電車の中でジャンプしたら、どこに着地するか想像してみてくれ。実際に電車の中でジャンプするのは迷惑行為になるから、思考実験です。果たして着地するのは、ジャンプしたのと同じ場所でしょうか?ジャンプしている間に電車が進んだ分、別の場所に着地するでしょうか?
正解は、なんと元の場所に着地するんです。この秘密は慣性の法則、と呼ばれる法則にある。この不思議について、物理に詳しいライター小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。高校時代の苦手科目は物理。苦手なぶん、人より長い時間勉強した自負がある。

動いている電車でジャンプしても元の場所に着地するのはなぜ?

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動いている電車の中でジャンプしてみたことはありますか?浮いている間も電車は動き続けています。着地するとき、その地点はジャンプし始めた地点でしょうか、それとも、ジャンプしている間に電車が進んだ分、車両の後ろ側に着地するでしょうか?

動いている電車でジャンプしたらどうなる?

動いている電車でジャンプしたらどうなる?

image by Study-Z編集部

答えは「ジャンプし始めた元の位置に着地」します。止まっている電車の中でジャンプしても、動いている電車のなかでジャンプしても、答えは同じなのです。

これは電車でなくても、例えば船や飛行機でも同じ現象が起こります。他にも、電車の中でボールを上に投げてもちゃんと自分の手元に戻ってくるはずですよ。

これらの現象は全て1つの物理法則で説明することができます。それは「慣性の法則」と呼ばれる法則です。慣性の法則を簡単にいうと「物体はその運動の状態を維持し続けようとする」法則。つまり、動いている物体は動き続け、静止している物体は静止し続けようとするのです。

動いている電車の中では、乗っている人も同時に「動いて」いる

電車の中にいる私たちは、物理的にいうと「電車と一緒に電車の方向に動き続けている」のです。動いているかどうかは、私たちが自分の意志で動いているかどうかでなく、その方向に移動しているかどうか、で考えてください。

ですから、電車の中でジャンプしたとしても、ジャンプ前もジャンプ中も電車と同じ速度で電車と同じ方向に運動し続けている(=慣性)ので、ジャンプ前と同じ地点に着地することができるのです。

不思議に思う方は、電車の外側からこの実験を見ている人を想像してみてください。その電車の外の観察者から見れば、ジャンプした位置と着地した位置は違います。観測者も実験者も電車の中にいるので、「同じ位置に着地した」ように見えている、とも言えるでしょう。これは相対位置の話になっていくので、気になった方は調べてみてください。

慣性の法則について分かりやすく解説!

動いているものは動き続け、止まっているものは止まり続ける、と簡単に説明した慣性の法則について、詳しく説明していきましょう。

慣性の法則の定義

ブリタニカ国際大百科事典の定義によると、慣性の法則とは「外から力が作用しなければ、物体は静止または等速度運動を続けるという法則」です。ニュートンの運動の法則の1つで、運動の第一法則ともいいます。慣性とは、運動の現状をそのまま保持しようとする物体の性質のことです。

\次のページで「慣性の法則を数式で表す」を解説!/

慣性の法則を数式で表す

運動方程式ma=Fにおいて、F=0であるならば、mがどのような値であれ加速度aはゼロとなります。(a、Fはベクトル)

加速度が0ということは、外的な要因がない限り速度が変わらないということです。車の運転をしたことがあるならば「平坦な道でアクセルを全く同じ量だけ踏み込んでいる状態」といえば想像しやすいでしょう。高校生以下ならば車の運転経験はないでしょうから、ゲームで移動方向へスティックを倒し続けている時といえば分かるでしょうか。これが加速度ゼロのイメージです。

現実には、空気抵抗や地面との摩擦がありますから、加速度ゼロで速度一定で運動し続けるのは難しくはあります。

慣性の力と見かけの力

止まっている電車が発車したとき、電車が動く方向と逆方向に引っ張られるような力を感じたことはありませんか?これは「静止しようとしている」人間に対して慣性力と呼ばれる力が働いている、と表現されますが、慣性力はあくまでも見かけの力です。

見かけの力について考えるには、観測者がどこにいるかを考えなくてはなりません。電車の例で言うと、電車の車内にいるか、駅のホームなど電車の外側にいるか、の違いです。観測者が電車の外側にいる場合、電車の加速による力と慣性力は釣り合っているため、電車全体の力としては慣性力はないと同じですね。

エレベーターでも慣性を感じることができる

エレベーターでも慣性を感じることができる

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エレベーターに乗っているとき、下向きに移動すると身体が浮いたような感覚を味わったことがあると思います。これもまた慣性の力です。エレベーターが停まった状態から下向きに運動し始めるときを考えます。

停止時には人間の重力(mg)に対して働いていた上向の垂直抗力(N。大きさはmgと同じ)が、エレベーターが下向きに運動することにより小さくなっていきますね。下向きに加速している場合、上向きに慣性力が働きます。垂直抗力は、受ける力とつり合う大きさで働くものなので、慣性力が働くと、垂直抗力の大きさはmg-(慣性力)となるでしょう。

床から受ける力が小さくなるので、人間が感じる床からの力が小さくなるのです。言い換えれば、垂直抗力が急に小さくなるため、エレベーターが急に下向きに動くとふわっと浮遊感を感じます。

先ほどの例は、「エレベーターの中に観測者がいる」としてつりあいの式で説明しましたが、観測者がエレベーターの外にいるとして運動方程式で表すこともできますよ。

慣性の法則を発見した人物は誰?

