今日は「自然淘汰」について見ていこう。自然淘汰は生存のために必要なものは残り、要らないものは排除される現象です。大学で生物学を学び、現在も生物学に精通した研究者として活躍するライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で生物学を学び、現在も研究者として活動を続け多くの研究成果を出すべく日々奮闘している。

自然淘汰とは何かザックリと解説

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John Gould (14.Sep.1804 - 3.Feb.1881) - From "Voyage of the Beagle" as found on [1] and [2], パブリック・ドメイン, リンクによる

自然淘汰とは、生物が生存に有利な形質を進化させる現象を言います

自然淘汰では生態的条件や環境などによりよく適応できるものは生存を続け、そうでない劣勢のものは自然に滅びていくと考えられています。言い換えると生存するにあたって劣悪なもの、不要なものはなくなり、優良なもの、役に立つものだけが自然に残るということです。自然淘汰によって選別された生物が、環境に適した生態、形態を有することを適応と言います。なぜこのようなことが起こるかと言うと、生き物の生育環境には限りがあるからです。自然環境が生き物を形質(特徴)によって篩い分けをしているので、自然選択とも言います。

自然淘汰に影響を与える選択圧ってなに?

選択圧とは生存に影響を与える自然環境の力のことです。

生物は常に様々な選択圧に晒されていますが、生息する環境が異なれば異なる選択圧を受けます。また、一つの性質に対して複数の選択圧が働くこともあるのです。

例として砂漠に住む生き物を挙げると、体の色を砂漠の色と同じにすることで保護色になり外敵から見つかりにくくなります。また、夜行性になることで暑い日中に行動しなくてよくなるのです。このように環境に適応することで生き物はその環境で生存しやすくなります。

自然淘汰は誰が発見したの?

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Maull&Polyblank - Likely from [1] John van Wyhe describes it as being taken around 1855 by Maull and Polyblank for the Literary and Scientific Portrait Club, about a year after Darwin completed his barnacle monographs and began working full-time on his species theory. On 27 May 1855 Darwin wrote to his friend Joseph Hooker about this portrait: "if I really have as bad an expression, as my photograph gives me, how I can have one single friend is surprising.", パブリック・ドメイン, リンクによる

自然淘汰を体系化したのはチャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスです

ダーウィンはロンドンでハトの品種改良の観察から、ハトの様々な品種が多様な形質を持つことに気づきました。生物は限られた資源を生存のために争うことから、「生物の形質には生存と繁殖に何らかの有利な差がある。」と考えました。これを体系化して発表されたのが自然選択説(自然淘汰説)です。

自然淘汰の具体例を紹介

自然淘汰は生育環境に対応するために生き物がとる生存戦略です。そのため、様々な生物で進化や世代を重ねていくごとに獲得したものや、失われたものがあります。

\次のページで「具体例1:キリン」を解説!/

具体例1:キリン

image by iStockphoto

多くの人が知っている自然淘汰の最も有名な例はキリンの首です。キリンは首が長くなることで、高いところの葉を食べれるようになり、生きていくのに必要なエサを効率よく採れるようになります。そのため、短い首は生存に不利なので淘汰されたのです

首が伸びた過程には首を長くしない選択圧もかかっています。首を支えるには大きな体が必要になり、体が大きくなるので血液を送るために強靱な心臓が必要になるので多くのエサが必要になるので生存には不利です。これらは首を伸ばさないための選択圧になります。双方向の選択圧のバランスをとって今の首の長さに落ち着いたのです。

具体例2:人間

人間も進化の過程で様々な機能が自然淘汰によって失われています。例えば、耳を動かす能力、尻尾、4足歩行の能力などで、これらは人間として生活していく上で不必要であるために失われていったのです。

