今回は、「ニホニウム」について学習していこう。

今手元に周期表がある人は、113番目の元素を見てほしい。2016年より前の周期表にはないが、新しいものには「ニホニウム」という名前の元素があるでしょう。この元素は日本人が誇るべきものだから、ぜひこの記事で「ニホニウム」について知ってほしい。

高校・大学にて化学も専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

ニホニウムとは

image by iStockphoto

ニホニウム(nihonium)は原子番号113の元素で、元素記号はNh。ニホニウムを発見したのは、国立研究開発法人 理化学研究所仁科加速器研究センターの森田浩介グループディレクターを中心とするグループ。欧米以外の国が新しい元素の命名をしたのは、日本だけでなくアジアの国の中で初でした。

人工的に作られた元素

上記で「発見」という言葉を使いましたが、正確にはタイトルにあるようにニホニウムは人工的に作られた元素です。

皆さんも知っての通り空気中には酸素が存在しており、その元素は“O”。このように原子番号1番の水素から92番のウランまでは、空気中または物質として天然に存在しています。しかし、93番のネプツニウムから2022年現在で確認されている118番のオガネソンまでは人工的に作り出されました。

知っておきたい基礎知識

ニホニウムの作り方を一言で言うと、「亜鉛の原子核をビスマスの原子核に衝突させる」です。これだけでは「原子核とは何か」、「衝突とはどういうことか」など疑問がわいてくる人も多いかと思います。なので、まずはこれらの基本的な知識を学習しましょう。

原子の構造

image by iStockphoto

まずは、原子について簡単に見ていきましょう。コトバンクにおいて、原子は以下のように定義されています。

\次のページで「核融合とは」を解説!/

通常の化学的な方法ではそれ以上分割できない物質の基本的な構成単位粒子。電気的には中性である。実際には、原子は正の電荷をもつ一つの原子核と、その正電荷を打ち消すだけの数の電子から構成され、さらに原子核はいくつかの陽子と中性子からなる。中性子は電荷をもたないために原子核の電荷は陽子によるものである。

出典:“原子”.コトバンク.https://kotobank.jp/word/%E5%8E%9F%E5%AD%90-60538#:~:text=%E5%8E%9F%E5%AD%90%E6%A0%B8%E3%81%A8%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%9B%BB%E8%8D%B7,%E3%82%92%E8%B3%AA%E9%87%8F%E6%95%B0%E3%81%A8%E5%91%BC%E3%81%B6%E3%80%82,(参照2022/3/30).

核融合とは

原子核が何か分かったところで、次は核融合について理解しましょう。

核融合とは、言葉通り「原子核が融合すること」です。これだけ聞けば簡単なように思えるかもしれませんが、実際は非常に難しく精密な機械がなければできません。例えば、磁石のS極とS極をくっつけようとすると反発しあうように、正の電荷をもつ原子核同士は通常は反発しあって融合できません。そこでどうするのかというと、原子核同士を超高速で衝突させるのです。しかし、衝突したとしても必ずしも融合するとは限りません。

ニホニウムの作り方

image by iStockphoto

いよいよニホニウムの合成方法を説明していくのですが、詳しく解説すると複雑で難しいのでざっくり流れを解説していきますね。

1. RILACで加速させた亜鉛の原子核をビスマスの原子核へ照射する

RILACとは、線形加速器のことです。この機械で亜鉛(Zn、原子番号30)を超高速でビスマス(Bi、原子番号83)に向けて照射します。その速さは、約30000km/s(光の速度の10%の速さ)です。

2. 亜鉛の原子核とビスマスの原子核が衝突して融合する

原子核は非常に小さく(約1兆分の1cm)、なかなか衝突しません。さらに、運よく衝突したとしてもなかなか融合しないため、たくさんの原子核を照射する必要があります。ニホニウムの合成では、1秒間に2兆5000個の亜鉛の原子核が照射されました。

\次のページで「3. 融合した新元素をGARISで分離し検出器へと運ぶ」を解説!/

3. 融合した新元素をGARISで分離し検出器へと運ぶ

GARISとは、新元素とそうでない粒子を分離するための機械です。これによって分離された新元素は検出器へと送られます。

4. 検出器でアルファ崩壊の時間とエネルギーを測定

アルファ崩壊とは、ある原子核が安定した状態になろうとしてアルファ粒子(陽子2個、中性子2個)を放出することです。検出器では、このアルファ粒子が連続的に放出される時間と、アルファ粒子が放出されるときのエネルギーを測定します。

ニホニウムの合成を確認

ニホニウムの合成を確認

image by Study-Z編集部

4、5、6回目のアルファ崩壊におけるアルファ粒子放出時のエネルギーが、既に発見されているボーリウム(Bh、原子番号107)、ドブニウム(Db、原子番号105)、ローレンシウム(Lr、原子番号103)が放出するアルファ粒子のエネルギーと似ていました。アルファ崩壊で放出される陽子の数は2個で、アルファ崩壊の回数と既に発見されている元素の原子番号がそれぞれ分かっていたため、新元素ニホニウムの合成が証明されたのです。

