今回のテーマは「ウィレム・アイントホーフェン」です。
アイントホーフェンは心電図の発明者として知られている。医療ドラマなどでよく見る、心臓の鼓動に合わせて波形が表示されるあの機械の事です。
今回は心電図の発明の歴史、および機構の解説を生物学オリンピックメダリストNoctilucaがしてくれるぞ。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

ウィレム・アイントホーフェンの生涯と業績

Willem Einthoven.jpg
不明 - http://www.einthoven.nl/Einthoven-algemeen/historical_pictures.htm, パブリック・ドメイン, リンクによる

今回のテーマ、ウィレム・アイントホーフェンは心電図の発明者として知られています。

まずはアイントホーフェンの人生についてざっくりと見ていきましょう。

現在のインドネシアに生まれ、オランダで教育を受けた

ウィレム・アイントホーフェンは1860年5月21日、現在のインドネシアに当たるジャワ島・スマランで生まれました。6歳の時に父親を亡くしたアイントホーフェンは母親と共にオランダに戻り、そこで教育を受けることになります。高等市民学校(現在でいうと高校)を卒業後、1878年にユトレヒト大学で医学を学び始めました。

医学の学位を取得後、様々な研究に携わる

大学教授の研究で助手をすることもあったアイントホーフェンは徐々に才覚を表し始めます。光学、気管支筋の機能や神経性ぜんそく等の研究に携わった後、彼は毛細管電位計というものを使って正確に心音を記録する研究を開始。これが後の心電図への発明へとつながります。

1924年に心電図の発明によりノーベル生理学・医学賞を受賞

アイントホーフェンは毛細管電位計の経験をもとに、今度はより精度の高い弦線電流計というものを使って心臓の電位の変化を記録しようとしました。当時の弦線電流計は部屋を二つ埋めるほど巨大で5人がかりで操作しなければなかったそうですが、得られた心電図は現在のものとほとんど変わらないぐらいに正確だったそうです。この発明は直接心臓に電極をつけなくとも心臓の電気信号を測定できるという点で非常に画期的なものでした。

やがて心電図が様々な診断に利用できることが判明すると、この業績が評価されアイントホーフェンはノーベル生理学・医学賞を受賞することになりました。

\次のページで「アイントホーフェンの心電図の仕組み」を解説!/

アイントホーフェンの心電図の仕組み

image by iStockphoto

医療ドラマで一度は見たことがあると思う心電図。でも心電図が具体的に何を測っているのかを知る人は少ないのではないでしょうか。細かい部分を説明しようとするとややこしくなってしまうので、できるだけシンプルに解説していきます。(かなり簡略化しているので、厳密にいえば正確ではない部分もあるかもしれませんがご了承ください!)

心電図の電極

image by iStockphoto

まず、心電図を得るためには胸や四肢にに電極を取り付ける必要があり、それぞれの電極から得た変化を比較して、心臓内の電気信号がどこからどこへ移動しているのかを把握します。

心電図で表されるのは電気信号のプラス/マイナスとその方向

ECG Vector.svg
By Rick Manning - Based on ECG Vector.jpg by MoodyGroove, CC BY-SA 3.0, Link

続いて、先程の電極でどうやって心電図を記録しているのかを見ていきましょう。

上の図を見てください。+が書いてある丸が電極で、矢印はプラスの電気信号を表しています。

もしプラスの電気信号が電極に向かって移動した場合、心電図のグラフはに振れ、そしてプラスの電気信号が電極から遠ざかるように移動した場合は、心電図のグラフはに振れるのです。

逆にマイナスの電気信号もあります。その場合心電図の振れは逆方向に。つまりマイナスの信号が電極に向かって移動した場合、心電図のグラフはに振れ、そしてマイナスの信号が電極から遠ざかるように移動した場合は、心電図のグラフはに振れます。

心電図のP波、QRS波、T波

SinusRhythmLabels.svg
Created by Agateller (Anthony Atkielski), converted to svg by atom. - SinusRhythmLabels.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

正常な人の心電図では一回の鼓動ごとに上記のような波が記録されます。最初の小さな上振れの波をP波、真ん中の大きな波をQRS波、そして最後の小さな波がT波と呼ばれていますね。

波形と電気信号の関係

波形と電気信号の関係

image by Study-Z編集部

先程の3つの波は心筋の収縮、弛緩と関係しています。詳しく見ていきましょう。

最初の波、P波は心臓の上の部屋、心房の収縮に対応しています。この時心臓内ではプラスの信号が心房のおおよそ上から下へと流れるので、電極に向かってプラスの信号が移動していることになり、最初の小さな上振れの波ができますね。

次の大きなQRS波は心室(心臓の下の部屋)の収縮。この時に心室の上から下へプラスの電気信号が電極に向かって流れるため波形は大きな上振れとなります。

そして最後にT波ですが、こちらは心室の弛緩と対応。心室が弛緩するときは下から上へとマイナスの信号が流れますが、これが心電図では上振れとして表示されるのです。

正常な波形と比較することで、心臓のどの部分に異常があるかわかる

このように波形と心臓の電気信号は連動しているので、波形に異常があればおおよそ心臓のどの部分がうまく機能していないかが分かります。例えばP波が通常より大きい場合は心房への負担を疑ったり、という具合にですね。

