今回のキーワードはモリブデンだ!モリブデンは遷移金属元素の1つですが、どんな特徴があり、どこで使われているか知っているか?実は工業的にも、人体にも重要な元素です。

今回はモリブデンの特徴と重要な用途について化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

モリブデンとは、どんな元素?

モリブデンとは、どんな元素?

image by Study-Z編集部

モリブデンは原子番号42の元素で、元素記号はMoです。周期表で見ると、第6族元素に分類されます。輝水鉛鉱という鉱石から発見された金属で、硫黄と結合しやすいのが特徴です。融点は2620℃、沸点は4650℃程度。融点と沸点は異なる実験値も報告されているので、あくまで参考値ですが、金属の中で5番目に融点と沸点が高いのも特徴です。

融点が高いことに加えて、硬く脆い金属なので、単体モリブデンの加工は非常に難しく、高い技術が必要になります。単体の金属は加工の難しいモリブデンですが、実は重要な用途があり、工業的に必要不可欠な元素です。モリブデンの用途は後ほど紹介していきます。

モリブデンの産出国は?

Molybdenum crystaline fragment and 1cm3 cube.jpg
Alchemist-hp (talk) (www.pse-mendelejew.de) - 投稿者自身による著作物, FAL, リンクによる

まずは、金属のモリブデンがどこから産出されているか、紹介していきます。

少し古いデータですが、2011年のモリブデンの産出国は1位中国、2位アメリカ、3位チリでした。全世界の割合で見てみると、中国は40.2%、アメリカは24.1%、チリは15.5%と上位3ヵ国だけで、全世界の産出量の80%を占めています。

日本は鉱山などの金属資源が乏しい国なので、国内でのリサイクル分を除くと、モリブデンはほぼすべて輸入に頼っている状態です。モリブデンは工業的に重要な用途があるため、経済産業省はモリブデンをレアメタルの1つに分類しています。

レアメタルは、液晶テレビやスマートフォン、自動車など電子機器の製造に必要不可欠な材料です。特に低炭素社会を実現するため、今後さらなる普及が期待される電気自動車や蓄電池などの製造にもレアメタルは必要不可欠。

今後、日本だけでなく、世界全体でレアメタルの需要が急拡大していく可能性も十分あります。そして、レアメタルはそもそも埋蔵量が多くないので、需要が拡大すれば、調達は困難になってしまう危険があるんです。

\次のページで「モリブデンの用途とは」を解説!/

モリブデンの用途とは

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ここからは、モリブデンの用途を紹介していきます。工業的に重要なモリブデンの用途は、「鋼への添加剤」です。モリブデンを鋼に添加すると、強度に優れ、かつ変形しにくい特徴を鋼に付与することができます。モリブデンを添加した鋼は、クロムモリブデン鋼やマンガンモリブデン鋼など様々な種類があり、高層ビル群や高速道路、航空機用特殊複合材料などにも使われているんです。

さらに、モリブデンとバナジウムを添加したモリブデンバナジウム鋼は通常のステンレス鋼に比べて錆びにくく、耐摩耗性に優れた素材のため、家庭向け包丁に広く使われています。

ミネラルとしてのモリブデン

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ここからは、人体でのモリブデンの働きを解説していきます。実はモリブデンは人が活動するために必要な、代謝に関わるミネラルで、必須ミネラルの一つに分類されているんです。

体内でモリブデンがどのような働きをするのか、チェックしていきましょう。

体内でモリブデンはどんな働きをするの?

モリブデンは体内の代謝で必要な酵素の働きを助ける、補酵素を構成する成分として、代謝をコントロールしています。人の体内にはすさまじい種類の酵素があり、それぞれの酵素には、それぞれの役割や働きがあるんです。

モリブデンは「キサンチンオキシダーゼ」「アルデヒドオキシターゼ」「亜硫酸オキシターゼ」を構成しています。つまりこの3つの酵素は、モリブデンがないと作ることができないんです。そして、3つの酵素はそれぞれが体内で重要な役割を担っています。

キサンオキシターゼは食品に含まれるプリン体という物質を分解し、尿酸に作り替える反応に関わっているんです。

アルデヒドオキシターゼはアルデヒドをカルボン酸に変換するときに使われる酵素ですね。アルデヒドをカルボン酸に変換する反応は、アルコールの分解反応の一部です。アルデヒドオキシターゼの活性が不十分だと、アルデヒドがカルボン酸に変換されないため、二日酔いの症状が出てしまいます。

亜硫酸オキシターゼはモリブデンの特徴の1つでもあった、硫黄と結合しやすいという特徴を生かしている酵素です。硫黄を含むアミノ酸「システイン」「メチオニン」を分解する反応に関わっています。

\次のページで「モリブデンの「不足」や「摂りすぎ」は危険?」を解説!/

モリブデンの「不足」や「摂りすぎ」は危険?

