今日はタンパク質の「変性」について見ていこう。タンパク質の変性はタンパク質の構造を変えてしまうが、実は身近にある加工食品にはタンパク質の変性を利用したものが多いぞ。この記事ではタンパク質の「変性」について、大学で生物学やタンパク質の機能について学んだライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で運動やや生物学について学び、生理学に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

タンパク質の「変性」ってなに?原理を解説!

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タンパク質の「変性」の言葉の意味は読んで字のごとく、タンパク質の性質が変化してしまうことです

タンパク質はいくつものアミノ酸からなりますが、直線的に連結した状態で存在するのではなく、折りたたまれたり、複合体を形成したりと複雑な立体構造を取った状態で存在することで安定化し、その機能を発揮しています。熱や酸・アルカリ、物理的な障害を受けるとこの高次構造が保てなくなってしまうので、その性質が変ってしまうのです。

タンパク質は変性するとどうなるの?

タンパク質は変性するとどうなるの?

image by Study-Z編集部

タンパク質は変性するとその立体構造が崩れ、物理的・化学的性質が失われてしまいます。そのため、多くの場合は失活と呼ばれるタンパク質が持つ本来の生理活性が失われた状態になるのです。

タンパク質が活性を失う以外にも性質が変ってしまったりします。例えば、お肉を冷凍保存していると味が落ちて美味しくなくってしまったことはありませんか?これは冷凍した際にお肉のタンパク質の構造が壊れてしまうことで起きているのです。

原因はなに?

タンパク質の変性が起こる原因としては加熱、凍結・融解、超音波、圧力、激しい攪拌などの物理的要因や、酸・アルカリ、尿素、有機溶媒、界面活性剤、重金属溶液などの化学的要因が挙げられます。これらによってタンパク質の水素結合や疎水相互作用が壊れることでその高次構造が壊れ、タンパク質が凝集したり、水に溶けやすくなったりするのです。

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変性したものは元に戻るの?

基本的には一度変性してしまったタンパク質は簡単には元には戻りません。変性してしまったものを元に戻す方法はいくつか報告されていますが、「化学薬品を加えたうえで、さらに物理的な圧力をかける」など、手間と時間がかかります。

例えば、アメリカの研究チームがゆで卵を生卵に戻す方法を2015年に発見していますが、ゆで卵に対して尿素を加えたのち、マイクロ流体薄膜を通すことで機械的圧力を加えるといった方法でした。原理として生卵に戻せますが、生卵として安心して食べれるかと言われると少し疑問は残ります。実際にこの研究成果を発見した学者たちは、ゆで卵を生卵にするために開発したわけではなく、遺伝子組み換えで作られた特殊な蛋白質などを再利用するために考案したようです。

タンパク質の変性の具体例

タンパク質が酸やアルカリ、熱などによって変性すると多くの場合、その構造が変化することで溶解しやすくなったり、凝集しやすくなったりします。タンパク質を原料にして作られる食品の多くが、タンパク質の変性の原理を利用して作られているのです

具体例1:ゆで卵

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ゆで卵は、生たまごに熱を加えることでタンパク質の変性が起こり、生卵が液体から固体に変化したものです。

これは熱による変性なので熱変性になります

加熱前の卵(生卵)は透明なゲル状の白身の中に丸い黄身がある状態ですが、加熱すると、白身は真っ白な固体に変化します。これは熱をかけることで、タンパク質を構成するアミノ酸の水素結合が切断されて形が変わり、凝集してしまったためです。

具体例2:チーズ

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チーズは牛乳に酸を加えることでタンパク質の変性を起こし、液体から固体に変化させています

酸による変性なので酸変性です

タンパク質はpHによって水への溶けやすさが変化します。極端な酸性やアルカリ性になると解離性のアミノ酸の荷電が変化することで、構造が崩れることで凝集するのです。チーズの場合、牛乳に酸(クエン酸)を加えることで、牛乳の中のカゼインを水に溶けにくくし、それが固まることでチーズになります。

チーズは酸変性を利用した例ですが、アルカリ変性を用いた加工食品の例はピータンです。

具体例3:かまぼこ

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かまぼこは、スケトウダラなどの魚肉をすりつぶして作られる加工食品ですが、かまぼこの作製には塩と熱によるタンパク質の変性が関わっています

まず、魚肉に食塩を加えますが、塩を加えることでタンパク質同士の静電的な相互作用を弱め、タンパク質を溶けやすくするのです。その結果、形成しやすくなり、これに熱を与えてタンパク質を凝集させることでかまぼこができ上がります。

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タンパク質が変性すると病気になる?

