でも刺激源に向かって反応する「正の走性」と、刺激源に対して反対の方向へと反応する「負の走性」の2パターンがあるのです。ここでは、代表的な走性とそれらの行動を示す動物について解説していきます。

1. 光走性

image by iStockphoto

「光走性」とは刺激源を光とする走性のことです。例としてミドリムシの正の走性ミミズの負の走性が挙げられます。ミドリムシは光合成を行うために、光があるところに自然と近づくのだと考えられるのです。一方で、ミミズの場合は地中で生存するため、光が届かないところに向かおうとします。そのため、負の走性によって光を避ける行動を示すのです。

2. 重力走性

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「重力走性」の刺激の源はもちろん重力です。重力の発生源は地球の中心にあるのでしたね。つまり、正の重力走性は「地中に向かう」ということになります。正の重力走性を示す動物としてミミズがいますね。ミミズは負の光走性とこの正の重力走性を持ち合わせることで、土中で生活しているのです。一方、負の重力走性にはゾウリムシがあり、水槽に入っているゾウリムシは水面に近いところに集まってきます。つまり重力の発生源から遠ざかるように行動するので、負の重力走性であると言えますね。

3. 化学走性

「化学走性」とは、化学物質の種類やその濃度によって示される走性です。例としてゾウリムシと酢酸の化学走性がありますね。ゾウリムシは0.02%~0.2%程度の酢酸を好むようで、正の化学走性を示します。しかし、酢酸の濃度がおよそ5%と濃くなると、ゾウリムシは徐々に酢酸から離れていく負の走性を示すのです。他にも、ハエはアンモニアに対して正の走性を示します。ハエはゴミやトイレに集っているイメージがあるでしょう。これはアンモニアに対する正の走性だからだと言えます。

\次のページで「4. 流れ走性」を解説!/

4. 流れ走性

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「流れ走性」はその名の通り水流を刺激源としている走性です。中でも、メダカの正の流れ走性は有名ですよね。メダカは生存に有利な場所から離れないように、流れに逆らうように行動します。ここで、メダカは流れに逆らって泳ぐから「負の走性ではないか」と思う方もいるかもしれません。正なのか負なのかは、刺激源に向かっているかどうかによって決まるのでしたね。メダカの走性が正なのは、流れが起こっている刺激の元に向かっている、つまり流れに逆らうように泳ぐとイメージすると良いでしょう。

メダカの他に、サケも流れ走性を示します。サケは産卵期になると川の上流に向かうように泳ぐので正の走性を、生まれた稚魚は海で生活するために負の走性を示すのです。

5. 湿度走性

「湿度走性」といえば、ダンゴムシの正の湿度走性。ダンゴムシは乾燥した場所では活発に動き、湿った場所では不活発になります。これにより、ダンゴムシは自然と湿度の高い場所に集まるのです。

走性は動物が外界の刺激に対して移動する性質のこと!

走性とは、外界から与えられた刺激に対して一定方向に反応を示す性質のことを指します。そして走性は動物の行動のうち、生まれながらに持っている行動である「生得的行動」に当てはまるのでした。走性には刺激源に応じていくつもの種類があり、刺激源に向かう場合を「正の走性」、刺激源から遠ざかる場合を「負の走性」と呼ぶのでしたね。

このように走性とは、生物が生き延びるために本能的に備わっている行動であることが言えます。生物の行動を学ぶと、生物の体や機能は面白く、よくできていると実感できますね。

" /> 魚類や昆虫などに見られる「走性」とは?5つの種類・代表的な動物を現役理系学生が分かりやすくわかりやすく解説 – Study-Z
理科環境と生物の反応生き物・植物生物

魚類や昆虫などに見られる「走性」とは?5つの種類・代表的な動物を現役理系学生が分かりやすくわかりやすく解説

みんなは高校生物で学ぶ「動物の行動」は得意でしょうか。この分野はかなり複雑だから、苦手とする人も少なくはないでしょう。今回は動物の行動のうち、「走性」について学習していこう。走性とは何なのか、種類や代表的な動物などについて、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

走性って何?

「走性(そうせい)」とは、生物が外界から与えられた刺激に対して一定方向に移動や運動などの反応を示す性質のことを言います。走性は魚類や昆虫などで多くみられるのです。また、この走性は刺激の種類によっていくつかに分類されています。そんな走性について、動物の行動とはどういったものなのかも合わせながら学習していきましょう。

動物の行動とは?

走性は動物の行動の1種です。そもそも動物の「行動」とはどういった意味を持つのでしょうか。「行動」とは、外界の刺激によって動物の様々な効果器が働くことで見られる反応のことを言います。そして、この行動をもたらす神経回路の種類によって、さらに「生得的行動」「習得的行動」の2つに分けることができるのです。ちなみに走性は「生得的行動」に属します。走性について詳しく学習する前に、「生得的行動」と「習得的行動」についてと、各行動の神経回路について学習していきましょう。

1. 生得的行動

1.  生得的行動

image by Study-Z編集部

「生得的行動」とは、生まれたときから備わっている行動のことを言います。つまり、ある行動について誰かから教わる必要がなく、すぐに発現される行動なのです。また、生得的行動を引き起こす刺激のことを特に「鍵刺激」と呼びます。

生得的行動は上記の図のような神経回路によって起こるのです。ここで「固定的な神経回路」がポイントになります。神経回路が固定されているということは、特定の刺激に対して決まった行動を起こすことを意味するのです。このため、反応の誤りや遅れによって大きな危険になり得る刺激に対して非常に有効な行動であることが言えます。

私たち人間の生得的行動の例として、ご飯を食べると唾液が分泌される、手で熱いものに触れたらすぐに手を引っ込めるなどがありますね。今回、学習する「走性」も生得的行動の1つであることをしっかりと頭に入れておきましょう。

2. 習得的行動

2.  習得的行動

image by Study-Z編集部

「生得的行動」は元から備わっている行動のことでしたね。一方で、「習得的行動」とは学習によって習得した行動のことを指します。つまり、本来は備わっていないものの、経験によって定着した行動のことです。

習得的行動の神経回路は上記の図のようになります。生得的行動と大きく異なる点は固定的な神経回路ではなく「可塑性(かそせい)」がある神経回路であることです。

中枢神経の部分に学習や記憶が影響することで、様々な反応を示すことができます。このため、習得的行動は予測困難な状況や環境変化に対して、柔軟で複雑な反応を占示すことができるのです。

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