今回のテーマは潮解です。

潮解(ちょうかい)とは簡単に言うと「溶解しやすい固体が空気中の水分に溶ける」現象のことです。つまり潮解性がある固体が空気に触れると、固体が徐々に空気中の水分に溶けて劣化してしまうんです。化学実験をするときには試薬ごとにその特性によって取り扱いに注意する必要がある。潮解に気を付けなくてはいいけない試薬もたくさんある。

今回は潮解という現象と、それに気を付けなくてはいけない試薬を紹介する。担当は高校時代、化学部の顧問に一番注意されたのは水酸化ナトリウムの取り扱いだというたかはしふみかです。なぜ注意されたかは記事を読むとわかるぞ。

ライター/たかはし ふみか

高校は化学部、大学は工学部化学系の科学館職員。理科教育にかかわる仕事がしたかったので、科学館の仕事が大好き。

潮解とはどんな現象?

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そもそも潮解とはどんな現象でしょうか?コトバンクを調べると次のように書かれています。

固体が大気中の水蒸気を吸って溶解する現象。その固体の飽和水溶液の水蒸気圧が,それと接触する大気の水蒸気の分圧より小さい場合に起こる。

これは,大気中から水分が固体表面とそこにある飽和溶液中に移り,溶液の濃度を低下させるためである。

水酸化ナトリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウムなどで顕著。

簡単に説明すると水に溶けやすい固体(結晶)が空気中の水分に溶けることです。その固体が飽和水溶液(それ以上その溶質を溶かすことのできない状態の水溶液)の水蒸気圧が、空気中の水蒸気圧より小さい時におこります。潮解するのは水に溶けやすい性質の物質です。

ここでおさらい、飽和とは?

ここで飽和についておさらいします。例えば水に食塩(NaCl)を入れてかき混ぜるとどんどん溶けますね。しかし加えた食塩の量がある一定量を超したとことで、それ以上溶けなくなります。これが飽和という状態です。そして飽和した状態の溶液を飽和水溶液と言います。

飽和したらもうそれ以上溶けないのでしょうか。飽和する量は温度によって異なるため、水溶液を温めると溶ける量は増えます。反対に、飽和した溶液を冷やすと溶けていた物質(溶質)が溶けきれずに析出するのです。飽和する量は物質によって異なります。ただし、食塩の溶解度は温度によっての変化が小さいので、あまり溶解度や析出の実験には向いていません。ではどんな試薬なら実験に向いているのか、ということはぜひ自分で溶解度を調べてみてくださいね。

飽和についてはこちらの記事がおすすめです。

潮解と注意、風解

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潮解と一緒に教科書に登場する用語が風解です。

\次のページで「水和物って何?」を解説!/

結晶水をもつ結晶または水和物が空気中でその水分を失う現象。

多くは結晶格子が破壊されて粉末化する。

潮解が空気中の水分を吸うのに対し、風解は水分を失う現象なのですね。風解する物質として炭酸ナトリウム10水和物(Na2CO3・10H2O)、硫酸銅(II) 5水和物(CuSO4・5H2O))があげられます。

炭酸ナトリウム10水和物 (Na2CO3•10H2O)

 炭酸ナトリウム水溶液を32℃以下で結晶化するとできる

 10水和物は風解すると1水和物となる

硫酸銅(II) の5水和物(CuSO4•5H2O))

 無水物は白色の粉末だが、水和物の5水和物は青色

 無水物の水溶液は青色となる

硫酸カリウムアルミニウム12水和物(AlK(SO4)2•12H2O)

 通称ミョウバン

 染物の媒染剤として、食品の添加物などとして利用

水和物って何?

ところで先ほどからたびたび登場している水和とは何でしょうか?物質の中に含まれた水分子のことを水和水と言い、水和水を含む物質を水和物と言います。

潮解するもの

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それでは潮解するのはどんな物質か見てみましょう。

\次のページで「アルカリ性と言えばこれ、水酸化ナトリウム (NaOH)」を解説!/

アルカリ性と言えばこれ、水酸化ナトリウム (NaOH)

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アルカリ性の試薬と言えば水酸化ナトリウムを思い浮かべる人が多いでしょう。水酸化ナトリウムは強アルカリで、苛性ソーダとも呼ばれています。

水酸化ナトリウムは本来常温では無色無臭の固体です。実験用の試薬としてみるものは白色の粒状やフレーク状となっています。これを空気と触れる状態で放置するとどんどん空気中の水分を吸ってしまい、潮解してしまうのです。それどころか容器から出して空気と触れた時点でどんどん劣化は始まります。そのため、一度容器から出した水酸化ナトリウムをそのまま戻してはいけません。

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水酸化ナトリウムは空気中の水分を吸って潮解します。ではこれを放っておくとどうなるのでしょうか。まず潮解して溶け始めた水酸化ナトリウムは二酸化炭素を吸収します。すると炭酸ナトリウムの10水和物となるのです。さらにこれを放っておくと今度は風解し、炭酸ナトリウム1水和物となります。

実は水酸化ナトリウム以上に強い、水酸化カリウム(KOH)

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水酸化ナトリウム以上に強アルカリの水酸化カリウム。タンパク質に対して腐食性があり、大変危険な物質です。

配管詰まりを解消する洗浄液や、液体せっけんの原料になっています。

すっぱ~いクエン酸 (C6H8O7)

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クエン酸は常温では白色の固体です。クエン酸を含むものとしてはレモンや梅干し、酢などがあげられます。どれもすっぱそうですね。含まれるものからイメージできるように、クエン酸の水溶液は弱酸性を示します。そのため、クエン酸を使えば家でも簡単に酸とアルカリの実験をすることができますよ。