人体に必須なミネラルの一つモリブデン。摂りすぎや不足してしまうとどんな危険があるんでしょうか。まず、モリブデンは通常の食事から十分摂取することができます。そのため、不足することはほとんどありません。

もし、不足してしまうと、頻脈、多呼吸、夜盲症などを引き起こす恐れがあります。もちろん「キサンチンオキシダーゼ」「アルデヒドオキシターゼ」「亜硫酸オキシターゼ」などの酵素を作ることができなくなってしまうんです。

次に過剰摂取してしまった場合ですが、モリブデンは過剰に摂取しても速やかに体外に排出されるため、健康な人で通常の食生活では問題になることはほとんどありません。

しかし、一度に過剰量のモリブデンを摂取した場合、急性中毒を引き起こしてしまう危険性があります。モリブデンの急性中毒症状は胃腸障害を引き起こし、昏睡状態・心不全により死に至るとされているんです。

モリブデンをたくさん含む食べ物は?

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ここからは、モリブデンが多く含まれる食品を紹介していきますね。

モリブデンは豆類や穀類、レバーなどに多く含まれています。特に納豆には多く含まれており、1食40gあたりの摂取量は116μgです。また、豚や牛レバーにも豊富に含まれており、1食40gあたり、40μgを摂取できます。

そして、モリブデンの1日当たりの摂取推奨量は、成人男性1日30μg、成人女性が1日25μgとされており、過剰摂取量の目安は成人男性が1日当たり600μg、成人女性が1日当たり500μgです。

工業にも人体にも必須元素「モリブデン」をチェック

今回はモリブデンの特徴と、用途を解説しました。モリブデンはテストで扱われることはほぼありませんが、私たちの生活を支える重要な元素の1つです。

特にモリブデンを添加した鋼は高強度で、耐摩耗性が上がるため、社会インフラを支える重要な材料として使われています。さらに、私たちの身体でも、重要な酵素の構成成分として、必須ミネラルの1つに分類されているんです。

普段の生活でも、化学のテストでも、なかなか見かけることがない元素ですが、ぜひチェックしてみてください!

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化学理科

工業にも人体にも必須元素なモリブデンとは?特徴と性質を理系ライターがわかりやすく解説!



今回のキーワードはモリブデンだ!モリブデンは遷移金属元素の1つですが、どんな特徴があり、どこで使われているか知っているか?実は工業的にも、人体にも重要な元素です。

今回はモリブデンの特徴と重要な用途について化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

モリブデンとは、どんな元素?

モリブデンとは、どんな元素?

image by Study-Z編集部

モリブデンは原子番号42の元素で、元素記号はMoです。周期表で見ると、第6族元素に分類されます。輝水鉛鉱という鉱石から発見された金属で、硫黄と結合しやすいのが特徴です。融点は2620℃、沸点は4650℃程度。融点と沸点は異なる実験値も報告されているので、あくまで参考値ですが、金属の中で5番目に融点と沸点が高いのも特徴です。

融点が高いことに加えて、硬く脆い金属なので、単体モリブデンの加工は非常に難しく、高い技術が必要になります。単体の金属は加工の難しいモリブデンですが、実は重要な用途があり、工業的に必要不可欠な元素です。モリブデンの用途は後ほど紹介していきます。

モリブデンの産出国は?

Molybdenum crystaline fragment and 1cm3 cube.jpg
Alchemist-hp (talk) (www.pse-mendelejew.de) – 投稿者自身による著作物, FAL, リンクによる

まずは、金属のモリブデンがどこから産出されているか、紹介していきます。

少し古いデータですが、2011年のモリブデンの産出国は1位中国、2位アメリカ、3位チリでした。全世界の割合で見てみると、中国は40.2%、アメリカは24.1%、チリは15.5%と上位3ヵ国だけで、全世界の産出量の80%を占めています。

日本は鉱山などの金属資源が乏しい国なので、国内でのリサイクル分を除くと、モリブデンはほぼすべて輸入に頼っている状態です。モリブデンは工業的に重要な用途があるため、経済産業省はモリブデンをレアメタルの1つに分類しています。

レアメタルは、液晶テレビやスマートフォン、自動車など電子機器の製造に必要不可欠な材料です。特に低炭素社会を実現するため、今後さらなる普及が期待される電気自動車や蓄電池などの製造にもレアメタルは必要不可欠。

今後、日本だけでなく、世界全体でレアメタルの需要が急拡大していく可能性も十分あります。そして、レアメタルはそもそも埋蔵量が多くないので、需要が拡大すれば、調達は困難になってしまう危険があるんです。

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