
#1 ネコ科の動物を終宿主、幅広い哺乳類や鳥類を中間宿主とするトキソプラズマ

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トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)は単細胞原生生物の一種です。人間含む幅広い温血動物(哺乳類+鳥類)に感染する能力を持ちますが、有性生殖を行うのはネコ科の動物が宿主である場合のみであることが知られています。暖かい地域でより多く感染者がいる傾向にあり、野良猫やその糞尿に接触するなどの行為が感染リスクを高めてしまうようです。
免疫が正常な人間がトキソプラズマに感染しても無症状の場合が多いですが、免疫機能が低下している人が感染してしまうと心臓や肺、最悪の場合は脳に炎症を起こしてしまうことがあります。またトキソプラズマ感染で特に怖いのが妊婦への感染です。妊娠初期に感染してしまうと流産のリスクも高まるし、生まれた後から発育不全などの症状を示す場合もあります。そのため、これから妊娠しようとする方にはトキソプラズマへの免疫を確かめるための血液検査が勧められたり、妊婦さんには庭いじりや野良猫への接触など高リスクの行為はできるだけ避けるようにとアドバイスされるわけですね。
#2 蚊を終宿主、脊椎動物を中間宿主とするマラリア原虫

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続いて紹介するのがマラリア原虫(Plasmodium sp.)です。こちらもトキソプラズマと同じく原生生物の一種で、ハマダラカという蚊の一種によって媒介されます。マラリア原虫はこの蚊の唾液腺の中で有性生殖を行い、唾液を通して蚊が吸血した動物の体内に。その動物の肝臓や赤血球内で今度は細胞分裂で数を増やし、新しい蚊が吸血するのを待つというライフサイクルを持っています。つまりハマダラカが終宿主、蚊に吸血された動物(幅広い脊椎動物)が中間宿主となりますね。
マラリアはおもに熱帯を旅行した人に見られる重篤になりうる感染症で、発熱・悪寒・震えといった症状が3-4日おきに繰り返し起こるのが特徴です。治療されないままでいると赤血球などがどんどん破壊され、様々な合併症が起こり致死的になりえます。現在は抗マラリア薬もあるのでほとんどの場合命は助かりますが、最近では薬剤耐性を持つ種も様々な地域で報告されているようです。そのため今は治療だけでなくマラリア予防の研究も進められており、2021年にはWHOからマラリアの予防用ワクチンを推奨すると発表されました。
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#3 蚊を中間宿主とし、人間では象皮病を引き起こすフィラリア
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最後に紹介したいのが、人間で象皮病という病気を引き起こす寄生虫の一種フィラリアです。こちらは前の二つとは違い、線虫類というれっきとした多細胞動物の一種で細い糸状の体をしています。この寄生虫は魚以外の脊椎動物を終宿主とし、宿主のリンパ節の中で成長・有性生殖を行うのです。そのあとヌマカ属というグループの蚊に吸血された場合、寄生虫の幼虫が蚊の体内に入り、次の宿主へ移動する機会を伺います。蚊の体内では有性生殖を行わないので蚊が中間宿主です。
フィラリアはリンパ節で成長するため、宿主のリンパ節に炎症を起こしたり、リンパ管を詰まらせたりして体液の循環を滞らせてしまいます。その結果体液が体の一部分(主に下半身)に溜まってしまい、異常に肥大化する象皮病を引き起こしてしまうわけですね。
中間宿主とは寄生虫の有性生殖が行われない宿主で、主に発育や分裂のための宿主
今回は寄生虫の基本的な生態から、中間宿主・終宿主の定義、そして中間宿主を介する代表的な寄生虫たちを紹介しました。寄生動物のライフサイクルについて一つ、理解を深める手助けになれていれば幸いです。
実は寄生関係というのは興味深い進化経路をたどっている関係性の一種。利害関係がはっきりした関係性のため宿主は寄生されないように進化するし、寄生虫側もそれに負けじと宿主の体制をかいくぐるように進化する。寄生生物は嫌なものと毛嫌いされがちですが、その存在こそが生物多様性を生み出しているということもお忘れなきよう。