また近年では掃除に使っているひともいるでしょう。クエン酸は水垢、石鹸カスの汚れを落とすのに適しています。

クエン酸についてはこちらの記事をどうぞ。

灰汁の正体炭酸カリウム (K2CO3)

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水に溶解しやすい物質で、100gの水になんと112gも溶けます。無色の結晶で、アルコールには溶けづらいものの水に溶ける安い物質で、水溶液は強アルカリ性です。炭酸カリウムは水酸化カリウム水溶液に二酸化炭素を吹き込んで作ることができます。

 

豆腐作りに欠かせない、塩化マグネシウム(MgCl2)

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パブリック・ドメイン, リンク

通常塩化マグネシウムというと6水和物のことを指します。水やエタノールに溶けやすい塩化マグネシウム。この6水和物は水酸化マグネシウムを塩酸で中和させ、濃縮して生成されます。

豆腐作りに欠かせない凝固剤、にがりの主成分がこの塩化マグネシウムです。市販されている無調整の豆乳ににがりを加えて加熱すると、豆腐になります。これはどういうメカニズムでしょうか。

豆乳は親水コロイドでそこに凝固剤であるにがりを加えると塩析が起こり、豆腐が沈殿します。塩析とは多量の電解質を加えることで親水コロイドから水分子を取り除いて沈殿させることです。ちなみに塩化カルシウムも凝固剤の役割を果たせるため、豆腐を作ることができます。

凝固剤についてはこちらをどうぞ。

\次のページで「乾燥剤、塩化カルシウム (CaCl2)」を解説!/

乾燥剤、塩化カルシウム (CaCl2)

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Picture taken by User:Walkerma in early 2005., パブリック・ドメイン, リンクによる

塩化カルシウムは水を吸収する性質があり、なんと100mlに74.5gも溶けます。この塩化カルシウムは除湿剤や乾燥剤としても使われている物質です。市販の除湿剤の成分を見てみてください。塩化カルシウムが書かれている製品もあるのです。ところで、塩化カルシウムの除湿剤は使うと水分を吸湿して塩化カルシウム水溶液となります。この塩化カルシウム水溶液は強いアルカリ性のため、使った後の廃液の処理には注意が必要です。

塩化カルシウムは除湿剤の他に融雪剤としても使われています。融雪剤の化学はこちらの記事をどうぞ。

試薬の取り扱い時は潮解に注意

潮解しやすい性質の水酸化ナトリウムやクエン酸。空気中の水分を吸って劣化してしまうため、取り扱うときには注意が必要です。特に水酸化ナトリウムは実験で使う機会も多く、取り扱うときは素早く蓋の開け閉めをする必要があります。

潮解と間違いやすいのが風解。こちらは反対に結晶内の水分が失われる現象です。

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化学理科

潮解って何?どんな現象?何が潮解するの?化学系科学館職員がわかりやすく解説

今回のテーマは潮解です。

潮解(ちょうかい)とは簡単に言うと「溶解しやすい固体が空気中の水分に溶ける」現象のことです。つまり潮解性がある固体が空気に触れると、固体が徐々に空気中の水分に溶けて劣化してしまうんです。化学実験をするときには試薬ごとにその特性によって取り扱いに注意する必要がある。潮解に気を付けなくてはいいけない試薬もたくさんある。

今回は潮解という現象と、それに気を付けなくてはいけない試薬を紹介する。担当は高校時代、化学部の顧問に一番注意されたのは水酸化ナトリウムの取り扱いだというたかはしふみかです。なぜ注意されたかは記事を読むとわかるぞ。

ライター/たかはし ふみか

高校は化学部、大学は工学部化学系の科学館職員。理科教育にかかわる仕事がしたかったので、科学館の仕事が大好き。

潮解とはどんな現象?

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そもそも潮解とはどんな現象でしょうか?コトバンクを調べると次のように書かれています。

固体が大気中の水蒸気を吸って溶解する現象。その固体の飽和水溶液の水蒸気圧が,それと接触する大気の水蒸気の分圧より小さい場合に起こる。

これは,大気中から水分が固体表面とそこにある飽和溶液中に移り,溶液の濃度を低下させるためである。

水酸化ナトリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウムなどで顕著。

簡単に説明すると水に溶けやすい固体(結晶)が空気中の水分に溶けることです。その固体が飽和水溶液(それ以上その溶質を溶かすことのできない状態の水溶液)の水蒸気圧が、空気中の水蒸気圧より小さい時におこります。潮解するのは水に溶けやすい性質の物質です。

ここでおさらい、飽和とは?

ここで飽和についておさらいします。例えば水に食塩(NaCl)を入れてかき混ぜるとどんどん溶けますね。しかし加えた食塩の量がある一定量を超したとことで、それ以上溶けなくなります。これが飽和という状態です。そして飽和した状態の溶液を飽和水溶液と言います。

飽和したらもうそれ以上溶けないのでしょうか。飽和する量は温度によって異なるため、水溶液を温めると溶ける量は増えます。反対に、飽和した溶液を冷やすと溶けていた物質(溶質)が溶けきれずに析出するのです。飽和する量は物質によって異なります。ただし、食塩の溶解度は温度によっての変化が小さいので、あまり溶解度や析出の実験には向いていません。ではどんな試薬なら実験に向いているのか、ということはぜひ自分で溶解度を調べてみてくださいね。

飽和についてはこちらの記事がおすすめです。

潮解と注意、風解

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潮解と一緒に教科書に登場する用語が風解です。

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