だ腺染色体、生物分野でよく見かける言葉ですが、正しく理解しているでしょうか?だ腺染色体は、ハエやカの唾液腺に見られる非常に大きい染色体です。普通の染色体はもっと小さく、これらは区別して理解する必要がある。また、だ腺染色体は特殊な構造をしており、これもまた普通の染色体と区別して理解すべきポイントです。
だ腺染色体について、現役医学生ライターたけのこと一緒に解説していきます。

ライター/たけのこ

心臓に魅せられた現役医大生。心臓外科医に憧れ、中学生の頃は血管モデルや心臓模型を作ったりして遊んでいた。個別指導の経験がある。人体全般と再生医療に興味あり。

だ腺染色体とは?

だ腺染色体は、又の名を多糸染色体という巨大な染色体です。ヒトにはありません詳しく見ていきましょう。

「だ腺」の理由

Polyten chromosome.jpg
LPLT - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

だ腺染色体は、ハエやカの幼虫のだ腺に見られる巨大な染色体。19世紀後半〜20世紀初頭に、アメリカの研究者が昆虫の幼虫を観察していたところ発見された構造物です。普通の染色体の100~150倍の大きさで、非常に大きいことがわかりますね。

ちなみに、だ腺というのはだ液を分泌する腺のことです。私たちヒトにも備わっていますが、昆虫にも存在しています。耳の前や顎の下を揉んでみてください。だ液が出てきませんか?これが私たちの「だ腺」です。

だ腺染色体が大きい理由

image by iStockphoto

だ腺染色体は又の名を多糸染色体と言いましたね。というのも、このだ腺染色体はDNAが複製するにも関わらず分離しません。複製されたDNAにおいて、同じ遺伝情報を持った染色体同士を姉妹染色分体と言いましたが、これら姉妹染色分体が融合したまま離れないのです。核分裂と核分裂の間の期間を間期と言い、本来この期間はDNAがバラバラに散らばっているため染色体は観察されません(染色体の複製が行われています)。しかし、だ腺染色体については染色体の分離が起こらないために、間期であっても染色体が観察されるのです

さらに、だ腺染色体においては相同染色体同士が対合しています。本来、この対合という現象は生殖細胞を作成するための減数分裂でのみ見られるもの。しかし、だ腺染色体では例外的にこの現象が見られます。相同染色体は同じ形の染色体のことを指し、これらが重なるようにくっ付くことを対合と言いました。このため、本来見られるはずの数の染色体は観察されず、その半分の数の染色体のみが観察されます。

さて、このだ腺染色体ですが、巨大なため一般的な染色体よりも観察が容易です。このため、「ハエやカのだ腺にしか見られない巨大な染色体」というマニアックさにも関わらず、高校生物などでも頻繁に扱われるのでしょう。

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染色体地図について

染色体地図について見ていきましょう。染色体は染色することで初めて観察可能になる構造物ですが、だ腺染色体にはこの染色によく染まる部分が存在しています。シマウマのような横しま(バンドパターン)が観察されるのです。この横しま、実は遺伝子の発現量を示しています。明るく見える部分は遺伝子の発現が活発で、暗い部分は遺伝子の発現があまり多くありません。遺伝子の発現は、DNA量とRNA量の比で判断することができます。DNA鎖をもとにRNA鎖が作製され、これがやがてタンパク質の合成につながるのですが、RNA量が多いほど遺伝子発現が活発なことがわかりますね。つまり、だ腺染色体における明るいバンドではRNA量が多く、逆に暗いバンドではRNA量が少ないのです。

さて、このバンドパターン、遺伝子の位置を把握するのに使えそうですよね。実際、細胞学的地図ではこのバンドパターンが使われています。確認していきましょう。

細胞学的地図って?

細胞学的地図って?

image by Study-Z編集部

細胞学的地図は、だ腺染色体のバンドパターンをもとに作成された染色体地図。染色体のどこにどのような遺伝情報が存在しているのかを示しています。だ腺染色体の突然変異体について、その染色体と表現形を完全な染色体をもつ個体と比較することで、どこにどのような遺伝情報があるのか判断することができるのです。

バンドの場所を顕微鏡で調べる、構造的なアプローチで作製された地図といえます。

遺伝学的地図って?

遺伝学的地図って?

image by Study-Z編集部

遺伝学的地図は、組み換え価をもとに作成された染色体地図。組み替えの頻度から、染色体上におけるその遺伝子の距離を推定するのです。この場合顕微鏡を覗くことはあまりなく、計算をメインにして地図を作成していきます。

image by Study-Z編集部

さて、これらの染色体地図を比較してみましょう。いずれの染色体地図でも、その遺伝子の順序は同じになります。しかし、遺伝子同士の距離は一致するとは限りません。というのも、実際の染色体上には組み替えの起こりやすい部分と起こりにくい部分が存在しているためです。遺伝学的地図では「染色体のいずれの部分でも同じ確率で組み替えが起こる」という前提のもと、遺伝子の位置が推定されています。しかし実際の染色体上ではそうとも限りません。このため、計算上の位置と顕微鏡で見た時の遺伝子の位置にズレが生じる、つまり細胞学的地図と遺伝学的地図との間にわずかな違いが生じるのですね。

