ホウ素に注目したことはあるか?高校までの授業ではあまり出てこない元素ですね。「水平リーベ、と元素を覚えた時にあったなぁ」くらいの感覚の人も多いんじゃないか?
実はホウ素は身近なところで使われているだけでなく、世界最先端の技術開発にも使われているくらい重要な元素なんです。今回はそんなホウ素について化学ライターの小春と分かりやすく解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。

ホウ素について簡単に解説!

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ホウ素がどこに使われているか知らない方もいると思いますので、まずは簡単にご説明します。

ホウ素は身近なところで使われている

ホウ素は周期表で5番目に位置する元素です。金属ではありませんが金属に近い半導体的、もしくは反金属的な性質を持っています。常温では黒色のきわめて硬い光沢のある結晶です。

ホウ素はゴキブリ退治に使われるホウ酸団子や、パイレックスガラスなど、家の中でも多く使われています。

ホウ素の物理的および化学的性質

ホウ素には複数の同素体があり、物性値は同素体によって異なる値を示します。具体的には、融点は2000℃〜2200℃、沸点は3660℃や4000℃と、どの同素体も高融点かつ高沸点です。

アルミニウムやガリウムと同じ第13属元素に属しますが、第13属元素の中で唯一の非金属元素であり、真下に属するアルミニウム(土類金属)よりは左右の炭素やケイ素と類似した性質を示します。

ホウ素は室温では空気と反応しないとても安定した物質です。また、結晶性ホウ素は化学的に不活性で、強力なフッ化水素酸や塩酸による煮沸に対しても耐性を示します。

ホウ素の発見

1808年、ホウ素は、ゲイ=ルサックとテナール、またデービーによってホウ砂から得られたホウ酸から単離されました。この2組の発見はほぼ同時だと言われています。ホウ素(boron)という名前はデービーによって付けられました。ホウ砂(borax:アラビア語の「白い」にちなむ)と炭素(carbon)に性質が似ているということから、ホウ素と名付けられたと言われています。このときはまだ、ホウ素の単体が黒色だということは分かっていなかったのです。

ホウ素の特徴や入手方法は?

ホウ素について軽くイメージができたところで、その入手方法や応用先について詳しくご紹介していきます。

\次のページで「ホウ素の入手方法」を解説!/

ホウ素の入手方法

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ホウ素は天然に広く存在し、花崗岩に伴われる岩石に産出するほか、乾燥気候の大陸内部にある湖から白色に近いホウ酸塩として産出します。資源として重要となるのは後者です。

また、植物の細胞壁を構成する成分でもあります。ホウ素は欠乏しやすい成分の1つです。根や新芽の生育を促進したり、細胞分裂や受粉に関わる重要な役割があるため、足りない時は速やかに吸収されやすい液体肥料で補います。

ホウ素の安全性

単体のホウ素は、労働安全衛生法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法)、毒物及び劇物取締法の全てに非該当です。飲用・粉塵を吸引しない限り、人体に対して無害と言えるでしょう。

さらに、引火せずや発火もせず、空気とも反応しないので、化学反応においてとても使いやすい物質です。安定すぎて反応させるのが難しいとも言えます。ただ、ほぼ無害だからと言って食べないでください。

ホウ素の炎色反応

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ホウ素は炎色反応を占める元素の1つです。黄緑色〜緑色で、近い色で例えると、クリスマスで使われる緑色といえば想像しやすいでしょうか。

ホウ素の炎色反応の実験は自宅で行うことができます。火事や中毒事故のリスクのある実験ですので、保護者のいないところでは試さないようにしてください。

周りが明るいとよく見えないので、カーテンを閉め切った部屋または夜行うのがおすすめです。さらに、実験で使用するメタノールは危険な液体で、飲用すると失明の恐れがありますので、取り扱い後は必ず手を洗うように気をつけてください。

準備物(ほとんど雑貨店やドラッグストアで揃えることができます)
・鍋敷き
・平たい大きめの皿 1枚
・深めの小皿 2枚
・メタノール(燃料用アルコールも可) 15mL
・ぬるま湯 15mL
・ホウ酸 0.2g
・かき混ぜるための棒
・マッチ等点火剤

手順
1. 鍋敷きなどの上に平たい皿を置き、さらにその上に深めの小皿を置きます。(火事防止のための工程)
2. 深めの小皿にメタノールを15mLほど入れます。
3. 他の小皿に、ぬるま湯15mLにホウ酸を約0.2g加え、可能な限り溶かします。
4. (3)の小皿の溶液を(2)の小皿の溶液に入れ、よくかき混ぜます
5. マッチなどで点火し、照明を消します。

ホウ素の応用先

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ホウ素の用途は、住宅用の断熱材や強化プラスチックに使うガラス繊維の原料が最も多いです。液晶ディスプレイなどの特殊ガラスの製造や陶磁器のうわ薬にも使われています。原子力発電所の制御棒にもホウ素が使用されているそうです。

