今回は「トリウム」という元素について解説していきます。

トリウムはすべての同位体が放射性物質であるという特徴をもつ金属元素です。このような特殊性から、トリウムは身近なところではほとんど利用されていない。しかしながら、次世代の原子炉の核燃料として期待されるなど、資源としての可能性を十分秘めている元素がトリウムです。ぜひ、この機会にトリウムについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

トリウムについて学ぼう!

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皆さんは、トリウムという元素のことをご存じでしょうか?中学校や高校の理科の授業の中で、この元素について学ぶことはほとんどありませんよね。また、身近なところでトリウムが含まれるものに触れる機会もありません。したがって、トリウムは多くの人に知られていない元素と言えます

しかしながら、トリウムはある次世代技術を実現するうえで重要な資源であり、近年少しずつ注目が高まっていますよ。今回の記事では、トリウムの性質や用途について化学や物理学などの視点から考察していきます。それでは早速、トリウムがどのような物質であるのかを説明していきますね。

トリウムとは?

トリウムとは?

image by Study-Z編集部

トリウムは原子番号が90金属元素であり、元素記号で表現するとThとなります。元素周期表の中では、トリウムは上から7行目に位置していますよ。この元素はアクチノイド元素に分類されており、トリウムの同位体はすべて放射性物質です

単体のトリウムは銀白色の金属光沢をもち、延性にも富みます。常温では面心立方格子の結晶となり、1400℃以上の高温域では体心立方格子結晶になりますよ。トリウムは空気中や硝酸中では酸化被膜をつくる不動態になることも知られています。以上がトリウムの化学的な性質です。

核物質としてのトリウム

ここでは、トリウムの核物質としての性質について解説していきます核物質とは、原子力発電などで用いられる核燃料の原料のことで、それらはすべて核分裂反応を引き起こしますよ。以下では、トリウムの核分裂反応を紹介しますね。

天然に存在するトリウム232は中性子を吸収することで、トリウム233になりますトリウム233は二度のベータ崩壊を経て、ウラン233となりますよ。ベータ崩壊とは、原子核が電子線(ベータ線)とニュートリノを放出して、別の元素の原子核に変化する反応のことですよ。ウラン233は核分裂連鎖反応を起こすことで有名です

\次のページで「トリウムの分布」を解説!/

トリウムの分布

単体のトリウムは自然界にほとんど存在せず、モナズ石トール石モナザイト砂などの鉱物として地殻中に埋まっています。これらの鉱物の主要産出国としては、オーストラリアインドノルウェーアメリカカナダ、ブラジル、マーレシアなどが挙げられますよ。

インドのアラビア海沿岸部では、地表に極めて近い部分にモナザイト砂が大量に分布しており、モナザイト砂の砂浜も存在しています。放射性物質であるトリウムを含むモナザイト砂が地表近くに大量にあることから、この地域の自然放射線量は他の地域の10倍ほどになっているのです。

トリウムが支える次世代技術

image by iStockphoto

近年トリウムへの注目が少しずつ高まってきている理由の1つに、トリウムが支える次世代技術の発達があります。そこでこのチャプターでは、次世代原子炉であるトリウム原子炉についてご紹介しますね。この原子炉は既に実用化が始まっています。

トリウム原子炉が他の原子炉に比べて、どのようなメリットをもっているのかという点に注目して、記事を読み進めてみてくださいね

トリウム原子炉とは?

従来の原子炉では、ウランやプルトニウム(MOX燃料)などを核燃料にするということが一般的でした。これらの原子炉と異なり、トリウムを核燃料とするものがトリウム原子炉です。先ほど述べたように、トリウムは中性子を照射することで核分裂連鎖反応を引き起こすウラン233に変換することができますこのメカニズムを利用して、トリウムから核エネルギーを取り出すのです

トリウム原子炉は、1960年ごろからドイツやアメリカで研究がはじめられ、2000年ごろからはインドで商業炉として稼働するようになりました。以上がトリウム原子炉の概要となります。

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トリウム原子炉の利点

続いて、トリウム原子炉にはどのような利点があるのかということを考えていきましょうトリウム原子炉は従来の原子炉よりもメルトダウンを発生させにくい安全な構造になっています。この点は利点の1つであると言えますよね。また、トリウム原子炉はメルトダウン以外のリスクも低減することができることで知られています

原料の埋蔵量という点においても、トリウム原子炉は従来の原子炉よりも有利だとされていますよトリウムの埋蔵量は従来の原子炉で用いられているウランの埋蔵量の約3倍なのです。したがって、トリウム原子炉に転換することで資源の枯渇を先送りすることができるのですね。

