鉄の特徴は知っているか?「強度が高い」「錆びるのでメッキが必要」「安価」「加工しやすい」なんかがすぐ挙げられるな。
今回は鉄の性質と加工方法についての話です。学生時代に製鉄所の見学に行ってそのスケールに感動したという化学ライター小春と解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。大学時代に製鉄所の見学に行き、24時間365日操業する難しさと面白さに惹かれ、一度は製鉄関連の就職も考えたという。

鉄って何?鉄と鋼の違いとは?

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鉄は原子番号26、元素記号Feで表される元素の1種です。地球の地殻の5%を占めていて、地球上の元素で4番目に多く存在しています。工業的によく利用されているため、私たちの生活に密着した元素の1つです。

鉄の融点は1,538℃!安価で加工しやすい金属

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鉄の融点はおよそ1,538℃と高い温度です。イオン間の距離が小さければ小さいほど融点や沸点が高いため、金属ごとに固有の融点や沸点を持っています。目安として、イオン価数が多いものや、鉄も含まれている遷移金属は比較的融点や沸点が高いです。

工業的によく使用される金属には、鉄の他にアルミニウム、銅、鉛、チタンが挙げられます。調理器具でよく見かけるステンレスは、「ステンレス」という名前の金属ではなく、鉄と炭素とクロムの合金です。ステンレスは英語で錆びない(=stainless)という意味であり、鉄の欠点である錆びやすい特徴をうまくカバーしていると言えます。

鉄は数ある金属の中でも安価であり、あらゆる特性が中くらいです。比較的加工もしやすいので、機械用具や建築材料、車両などに使われています。

鉄と鋼の違いは、含まれる炭素量の違い

鉄と鋼の違いは、含まれる炭素量の違い

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よく耳にする金属材料の「鋼」は、金属の種類ではありません。鋼は鉄の一種です。

正式には、鉄に含まれている炭素分が1.7%より少ないものが鋼(英語ではsteel)、1.7%以上ものが銑鉄(英語ではiron)と呼び分けられています。実は、一般的に私たちが「鉄」と呼んでいる金属は、多くの場合「鋼」なのです。

銑鉄は炭素の含有量が多く硬くてもろい性質をしていますが、鋼は柔らかくて伸びやすい、または粘りがあり強靭な性質を持っています。鋼と聞けば、ポケモンのタイプのハガネタイプを想像する人も多いでしょう。あのイメージの通り、鋼は硬くて加工もしやすい金属なのです。

鉄は暮らしと産業を支えている

硬くて強く用途に合わせて自在に加工しやすい特性をもった鉄は、古くから人間の暮らしの中で使われてきました。古いものでは紀元前5000年頃に、古代オリエントのメソポタミア地域の装飾物が鉄でできています。鉄には、7000年以上、武器や装飾に使われてきた歴史があるのです。産業革命以降では、蒸気機関やエンジンなどの開発で鉄は大活躍してきました。

現在でも、鉄は金属製品の90%を占めているとも言われています。他にも、製品自体は鉄とは関係のないプラスチック製品でさえ、工場や装置は鉄でできているのです。

鉄の加工方法は?

鉄の原料は鉄鉱石です。日本では鉄鉱石は100%輸入に依存しています。鉄鉱石にはさまざまな種類がありますが、製鉄の原料として多く使用されるのは、主に磁鉄鉱と赤鉄鉱、褐鉄鉱です。酸化鉄である鉄鉱石を「鉄」にするためには、鉄鉱石に結びついた酸素を取り除かなくてはなりません。

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鉄鉱石から鉄に加工する方法は「還元反応」

鉄鉱石から鉄を作り出すのに重要な材料は、コークス、石灰石です。コークスを燃焼させることにより、一酸化炭素や水素などの高温の還元ガスが発生します。鉄鉱石と還元ガスが反応することにより、鉄鉱石中が還元され、銑鉄となるのです。一酸化炭素が酸化鉄の酸素を奪う、と考えると分かりやすくなります。