ホウ砂(Na2(B4O5(OH)4)・8H2O)は、ガラスの原料や防腐剤、金属の還元剤、溶接溶剤や研磨剤、火の抑制剤などに使われています。

小学生の頃、科学クラブなどでホウ砂と洗濯糊を使ってスライム作りをしたことがある方も多いでしょう。ホウ酸塩や過ホウ酸塩は、目の洗浄剤、うがい薬や鼻スプレーなど口腔衛生のための医薬品として使われているほか、ホウ酸団子としてゴキブリ駆除などに使われます。

\次のページで「ホウ素でノーベル化学賞を受賞した日本人」を解説!/

ホウ素でノーベル化学賞を受賞した日本人

日本人でノーベル化学賞を受賞した8人の中に、ホウ素の研究で受賞した人物がいるのを知ってますか?最後に「ホウ素を使ったクロスカップリング反応」でノーベル化学賞を受賞した鈴木章氏とその研究内容をご紹介します。

鈴木章氏の紹介

鈴木章氏は、1930年に北海道に生まれました。北海道大学で有機化学の世界に出会い、天然にないものを意図的に合成できる有機化学の世界に興味を持ったそうです。助教授の頃、有機ホウ素化合物をつくるための本「ハイドロボレイション」に出会います。作者のいる大学へ留学し、帰国後は感応性の低い有機ホウ素化合物を使った有機合成の研究を行いました。そこでホウ素を用いたクロスカップリング反応を完成させるのです。

クロスカップリング反応って?

クロスカップリング反応は、簡単に炭素と炭素結合、特にベンゼン環同士の炭素を自在に繋ぐことのできる反応です。

簡単に言えば、クロスカップリング現象では置換反応によって異なる2つの有機分子が結合します。反応過程がとてもシンプルなので、副産物を生成が少ないので廃棄物が少なくて済むほか、生成物を得るまでに必要な日数も比較的少ないです。

ホウ素を使ったクロスカップリング反応

ホウ素を使ったクロスカップリング反応

image by Study-Z編集部

1979年、鈴木氏と宮浦氏によって有機ホウ素化合物を用いて炭素ー炭素結合をつくる鈴木ー宮浦カップリングが報告されました。ホウ素は水や空気に対して安定であり、毒性も極めて低いため、安心して医薬品の合成に使えるほか工業的に使用できます。よって現在、クロスカップリングにおける主流の手法は、ホウ素を使った鈴木ー宮浦カップリングとなっているのです。

高血圧症や腎臓病の治療薬などの医薬品や農薬、液晶材料のような次世代電子材料の製造にも、安全性の高い鈴木ー宮浦カップリング反応が使われています。

人体に無害で安定したホウ素のこれからの活躍に期待!

ホウ素は人体に無害で空気中で安定しているため、意図的に扱うことができればとても便利な物質と言えるでしょう。宮浦ー鈴木カップリングのように有用な反応がこれからも発見され続けるかもしれません。高校までの授業ではあまり注目されることは少ない元素ではありますが、最新の動向を注目し続けたいですね。

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ホウ素とは何?特徴や元素記号、用途について化学系の阪大院卒ライターがズバリわかりやすく解説!

ホウ素に注目したことはあるか?高校までの授業ではあまり出てこない元素ですね。「水平リーベ、と元素を覚えた時にあったなぁ」くらいの感覚の人も多いんじゃないか?
実はホウ素は身近なところで使われているだけでなく、世界最先端の技術開発にも使われているくらい重要な元素なんです。今回はそんなホウ素について化学ライターの小春と分かりやすく解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。

ホウ素について簡単に解説!

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ホウ素がどこに使われているか知らない方もいると思いますので、まずは簡単にご説明します。

ホウ素は身近なところで使われている

ホウ素は周期表で5番目に位置する元素です。金属ではありませんが金属に近い半導体的、もしくは反金属的な性質を持っています。常温では黒色のきわめて硬い光沢のある結晶です。

ホウ素はゴキブリ退治に使われるホウ酸団子や、パイレックスガラスなど、家の中でも多く使われています。

ホウ素の物理的および化学的性質

ホウ素には複数の同素体があり、物性値は同素体によって異なる値を示します。具体的には、融点は2000℃〜2200℃、沸点は3660℃や4000℃と、どの同素体も高融点かつ高沸点です。

アルミニウムやガリウムと同じ第13属元素に属しますが、第13属元素の中で唯一の非金属元素であり、真下に属するアルミニウム(土類金属)よりは左右の炭素やケイ素と類似した性質を示します。

ホウ素は室温では空気と反応しないとても安定した物質です。また、結晶性ホウ素は化学的に不活性で、強力なフッ化水素酸や塩酸による煮沸に対しても耐性を示します。

ホウ素の発見

1808年、ホウ素は、ゲイ=ルサックとテナール、またデービーによってホウ砂から得られたホウ酸から単離されました。この2組の発見はほぼ同時だと言われています。ホウ素(boron)という名前はデービーによって付けられました。ホウ砂(borax:アラビア語の「白い」にちなむ)と炭素(carbon)に性質が似ているということから、ホウ素と名付けられたと言われています。このときはまだ、ホウ素の単体が黒色だということは分かっていなかったのです。

ホウ素の特徴や入手方法は?

ホウ素について軽くイメージができたところで、その入手方法や応用先について詳しくご紹介していきます。

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