近年、PLOS Biologyに自然淘汰に関わる面白い研究成果が発表されました。その研究によると、ヘビースモーカーはいずれ消えるのではないかと推察されています。論文によると、アメリカとイギリスで21万人のゲノム解析を行ったところ、重度の喫煙癖をもつ中高年に見られるCHRNA3遺伝子の変異は、それが存在しないほど長生きする可能性が高いことがわかりました。つまり、ヘビースモーカーになりやすい遺伝子は自然淘汰によって消えつつあるということを示しているのです。

具体例3: ウイルスや細菌

image by iStockphoto

ウイルスや細菌の薬剤抵抗性の獲得や強毒化、感染力の増大なども自然淘汰によって獲得されたものになります

例えば近年、流行している新型コロナウイルスですが、「ウイルスが変異して感染力が上がった、強毒化して」といったニュースを聞いたことがあるのではないでしょうか。ウイルスは生存のために宿主に感染して増殖する必要があります。しかし、ウイルスが増えすぎると感染できる宿主(まだ感染してない人)が減ってしまうので、効率よく感染するために感染力を強くする必要があるのです。また、宿主がワクチン接種なので抗体を持っている場合、ウイルスの毒性が弱いと免疫系によって駆逐されてしまうので強毒化する必要があります。こうして、感染力が高まったり、強毒化したウイルスが誕生するのです。しかし、ここでは強毒化しすぎない淘汰圧もかかっています。強毒化しすぎると、増殖する前に宿主(感染者)が死んでしまい、ウイルス自身も増殖できなくなってしまうからです。

自然淘汰と性淘汰の違いについて解説

自然淘汰と性淘汰の違いについて解説

image by Study-Z編集部

性淘汰(性選択、雌雄淘汰)は自然淘汰に似ているようで異なる遺伝的な考え方です

自然選択は種に対してかかるので、同じ種の中では同じような自然淘汰がかかります。性淘汰も広義には自然淘汰に含まれますが、主にオスとメスの社会関係に由来する現象であることや、オスとメスに異なった淘汰圧が加わることなどが自然淘汰と異なる点です。

性淘汰とは

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パブリック・ドメイン, リンク

性淘汰は一方の性(たいていの場合は雄になります)に特有の形質を発達させる淘汰のことです。クジャクの羽やライオンのたてがみ,グッピーの色などがその例になります。性淘汰によって発達した特徴は異性に好かれるのには有利に働きますが、その特徴は自然界で生き残るのに有利とは限りません。そのため、性淘汰と自然淘汰のつり合いが取れる範囲内で生物の進化が起こっていると考えられています

例えばグッピーの雄は、性淘汰によって通して美しい色や大きな尾びれを獲得しますが、これは雌に好まれる、目立つので選ばれやすくなる。といった理由から繁殖では有利に働きます。一方で外敵から見つかりやすくなり、生存上では不利に働いてしまうのです。なので、自然淘汰の観点からすると美しい色や大きな尾びれ本来は排除に働く因子になります。なので、現在のグッピーの雄の美しい色や大きな尾びれは性淘汰と自然淘汰のつり合いが取れた状態なのです。

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性淘汰は誰が発見したの?

1871年,ダーウィンは著書『人間の進化と性淘汰』の中で性淘汰について言及しました。彼はクジャクのオスの尾羽に着目し、「派手な尾羽は通常の生活には外敵に見つかりやすく不利であるが、メスに対するアピールとしては有用であり,尾羽の長いオスの方がより多くの子孫を残せている。」といった、観察より性淘汰の考えを導き出したのです。

この性淘汰には疑問が残り、その後「ハンディキャップ仮説」と「ランナウェイ仮説」が提唱されました。
「ハンディキャップ仮説」はハンディキャップが大きければ大きいほど力のあるオスとしてメスに選ばれやすくなるという考えです。
もう一つの「ランナウェイ仮説」では遺伝によってメスの好みとオスの外見的特徴が極端に偏っていくという考えで、メスに好まれる外見は,オスの強さや環境への適性などとは関係ないと考えます。

