今回は、中学や高校の教科書ではほとんど登場しない「隠花植物」について学んでいきます。隠花植物とは花が咲かない植物のことをまとめたものです。しかし、今では花が咲くかどうかという形態で分類することがなくなったことから、この用語はほとんど使われなくなったのです。そんな隠花植物の特徴や隠花植物に分類されていた植物種について、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

隠花植物って何?

「隠花植物(いんかしょくぶつ)」とは、かつて、花を咲かせない下等とされた植物のことを意味していました。そして、隠花植物の対語は「顕花植物(けんかしょくぶつ)」であり、花を咲かせて種子を作る植物のことを言います。この隠花植物という用語は、植物の進化が解明されたことから、現代の生物学ではほとんど使われなくなりました。

それでは、隠花植物と言われていた植物にはどういった特徴があり、どんな植物が隠花植物に分類されていたのかを学んでいきましょう。

隠花植物には何がある?

隠花植物として分類されていた植物は主に「コケ植物」、「シダ植物」、「藻類」、「菌類」、「地衣類」の5つです。後ほど詳しく解説しますが、これらの植物が分類されている「界」も異なっています。それぞれの植物の特徴について解説しますね。

1. コケ植物

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コケ植物は湿った環境で生息し、岩場や森林などでよく見かけますよね。コケ植物の特徴として、根、茎、葉の区別がなく、維管束が発達していないことが挙げられます。根と形状が似ている「仮根」は、通常の根のように水分や養分を吸い取らず、植物体を支える役割を担っているのです。そして、水分は植物体の表面全体から吸収します。コケ植物は、花粉を形成し種子を作る種子植物と異なり、胞子のうにある胞子で子孫を残すのです。

2. シダ植物

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シダ植物は日当たりの悪い場所や海岸の崖地でよく見かけますよね。そんなシダ植物はコケ植物よりも少し発達した構造を持っています。コケ植物と異なり、葉、茎、根の区別がつき、維管束も発達しているのです。繁殖の方法はコケ植物と同様に種子を作らずに、胞子のうに蓄えられた胞子で子孫を残します。シダ植物の代表的な植物であるイヌワラビは、葉の裏に大量の胞子のうを形成するのです。

\次のページで「3. 藻類」を解説!/

3. 藻類

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「藻類」というと、ワカメや昆布などの大型のものからミカヅキモなどの小さいものまで幅広いものを思い浮かびますよね。すべてに共通して言えることは、根、茎、葉の区別がはっきりとしていないことです。まずは、藻類の成り立ちについて解説しますね。

「緑藻」や「紅藻」、「灰色藻」といった藻類は、原始的な真核細胞がシアノバクテリアなどの原核藻類を細胞内に取り込んで共生させてできた植物のことです。この現象を「一次共生」と呼びます。そして、緑藻、紅藻、灰色藻以外の全ての藻類は、別の真核生物が一次共生で生まれた藻類を細胞内に取り込んだものとされているのです。この現象を「二次共生」と呼びます。このように、藻類は原子的な細胞が「共生」したことで誕生した生物なのです。

藻類の増え方は多種多様で、コンブやワカメなどの褐藻類は「胞子」によって個体を増やします。アオミドロやミカヅキモは個体の細胞同士が「接合」することで増えるのです。そして、クロレラなどの単細胞の藻類は「分裂」をすることで個体を増やしていきます。

このように、藻類と言われる生物は繁殖方法が様々あるのです。

4. 菌類

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キノコをはじめとするカビや酵母は菌類に分類され、植物ではありません。特に、キノコは光合成をする必要がないため、森林の地面や枯れ木など比較的暗い場所で生息しています。キノコは枯れ木に菌糸を伸ばして、体外の有機物を自身で分泌した酵素で分解し、体内に取り込むのです。菌類も胞子で繁殖し、子嚢(しのう)という袋に胞子を作る子嚢菌類(しのうきんるい)や担子器という細胞の外側に胞子を作る担子菌類などがあります。

5. 地衣類

地衣類とは、子嚢菌類(しのうきんるい)や担子菌類などの菌類が緑藻類やシアノバクテリアといった藻類と共生した複合体のことを言います。藻類が光合成を行うことでエネルギーを作り、菌類は形状作りや共生している藻類が生息しやすいような環境を提供するという、お互いに利益があることを行っているのです。地衣類の例として、ハナゴケやマツゲゴケ、サルオカゼなどがあります。

植物の進化の過程とは?

植物の進化の過程とは?

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隠花植物や顕花植物が生物学で使われなくなったのは、植物の進化の過程が明らかになったからでしたね。それでは、その明らかになった植物の進化の過程とはどのような流れなのでしょうか。実は、今、陸上に生息している植物は全て水中に生息していたシャジクモ類から進化したとされています。具体的な進化の流れと特徴を以下にまとめました。