慣性の法則を発見したのは、ガリレオ・ガリレイだと言われています。ですが、慣性の法則を発展させ、運動法則としたのはまた別の人物です。

慣性の発見以降の物理学の歴史を簡単にご紹介します。

発見したのはガリレオ・ガリレイ

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慣性の法則を発見した人物は、ガリレオ・ガリレイだと言われています。ガリレオの名前は現代でも科学をテーマにした小説や映画に使われるほど有名で、科学に興味がない人でも一度は聞いたことがある人物の一人でしょう。

ガリレオは1564年にイタリアのピサで生まれた人物で、近代科学の父とも呼ばれています。ガリレオは、1638年に出版した「新科学対話」(正式な署名は「機械学と位置運動についての二つの新しい科学に関する論議と数学的証明」)で、世界で初めて慣性の存在について言及しました。しかし、ガリレオは慣性の運動を円運動だと間違って捉えていたのです。

ニュートンが運動の三法則としてまとめた

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アイザック・ニュートンが運動の三法則をまとめる以前には、ティコ・ブラーエ、ケプラー、ガリレオ・ガリレイたちが物体の運動について研究していました。

ニュートンは万有引力を発見しただけでなく、慣性運動が直線運動であることも発見しました。運動法則は以下のようにまとめられます。

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第一法則 すべての物体は、外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止状態を続け、運動している物体は等速直線運動を続ける。(別名 慣性の法則
第二法則 物体に力が働くとき、物体には力と同じ向きの加速度が生じ、その加速度の大きさは力の大きさに比例し、物体の質量に反比例する。(別名 ニュートンの運動方程式)
第三法則 2物体相互の作用は、つねに相等しく逆向きである。(別名 作用反作用の法則)

動いている物体の中に乗っているとき、その中の人も「動いて」いる

電車の中でジャンプしても元の地点に着地できる理由について、理解できましたか?慣性は身近なところで感じることができる力です。だるま落としやテーブルクロス引きでも慣性の力を応用しています。どこに働いているか、わかりますか?興味のある方は調べてみると面白いですよ。

今回の話で出てきた、つりあいの式や運動方程式、観測者がどこにいるかという視点は、大学受験までずっと役に立つ視点です。考え方を覚えておいても損はないでしょう。

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物理理科

なぜ電車内でジャンプしても後ろに下がらない?慣性との関係について阪大院卒ライターがズバリわかりやすく解説!

電車の中でジャンプしたら、どこに着地するか想像してみてくれ。実際に電車の中でジャンプするのは迷惑行為になるから、思考実験です。果たして着地するのは、ジャンプしたのと同じ場所でしょうか?ジャンプしている間に電車が進んだ分、別の場所に着地するでしょうか?
正解は、なんと元の場所に着地するんです。この秘密は慣性の法則、と呼ばれる法則にある。この不思議について、物理に詳しいライター小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。高校時代の苦手科目は物理。苦手なぶん、人より長い時間勉強した自負がある。

動いている電車でジャンプしても元の場所に着地するのはなぜ?

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動いている電車の中でジャンプしてみたことはありますか?浮いている間も電車は動き続けています。着地するとき、その地点はジャンプし始めた地点でしょうか、それとも、ジャンプしている間に電車が進んだ分、車両の後ろ側に着地するでしょうか?

動いている電車でジャンプしたらどうなる?

動いている電車でジャンプしたらどうなる?

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答えは「ジャンプし始めた元の位置に着地」します。止まっている電車の中でジャンプしても、動いている電車のなかでジャンプしても、答えは同じなのです。

これは電車でなくても、例えば船や飛行機でも同じ現象が起こります。他にも、電車の中でボールを上に投げてもちゃんと自分の手元に戻ってくるはずですよ。

これらの現象は全て1つの物理法則で説明することができます。それは「慣性の法則」と呼ばれる法則です。慣性の法則を簡単にいうと「物体はその運動の状態を維持し続けようとする」法則。つまり、動いている物体は動き続け、静止している物体は静止し続けようとするのです。

動いている電車の中では、乗っている人も同時に「動いて」いる

電車の中にいる私たちは、物理的にいうと「電車と一緒に電車の方向に動き続けている」のです。動いているかどうかは、私たちが自分の意志で動いているかどうかでなく、その方向に移動しているかどうか、で考えてください。

ですから、電車の中でジャンプしたとしても、ジャンプ前もジャンプ中も電車と同じ速度で電車と同じ方向に運動し続けている(=慣性)ので、ジャンプ前と同じ地点に着地することができるのです。

不思議に思う方は、電車の外側からこの実験を見ている人を想像してみてください。その電車の外の観察者から見れば、ジャンプした位置と着地した位置は違います。観測者も実験者も電車の中にいるので、「同じ位置に着地した」ように見えている、とも言えるでしょう。これは相対位置の話になっていくので、気になった方は調べてみてください。

慣性の法則について分かりやすく解説!

動いているものは動き続け、止まっているものは止まり続ける、と簡単に説明した慣性の法則について、詳しく説明していきましょう。

慣性の法則の定義

ブリタニカ国際大百科事典の定義によると、慣性の法則とは「外から力が作用しなければ、物体は静止または等速度運動を続けるという法則」です。ニュートンの運動の法則の1つで、運動の第一法則ともいいます。慣性とは、運動の現状をそのまま保持しようとする物体の性質のことです。

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