性淘汰とこれら仮説に答えはないですが、少なくともクジャクの尾羽が短くなる時は、長い尾羽を持つことによる生存へのデメリットが、メスを得られるメリットよりも大きくなった時です。

自然淘汰は生物が生き残るために大事な戦略

自然淘汰は生物が生き残るために大事な戦略です。生物が現在の形質を持つようになったのは様々な自然淘汰の結果であり、言うなればその生物が生存していくための最善な形と言えます。色んな生物が持つ形質が獲得された背景を調べてみると、その生物が生きてきた背景がわかるので面白いかもしれないですよ!

いらすと使用元:いらすとや

" /> 「自然淘汰」とは何?使わないものはなくなる?遺伝のメカニズム・具体例・「性淘汰」との違いも含めて現役の研究者がわかりやすく解説! – Study-Z
理科生き物・植物生物生物の分類・進化

「自然淘汰」とは何?使わないものはなくなる?遺伝のメカニズム・具体例・「性淘汰」との違いも含めて現役の研究者がわかりやすく解説!

今日は「自然淘汰」について見ていこう。自然淘汰は生存のために必要なものは残り、要らないものは排除される現象です。大学で生物学を学び、現在も生物学に精通した研究者として活躍するライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学で生物学を学び、現在も研究者として活動を続け多くの研究成果を出すべく日々奮闘している。

自然淘汰とは何かザックリと解説

Darwin's finches.jpeg
John Gould (14.Sep.1804 – 3.Feb.1881) – From “Voyage of the Beagle” as found on [1] and [2], パブリック・ドメイン, リンクによる

自然淘汰とは、生物が生存に有利な形質を進化させる現象を言います

自然淘汰では生態的条件や環境などによりよく適応できるものは生存を続け、そうでない劣勢のものは自然に滅びていくと考えられています。言い換えると生存するにあたって劣悪なもの、不要なものはなくなり、優良なもの、役に立つものだけが自然に残るということです。自然淘汰によって選別された生物が、環境に適した生態、形態を有することを適応と言います。なぜこのようなことが起こるかと言うと、生き物の生育環境には限りがあるからです。自然環境が生き物を形質(特徴)によって篩い分けをしているので、自然選択とも言います。

自然淘汰に影響を与える選択圧ってなに?

選択圧とは生存に影響を与える自然環境の力のことです。

生物は常に様々な選択圧に晒されていますが、生息する環境が異なれば異なる選択圧を受けます。また、一つの性質に対して複数の選択圧が働くこともあるのです。

例として砂漠に住む生き物を挙げると、体の色を砂漠の色と同じにすることで保護色になり外敵から見つかりにくくなります。また、夜行性になることで暑い日中に行動しなくてよくなるのです。このように環境に適応することで生き物はその環境で生存しやすくなります。

自然淘汰は誰が発見したの?

Charles Darwin.jpg
Maull&Polyblank – Likely from [1] John van Wyhe describes it as being taken around 1855 by Maull and Polyblank for the Literary and Scientific Portrait Club, about a year after Darwin completed his barnacle monographs and began working full-time on his species theory. On 27 May 1855 Darwin wrote to his friend Joseph Hooker about this portrait: “if I really have as bad an expression, as my photograph gives me, how I can have one single friend is surprising.”, パブリック・ドメイン, リンクによる

自然淘汰を体系化したのはチャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスです

ダーウィンはロンドンでハトの品種改良の観察から、ハトの様々な品種が多様な形質を持つことに気づきました。生物は限られた資源を生存のために争うことから、「生物の形質には生存と繁殖に何らかの有利な差がある。」と考えました。これを体系化して発表されたのが自然選択説(自然淘汰説)です。

自然淘汰の具体例を紹介

自然淘汰は生育環境に対応するために生き物がとる生存戦略です。そのため、様々な生物で進化や世代を重ねていくごとに獲得したものや、失われたものがあります。

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