今回は「ハーディー・ワインベルクの法則」について解説していきます。高校の教科書にも載っている有名な法則で、遺伝子頻度を計算する問題にもよく出てくる法則です。遺伝の計算問題は難しいものもあり、苦手意識を持っている人も多いかもしれませんね。今回はその基本となるハーディー・ワインベルクの法則についてしっかり押さえておこう。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

ハーディー・ワインベルクの法則とは

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ハーディー・ワインベルクの法則はイギリスの数学者であるハーディーと、ドイツの医師であるワインベルクがそれぞれ独立に発表した法則です。集団遺伝学の基本となっている法則で、高校の生物でも学習しますね。

ある生物集団において、(1)個体群のサイズが十分に大きく、(2)自由に交配を行い、(3)個体の流出・流入がなく、(4)突然変異が生じず、(5)遺伝子型に対する自然選択が働かない場合、対立遺伝子の遺伝子頻度は世代を経ても一定に保たれるという法則。

出典:小学館『デジタル大辞泉』

上記の条件を満たした集団は何世代経っても、「遺伝子頻度」は変わらない。このような集団はメンデル集団と呼ばれています。

遺伝子頻度とは

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では「遺伝子頻度」という言葉について少し解説していきましょう。遺伝子頻度とは、遺伝子プールに存在する対立遺伝子の割合のこと。

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この遺伝子プールというのは、その集団にいる全個体がもっている全ての遺伝子のことなんです。

例えば10人の集団で、対立遺伝子Aとaがあったとしましょう。対立遺伝子は2本の相同染色体に1つずつ存在しているはずなので、1個体は2つの遺伝子をもっていることなりますね。したがって、この集団の遺伝子型(もっている遺伝子の組み合わせ)はAAとAaとaaの3種類。そしてこの遺伝子プールには20個の遺伝子がある、といえます。

遺伝子頻度とは「その集団にいる全個体がもつ全ての遺伝子における、それぞれの対立遺伝子の割合」。この場合、20個の遺伝子の中で、遺伝子Aと遺伝子aがどれぐらいの割合で存在しているかを考えるのが遺伝子頻度なのです。

ハーディー・ワインベルクの法則を満たす条件

ここまでの説明で、何となくこの法則について分かってきたでしょうか。さて、ここからはハーディー・ワインベルクの法則を満たすための条件について、少し詳しく解説していきたいと思います。

(2)自由に交配を行うこと、(3)個体の流出・流入がない、(4)突然変異が生じない。この3つに関しては遺伝子頻度に影響を与えることは想像がしやすいかもしれません。

(1)個体群のサイズが十分に大きい、(5)遺伝子型に対する自然選択が働かない、について少し考えてみましょう。

個体群のサイズが十分に大きい

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環境変化や飢餓、感染症の流行などのきっかけによって集団の個体数が大きく減った場合、遺伝子頻度の割合に大きく影響を与えてしまうためです。

例えば白い花と赤い花、1:1の割合で咲く植物があったとします。1億個の中で1,000個の花が病気で咲かなかったとしても全体の0.001%。しかし、もし1万個の中で1,000個が咲かなかったとしたら、全体の10%。遺伝子頻度に与える影響は大きくなるでしょう。

このように、個体数が少なくなるほど、何かのきっかけで偶然に遺伝子頻度が変化してしまう可能性が高くなります。そのため、個体数が多いことが1つの条件となっているのです。

遺伝子型に対する自然選択が働かない

自然選択とは、環境に有利な形質をもつ個体が生存しやすく子孫を残しやすいことから、次第に不利な形質をもつ個体が減少していくことをいいます。

長い年月をかけて、環境に適応した有利な形質をもつ生物が増えていく。つまり、有利な形質・不利な形質においての遺伝子頻度が変化していくことになりますよね。そのため、自然選択が働かないというのが条件になっています。

遺伝子頻度の計算

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さて、ここで遺伝子頻度の計算方法について、少し説明していきましょう。ハーディ・ワインベルクの法則が成り立つ集団での遺伝子頻度は、大学入試の生物の問題でも出題されることがありますね。

