はぁ、はぁ...。すまん。今日は走ってきたから息があがってしまった。はぁ、はぁ...。よし、今日は「酸素負債」について見ていこう。今の俺みたいな状態を酸素負債と言うぞ。運動や生理学に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で運動について学び、生理学に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

酸素負債ってなに?ざっくりと解説!

image by iStockphoto

酸素負債(oxygen debt)は急激に激しい運動などを行った際に、体内で必要とする酸素の量に見合う酸素の供給がない状態のことを言います。

酸素負債は急に激しい運動をしたときなどに起こり、激しい運動後にしばらく息が荒く続くのは酸素負債を解消し、安静時の状態に戻すためです。酸素負債は運動後過剰酸素消費(EPOC, excess post-exercise oxygen consumption)とも呼ばれます。

運動強度が急激に強くなって、酸素の供給が間に合わないときでも、ある程度運動を続けられるのは、解糖系を利用したエネルギー産生を行うことで酸素なしでも、運動に必要なエネルギーを得ることができるからです。これを無酸素代謝と呼びます。しかし、エネルギーの産生降率は有酸素代謝に比べて低いので長時間は行えません。

酸素負債と酸素借の関係について解説

酸素負債と酸素借の関係について解説

image by Study-Z編集部

酸素負債の時には安静状態に戻るまでに運動時に必要としていた時よりも多くの酸素を必要とします。酸素負債が起こる状態はエネルギーを前借りしている状態です。酸素を借金している状態なので酸素借といいます。酸素借を返すために必要な酸素が酸素負債です。この酸素負債は、前借していた酸素の量(酸素借)よりも少し多くなることが知られています。

例を挙げると、銀行などでお金を借りると返済の際には利子がつき、借入額よりも多くのお金を返さなければなりません。これと同じです。

酸素負債のときには心拍はあがるの?

一時的ですが心拍は上がります。

酸素借の時は無酸素運動がメインなので心拍はそこまで上がりません。酸素負債の時は負債分を補わなければならないので一時的に心拍は上がりますが、時間が経つにつれて落ち着いていくので心拍は低下していき、元に戻ります。

急なダッシュを行った後に、「はぁ、はぁ...」と呼吸が荒れた状態になっているのは心拍が上がっている証拠です。

酸素負債はどうやったら減らせる?

有酸素運動を行うことが有効的だと考えられています。有酸素運動を行うことで酸素を効率よく吸収できるからです。

例えば、走り終わった後に急に止まらずに、軽くジョギングしたり、ウォーキングするように言われたことがあると思います。これはそのためなのです。

一説には有酸素運動を行うことで血管などの循環器系が健康になることで酸素の運搬効率が良くなるとも言われています。

\次のページで「酸素負債はどんな運動で起こるの?」を解説!/

酸素負債はどんな運動で起こるの?

酸素負債は無酸素運動でも有酸素運動でも起こります

しかし、その程度(負債量)が多いのは、筋トレや短距離走などの無酸素運動を行った場合です。

無酸素運動では酸素負債が起こりやすい

無酸素運動では酸素負債が起こりやすい

image by Study-Z編集部

酸素負債が起こりやすい(酸素の負債量が多い)のは、筋トレや短距離走などの無酸素運動です。

無酸素系の運動では急激に激しい動きをしなければならないので、一時的に大量のエネルギーが必要になります。そのため、エネルギーを作るのに時間をかけられないので、無酸素系のエネルギー産生機構である解糖系を使ってスピーディにエネルギーを作りだすことで代用しているのです。

しかし、本来は酸素を使ってエネルギーを作り出すべきだったので、必要だった酸素を運動後に酸素負債という形で補わなければなりません。

有酸素運動では酸素負債が起こりにくい

有酸素運動では酸素負債が起こりにくい

image by Study-Z編集部

一方で、ランニングやウォーキング、水泳などの有酸素運動では酸素負債は起こりにくいです。

有酸素運動は無酸素運動と比較すると運動強度が低いので、一時的な大量のエネルギーは必要にありません。そのため、体は酸素を使ってクエン酸回路や電子伝達系を使って効率的にエネルギーを産生します。無酸素系のエネルギー産生(酸素借)がほとんどないので酸素負債も起こりにくいのです。酸素負債が起こりにくいので、有酸素運動は長時間行うことができます。

ここで重要になるのは、最大酸素摂取能力です。最大酸素摂取能力は有酸素系のエネルギー産生と無酸素系のエネルギー産生が切り替わるポイントなので、最大酸素摂取能力を超えるような強度の運動では有酸素運動であったとしても、無酸素系のエネルギー産生を行う必要があるので酸素負債は起こります。マラソン選手はトレーニングによって、最大酸素摂取能力を高めることで長時間・高強度で走ることができるのです。

乳酸が溜まると酸素負債は増えるの?

無酸素運動である筋トレや短距離走を行うと、「乳酸が溜まって腕が上がらない」、「乳酸で足がうごかない」なんてことを言っているのを聞いたことはありませんか?

