今回は、「原爆と水爆の違い」について学習していこう。

原爆と水爆どちらも名前は知っているが、詳しく解説できる人は少ないでしょう。2つの大きな違いはずばり爆発の仕組みなのですが、ほかにも多くの違いがあるぞ。今回の記事では、その中から5つのポイントを抽出したので理解していこう。

高校・大学にて化学も専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

原爆と水爆

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原爆と水爆はそれぞれ、原子爆弾と水素爆弾のことです。名前の通り原爆は原子を、水爆は水素を利用した爆弾だと思われがちだが、厳密にいうとそれは間違い。次の章では、「いつ、誰が、どんな爆弾を作ったのか」「その爆弾の原料は何で威力はどれくらいなのか」について詳しく学習します。

原爆と水爆における5つの違い

原爆と水爆には様々な違いがありますが、その中でも特に知っておくとためになる5つのポイントに注目して詳しく見ていきましょう。

その1.作り出された年(実験に成功した年)

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原爆は1945年に、水爆は1952年に作り出されました。

第二次世界大戦中の1942年、アメリカではマンハッタン計画が始動。その計画では、アメリカの敵国であるナチス・ドイツに対抗し、原子爆弾を開発するために多くの科学者と技術者たちが集められました。そして、1945年にアメリカで行われた『トリニティ実験』が成功し、人類史上初の原子爆弾が作り出されたのです。

アメリカが原爆の製造に成功した後、アメリカの脅威となるソビエト連邦も同様に原爆の実験に成功しました。それに焦ったアメリカは、原爆よりも威力がある水爆の開発を急ぎます。その後、1952年にマーシャル諸島のエニウェトク環礁で行われた実験が成功し、人類史上初の水素爆弾が作り出されました

\次のページで「その2.開発の中心人物」を解説!/

その2.開発の中心人物

『原爆の父』と呼ばれるロバート・オッペンハイマー。物理学者の彼は、アメリカで始動したマンハッタン計画を主導し、初めて原爆の開発に成功しました。そして、その数か月後に日本の広島と長崎に原爆が投下されます。その光景を見たロバート・オッペンハイマーはとても後悔し、水爆の開発に反対したそうです。

一方、マンハッタン計画にも参加していた『水爆の父』と呼ばれるエドワード・テラー。物理学者の彼は、第二次世界大戦終戦後も水爆の開発に尽力しました。

その3.爆発の仕組み

その3.爆発の仕組み

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超強力なエネルギーを発生させる反応は、原爆と水爆では真逆の反応です。より詳しく言うと、原爆は核分裂、水爆は核融合によって爆発のエネルギーを作り出します

核分裂とは、ある原子核が同じくらいの大きさの原子核に分裂する反応のこと。原爆における核分裂では、核分裂をしやすい物質に中性子がぶつかることで、その物質の原子核が2つに分裂すると同時に中性子が放出されます。核分裂をしやすい物質の密度が高い原子爆弾内部では、核分裂によって放出された中性子がさらに別の原子核にぶつかることで核分裂を引き起こすのです。次々に核分裂→中性子の放出→核分裂と連鎖的に起こる反応を連鎖反応と呼び、原爆ではこの反応を一瞬で引き起こし、そこで発生したエネルギーが爆発という形で現れます。

逆に、核融合とはある原子核が合体(融合)して重い原子核になる反応のこと。核融合は、原子核どうしがそれぞれプラスの電荷を持つことから反発する力が働き、常温・常圧の環境で核融合を起こすことが困難です。そのため水爆では、以下の2つの条件を整えることで核融合を起こしやすくさせました。

・高温…温度を上げることで原子核の運動エネルギーを高める

・高密度…原子核の密度を上げることで原子核どうしをぶつかりやすくさせる

そして、この条件を作り出すために水爆の起爆剤として使われたのが原爆だったのです。つまり、原爆の技術があったからこそ、水爆が生み出されたということになります。

その4.原料

上記から、原爆には核分裂しやすい物質が、水爆には核融合しやすい物質が利用されていることが分かったでしょう。詳しい名称をいうと、原爆はウラン235やプルトニウム239から、水爆は重水素と三重水素から作られています

日本で投下された原子爆弾のうち、広島で投下された原爆がウラン235を原料とし、長崎に投下された原爆はプルトニウム239を原料とする爆弾でした。

水爆の原料は重水素と三重水素で、それらが核融合してヘリウムの原子核と中性子が放出される際にエネルギーが発生します。開発された当時は液体のものが使われていましたが、液体の状態を保つのが非常に困難で爆弾に搭載することはできませんでした。しかし、その問題は常温で個体の重水素化リチウムを使用することで解決され、実用化に至ったのです。

