今回は「タイドプール」をテーマに学習していこう。

海へ遊びに行ったとき、タイドプールは子どもが楽しむのにぴったりの場所です。自身がタイドプールで遊んだ経験があるやつもいるでしょうな。ですが、タイドプールはレジャーに最適なだけでなく、生態系という観点から見ても重要な場所なんです。生物学的な観点で、タイドプールについて今一度考えてみよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

タイドプールとは?

タイドプール(Tide pool)とは、海の潮が引いたとき(干潮時)に岩場にできる”水たまり”のことです。日本語では潮だまりなどといわれることもあります。

ポイントは、「干潮時にできる」という点です。いつでも見られるわけではなく、潮が満ちている(満潮)状態に近いときには、タイドプールはなくなってしまいます。タイドプールができる場所は、海水の下に完全に沈んでいるのですから。

image by Study-Z編集部

じつは、これがタイドプールという特殊な環境を考えるうえで忘れてはいけない条件なのです。のちほど解説していきますので、頭の隅に覚えておいてくださいね。

タイドプールは太平洋側の方ができやすい?

タイドプールができるためには、潮の満ち引きによる潮位の変化(干満差)が必要です。潮位というのは、海面の高さのことだと思ってください。

常に海底に沈みっぱなしの場所は、タイドプールとは呼べません。

海岸の陸上に水たまりのうち、海中に沈まないまでも、潮がかかるような場所はタイドプールとよばれることもありますが…やはり潮位の変化で海中に沈んでいる時間がある場所こそ、タイドプールらしいタイドプールといえるでしょう。

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さて、みなさんは潮の満ち引きにも地域差があるのはご存じですか?日本を取り囲む海でいうと、太平洋側は干満差が大きく、日本海側はそれより小さい傾向があります。

太平洋側の海岸で2mほどの潮位の差があるときでも、日本海側では30cm程度しか変化しなかったりするんですよ。

\次のページで「砂浜よりも岩場(磯)!」を解説!/

そうですね。筆者は日本海側の浜辺の出身なのですが、日本海というのは干満差が太平洋側より大きくないため、昔は潮の満ち引きという現象自体がピンときませんでした。

また、近くの海も砂浜だったので、「干潮時に岩場にできるタイドプール」というものに幼少時に出会うことはなかったんです。

私自身、大人になってから海に関係する研究を行うことになり、太平洋側の浜辺に行ったときの衝撃は忘れられません。干満差が非常に大きく、干潮時にははっきりとしたタイドプールができるんですよね。

そういった意味では、日本海側よりも、太平洋側の海の方がはっきりとしたタイドプールが見られやすい環境といえるでしょう。

砂浜よりも岩場(磯)!

砂浜と岩場であれば、岩場の方がタイドプールができやすいです。砂浜は、海水の動きによって砂が均され、比較的平らな海底になります。岩場のほうが凹凸がはっきりとしており、潮が引いた時にタイドプールが明確にできやすいんですね。

なお、岩や石がごろごろしているような海岸は、とくに(いそ)とよばれたりします。

タイドプールの生態系

はじめに少しだけ触れた通り、タイドプールというのは生物にとって非常に”特殊な環境”です。

海岸付近に生息する海の生き物にとって、タイドプールがどんな場所なのか、イメージを膨らませていきましょう。

\次のページで「干潮時の”避難所”としての役割」を解説!/

干潮時の”避難所”としての役割

潮の満ち引きというのは、海の生物…とりわけ、浅瀬や海岸付近に住む生物には大きな影響を与えます。それまで海の下だった場所が陸地になってしまったり、その逆が起こりえるわけです。すると、干潮時には魚やカニなどが陸上に取り残される、という事態が起きることがあります。

そんなときにタイドプールができていれば、そこは海の中でなければ生きていけない生物にとっての避難所になります。一時的にでもタイドプールにいることで、潮が満ちてくるのを待ち、海に帰ることができるかもしれないのですから。

環境の変化が激しい

海の生物の命をつないでくれるかもしれないタイドプールですが、実際のところ、その環境は過酷なものになりがちです。

確かに、干からびるよりはタイドプールの方がずっとましかもしれません。ですが、タイドプールは海の水が溜まっているだけの場所。とくに小さなタイドプールほど、水温が上がりやすいのです。

