みんなは植物の生活環について説明できるでしょうか。高校生物で学ぶ「植物の生活環」は複雑で苦手意識を持つ人も少なくないでしょう。そこで、今回の記事では植物の生活環について、一つ一つ丁寧に特徴や配偶体と胞子体の違い、生活環の具体例を挙げながら、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

生活環って何?

私たち人間を含めた全ての生物が、誕生してから死ぬまでの過程のことを「生活史」と言います。そして、この生活史を生殖細胞で次の世代に繋げて一周する様子が環状であることから「生活環(せいかつかん)」と呼ばれているのです。生物によって様々な生活環がありますが、今回は植物の生活環について解説していきます。生物の範囲の中でも複雑でわかりにくいですが、しっかりと理解すれば、受験などで得点源になるので頑張って学習しましょう。

植物の生活環の特徴

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植物の生活環を学ぶ上で、はじめに必ず理解しておきたい特徴があります。この特徴が抜けていると、生活環についてなかなか理解できず、苦戦してしまうのです。まず、ここで植物の生活環の特徴について解説していきますね。

特徴1:単相と複相の体を繰り返す

植物には、単相(n)の細胞が集まった体と複相(2n)の細胞が集まった体の二つの体を持ちます。私たち人間を含めた動物には植物と違って、体が一つしかないので少しイメージしづらいですよね。単相の多細胞体のことを「配偶体」と呼び、複相の多細胞体を「胞子体」と言うのです。植物は、単相である配偶体と複相である胞子体の二種類の体を繰り返すことで、子孫を残していきます。

特徴2:配偶体は配偶子を胞子体は胞子を形成する

この特徴は当たり前のように感じるかもしれませんが、核相についても触れながら、詳しく解説していきます。

まずは、配偶体についてです。配偶体は単相(n)の細胞の集まりでした。配偶体では、体細胞分裂によって有性生殖細胞である「配偶子」が作られます。体細胞分裂なので、配偶子は配偶体と同じ単相(n)になりますね。

次に、胞子体についてです。胞子体は複相(2n)の細胞の集まりでしたね。胞子体では無性生殖細胞である「胞子」を作ります。そして、この胞子を作るには減数分裂が行われるのです。そこで、胞子は自ずと単相(n)になることが分かりますね。

この配偶体(n)から配偶子(n)が作られ、胞子体(2n)から胞子(n)が作られることを覚えておきましょう。

\次のページで「さまざまな生活環」を解説!/

さまざまな生活環

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植物の生活環の特徴について学習したので、次は具体的どのような生活環があるのか、コケ植物、シダ植物、種子植物の3つについて解説していきます。

1. コケ植物

1. コケ植物

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私たちはコケ植物と言えば、岩などに生えているあの緑色を想像しますよね。実はその緑色が単相(n)の配偶体なのです。そして、コケ植物の中には雌雄異株の種が多くあり、その場合、雄株と雌株がありましたね。雄株の場合、植物体の先端には造精器が、雌株の場合、植物体の先端に造卵器があります。この配偶体をスタート地点とすると、以下のような順番で生活環が進みますよ。

  1. 造精器では雄性配偶子である「精子」が作られ、造卵器では雌性配偶子である「卵細胞」が作られる。
  2. 水を利用して精子と卵子が受精(接合)し、受精卵(接合子)ができる。
  3. この受精卵が成長すると、胞子体になり胞子のうができる

(この時、配偶体から胞子体が生えている形になる。)

  1. 胞子のうで減数分裂によって胞子が作られる。
  2. 胞子が成長し配偶体になる。
  3. 1に戻る

このように、コケ植物では配偶体が生活環のメインになっています。また、配偶体から胞子体が生えているように、胞子体の栄養は配偶体に依存しており、胞子体は配偶体に寄生しているのです。

2. シダ植物

2. シダ植物

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シダ植物と言えば、細かい切り込みが入った葉を持った植物をイメージしますよね。実はそれが複相(2n)である胞子体なのです。そして葉の裏には大量の胞子のうがついています。この胞子体を出発地点とすると、以下のような順番で生活環が進むのです。

\次のページで「3. 種子植物」を解説!/


  1. 胞子のうで減数分裂によって胞子が作られる。

  2. 胞子が成長し配偶体である「前葉体」になる。

  3. 前葉体に存在する造精器「精子」が作られ、同じく前葉体に存在する造卵器「卵細胞」が作られる。

  4. 精子と卵子が受精して、受精卵ができる。

  5. この受精卵が成長すると、胞子体になり胞子のうができる。

  6. 1に戻る

このように、胞子体がシダ植物の生活環のメインになり、胞子体と配偶体が独立します。

3. 種子植物

3. 種子植物

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種子植物の場合、私たちがよく目にする木や花などの雌しべ(もしくは雌花)の胚珠や、雄しべ(もしくは雄花)の葯が複相である胞子体に相当します。この胞子体をスタート地点とすると、以下のような順番で生活環が進むのです。