無酸素系のエネルギー産生を行うと、エネルギーと同時に乳酸が産生され、血液中に放出されます。なので乳酸が産生されているような状態は、「無酸素系のエネルギー産生を行っている。」つまり、酸素負債に陥っていると言えます。しかし、乳酸が溜まることで酸素負債が増えるわけではありません。

乳酸は疲労物質なの?

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よく間違われますが、乳酸は疲労物質ではありません。激しい運動を行ったときに乳酸が産生され、血液中に放出され血液中の乳酸濃度が上がり、回復に連れて減少することから、長い間、乳酸が疲労を起こすと考えられてきました。

最近の研究では、乳酸が多くつくられることで乳酸の生成過程で発生する水素イオンの影響により体が若干酸性に傾くこと、エネルギー源である筋グリコーゲンの蓄えが少なくなったり、筋収縮が抑えられるることが筋肉疲労の原因ではないかと言われています。

\次のページで「乳酸は運動時のエネルギー源になる」を解説!/

乳酸は運動時のエネルギー源になる

乳酸は運動時のエネルギー源になる

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乳酸は疲労の原因はなく、むしろエネルギー源であるとの考えが最近の主流です。

無酸素系のエネルギー産生の過程で作られた乳酸は一度、血液中に放出されますが、その後、乳酸輸送担体を介して再度、細胞内に取り込まれます。取り込まれた乳酸は乳酸脱水素酵素 B (LDH B)の働きによってピルビン酸になり、ピルビン酸は有酸素系のエネルギー産生の機構に入り、クエン酸回路・電子伝達系でエネルギーに変換されるのです。

アスリートは乳酸を処理する能力が高く、効率よくエネルギーを産生できると言われています。

酸素負債を減らせる体を作り、運動の効率を上げよう!

酸素負債は酸素の借金です。トレーニングによって酸素を借金しないですむ体を作って、運動の効率を上げましょう!

イラスト使用元:いらすとや

" /> 酸素の借金状態である「酸素負債」ってなに?心拍はどうなる?乳酸との関係は?メカニズムは?現役の研究者がわかりやすく解説! – Study-Z
タンパク質と生物体の機能体の仕組み・器官理科生き物・植物生物

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はぁ、はぁ…。すまん。今日は走ってきたから息があがってしまった。はぁ、はぁ…。よし、今日は「酸素負債」について見ていこう。今の俺みたいな状態を酸素負債と言うぞ。運動や生理学に詳しいライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で運動について学び、生理学に精通している。現在も研究者として活動を続ける傍ら、市民ランナーとしても多くのマラソン大会に出場している現役のランナー。

酸素負債ってなに?ざっくりと解説!

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酸素負債(oxygen debt)は急激に激しい運動などを行った際に、体内で必要とする酸素の量に見合う酸素の供給がない状態のことを言います。

酸素負債は急に激しい運動をしたときなどに起こり、激しい運動後にしばらく息が荒く続くのは酸素負債を解消し、安静時の状態に戻すためです。酸素負債は運動後過剰酸素消費(EPOC, excess post-exercise oxygen consumption)とも呼ばれます。

運動強度が急激に強くなって、酸素の供給が間に合わないときでも、ある程度運動を続けられるのは、解糖系を利用したエネルギー産生を行うことで酸素なしでも、運動に必要なエネルギーを得ることができるからです。これを無酸素代謝と呼びます。しかし、エネルギーの産生降率は有酸素代謝に比べて低いので長時間は行えません。

酸素負債と酸素借の関係について解説

酸素負債と酸素借の関係について解説

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酸素負債の時には安静状態に戻るまでに運動時に必要としていた時よりも多くの酸素を必要とします。酸素負債が起こる状態はエネルギーを前借りしている状態です。酸素を借金している状態なので酸素借といいます。酸素借を返すために必要な酸素が酸素負債です。この酸素負債は、前借していた酸素の量(酸素借)よりも少し多くなることが知られています。

例を挙げると、銀行などでお金を借りると返済の際には利子がつき、借入額よりも多くのお金を返さなければなりません。これと同じです。

酸素負債のときには心拍はあがるの?

一時的ですが心拍は上がります。

酸素借の時は無酸素運動がメインなので心拍はそこまで上がりません。酸素負債の時は負債分を補わなければならないので一時的に心拍は上がりますが、時間が経つにつれて落ち着いていくので心拍は低下していき、元に戻ります。

急なダッシュを行った後に、「はぁ、はぁ…」と呼吸が荒れた状態になっているのは心拍が上がっている証拠です。

酸素負債はどうやったら減らせる?

有酸素運動を行うことが有効的だと考えられています。有酸素運動を行うことで酸素を効率よく吸収できるからです。

例えば、走り終わった後に急に止まらずに、軽くジョギングしたり、ウォーキングするように言われたことがあると思います。これはそのためなのです。

一説には有酸素運動を行うことで血管などの循環器系が健康になることで酸素の運搬効率が良くなるとも言われています。

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