今日は転移酵素について見ていこう。酵素の7種類の分類のうちの一つが転移酵素です。英語ではトランスフェラーゼと呼ばれるぞ。大学院で生理学について研究し、体の機能に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で運動について学び、生理学に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

転移酵素ってどんな酵素?ざっくりと解説!

image by iStockphoto

転移酵素はトランスフェラーゼ(transferase)とも呼ばれ、2個の基質間で一方の基質からもう一方の基質へ、化合物のある基(原子団)を転移させるための酵素です。

その反応は A-X+B⇔A+B-X のように書くことができ、矢印の反応を触媒しているのが転移酵素になります。

私たちの体には3000以上の酵素がありますが、これらはその役割によって7種類に分類され、転移酵素はその酵素分類の一つです。転移酵素は転移基(移動する原子団)によってさらに分類できます。アミノトランスフェラーゼ、ホスホトランスキナーゼ、アシルトランスフェラーゼ、メチルトランスフェラーゼなどといった感じに分類されているのです。

転移酵素の例1:アミノ基転移酵素

Alanine transaminase reaction.PNG
Akane700 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

アミノ基転移酵素はアミノトランスフェラーゼと呼ばれ、アミノ酸のアミノ基を他のアミノ酸に移動させて別のアミノ酸を作り出します。血液検査の際によく測定される、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)はその例です。これらの値の上昇は肝疾患や心疾患の指標になります。

上の画像はALTの反応で、グルタミン酸とピルビン酸の間で起こる反応です。

この時、グルタミン酸のアミノ基がピルビン酸に渡され、ピルビン酸はアラニンに変化し、アミノ基を失ったグルタミン酸はα-ケトグルタル酸になります。このALTは全身に存在しますが主に肝臓に存在しており、肝臓が傷つくと血中に漏れ出るので、血液中のALT値の上昇は肝疾患の診断に繋がるのです。

転移酵素の例2:リン酸基転移酵素

Ch4 kinases.jpg
NIGMS - http://publications.nigms.nih.gov/medbydesign/images/ch4_kinases.jpg , Medicines by Design, National Institute of General Medical Sciences, パブリック・ドメイン, リンクによる

リン酸基転移酵素はホスホトランスフェラーゼやキナーゼ・カイネース (kinase)とも呼ばれ、基質に対してATPなどのリン酸基を結合させるための酵素です。タンパク質にリン酸基を付加するものをプロテインキナーゼ、クレアチンに付加するものをクレアチンキナーゼ、ピルビン酸に付加するものをピルビン酸キナーゼと呼びます。

上の図はプロテインキナーゼの反応です。

基質となるタンパク質にATPのリン酸基を付加し、リン酸化タンパク質を作ります。リン酸化タンパク質は細胞内のシグナル伝達(命令)を伝える役割をもつのでとても重要な分子です。

そもそも酵素ってどんなものなの?ざっくりと解説!

私たちの体の中では、さまざまな化学反応が起こります。それぞれの化学反応を引き起こすための触媒として働くタンパク質が酵素です。酵素は呼吸、代謝、消化、排泄など、私たちの生命活動に関与しています。そのため、酵素は生物にとっては欠かすことのできないものです

酵素は限られた環境条件(温度やpH)の下でしか働けません。多くの酵素はヒトや動物の体内で働くために、35~40℃の温度が酵素が最もよ働ける温度です。低体温時では酵素の働きは弱まるため、体温が低い人は疲れやすかったり、体調を崩しやすいといった健康上の問題が起起きやすいのはこのためだと言われています。

また、ヒトの体液のpHは7.35~7.45なので、多くの酵素は中性付近のpHで活性が高いです。胃の中に存在する酵素は例外でその活性を発揮するための至適pHは低くくなっています。これは胃の中は胃酸などの影響で酸性条件下(pHが低い状態)になっているためです。

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酵素の基質特異性ってなに?

それぞれの酵素は、特定の基質に対しての特定の反応しか触媒することができません。これを酵素の基質特異性(substrate supecifiity) と呼びます。例えるならば鍵と鍵穴の関係です。そのため、アミノ酸を付加する酵素はアミノ酸しか付加できません。また、リン酸基を入れる酵素はリン酸基の結合しか触媒できないですし、分解する酵素はその分解反応しか触媒できないのです。ある種の酵素は基質と結合し、基質の構造を変化させ、その活性を調節しています。

酵素って失活するの?

酵素は温度、pH、塩濃度、溶媒などが至適な条件でなくなると失活します。酵素が活性を発揮するにはタンパク質の立体構造が重要です。至適条件から外れた熱、pH、塩濃度、溶媒などは立体構造に影響を与え、構造を変化させてしまうことでタンパク質は活性を失ってしまいます。

一般的に酵素は、37℃付近が至適温度です。しかし。48℃以上の温度になると熱で壊れはじめ、70℃を超える熱が加わると完全に失活してしまいます。

体内の酵素の量には限りがある?

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体内で作られる酵素の量には上限があります。例えば、暴飲暴食などで消化酵素を浪費すると、消化酵素の量が減ってしまい、不足し、病気になったり寿命が短くなったりする原因になると考えられています。

そのため、酵素を多く含む食物を取ったり、酵素を浪費しない食生活を心がけることが健康維持のために重要です

酵素はどうやって分類されているの?