さらに、銑鉄から鋼をつくるためには、取り出した銑鉄に酸素を適量吹き込まなくてはなりません。全体的な流れとしては、鉄鉱石+コークス→銑鉄→鋼です。

鉄の融点を下げる方法

一般的な鋼材は1500℃以上に加熱しなければ溶けませんが、鋳物に使用される鋳鉄は1200℃程度に加熱すれば溶け始めます。

この理由は、鋳鉄には2%程度のケイ素と3%程度の炭素が含まれているからです。純粋な物質に別の物質が加わると、液体から固体になる温度が低下する現象が起こります。この現象が「凝固点降下現象」です。

凝固点降下についてカンタンに解説

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凝固点=融点です。凝固点では、凝固速度と融解速度が釣り合った状態である「固液平衡」になっています。沸点の時と同じですね。鋳鉄と鋼では登場する元素が多すぎて複雑ですので、簡単に水と食塩水で考えましょう。


分子レベルで考えた時に、 凝固点(融点)は、水分子(液体)と水分子(固体)が釣り合っている状態だと言えます。しかしながらここに溶質である食塩が加わると、釣り合いは崩れ、融解速度は一定であるのに凝固速度だけ遅くなるという現象が起きますね。溶質が邪魔で、水分子(固体)に近づきにくくなるイメージです。

この状態から、より水分子(固体)を増やすためには、融解速度を下げるために溶液の温度を下げなければなりません。これが、凝固点降下の簡単な説明です。

凝固点降下の身近な例には、路面凍結防止に塩化カルシウムを撒くことや、自動車に使用する不凍液(エチレングリコール)、アイスクリーム作りが挙げられます。

日本古来の製鉄方法「たたら製鉄」

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たたら製鉄とは、砂鉄と木炭を原料にして、粘土製の炉の中で燃焼させることにより鉄を生産する製鉄方法の1つです。技術的に完成したのは江戸時代中期とも言われています。日本の刀剣づくりの原料である玉鋼は、このたたら製鉄によって作られていました。残念ながら、現存するたたら製鉄の施設は奥出雲の日刀保たたらのみです。最後にこの日本の伝統的手法であるたたら製鉄についてご紹介します。

たたら製鉄の仕組み

たたら製鉄には、銑押し法と鉧押し法という2つの手法があり、いずれも製鉄には3〜4日かかり、生産できる鉄素材が異なっています。現在、1回の操業で生産される刀匠が使用する鉄の塊は約2.5トンです。

たたら製鉄では、1回の操業は70時間休みなく行われます。全体の工程は「籠り(こもり)」「籠り次(こもりつぎ)」「のぼり」「下り(くだり)」の4工程です。全てを取り仕切る技術責任者を「村下(むらげ)」と呼ばれています。

たたら製鉄は一子相伝の手法であったため、詳細な作業方法や手順が記録に残されていません。

古代・中世のたたら製鉄

古代日本においても、現代と同じく原料は鉄鉱石でした。古墳時代頃に砂鉄を使った製鉄方法が伝来すると、鉄鉱石よりも砂鉄の方が豊富だったこともあり、砂鉄を使った製鉄が主流となっていきます。

中世においては、良質な砂鉄が算出する中国山地に集中するようになっていきました。さらに製鉄法が確立し、箱型炉が大型化するとともに地下構造も大きくなったのです。

\次のページで「近世のたたら製鉄」を解説!/

近世のたたら製鉄

近世では砂鉄の採集方法も発達し、純度80%以上の砂鉄が採集できるようになっていきました。江戸時代になると、たたら製鉄にとって画期的な「天秤ふいご」と呼ばれる装置が開発されます。天秤ふいごの名前は知らなくても、映画もののけ姫で女衆たちが踏んでいた装置は知っている人が多いのではないでしょうか。あの装置が、天秤ふいごです。

天秤ふいごによって、砂鉄の燃焼のために必要な新鮮な空気を、人工的に送り込み続けることが可能になりました。この発明により、鉄の生産量や品質が向上し、日本刀だけでなく、当時すでに日本に渡っていた鉄砲の製造にも貢献したのです。

古代から現代まで人間の暮らしを支えている鉄。脱炭素に向けて鉄加工の手法も研究され続けている

鉄は古代から私たちの暮らしにはなくてはならない存在です。24時間365日鉄を燃やし続ける技術は今もなお、研究され続けています。二酸化炭素を発生させない鉄鉱石の還元方法が実用化される日も近いでしょう。

もし可能ならば、製鉄所の見学に行ってみてはいかがでしょうか。1000℃を超えるほどの高温で液体化した鉄を見るのは圧巻ですよ。今までに見たことのないスケールの世界が広がっています。

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化学理科

融点は約1540℃!鉄の加工の方法と歴史を、製鉄所見学に行った院卒ライターが分かりやすくわかりやすく解説!