日本の技術力と粘り強さを世界に示したニホニウム

実は、113番元素を最初に観測したと発表したのは日本ではなくロシアの研究グループでした。しかしそこでは命名権が与えられなかったので、日本は諦めずに新元素の合成とその証拠となる実験を繰り返し行ったのです。

世界に誇れる日本の技術力

ニホニウムの合成に使われた線形加速器や検出器などの装置は、研究者自身が設計しました。では、具体的には何が高い技術力だと言えるのでしょうか?いくつか下記に示しておきます。

\次のページで「ニホニウムが新元素に認められるまで」を解説!/

・亜鉛の原子核を高速で照射する技術

・正確にビスマスの原子核に衝突させる技術

・融合した元素と不要なものを分離する技術

・正確な測定で元素を検出する技術

ニホニウムが新元素に認められるまで

ニホニウムが新元素に認められるまでには、研究開始から約12年の長い時間がかかりました。ニホニウムに関する簡単な年表を以下に示します。

2003年9月 新元素を合成する研究の開始

2004年7月 初めて113番元素の観測に成功

2005年          2回目の113番元素の観測に成功

2012年8月 6つのアルファ崩壊からなる連鎖崩壊を観測(3回目の113番元素の観測に成功)

2015年12月 IUPAC (国際純正・応用化学連合)が113番元素を正式に認定

1016年11月 正式に「ニホニウム」と決定

ニホニウムは何の役に立つのか?

image by iStockphoto

ニホニウムは、治療薬のように病気を治すためなどの目的をもって作られたわけではありません。さらに、寿命が短い(0.002秒)ため、今のところ何の役に立つかは分かっていません。それを聞くと、「あんなに苦労して作ったのに、この研究は意味がなかったの?」と思う方もいるかもしれませんね。

例えば、、あなたが知っているちょっとした雑学について考えてみてください。日常生活をするうえで知らなくても特に困らない雑学の知識。しかし、初めて出会った人や仲良くなりたい人と会話するときには、会話を始めるきっかけとして使えるかもしれません。これは極端な例でしたが、物事を知っていることと知らないことでは大きな差があります。つまり新元素の発見は、現段階においてすぐに私たちの生活に役立つものではありませんが、今後より技術が発達すると生活に欠かせないものになっている可能性があるので重要な研究だと言えるでしょう。

ニホニウムでの経験を生かして次の元素の合成へ

現在、ニホニウムの合成に成功した研究グループは、いまだ作られていない119番目以降の新元素の発見を目標に挑戦を続けています。ニホニウムの合成に成功した経験があるので、もしかしたら119番目の元素は意外と早く発見されるかもしれません。そして、その新元素の名前にも注目したいところです。

" /> 日本人が作った元素「ニホニウム」とは?作り方からニホニウムに関する年表まで農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説! – Study-Z
化学原子・元素理科

日本人が作った元素「ニホニウム」とは?作り方からニホニウムに関する年表まで農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は、「ニホニウム」について学習していこう。

今手元に周期表がある人は、113番目の元素を見てほしい。2016年より前の周期表にはないが、新しいものには「ニホニウム」という名前の元素があるでしょう。この元素は日本人が誇るべきものだから、ぜひこの記事で「ニホニウム」について知ってほしい。

高校・大学にて化学も専攻していた農学部卒ライターの園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

ニホニウムとは

image by iStockphoto

ニホニウム(nihonium)は原子番号113の元素で、元素記号はNh。ニホニウムを発見したのは、国立研究開発法人 理化学研究所仁科加速器研究センターの森田浩介グループディレクターを中心とするグループ。欧米以外の国が新しい元素の命名をしたのは、日本だけでなくアジアの国の中で初でした。

人工的に作られた元素

上記で「発見」という言葉を使いましたが、正確にはタイトルにあるようにニホニウムは人工的に作られた元素です。

皆さんも知っての通り空気中には酸素が存在しており、その元素は“O”。このように原子番号1番の水素から92番のウランまでは、空気中または物質として天然に存在しています。しかし、93番のネプツニウムから2022年現在で確認されている118番のオガネソンまでは人工的に作り出されました。

知っておきたい基礎知識

ニホニウムの作り方を一言で言うと、「亜鉛の原子核をビスマスの原子核に衝突させる」です。これだけでは「原子核とは何か」、「衝突とはどういうことか」など疑問がわいてくる人も多いかと思います。なので、まずはこれらの基本的な知識を学習しましょう。

原子の構造

image by iStockphoto

まずは、原子について簡単に見ていきましょう。コトバンクにおいて、原子は以下のように定義されています。

\次のページで「核融合とは」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: