今回は「中間宿主」について見ていきます。
他の生物から栄養分などを搾取する動物を寄生虫と呼ぶのは多くの方がご存じだと思うが、その生態について詳しく調べたことはあるでしょうか。一部の寄生虫は一つの宿主だけではなく、二つ以上の宿主を行き来して繁殖する種類もいる。その場合、宿主は「中間宿主」と「終宿主」に分類できるんです。
今回はこのうちの「中間宿主」について詳しく見ていきます。説明してくれるのは生物学オリンピックメダリストのNoctilucaです。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

中間宿主の前に...寄生虫の生態について

中間宿主について見ていく前に、寄生虫の簡単な特徴を見ていきましょう。

寄生虫とは栄養やサービスを他の生物から持続的に搾取する動物の事

寄生虫(寄生動物とも)は宿主と呼ばれる別の動物の体表や体内に住み込み、その動物が摂取した栄養分などを一方的に奪って生活する動物のことを言います。

寄生者が宿主の体表にいるものを「外部寄生」、宿主の体内にいるものは「内部寄生」。さらに寄生者が細胞の中にいるものは「細胞内寄生」などと呼んで区別することができます。

宿主への影響

CSIRO ScienceImage 2357 Spotted alfalfa aphid being attacked by parasitic wasp.jpg
By CSIRO, CC BY 3.0, Link

寄生動物は多くの場合、栄養分を一方的に奪うだけで宿主を死に至らしめることは少ないです。これは宿主が死んでしまうと寄生虫自身にも不利益が及んでしまうからですね。世代を経るごとに寄生虫が宿主に与える被害は少なくなっていく傾向が見られるのです。

ですが一部の動物では、幼虫の成長の過程で宿主を殺してしまう寄生動物も存在します。例えば寄生バチというハチの種類では、宿主(ほかの昆虫の幼虫など)に卵を産み付け、卵から孵った幼虫は宿主の体組織を食べて成長。最終的に幼虫が宿主を食い尽くしてしまうことが多く、このような寄生の形態を「捕食寄生」と呼びます。

多くの寄生生物はいくつかの宿主を行き来する

多くの場合寄生虫は一種類の宿主だけにはとどまらず、複数の動物に寄生できる能力を持ちます。これによって繫殖の機会が増えるのはもちろん、多様性を増やす意味も持ちますね。

中間宿主の定義は?

寄生虫の大まかな特徴を学んだところで、今回のテーマの中間宿主について見ていきます。

\次のページで「成虫が有性生殖を行わない「中間宿主」」を解説!/

成虫が有性生殖を行わない「中間宿主」

成虫が有性生殖を行わない「中間宿主」

image by Study-Z編集部

中間宿主とは寄生虫が有性生殖を行わない宿主の事を指します。幼体の発育を行ったり細胞分裂などで個体数を増やして別の動物に移行する機会を待ちますが、減数分裂や遺伝子の交換を伴う有性生殖は中間宿主では行われません。

寄生虫が有性生殖を行う「終宿主」

逆に寄生虫が有性生殖を行う宿主は終宿主と呼びます。寄生虫が終宿主に侵入すると、減数分裂を経て生殖細胞を作り、終宿主の体内で受精が行われるのです。

多くの寄生虫はこの終宿主と中間宿主を行き来するライフサイクルを持っています。

中間宿主を介して繁殖を行う寄生虫には何がある?

中間宿主を介して増える寄生虫はたくさんありますが、その中でも代表的なものをいくつかご紹介します。

\次のページで「ネコ科の動物を終宿主、幅広い哺乳類や鳥類を中間宿主とするトキソプラズマ」を解説!/

#1 ネコ科の動物を終宿主、幅広い哺乳類や鳥類を中間宿主とするトキソプラズマ

image by iStockphoto

トキソプラズマ原虫Toxoplasma gondii)は単細胞原生生物の一種です。人間含む幅広い温血動物(哺乳類+鳥類)に感染する能力を持ちますが、有性生殖を行うのはネコ科の動物が宿主である場合のみであることが知られています。暖かい地域でより多く感染者がいる傾向にあり、野良猫やその糞尿に接触するなどの行為が感染リスクを高めてしまうようです。

免疫が正常な人間がトキソプラズマに感染しても無症状の場合が多いですが、免疫機能が低下している人が感染してしまうと心臓や肺、最悪の場合は脳に炎症を起こしてしまうことがあります。またトキソプラズマ感染で特に怖いのが妊婦への感染です。妊娠初期に感染してしまうと流産のリスクも高まるし、生まれた後から発育不全などの症状を示す場合もあります。そのため、これから妊娠しようとする方にはトキソプラズマへの免疫を確かめるための血液検査が勧められたり、妊婦さんには庭いじりや野良猫への接触など高リスクの行為はできるだけ避けるようにとアドバイスされるわけですね。

#2 蚊を終宿主、脊椎動物を中間宿主とするマラリア原虫

image by iStockphoto

続いて紹介するのがマラリア原虫(Plasmodium sp.)です。こちらもトキソプラズマと同じく原生生物の一種で、ハマダラカという蚊の一種によって媒介されます。マラリア原虫はこの蚊の唾液腺の中で有性生殖を行い、唾液を通して蚊が吸血した動物の体内に。その動物の肝臓や赤血球内で今度は細胞分裂で数を増やし、新しい蚊が吸血するのを待つというライフサイクルを持っています。つまりハマダラカが終宿主蚊に吸血された動物(幅広い脊椎動物)が中間宿主となりますね。