\次のページで「現在の生物の分類:五界説」を解説!/

1. 約38億年前に地球に生命が誕生し、温度変化が緩やかな水中に藻類である「シャジクモ類」が生息し始める。

2. 水中よりも光が豊富に存在する地上に、乾燥に強い胞子を持つ「コケ植物」が進出する。

     特徴:体表からの水分の蒸発を防ぐためにクチクラ層が発達した。

               生殖には水分を必要とした。

3. コケ植物に比べて光合成や呼吸が活発に行われる「シダ植物」が誕生する。

  特徴:乾燥に強い胞子や多細胞の造卵器が作られる。

          維管束と気孔が発達し、根や茎、葉が分化する。

          生殖には水分をあまり必要としなくなる

4. 種子を形成する「裸子植物」が誕生する。

    特徴:胚珠や種子が形成され、維管束も発達する。

      種子を作ることで、乾燥や寒冷化に適応できるようになる。

      生殖に水分をほとんど必要としなくなる(イチョウとソテツは必要)。

5. 子房が形成された「被子植物」が誕生する。

    特徴:花粉管が発達したことで、生殖に水分を必要としなくなる。

このように、進化するにつれて器官が発達していき、生殖方法も変わっていきました

植物が陸上に進出した理由として、大規模な海水面の低下や、浅い淡水域に進出した藻類が大気中に存在する二酸化炭素を利用していくうちに、陸上に進出した説などがあります。

現在の生物の分類:五界説

隠花植物が使われていた時代では、生物は「植物界」と「動物界」の2つの界に分けられた「二界説」が植物学者のリンネによって説かれました。その後、三界説と四界説を経て1969年に「五界説」が誕生したのです。五界説は、生物を「植物界」、「動物界」、「菌界」、「原生生物界」、「原核生物界」の5つの界に分類したものを言います。今では、隠花植物は五界説のうち、主に植物界、原生生物界と菌界に属しているのです。

ここでは、各界の植物種について解説していきます。

1. 植物界

植物界には、スギゴケやゼニゴケといった「コケ植物」とイヌワラビやゼンマイといった「シダ植物」が分類されています。これらの植物は種子を作らず、胞子で新たな個体を増やしていくのでしたね。また、植物の進化の初期段階の植物に当たりますね。

2. 原生生物界

原生生物界には、ムラサキホコリやウリホコリといった「変形菌」ミズカビやワタカビなどの「卵菌類」が属しています。また、ミドリムシやクリプトモナス、カサノリなどの藻類の多くは、この原生生物界に属しているのです。

\次のページで「3. 菌界」を解説!/

3. 菌界

実は菌界に含まれている生物も隠花植物の仲間とされていました。コウジカビやチャワンタケといった「子嚢菌」や、いわゆるキノコと知られているマツタケやシイタケなどの「担子菌」があります。これらの菌類も花を咲かせない植物として分類されていたとは驚きですよね。

隠花植物は決して下位の植物ではない!

隠花植物は花が咲かないからと、下等な植物として扱われてきました。しかし、実際は植物が陸上に進出した途中経過の植物であり、隠花植物がいなければ、今の陸上植物が存在していなかったと言っても過言ではありません。実は、私たちの身のまわりにも、隠花植物に分類されていた植物があるのです。ぜひ、これらの植物の魅力に触れながら探してみてくださいね。

イラスト引用元:いらすとや

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理科生き物・植物生物生物の分類・進化

隠花植物とは?特徴や植物の種類について現役理系学生がわかりやすく解説

今回は、中学や高校の教科書ではほとんど登場しない「隠花植物」について学んでいきます。隠花植物とは花が咲かない植物のことをまとめたものです。しかし、今では花が咲くかどうかという形態で分類することがなくなったことから、この用語はほとんど使われなくなったのです。そんな隠花植物の特徴や隠花植物に分類されていた植物種について、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

隠花植物って何?

「隠花植物(いんかしょくぶつ)」とは、かつて、花を咲かせない下等とされた植物のことを意味していました。そして、隠花植物の対語は「顕花植物(けんかしょくぶつ)」であり、花を咲かせて種子を作る植物のことを言います。この隠花植物という用語は、植物の進化が解明されたことから、現代の生物学ではほとんど使われなくなりました。

それでは、隠花植物と言われていた植物にはどういった特徴があり、どんな植物が隠花植物に分類されていたのかを学んでいきましょう。

隠花植物には何がある?

隠花植物として分類されていた植物は主に「コケ植物」、「シダ植物」、「藻類」、「菌類」、「地衣類」の5つです。後ほど詳しく解説しますが、これらの植物が分類されている「界」も異なっています。それぞれの植物の特徴について解説しますね。

1. コケ植物

image by iStockphoto

コケ植物は湿った環境で生息し、岩場や森林などでよく見かけますよね。コケ植物の特徴として、根、茎、葉の区別がなく、維管束が発達していないことが挙げられます。根と形状が似ている「仮根」は、通常の根のように水分や養分を吸い取らず、植物体を支える役割を担っているのです。そして、水分は植物体の表面全体から吸収します。コケ植物は、花粉を形成し種子を作る種子植物と異なり、胞子のうにある胞子で子孫を残すのです。

2. シダ植物

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シダ植物は日当たりの悪い場所や海岸の崖地でよく見かけますよね。そんなシダ植物はコケ植物よりも少し発達した構造を持っています。コケ植物と異なり、葉、茎、根の区別がつき、維管束も発達しているのです。繁殖の方法はコケ植物と同様に種子を作らずに、胞子のうに蓄えられた胞子で子孫を残します。シダ植物の代表的な植物であるイヌワラビは、葉の裏に大量の胞子のうを形成するのです。

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