私たちの生物の体は多くのタンパク質から構成されています。人間の体の約60%は水分ですが残りの40%のうち、半分近くがタンパク質です。そのため一部の病気ではタンパク質が変性が原因になっています

例えば、ホルモンや酵素の役割を担うタンパク質が変性してしまうと、体の機能の調節が正常に行えなくなり病気の原因になってしまうのです。また、変性したタンパク質が体の中に残り続けるとストレスがかかり、細胞が破壊されることで病気の原因になる場合もあります。

具体例1 :アルツハイマー病

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アルツハイマー病は、脳の神経細胞が通常よりも早く減ってしまうことで認知機能が徐々に低下していく病気です。認知症の中でもっとも多いタイプの病気であり、患者数は人口10万人あたり20人程度といわれています。

β-アミロイドとタウの2つのタンパク質が脳内に蓄積することで神経細胞が障害されて減少することが原因ではないかと考えられていますが、これらタンパク質が蓄積する要因になるのがタンパク質の変性です。ストレスや生活習慣がその要因ではないかと言われています。

具体例2:パーキンソン病

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パーキンソン病もアルツハイマー病と同じく神経変性疾患の一つです。パーキンソン病では、体のふるえ、動作がゆっくりになる、筋肉がこわばり手足が動かしにくくなる、転びやすくなるなどの運動機能に症状が現れます。患者数は10万人に100人~150人くらいですが、60歳以上では100人に約1人です。

パーキンソン病も変性したタンパク質が凝集して溜まることが原因だと言われています。ドーパミンは運動機能に重要な役割を担う神経伝達物質です。脳内にα-シヌクレインというタンパク質が変性し、凝集するとドーパミンを分泌する神経細胞が破壊され、ドーパミンの分泌量が減少することが原因ではないかと言われています

タンパク質の構造は私達の生活に大事なもの!

私達の生活にとってタンパク質の構造は大事なものです。体の中のタンパク質は変性すると良くない方向に働き、病気になることがありますが、タンパク質の変性が起こる原因はストレスや生活習慣など様々だと言われています。体の中のタンパク質の変性を起こさないためにもバランスの取れた食事、適度な睡眠やストレスのためない生活を送ることが大事ですね。

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理科生物

タンパク質の「変性」ってどんな現象?元に戻らない?原理や原因・具体例を現役の研究者がわかりやすく解説

今日はタンパク質の「変性」について見ていこう。タンパク質の変性はタンパク質の構造を変えてしまうが、実は身近にある加工食品にはタンパク質の変性を利用したものが多いぞ。この記事ではタンパク質の「変性」について、大学で生物学やタンパク質の機能について学んだライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で運動やや生物学について学び、生理学に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

タンパク質の「変性」ってなに?原理を解説!

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タンパク質の「変性」の言葉の意味は読んで字のごとく、タンパク質の性質が変化してしまうことです

タンパク質はいくつものアミノ酸からなりますが、直線的に連結した状態で存在するのではなく、折りたたまれたり、複合体を形成したりと複雑な立体構造を取った状態で存在することで安定化し、その機能を発揮しています。熱や酸・アルカリ、物理的な障害を受けるとこの高次構造が保てなくなってしまうので、その性質が変ってしまうのです。

タンパク質は変性するとどうなるの?

タンパク質は変性するとどうなるの?

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タンパク質は変性するとその立体構造が崩れ、物理的・化学的性質が失われてしまいます。そのため、多くの場合は失活と呼ばれるタンパク質が持つ本来の生理活性が失われた状態になるのです。

タンパク質が活性を失う以外にも性質が変ってしまったりします。例えば、お肉を冷凍保存していると味が落ちて美味しくなくってしまったことはありませんか?これは冷凍した際にお肉のタンパク質の構造が壊れてしまうことで起きているのです。

原因はなに?

タンパク質の変性が起こる原因としては加熱、凍結・融解、超音波、圧力、激しい攪拌などの物理的要因や、酸・アルカリ、尿素、有機溶媒、界面活性剤、重金属溶液などの化学的要因が挙げられます。これらによってタンパク質の水素結合や疎水相互作用が壊れることでその高次構造が壊れ、タンパク質が凝集したり、水に溶けやすくなったりするのです。

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