その5.威力

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原子爆弾の投下によって、広島と長崎の一部が爆風と熱線によって壊滅させられたことを知っている人も多いでしょう。例えば、広島と長崎に落とされた原爆の威力はそれぞれ、火薬を使った爆弾15000トン相当と21000トン相当でした。しかし、水爆の威力はこの原爆の数段上をいきます。例として、ソ連が開発した史上最大の水爆「ツァーリ・ボンバ」の威力は50メガトン相当で、広島に投下された原子爆弾の3300倍でした

ではなぜ、原爆と水爆の威力にはこれほど大きな差があるのでしょうか?その理由としては、原爆には臨界量があるが、水爆には臨界量がないということがあげられます。まず臨界量とは、上記で説明した核分裂の連鎖反応が継続的に起こるときの核分裂をする物質の最小質量のことです。つまり、臨界量を超える量の物質を同じところに集めると、自然に核分裂反応が連鎖的に起きてしまいます。よって、原爆に搭載するウランやプルトニウムの量は制限せざるを得なくなり、それに伴って爆発の威力も制限されてしまうのです。しかし水爆は核分裂ではなく、核融合によるエネルギーを利用するので臨界量がありません。このことから、理論的には水爆における威力の制限はないと考えられています

爆発のエネルギーを発電のエネルギーに

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これまで「原爆と水爆の違い」を学んできて、両方とも程度の差はあれ、大きなエネルギーが発生することが分かったのではないでしょうか?そして、この大きなエネルギーを発電に利用しようとしたのが、原子力発電と核融合発電です。

皆さんも知っての通り原子力発電は実用化されています。一方核融合発電は、核融合の条件を持続させることが非常に困難であるなどの理由で、現在(2022年時点)はまだ実用化されていません。

原爆と水爆の共通点は恐ろしい核兵器であるということ

この記事では「原爆と水爆の違い」について学習しましたが、共通することは『核兵器禁止条約』において、開発・使用・保有などが国際的に禁止されていること。なぜなら、多くの人間を殺し地球を汚染するものだからです。

この記事を読んで、原爆と水爆の違いと恐ろしさを知ったあなた。この恐ろしい核兵器は二度と使ってはいけないものだということを忘れないでください。

" /> 原爆と水爆の違いって何?全く別物?爆発の仕組みやその威力など5つの違いを農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説! – Study-Z
化学原子・元素物質の状態・構成・変化理科

原爆と水爆の違いって何?全く別物?爆発の仕組みやその威力など5つの違いを農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は、「原爆と水爆の違い」について学習していこう。

原爆と水爆どちらも名前は知っているが、詳しく解説できる人は少ないでしょう。2つの大きな違いはずばり爆発の仕組みなのですが、ほかにも多くの違いがあるぞ。今回の記事では、その中から5つのポイントを抽出したので理解していこう。

高校・大学にて化学も専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

原爆と水爆

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原爆と水爆はそれぞれ、原子爆弾と水素爆弾のことです。名前の通り原爆は原子を、水爆は水素を利用した爆弾だと思われがちだが、厳密にいうとそれは間違い。次の章では、「いつ、誰が、どんな爆弾を作ったのか」「その爆弾の原料は何で威力はどれくらいなのか」について詳しく学習します。

原爆と水爆における5つの違い

原爆と水爆には様々な違いがありますが、その中でも特に知っておくとためになる5つのポイントに注目して詳しく見ていきましょう。

その1.作り出された年(実験に成功した年)

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原爆は1945年に、水爆は1952年に作り出されました。

第二次世界大戦中の1942年、アメリカではマンハッタン計画が始動。その計画では、アメリカの敵国であるナチス・ドイツに対抗し、原子爆弾を開発するために多くの科学者と技術者たちが集められました。そして、1945年にアメリカで行われた『トリニティ実験』が成功し、人類史上初の原子爆弾が作り出されたのです。

アメリカが原爆の製造に成功した後、アメリカの脅威となるソビエト連邦も同様に原爆の実験に成功しました。それに焦ったアメリカは、原爆よりも威力がある水爆の開発を急ぎます。その後、1952年にマーシャル諸島のエニウェトク環礁で行われた実験が成功し、人類史上初の水素爆弾が作り出されました

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