今日は「ベイトマンの原理」について見ていこう。多くの動物種の繁殖においてメスが希少資源となる考え方です。つまり、繁殖においてはメスの方が重要ということです。しかし、この考えには矛盾もあり、多くの反例があるんです。大学で生物学を学び、現在も生物学に精通した研究者として活躍するライターポスベクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で生物学を学び、現在も研究者として活動を続け多くの研究成果を出すべく日々奮闘している。

ベイトマンの原理ってなに?詳しく解説

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「ベイトマンの原理」は生物学における概念であり、常にメスの方がオスよりも繁殖に大きなエネルギーを費やすので、ほとんどの種の繁殖においてメスは希少資源となることを示した理論です

この考えはオスは大量の精子を作れるのに比べて、メスは限られた数の卵子しか作れないということから導き出されます。メスは周囲にどれほどオスがいて、どれほど多くの精子をもらったとしても、子孫を残せるのは自分の卵の数のみです。なのでメスにとって、自分が残す子どもの数には、何匹と交尾したかは関係がありません。一方で、オスは精子は山のように持っています。次々にメスを取り替え受精をしていけば、交尾数に比例して残す子どもを増やすことができるのです。

つまり、子孫を残すことにおいてメスは希少になり、オスからすると競争が非常に激しくなるという考え方になります

ベイトマンの原理を人間を例に解説!

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ヒトの場合、健康な男性であれば一日に約2億個の精子が作られ、元気な人なら高齢になっても精子を作ることが可能です。

一方で、女性は卵子を約一ヶ月に1個しか生産できません。 また、卵子を生産できる期間は限られており、思春期初期から、閉経する40~50代までの30年程度です。さらに一度受精すると女性は約 10ヶ月もの間子供をお腹に宿さなければならず、その間は新たな子どもを作ることができません。しかし、このとき男性は別の女性との間に子どもを作ることが可能です。

そのため男性は子孫を残しやすく、女性は残しにくい。つまり、女性の方が希少になるということです。

誰が発見したの?

ベイトマンの原理を提唱したのは、その名の通り、Angus John Bateman(A. J. ベイトマン)です。彼はショウジョウバエを用いて実験からこの理論を1948年に提唱しました。

ベイトマンの原理は性選択(性淘汰)と関連がある?

Descent of Man fig48.jpg
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ベイトマンの原理は性選択(性淘汰)と関連があります

ベイトマンの原理では種の繁殖においてメスは希少資源です。少ないメスを獲得するためにオスは他のオスと競争する必要があるので、他のオスよりもメスに選ばれやすくなる必要になります。そこで、特有の形質(魅力的で好まれやすくなる形質)を発達させるのです。これを性選択と言います。基本的に性選択はオスに働くものです。これはメスが希少資源という考えに基づきますので、ベイトマンの原理は性選択と関連があると言えます

例えば、グッピーの雄の美しい色や大きな尾びれを性選択で獲得することで、雌に好まれる、目立つので選ばれやすくなり、繁殖に有利に働くのです。

性選択についてはこちらの記事でも解説しています。

\次のページで「潜在的繁殖速度はベイトマンの原理を支持する?」を解説!/

潜在的繁殖速度はベイトマンの原理を支持する?

潜在的繁殖速度は単位時間あたりで何度繁殖可能かを表すものです

オスとメスで繁殖に掛ける時間が異なりますが、基本的に潜在的繁殖速度はオスの方がメスよりも大きくなります。これは妊娠するのはメスであることや(妊娠期間が長くなるとその間は繁殖できません)、多くの動物種で子育てを行うのはメスだからです。潜在的繁殖速度の考えでも、メスの方が繁殖できる期間が短くなり、希少となると考えられれるので、潜在的繁殖速度はベイトマンの原理を支持するものになります

実行性比はベイトマンの原理を支持する?

実行性比はベイトマンの原理を支持する?

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実行性比とはある個体間のある時点における、繁殖可能な個体の性比のことです

実効性比の考えにおいても、基本的にはメスの方がオスより低くなります。理由としては、オスとメスが同数いる群れであったとしても、一方の性(基本的にはメス)が妊娠、子育てなどで繁殖できなくなるので、繁殖可能な個体数が減るので実行性比が低くなるのです。また、残った繁殖可能な個体を争って、もう一方の性(基本的にはオス)で争いが起きます。こうしたことから、メスが希少になると考えられ、実行性比もベイトマンの原理を支持するのです

ベイトマンの原理の反例ってどんなものがある?