鉄の特徴は知っているか?「強度が高い」「錆びるのでメッキが必要」「安価」「加工しやすい」なんかがすぐ挙げられるな。
今回は鉄の性質と加工方法についての話です。学生時代に製鉄所の見学に行ってそのスケールに感動したという化学ライター小春と解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。大学時代に製鉄所の見学に行き、24時間365日操業する難しさと面白さに惹かれ、一度は製鉄関連の就職も考えたという。

鉄って何?鉄と鋼の違いとは?

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鉄は原子番号26、元素記号Feで表される元素の1種です。地球の地殻の5%を占めていて、地球上の元素で4番目に多く存在しています。工業的によく利用されているため、私たちの生活に密着した元素の1つです。

鉄の融点は1,538℃!安価で加工しやすい金属

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鉄の融点はおよそ1,538℃と高い温度です。イオン間の距離が小さければ小さいほど融点や沸点が高いため、金属ごとに固有の融点や沸点を持っています。目安として、イオン価数が多いものや、鉄も含まれている遷移金属は比較的融点や沸点が高いです。

工業的によく使用される金属には、鉄の他にアルミニウム、銅、鉛、チタンが挙げられます。調理器具でよく見かけるステンレスは、「ステンレス」という名前の金属ではなく、鉄と炭素とクロムの合金です。ステンレスは英語で錆びない(=stainless)という意味であり、鉄の欠点である錆びやすい特徴をうまくカバーしていると言えます。

鉄は数ある金属の中でも安価であり、あらゆる特性が中くらいです。比較的加工もしやすいので、機械用具や建築材料、車両などに使われています。

鉄と鋼の違いは、含まれる炭素量の違い

鉄と鋼の違いは、含まれる炭素量の違い

image by Study-Z編集部

よく耳にする金属材料の「鋼」は、金属の種類ではありません。鋼は鉄の一種です。

正式には、鉄に含まれている炭素分が1.7%より少ないものが鋼(英語ではsteel)、1.7%以上ものが銑鉄(英語ではiron)と呼び分けられています。実は、一般的に私たちが「鉄」と呼んでいる金属は、多くの場合「鋼」なのです。

銑鉄は炭素の含有量が多く硬くてもろい性質をしていますが、鋼は柔らかくて伸びやすい、または粘りがあり強靭な性質を持っています。鋼と聞けば、ポケモンのタイプのハガネタイプを想像する人も多いでしょう。あのイメージの通り、鋼は硬くて加工もしやすい金属なのです。

鉄は暮らしと産業を支えている

硬くて強く用途に合わせて自在に加工しやすい特性をもった鉄は、古くから人間の暮らしの中で使われてきました。古いものでは紀元前5000年頃に、古代オリエントのメソポタミア地域の装飾物が鉄でできています。鉄には、7000年以上、武器や装飾に使われてきた歴史があるのです。産業革命以降では、蒸気機関やエンジンなどの開発で鉄は大活躍してきました。

現在でも、鉄は金属製品の90%を占めているとも言われています。他にも、製品自体は鉄とは関係のないプラスチック製品でさえ、工場や装置は鉄でできているのです。

鉄の加工方法は?

鉄の原料は鉄鉱石です。日本では鉄鉱石は100%輸入に依存しています。鉄鉱石にはさまざまな種類がありますが、製鉄の原料として多く使用されるのは、主に磁鉄鉱と赤鉄鉱、褐鉄鉱です。酸化鉄である鉄鉱石を「鉄」にするためには、鉄鉱石に結びついた酸素を取り除かなくてはなりません。

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