酵素はどうやって分類されているの?

image by Study-Z編集部

ヒトの体内には、約5000種類もの酵素があると言われていますが、酵素はその触媒する反応の型に基づいて7つのグループに分類されます

酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)、転移酵素(トランスフェラーゼ)、加水分解酵素(ヒドラーゼ)、脱離酵素(リアーゼ)、異性化酵素(イソメラーゼ)、合成酵素(リガーゼ)、輸送酵素(トランスロケース)の7種類です。

この分類は国際生化学分子生物学連合の命名法委員会(NC-IUBMB)が決めていますが、1958年の設立当初から近年まで、分類は6種類でした。2019年6月に見直しが行われ、新たに輸送酵素が加えられ7種類になったのです。

具体例1:酸化還元酵素について解説

酸化還元酵素は酸化還元反応を触媒する酵素です。生体内には600種類近くの酸化還元酵素があると言われています。酸化還元反応では、基質に対して酸素を付加する酸化の反応と、酸素を取られる別の基質の還元のプロセスが並行して起こるのですが、酸化還元酵素はこのどちらの反応も触媒しているのです。

\次のページで「具体例2:加水分解酵素について解説」を解説!/

具体例2:加水分解酵素について解説

加水分解酵素は加水分解反応を触媒する酵素です。主には基質と水を反応させて、基質を分解します。消化酵素の多くは加水分解酵素です。

例えば、エステラーゼはエステル結合を、グリコシダーゼはグリコシド結合を、ペプチダーゼはペプチド結合を加水分解する反応を触媒します。

酵素を浪費しないような生活を送って健康に暮らそう!

体の中には約5000種類もの酵素があり、その機能は様々です。残念ながら、体内で作られる酵素の量には上限があります。消化酵素(主に加水分解酵素)は暴飲暴食によって減少し、不足すると病気になったり寿命が短くなったりする原因になると言われていますが、転移酵素も同じです。そのため、健康に生活してくために酵素を多く含む食物を取ったり、酵素を浪費しない生活を心がけましょう!

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タンパク質と生物体の機能理科生き物・植物生物

体にとって重要な酵素である「転移酵素」ってどんな酵素?どんなものが含まれるの?現役の研究者がわかりやすく解説!

今日は転移酵素について見ていこう。酵素の7種類の分類のうちの一つが転移酵素です。英語ではトランスフェラーゼと呼ばれるぞ。大学院で生理学について研究し、体の機能に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で運動について学び、生理学に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

転移酵素ってどんな酵素?ざっくりと解説!

image by iStockphoto

転移酵素はトランスフェラーゼ(transferase)とも呼ばれ、2個の基質間で一方の基質からもう一方の基質へ、化合物のある基(原子団)を転移させるための酵素です。

その反応は A-X+B⇔A+B-X のように書くことができ、矢印の反応を触媒しているのが転移酵素になります。

私たちの体には3000以上の酵素がありますが、これらはその役割によって7種類に分類され、転移酵素はその酵素分類の一つです。転移酵素は転移基(移動する原子団)によってさらに分類できます。アミノトランスフェラーゼ、ホスホトランスキナーゼ、アシルトランスフェラーゼ、メチルトランスフェラーゼなどといった感じに分類されているのです。

転移酵素の例1:アミノ基転移酵素

Alanine transaminase reaction.PNG
Akane700 – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

アミノ基転移酵素はアミノトランスフェラーゼと呼ばれ、アミノ酸のアミノ基を他のアミノ酸に移動させて別のアミノ酸を作り出します。血液検査の際によく測定される、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)はその例です。これらの値の上昇は肝疾患や心疾患の指標になります。

上の画像はALTの反応で、グルタミン酸とピルビン酸の間で起こる反応です。

この時、グルタミン酸のアミノ基がピルビン酸に渡され、ピルビン酸はアラニンに変化し、アミノ基を失ったグルタミン酸はα-ケトグルタル酸になります。このALTは全身に存在しますが主に肝臓に存在しており、肝臓が傷つくと血中に漏れ出るので、血液中のALT値の上昇は肝疾患の診断に繋がるのです。

転移酵素の例2:リン酸基転移酵素

Ch4 kinases.jpg
NIGMS – http://publications.nigms.nih.gov/medbydesign/images/ch4_kinases.jpg , Medicines by Design, National Institute of General Medical Sciences, パブリック・ドメイン, リンクによる

リン酸基転移酵素はホスホトランスフェラーゼやキナーゼ・カイネース (kinase)とも呼ばれ、基質に対してATPなどのリン酸基を結合させるための酵素です。タンパク質にリン酸基を付加するものをプロテインキナーゼ、クレアチンに付加するものをクレアチンキナーゼ、ピルビン酸に付加するものをピルビン酸キナーゼと呼びます。

上の図はプロテインキナーゼの反応です。

基質となるタンパク質にATPのリン酸基を付加し、リン酸化タンパク質を作ります。リン酸化タンパク質は細胞内のシグナル伝達(命令)を伝える役割をもつのでとても重要な分子です。

そもそも酵素ってどんなものなの?ざっくりと解説!

私たちの体の中では、さまざまな化学反応が起こります。それぞれの化学反応を引き起こすための触媒として働くタンパク質が酵素です。酵素は呼吸、代謝、消化、排泄など、私たちの生命活動に関与しています。そのため、酵素は生物にとっては欠かすことのできないものです

酵素は限られた環境条件(温度やpH)の下でしか働けません。多くの酵素はヒトや動物の体内で働くために、35~40℃の温度が酵素が最もよ働ける温度です。低体温時では酵素の働きは弱まるため、体温が低い人は疲れやすかったり、体調を崩しやすいといった健康上の問題が起起きやすいのはこのためだと言われています。

また、ヒトの体液のpHは7.35~7.45なので、多くの酵素は中性付近のpHで活性が高いです。胃の中に存在する酵素は例外でその活性を発揮するための至適pHは低くくなっています。これは胃の中は胃酸などの影響で酸性条件下(pHが低い状態)になっているためです。

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