ベイトマンの原理に例外が多いのは事実です

受精は卵と精子が一つずつあれば成り立ちます。メスは作った一つの卵を受精させればよいですが、オスは一つの卵を受精させるために大量の精子の用意が必要です。精子の方が大量にありオスの方が子孫を多く残せそうですが、ムダになる部分が多いので、作り出す労力を考慮すると、オスはメスより配偶子を作るのにエネルギーを費やしており、オスの方が子孫を残すコストパフォーマンスが悪い。ということになります。さらに、メスを獲得するために競争する必要があるのでより一層に効率が悪くなると考えられるので、メスの方が希少であるというベイトマンの原理は成り立たなくなるのです。

また、他の観察結果では哺乳類を始めとした多くの種で、多くのオスと交配するメスがより多くの子孫を残すことも観察されています。

反例の具体例1:植物における花粉の配送

Taxus baccata MHNT.jpg
Didier Descouens - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

子孫を生むことに資源を大きく投資する性(多くの場合がメス)が有限資源(希少)になるという主張も常に正しいというわけではありません。この考えはベイトマンの原理に矛盾します。

わかりやすい例が花をつけ、種子を生じる植物である種子植物(顕花植物)です。種子植物では雌しべは雄しべよりも多くのエネルギーを配偶子の作製に投資します。しかし、種子植物の生殖は配偶子の量ではなく、花粉の配送(昆虫や風など)が規定要因となるので、配偶子の数に生殖の起こりやすさが影響しているわけではありません。

反例の具体例2:動物の配偶者防衛行動

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「オスがメスに追従し、他のオスとの配偶行動を阻止する行動」である、配偶者防衛を行う生物がいますが、この行動もベイトマンの原理に矛盾する行動になります

配偶者防衛が行われると、配偶者となるオスが決まっているメスは、別のオスの配偶者に成りえないので、「オスの繁殖成功はメスの数に比例して増加する」というベイトマンの原理に矛盾が生じるのです。

配偶者防衛はメダカなど魚類、昆虫から霊長類までさまざまな動物種に認められる行動で、多くの動物種において主に配偶行動が行われる時期や時間帯で、オスは別のオスを寄せ付けないように配偶者防衛を示すと言われています。

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オスもメスもどちらも大事!価値に差なんてない!

ベイトマンの原理に基づくと、どちらかの性(多くの場合メス)が希少になります。しかし、多くの生物にとって子孫を残すということは両方の性があった初めて成り立つものです。ですので、どちらかの性が価値がある(あるいはない)といったことはありません。互いを尊重しあっていくことが大事なのです。

いらすと使用元:いらすとや

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理科生き物・植物生態系生物

ベイトマンの原理とは?ホントに雄よりも雌の方が希少?具体例や反例は?現役の研究者がわかりやすく解説!

今日は「ベイトマンの原理」について見ていこう。多くの動物種の繁殖においてメスが希少資源となる考え方です。つまり、繁殖においてはメスの方が重要ということです。しかし、この考えには矛盾もあり、多くの反例があるんです。大学で生物学を学び、現在も生物学に精通した研究者として活躍するライターポスベクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で生物学を学び、現在も研究者として活動を続け多くの研究成果を出すべく日々奮闘している。

ベイトマンの原理ってなに?詳しく解説

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「ベイトマンの原理」は生物学における概念であり、常にメスの方がオスよりも繁殖に大きなエネルギーを費やすので、ほとんどの種の繁殖においてメスは希少資源となることを示した理論です

この考えはオスは大量の精子を作れるのに比べて、メスは限られた数の卵子しか作れないということから導き出されます。メスは周囲にどれほどオスがいて、どれほど多くの精子をもらったとしても、子孫を残せるのは自分の卵の数のみです。なのでメスにとって、自分が残す子どもの数には、何匹と交尾したかは関係がありません。一方で、オスは精子は山のように持っています。次々にメスを取り替え受精をしていけば、交尾数に比例して残す子どもを増やすことができるのです。

つまり、子孫を残すことにおいてメスは希少になり、オスからすると競争が非常に激しくなるという考え方になります

ベイトマンの原理を人間を例に解説!

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ヒトの場合、健康な男性であれば一日に約2億個の精子が作られ、元気な人なら高齢になっても精子を作ることが可能です。

一方で、女性は卵子を約一ヶ月に1個しか生産できません。 また、卵子を生産できる期間は限られており、思春期初期から、閉経する40~50代までの30年程度です。さらに一度受精すると女性は約 10ヶ月もの間子供をお腹に宿さなければならず、その間は新たな子どもを作ることができません。しかし、このとき男性は別の女性との間に子どもを作ることが可能です。

そのため男性は子孫を残しやすく、女性は残しにくい。つまり、女性の方が希少になるということです。

誰が発見したの?

ベイトマンの原理を提唱したのは、その名の通り、Angus John Bateman(A. J. ベイトマン)です。彼はショウジョウバエを用いて実験からこの理論を1948年に提唱しました。

ベイトマンの原理は性選択(性淘汰)と関連がある?

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ベイトマンの原理は性選択(性淘汰)と関連があります

ベイトマンの原理では種の繁殖においてメスは希少資源です。少ないメスを獲得するためにオスは他のオスと競争する必要があるので、他のオスよりもメスに選ばれやすくなる必要になります。そこで、特有の形質(魅力的で好まれやすくなる形質)を発達させるのです。これを性選択と言います。基本的に性選択はオスに働くものです。これはメスが希少資源という考えに基づきますので、ベイトマンの原理は性選択と関連があると言えます

例えば、グッピーの雄の美しい色や大きな尾びれを性選択で獲得することで、雌に好まれる、目立つので選ばれやすくなり、繁殖に有利に働くのです。

性選択についてはこちらの記事でも解説しています。

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