マラリアはおもに熱帯を旅行した人に見られる重篤になりうる感染症で、発熱・悪寒・震えといった症状が3-4日おきに繰り返し起こるのが特徴です。治療されないままでいると赤血球などがどんどん破壊され、様々な合併症が起こり致死的になりえます。現在は抗マラリア薬もあるのでほとんどの場合命は助かりますが、最近では薬剤耐性を持つ種も様々な地域で報告されているようです。そのため今は治療だけでなくマラリア予防の研究も進められており、2021年にはWHOからマラリアの予防用ワクチンを推奨すると発表されました。

#3 蚊を中間宿主とし、人間では象皮病を引き起こすフィラリア

Filariasis 01.png
パブリック・ドメイン, リンク

最後に紹介したいのが、人間で象皮病という病気を引き起こす寄生虫の一種フィラリアです。こちらは前の二つとは違い、線虫類というれっきとした多細胞動物の一種で細い糸状の体をしています。この寄生虫は魚以外の脊椎動物を終宿主とし、宿主のリンパ節の中で成長・有性生殖を行うのです。そのあとヌマカ属というグループの蚊に吸血された場合、寄生虫の幼虫が蚊の体内に入り、次の宿主へ移動する機会を伺います。蚊の体内では有性生殖を行わないので蚊が中間宿主です。

フィラリアはリンパ節で成長するため、宿主のリンパ節に炎症を起こしたり、リンパ管を詰まらせたりして体液の循環を滞らせてしまいます。その結果体液が体の一部分(主に下半身)に溜まってしまい、異常に肥大化する象皮病を引き起こしてしまうわけですね。

中間宿主とは寄生虫の有性生殖が行われない宿主で、主に発育や分裂のための宿主

今回は寄生虫の基本的な生態から、中間宿主・終宿主の定義、そして中間宿主を介する代表的な寄生虫たちを紹介しました。寄生動物のライフサイクルについて一つ、理解を深める手助けになれていれば幸いです。

実は寄生関係というのは興味深い進化経路をたどっている関係性の一種。利害関係がはっきりした関係性のため宿主は寄生されないように進化するし、寄生虫側もそれに負けじと宿主の体制をかいくぐるように進化する。寄生生物は嫌なものと毛嫌いされがちですが、その存在こそが生物多様性を生み出しているということもお忘れなきよう。

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理科生態系生物

中間宿主って何者?定義や中間宿主を介する寄生虫について生オリメダリストがわかりやすく解説

今回は「中間宿主」について見ていきます。
他の生物から栄養分などを搾取する動物を寄生虫と呼ぶのは多くの方がご存じだと思うが、その生態について詳しく調べたことはあるでしょうか。一部の寄生虫は一つの宿主だけではなく、二つ以上の宿主を行き来して繁殖する種類もいる。その場合、宿主は「中間宿主」と「終宿主」に分類できるんです。
今回はこのうちの「中間宿主」について詳しく見ていきます。説明してくれるのは生物学オリンピックメダリストのNoctilucaです。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

中間宿主の前に…寄生虫の生態について

中間宿主について見ていく前に、寄生虫の簡単な特徴を見ていきましょう。

寄生虫とは栄養やサービスを他の生物から持続的に搾取する動物の事

寄生虫(寄生動物とも)は宿主と呼ばれる別の動物の体表や体内に住み込み、その動物が摂取した栄養分などを一方的に奪って生活する動物のことを言います。

寄生者が宿主の体表にいるものを「外部寄生」、宿主の体内にいるものは「内部寄生」。さらに寄生者が細胞の中にいるものは「細胞内寄生」などと呼んで区別することができます。

宿主への影響

CSIRO ScienceImage 2357 Spotted alfalfa aphid being attacked by parasitic wasp.jpg
By CSIRO, CC BY 3.0, Link

寄生動物は多くの場合、栄養分を一方的に奪うだけで宿主を死に至らしめることは少ないです。これは宿主が死んでしまうと寄生虫自身にも不利益が及んでしまうからですね。世代を経るごとに寄生虫が宿主に与える被害は少なくなっていく傾向が見られるのです。

ですが一部の動物では、幼虫の成長の過程で宿主を殺してしまう寄生動物も存在します。例えば寄生バチというハチの種類では、宿主(ほかの昆虫の幼虫など)に卵を産み付け、卵から孵った幼虫は宿主の体組織を食べて成長。最終的に幼虫が宿主を食い尽くしてしまうことが多く、このような寄生の形態を「捕食寄生」と呼びます。

多くの寄生生物はいくつかの宿主を行き来する

多くの場合寄生虫は一種類の宿主だけにはとどまらず、複数の動物に寄生できる能力を持ちます。これによって繫殖の機会が増えるのはもちろん、多様性を増やす意味も持ちますね。

中間宿主の定義は?

寄生虫の大まかな特徴を学んだところで、今回のテーマの中間宿主について見ていきます。

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