トリウムの用途

最後に、核燃料以外でトリウムがどのような用途で活用されているのかということを考えてみましょう。トリウムはすべての同位体が放射性物質であるので用途が限られてしまうのですが、一部製品では代替品がないなどの理由で使用が継続されていますよ。

今回は、トリウムの用途として真空管の材料金属材料の添加剤の2つをご紹介します。これらの用途において、トリウムのどのような性質が活かされているのかに注目して、記事を読み進めてみてくださいね。

真空管の材料

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真空管のフィラメント表面にはトリウムが塗布されることがありました。このようにすることで、フィラメントの仕事関数を小さくし、熱電子放出を促進することができるからです。真空管は整流回路や増幅回路に用いられていた電気部品ですよ。

真空管は半導体部品であるダイオードやトランジスタが普及したことで活躍の場を減らしていますが、現在でも真空管は音楽やラジオが好きな人々の間では愛用されている部品の1つになっています

\次のページで「金属材料の添加剤」を解説!/

金属材料の添加剤

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トリウムは金属材料の添加剤としても使用されますトリウムを金属に添加することで耐熱性が向上するからです。トリウムを金属に添加することで製造されたものとしては、アーク溶接の電極棒ガス灯のガスマントルなどが挙げられます。

これらは両方とも高温にさらされる部品ですから、耐熱性が求められますよね。以上が金属材料の添加剤としてのトリウムについての説明となります。

トリウムについて学ぶ意義

この記事ではトリウムの化学的な性質と核物質としての性質について述べ、トリウムがどのようなところで活躍しているのかについて述べましたよね。今回は、次世代原子炉であるトリウム原子炉について特に詳しく述べました。この次世代原子炉によって、トリウムへの注目が少しずつ高まっているからです。

現在は決して存在感があるとは言えないトリウム元素ですが、今後は資源物資として多くの人に知られるようになるかもしれないのですね。ぜひこの機会に、トリウムについて詳しく学んでみてください。

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次世代原子炉を支えるトリウムとは?その性質や用途を解明!現役理系学生ライターが5分でわかりやすく解説

今回は「トリウム」という元素について解説していきます。

トリウムはすべての同位体が放射性物質であるという特徴をもつ金属元素です。このような特殊性から、トリウムは身近なところではほとんど利用されていない。しかしながら、次世代の原子炉の核燃料として期待されるなど、資源としての可能性を十分秘めている元素がトリウムです。ぜひ、この機会にトリウムについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

トリウムについて学ぼう!

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Alchemist-hp (talk) (www.pse-mendelejew.de) – 投稿者自身による作品, FAL, リンクによる

皆さんは、トリウムという元素のことをご存じでしょうか?中学校や高校の理科の授業の中で、この元素について学ぶことはほとんどありませんよね。また、身近なところでトリウムが含まれるものに触れる機会もありません。したがって、トリウムは多くの人に知られていない元素と言えます

しかしながら、トリウムはある次世代技術を実現するうえで重要な資源であり、近年少しずつ注目が高まっていますよ。今回の記事では、トリウムの性質や用途について化学や物理学などの視点から考察していきます。それでは早速、トリウムがどのような物質であるのかを説明していきますね。

トリウムとは?

トリウムとは?

image by Study-Z編集部

トリウムは原子番号が90金属元素であり、元素記号で表現するとThとなります。元素周期表の中では、トリウムは上から7行目に位置していますよ。この元素はアクチノイド元素に分類されており、トリウムの同位体はすべて放射性物質です

単体のトリウムは銀白色の金属光沢をもち、延性にも富みます。常温では面心立方格子の結晶となり、1400℃以上の高温域では体心立方格子結晶になりますよ。トリウムは空気中や硝酸中では酸化被膜をつくる不動態になることも知られています。以上がトリウムの化学的な性質です。

核物質としてのトリウム

ここでは、トリウムの核物質としての性質について解説していきます核物質とは、原子力発電などで用いられる核燃料の原料のことで、それらはすべて核分裂反応を引き起こしますよ。以下では、トリウムの核分裂反応を紹介しますね。

天然に存在するトリウム232は中性子を吸収することで、トリウム233になりますトリウム233は二度のベータ崩壊を経て、ウラン233となりますよ。ベータ崩壊とは、原子核が電子線(ベータ線)とニュートリノを放出して、別の元素の原子核に変化する反応のことですよ。ウラン233は核分裂連鎖反応を起こすことで有名です

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