  1. 胞子体にあたる胚珠や葯で減数分裂が起こり、胞子にあたる「胚のう細胞」と「花粉四分子」が作られる。

  2. 胚のう細胞は配偶体である「胚のう」に、花粉四分子は配偶体である「花粉」に成長する。

  3. 胚のうでは配偶子である「卵細胞」が作られ、花粉では「精細胞」が作られる。

  4. 卵細胞と精細胞が受精して、受精卵(後に種子になる)ができる。

  5. この種子が発芽すると、胞子体になる。

  6. 1に戻る

このように種子植物では、胞子体が巨大になり生活環のメインになっており、配偶体の栄養は胞子体からもらっているという状況になっています。

\次のページで「配偶体と胞子体の移り変わり」を解説!/

配偶体と胞子体の移り変わり

配偶体と胞子体の移り変わり

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コケ植物、シダ植物、種子植物の3つの生活環について解説しましたが、それぞれの配偶体と胞子体の関係について上記の図式に簡単にまとめます。

コケ植物の場合、配偶体が植物体の本体のようでしたね。そして胞子体は配偶体がないと生存できないくらい、配偶体に依存していました。上記の図式の左のようなイメージです。

そしてシダ植物は、配偶体である前葉体と胞子体が、それぞれ独立して存在していましたね。イメージとしては上記の図式の真ん中のようになります。

最後に種子植物の場合、胞子体が配偶体よりも巨大になり、コケ植物とは反対に胞子体が配偶体に依存している形になるのです。上記の図式の右のようなイメージになります。

多様な生活環は進化の結果!

植物界の中だけでも、これだけ多様な生活環が存在します。これほど多種多様な生活環は進化した証拠でもあるのです。コケ植物は水がないと繁殖できないような生活環であったのに対し、種子植物は水がなく乾燥する場所でも繁殖できる生活環であり、シダ植物はこれら両者の中間的な生活環でしたね。生活環は複雑でなかなか理解できないという方は、まずは植物の生活環の特徴を頭に入れるところから始めてみてくださいね。

イラスト引用元:いらすとや

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理科生き物・植物生物生物の分類・進化

高校生物で学ぶ植物の生活環とは?生活史についても現役理系学生がわかりやすく解説

みんなは植物の生活環について説明できるでしょうか。高校生物で学ぶ「植物の生活環」は複雑で苦手意識を持つ人も少なくないでしょう。そこで、今回の記事では植物の生活環について、一つ一つ丁寧に特徴や配偶体と胞子体の違い、生活環の具体例を挙げながら、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

生活環って何?

私たち人間を含めた全ての生物が、誕生してから死ぬまでの過程のことを「生活史」と言います。そして、この生活史を生殖細胞で次の世代に繋げて一周する様子が環状であることから「生活環(せいかつかん)」と呼ばれているのです。生物によって様々な生活環がありますが、今回は植物の生活環について解説していきます。生物の範囲の中でも複雑でわかりにくいですが、しっかりと理解すれば、受験などで得点源になるので頑張って学習しましょう。

植物の生活環の特徴

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植物の生活環を学ぶ上で、はじめに必ず理解しておきたい特徴があります。この特徴が抜けていると、生活環についてなかなか理解できず、苦戦してしまうのです。まず、ここで植物の生活環の特徴について解説していきますね。

特徴1:単相と複相の体を繰り返す

植物には、単相(n)の細胞が集まった体と複相(2n)の細胞が集まった体の二つの体を持ちます。私たち人間を含めた動物には植物と違って、体が一つしかないので少しイメージしづらいですよね。単相の多細胞体のことを「配偶体」と呼び、複相の多細胞体を「胞子体」と言うのです。植物は、単相である配偶体と複相である胞子体の二種類の体を繰り返すことで、子孫を残していきます。

特徴2:配偶体は配偶子を胞子体は胞子を形成する

この特徴は当たり前のように感じるかもしれませんが、核相についても触れながら、詳しく解説していきます。

まずは、配偶体についてです。配偶体は単相(n)の細胞の集まりでした。配偶体では、体細胞分裂によって有性生殖細胞である「配偶子」が作られます。体細胞分裂なので、配偶子は配偶体と同じ単相(n)になりますね。

次に、胞子体についてです。胞子体は複相(2n)の細胞の集まりでしたね。胞子体では無性生殖細胞である「胞子」を作ります。そして、この胞子を作るには減数分裂が行われるのです。そこで、胞子は自ずと単相(n)になることが分かりますね。

この配偶体(n)から配偶子(n)が作られ、胞子体(2n)から胞子(n)が作られることを覚えておきましょう。

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