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実際に計算してみよう

例えば対立遺伝子Aとaをもつ、100個体が存在する集団があるとしましょう。遺伝子型aaが4個体、という情報しかなかったとします。この場合の、遺伝子Aと遺伝子aの遺伝子頻度を計算してみましょう。(ちなみに、遺伝子頻度はp、qという文字を使われることが多いです。ここでは遺伝子Aの遺伝子頻度をp、遺伝子aの遺伝子頻度をqとします。)

さて、遺伝子頻度はその集団における対立遺伝子の割合でしたよね。つまり対立遺伝子の遺伝子頻度を合計すると1になるということ。この場合pとqを足すと1になることから、以下の式が成り立ちます。

 <式1> p+q=1

次に注目するのが、遺伝子型aaが100個体のうち4個体というところです。ここで覚えていてほしいのが、遺伝子型を構成している遺伝子頻度を掛け合わせると、遺伝子型の頻度が計算されるということ。つまり、以下の計算式が立てられます。

 <式2> q×q=4/100

これを解くとq=0.2となりますね。これを式1に代入するとp=0.8と答えが出ます。このように遺伝子型aaの個体数に着目することで、遺伝子Aと遺伝子aの遺伝子頻度が計算できるといういわけです。解き方を覚えておきましょう。

ハーディー・ワインベルクの法則を満たす集団はあるか

ここまでハーディー・ワインベルクの法則について解説してきました。しかし、このハーディー・ワインベルクの法則を満たす集団はあるのか、疑問に思いませんでしたか。

例えば「突然変異」。残念ながらDNA損傷などによって起こる突然変異、さらにDNAの複製ミスなどは修復機構がありますが、100パーセント防ぐことはできません。「自然選択」はどうでしょうか。その環境に適応した生物種が生存に有利になり、子孫を残しやすくなる。これは進化の過程で起こってきたこととして知られています。さらに「個体の流出・流入」も、自然界では完全に防ぐことができません。

したがって、厳密にこのハーディー・ワインベルクの法則を満たす集団は、自然界には存在しないと言えます。逆にいうと、ハーディー・ワインベルクの法則を満たさないからこそ、生物は進化し、環境に適応し生き残ってきたと言えるのでしょう。

ハーディー・ワインベルクの法則に基づいて考える遺伝の計算問題

今回は「ハーディー・ワインベルクの法則」について解説いたしました。難しく感じる法則ですが、一度学習しておくと遺伝の勉強をする上で役に立つのではないでしょうか。ハーディー・ワインベルクの法則を満たす5つの条件をよく理解し、覚えておきましょう。

遺伝子頻度の計算問題も、大学入試ではよく出題されるかと思います。計算問題を苦手とする人もいるかと思いますが、解き方をマスターしておくと自信につながること間違いなし。今回はごく基本的な問題を紹介しましたが、発展的な問題にも少しずつ挑戦していきましょう。きっと苦手な分野でも得点源にしていくことができると思いますよ。

イラスト使用元:いらすとや

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理科生物

ハーディー・ワインベルクの法則や遺伝子頻度について!基本的な考え方を理系院卒ライターがわかりやすく解説!

今回は「ハーディー・ワインベルクの法則」について解説していきます。高校の教科書にも載っている有名な法則で、遺伝子頻度を計算する問題にもよく出てくる法則です。遺伝の計算問題は難しいものもあり、苦手意識を持っている人も多いかもしれませんね。今回はその基本となるハーディー・ワインベルクの法則についてしっかり押さえておこう。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

ハーディー・ワインベルクの法則とは

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ハーディー・ワインベルクの法則はイギリスの数学者であるハーディーと、ドイツの医師であるワインベルクがそれぞれ独立に発表した法則です。集団遺伝学の基本となっている法則で、高校の生物でも学習しますね。

ある生物集団において、(1)個体群のサイズが十分に大きく、(2)自由に交配を行い、(3)個体の流出・流入がなく、(4)突然変異が生じず、(5)遺伝子型に対する自然選択が働かない場合、対立遺伝子の遺伝子頻度は世代を経ても一定に保たれるという法則。

出典:小学館『デジタル大辞泉』

上記の条件を満たした集団は何世代経っても、「遺伝子頻度」は変わらない。このような集団はメンデル集団と呼ばれています。

遺伝子頻度とは

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では「遺伝子頻度」という言葉について少し解説していきましょう。遺伝子頻度とは、遺伝子プールに存在する対立遺伝子の割合のこと。

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