\次のページで「アイントホーフェンの発明のその後」を解説!/

アイントホーフェンの発明のその後

こうして後々心臓病などの診断に大きく貢献する発明をしたアイントホーフェンですが、実は発明後すぐに実用化できたわけではありません。

実は心電図の発明時点では医学的な意味が分かっていなかった

アイントホーフェンの心電図について当時の学者が分かっていたことはせいぜい「心臓の鼓動と連動しているグラフ」ということに過ぎず、PQRSTとアルファベットを振り当てられた波形も心臓のどの部分に対応しているのか誰もわかっていなかったのです。そのためまだこれを診断に役立てるのは難しい状態でした。

心電図の波形に医学的な意味を見つけたのは日本人だった!

Reizleitungssystem 1.png
By J. Heuser - self made, based upon Image:Heart anterior view coronal section.jpg by Patrick J. Lynch (Patrick J. Lynch; illustrator; C. Carl Jaffe; MD; cardiologist Yale University Center for Advanced Instructional Media ), CC BY 2.5, Link

心電図に医学的な意味を見出す発見をしたのは日本の病理学者、田原淳(たわら すなお)という方です。当時まだ全貌が明らかになっていなかった心臓内の電気信号の伝わり方を決める、「刺激伝導系」を発見しました。

上記の写真の青色の部分が刺激伝導系と呼ばれます。電気信号はこの繊維を通って心臓全体にいきわたるのですが、田原教授は心臓の何前何万という数の標本を観察してようやく全容を明らかにしたそうです。アイントホーフェンがノーベル賞を受賞できたのは刺激伝導系の発見もあってこそだともいわれています。

ウィレム・アイントホーフェンは心電図を発明し、心臓学に大きな飛躍をもたらした

心電図という新たな道具の発明で、医学に大きな貢献をしたアイントホーフェンについて理解を深める手助けになったでしょうか?この記事ではあまり深く掘り下げてはいませんが、心電図の解読というのは医学の中でも屈指で奥が深い分野です。実際、心電図を読むことに特化して勉強された医師もたくさんいます。

心電図についてもっと知りたい方はこれを分かりやすく説明しているサイトや書籍もたくさんありますので、そちらを参照してみるといいと思います!心電図なんてたかが波形と侮るなかれ、思った以上に様々な情報をもたらしてくれることにきっと驚くはずですよ!

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体の仕組み・器官理科生物

ウィレム・アイントホーフェンは心電図の発明者!歴史や簡単なメカニズムを生オリメダリストがわかりやすく解説

今回のテーマは「ウィレム・アイントホーフェン」です。
アイントホーフェンは心電図の発明者として知られている。医療ドラマなどでよく見る、心臓の鼓動に合わせて波形が表示されるあの機械の事です。
今回は心電図の発明の歴史、および機構の解説を生物学オリンピックメダリストNoctilucaがしてくれるぞ。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

ウィレム・アイントホーフェンの生涯と業績

Willem Einthoven.jpg
不明 – http://www.einthoven.nl/Einthoven-algemeen/historical_pictures.htm, パブリック・ドメイン, リンクによる

今回のテーマ、ウィレム・アイントホーフェンは心電図の発明者として知られています。

まずはアイントホーフェンの人生についてざっくりと見ていきましょう。

現在のインドネシアに生まれ、オランダで教育を受けた

ウィレム・アイントホーフェンは1860年5月21日、現在のインドネシアに当たるジャワ島・スマランで生まれました。6歳の時に父親を亡くしたアイントホーフェンは母親と共にオランダに戻り、そこで教育を受けることになります。高等市民学校(現在でいうと高校)を卒業後、1878年にユトレヒト大学で医学を学び始めました。

医学の学位を取得後、様々な研究に携わる

大学教授の研究で助手をすることもあったアイントホーフェンは徐々に才覚を表し始めます。光学、気管支筋の機能や神経性ぜんそく等の研究に携わった後、彼は毛細管電位計というものを使って正確に心音を記録する研究を開始。これが後の心電図への発明へとつながります。

1924年に心電図の発明によりノーベル生理学・医学賞を受賞

アイントホーフェンは毛細管電位計の経験をもとに、今度はより精度の高い弦線電流計というものを使って心臓の電位の変化を記録しようとしました。当時の弦線電流計は部屋を二つ埋めるほど巨大で5人がかりで操作しなければなかったそうですが、得られた心電図は現在のものとほとんど変わらないぐらいに正確だったそうです。この発明は直接心臓に電極をつけなくとも心臓の電気信号を測定できるという点で非常に画期的なものでした。

やがて心電図が様々な診断に利用できることが判明すると、この業績が評価されアイントホーフェンはノーベル生理学・医学賞を受賞することになりました。

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