\次のページで「多様な生物がみられる」を解説!/

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また、時間がたてば塩分濃度にも変化が生じます。暑い夏の日であれば水が蒸発して、時間とともに塩分濃度は上昇してしまうのです。反対に、タイドプールができている時間に雨がふってくれば、塩分濃度は低くなっていきます。もちろんこれも、小さなタイドプールであるほど影響を受けやすいですね。

とくに水温が高くなったり、塩分濃度が高くなるようなタイドプールでは、そのような過酷な環境に適応した生物しか見られない、ということもあります。

とはいえ、多くのタイドプールは潮が満ちてくることで、また海の下になるのです。水温や塩分濃度の変化に耐えられた生物は、また大海に戻っていくことができるでしょうね。

多様な生物がみられる

タイドプールができやすい岩場、岩礁、磯というのは、もともと生物の多様性が高い環境です。

まず、生物の隠れられる岩の凹凸があります。また、海藻やサンゴが生息しやすい水深や水温、それらの生物が固着しやすいという条件も満たしていることが多いです。それらをもとめてまた別の生物がやってくる…と、多種多様な生物が生きる生態系が確立されていきます。

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すると必然的に、タイドプールでも様々な種類の生物がみられることになるんです。

タイドプールができるような岩場を、護岸工事などで埋め立ててしまうこともあります。たしかに、岩がごつごつしている場所は危険性もあったり、船が入りにくかったりするでしょう。ですが、生物の多様性という観点では、タイドプールができるような沿岸部こそ守るべき環境であると考えます。

生物の観察にもってこいのタイドプール

海に遊びに行ったときにタイドプールを見つけたならば、ぜひ生物がいないか観察をしてみてください。普段は広い海を泳ぎまわっている魚や、素早く動くカニなど、普段観察しにくい生物がいるかもしれません。多様な生物に触れるうえで、タイドプールという環境は絶好の場所なのです。

ただし、岩場は滑りやすいので、滑りにくい靴や手袋を装着しましょう。また、転んでも怪我をしにくいよう、できるだけ肌の露出を控えた格好がおすすめです。

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理科生態系生物

生物観察にも最適!タイドプールとはどんな環境?現役講師がわかりやすく解説します

今回は「タイドプール」をテーマに学習していこう。

海へ遊びに行ったとき、タイドプールは子どもが楽しむのにぴったりの場所です。自身がタイドプールで遊んだ経験があるやつもいるでしょうな。ですが、タイドプールはレジャーに最適なだけでなく、生態系という観点から見ても重要な場所なんです。生物学的な観点で、タイドプールについて今一度考えてみよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

タイドプールとは?

タイドプール(Tide pool)とは、海の潮が引いたとき(干潮時)に岩場にできる”水たまり”のことです。日本語では潮だまりなどといわれることもあります。

ポイントは、「干潮時にできる」という点です。いつでも見られるわけではなく、潮が満ちている(満潮)状態に近いときには、タイドプールはなくなってしまいます。タイドプールができる場所は、海水の下に完全に沈んでいるのですから。

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じつは、これがタイドプールという特殊な環境を考えるうえで忘れてはいけない条件なのです。のちほど解説していきますので、頭の隅に覚えておいてくださいね。

タイドプールは太平洋側の方ができやすい?

タイドプールができるためには、潮の満ち引きによる潮位の変化(干満差)が必要です。潮位というのは、海面の高さのことだと思ってください。

常に海底に沈みっぱなしの場所は、タイドプールとは呼べません。

海岸の陸上に水たまりのうち、海中に沈まないまでも、潮がかかるような場所はタイドプールとよばれることもありますが…やはり潮位の変化で海中に沈んでいる時間がある場所こそ、タイドプールらしいタイドプールといえるでしょう。

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さて、みなさんは潮の満ち引きにも地域差があるのはご存じですか?日本を取り囲む海でいうと、太平洋側は干満差が大きく、日本海側はそれより小さい傾向があります。

太平洋側の海岸で2mほどの潮位の差があるときでも、日本海側では30cm程度しか変化しなかったりするんですよ。

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