ヒトの染色体について

さて、ここまでだ腺染色体について見てきましたが、ヒトの一般的な染色体についても確認しておきましょう。

ヒトの染色体の形

Human male karyotype.gif
Courtesy: National Human Genome Research Institute - From w:en:Image:Human male karyotpe.gif, Uploaded by User:Duncharris., パブリック・ドメイン, リンクによる

ヒトの染色体は、44本の常染色体とXXもしくはXYの性染色体からなります。先ほどのだ腺染色体とは形、サイズが異なることがわかりますね。ヒトでは、基本的にいずれの細胞においてもこのような染色体を見ることができます。ちなみに、このように染色体がX字のように観察できるのは分裂期のみです。だ腺染色体は遺伝子を複製途中の間期にも染色体を観察することができましたが、ヒトでは間期には染色体は見られません。

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だ腺染色体とヒトの染色体を比較してみましょう。ここまでのまとめになります。

まず、だ腺染色体はハエ・カに見られる特殊な染色体でした。ヒトのだ腺には見られない染色体です。また、だ腺染色体は通常の100~150倍の大きさをもつ巨大な染色体でした。ヒトの染色体はそこまで大きくなることはありません。だ腺染色体は又の名を多糸染色体と言い、複製の後に分裂をしない性質を持っていましたよね。さらに、だ腺染色体では相同染色体同士が対合していました。このため、染色体の数が半分であるかのように見られるのでしたね。ヒトでは、相同染色体同士が対合するのは減数分裂をする時のみです。

だ腺染色体は、ハエ・カの幼虫のだ腺に見られる巨大な染色体!

ここまで、だ腺染色体の特徴について見てきました。繰り返しになりますが、だ腺染色体は特殊な染色体です。ヒトや他の動物の一般的な染色体とは区別して理解しましょう。だ腺と言っても、ハエやカのだ腺です。

染色体地図についても扱いましたが、この分野は概念の理解が難しいことで有名。特に遺伝学的地図の理解は遺伝分野のヤマとも言えますよ。一つの文献で理解できなかった場合でも、複数の資料にあたることで理解できる可能性は十分にあります。むしろ、難しい内容を理解しようとするときは、あえて同じ内容について複数の資料にあたってみることで、確実な理解を期待できます!参考にして見てください。

この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。

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理科生物

だ腺染色体って?どこにあるの?ヒトの染色体との違いは?医学生が丁寧にわかりやすく解説!

だ腺染色体、生物分野でよく見かける言葉ですが、正しく理解しているでしょうか?だ腺染色体は、ハエやカの唾液腺に見られる非常に大きい染色体です。普通の染色体はもっと小さく、これらは区別して理解する必要がある。また、だ腺染色体は特殊な構造をしており、これもまた普通の染色体と区別して理解すべきポイントです。
だ腺染色体について、現役医学生ライターたけのこと一緒に解説していきます。

ライター/たけのこ

心臓に魅せられた現役医大生。心臓外科医に憧れ、中学生の頃は血管モデルや心臓模型を作ったりして遊んでいた。個別指導の経験がある。人体全般と再生医療に興味あり。

だ腺染色体とは?

だ腺染色体は、又の名を多糸染色体という巨大な染色体です。ヒトにはありません詳しく見ていきましょう。

「だ腺」の理由

Polyten chromosome.jpg
LPLT – 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

だ腺染色体は、ハエやカの幼虫のだ腺に見られる巨大な染色体。19世紀後半〜20世紀初頭に、アメリカの研究者が昆虫の幼虫を観察していたところ発見された構造物です。普通の染色体の100~150倍の大きさで、非常に大きいことがわかりますね。

ちなみに、だ腺というのはだ液を分泌する腺のことです。私たちヒトにも備わっていますが、昆虫にも存在しています。耳の前や顎の下を揉んでみてください。だ液が出てきませんか?これが私たちの「だ腺」です。

だ腺染色体が大きい理由

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だ腺染色体は又の名を多糸染色体と言いましたね。というのも、このだ腺染色体はDNAが複製するにも関わらず分離しません。複製されたDNAにおいて、同じ遺伝情報を持った染色体同士を姉妹染色分体と言いましたが、これら姉妹染色分体が融合したまま離れないのです。核分裂と核分裂の間の期間を間期と言い、本来この期間はDNAがバラバラに散らばっているため染色体は観察されません(染色体の複製が行われています)。しかし、だ腺染色体については染色体の分離が起こらないために、間期であっても染色体が観察されるのです

さらに、だ腺染色体においては相同染色体同士が対合しています。本来、この対合という現象は生殖細胞を作成するための減数分裂でのみ見られるもの。しかし、だ腺染色体では例外的にこの現象が見られます。相同染色体は同じ形の染色体のことを指し、これらが重なるようにくっ付くことを対合と言いました。このため、本来見られるはずの数の染色体は観察されず、その半分の数の染色体のみが観察されます。

さて、このだ腺染色体ですが、巨大なため一般的な染色体よりも観察が容易です。このため、「ハエやカのだ腺にしか見られない巨大な染色体」というマニアックさにも関わらず、高校生物などでも頻繁に扱われるのでしょう。

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