今回は「プルトニウム」という元素について解説していきます。

プルトニウムは核燃料の原料になるもので、有名な核物質の1つです。核エネルギーは人々の生活を便利にするために使われているが、そのエネルギーを利用した残虐な兵器も存在する。それゆえ、プルトニウムをはじめとした核物質の平和利用を推進するという国際枠組みもあるぞ。この記事では、プルトニウムの性質や用途だけでなく、プルトニウムに関する条約についても言及するつもりです。ぜひ、この機会にプルトニウムについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

プルトニウムについて学ぼう!

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皆さんはプルトニウムという元素に対してどのようなイメージをもっているでしょうか?原子爆弾のような核兵器を連想する人が多いかと思います。このような恐ろしいイメージに結び付くプルトニウムですが、化学的な性質や核物質としての特徴について詳しく知っているという方は多くはないでしょう。

今回の記事では、化学・物理学などの様々な学問の視点で、プルトニウムについて解明していきます。また、プルトニウムが核兵器以外でどのように平和利用されているのかということも述べますよ。それでは早速、プルトニウムがどのような物質であるのかを説明していきます。

プルトニウムとは?

プルトニウムとは?

image by Study-Z編集部

プルトニウムは元素記号がPuで、原子番号が94金属元素です。元素周期表の中では、プルトニウムは上から7行目に位置しており、アクチノイド元素に分類されます。プルトニウムの同位体は10種類を超え、いずれも放射性物質に分類されますよ

単体のプルトニウムは銀白色の金属光沢をもっています。金属プルトニウムは、硝酸中や濃硫酸中では表面に酸化被膜をつくり、溶解することはありません。プルトニウムは不動態のような性質をもつのです。また、プルトニウムは非常に重く、金属プルトニウムの比重は約19.8となっています。化学的な毒性は他の重金属と同程度とされていますよ。

しかしながら、プルトニウムには化学的な毒性だけでなく、放射性物質としての毒性もあります。プルトニウムは原子核崩壊のときにアルファ線を放出するため、動物の肺などに蓄積されると強い発がん性を示すことで知られていますよ。

プルトニウムの核分裂連鎖反応

プルトニウムという物質の最大の特徴は、核分裂連鎖反応を引き起こすことができるという点です核分裂連鎖反応が発生する際には、膨大なエネルギーが放出されることが知られています。核分裂連鎖反応は以下で述べるような反応です。

プルトニウム239に中性子を当てると、プルトニウム原子核が2つの原子核に分かれます。このとき、平均で中性子が2.5個放出されますよこの中性子が他のプルトニウムに当たると、そのプルトニウム原子核が分裂します。このように、プルトニウムに一度中性子を当てるだけで、連鎖的に核分裂を続けることができるようになるのです。これが核分裂連鎖反応ですよ。

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プルトニウムは自然界には存在しない?

プルトニウムは他の物質とは異なり、自然界にはほとんど存在しないことが知られています。現在、地球上に存在してるプルトニウムの多くは人工的に作られたものになっていますよ。天然に存在するプルトニウムは、ウラン鉱石に不純物として含まれているのです。しかしながら、このプルトニウムの量は人工的に作られたものよりもはるかに少ないと考えられています。

ですが、天然に存在するプルトニウムが純度の高い状態で発見された事例が全くない訳ではありません。1970年代に、ガボン共和国の天然原子炉において高純度の天然プルトニウムが発見されています

プルトニウムの平和利用

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プルトニウムは核分裂連鎖反応によって莫大なエネルギーを得ることができる物質です。そして、そのエネルギーは私たち人類の生活を便利するために使われるべきですよね

しかしながら、プルトニウムの核エネルギーは多くの人々を殺傷できる兵器のために利用されたこともあります。このチャプターでは、プルトニウムの核エネルギーによる悲劇その悲劇を繰り返さないための国際枠組みについて考えていきますね。

核兵器による悲劇

第二次世界大戦末期に、広島と長崎に原子爆弾が投下されました。そして、長崎に投下されたものがプルトニウム型の原子爆弾だったのです。このとき、爆心地のまわりでは強烈な爆風と熱線により多くの方が亡くなってしまいました

また、プルトニウムの核分裂に伴いまき散らされた放射性物質からの放射線を浴びたことで、白血病やがんなどの後遺症に苦しめられた人々も多く存在しています長崎に投下された原爆による死者数は17万人近くになっていることがわかっているのです

\次のページで「プルトニウムに対する規制」を解説!/

プルトニウムに対する規制

戦後、広島と長崎の悲劇を繰り返さないという考えから、プルトニウムをはじめとする核物質の利用方法や保有を規制する国際枠組みが検討されるようになりました。ここでは、プルトニウムに関する規制についてご紹介しますね。

兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)は、高濃度ウランやプルトニウムの実験・生産・輸出入を制限する多国間条約であり、1993年から交渉がスタートしています。しかしながら、交渉が進まず、現在でも締結には至っていません

プルトニウムの用途

最後に、プルトニウムがどのような用途で使用されているかを考えていきましょう。以下では、プルトニウムの用途として、原子力発電の核燃料人工衛星の原子力電池の2つをご紹介しますね。

両方とも、プルトニウムが核分裂を引き起こす物質であることを活かした技術になっています。記事の前半で学んだことを思い出しながら、記事を読み進めてみてくださいね。

原子力発電の核燃料

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プルトニウムは原子力発電の核燃料として使用されています。日本国内の原子力発電では、プルトニウム酸化物とウラン酸化物を混合させたMOX燃料を従来の核燃料と組み合わせて発電を行っていますよ。

MOX燃料は、使用済み核燃料から取り出された物質の一部をリサイクルして製造しています。これにより、放射性廃棄物の量を減らすことができるという利点があるのです。MOX燃料のように、核燃料の一部をリサイクルする技術のことをプルサーマルと呼びます。

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人工衛星の原子力電池

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プルトニウムは、人工衛星に搭載されていたことがある原子力電池にも利用されていました原子力電池は、プルトニウムのような放射性物質が原子力崩壊する際に放出する熱を電気エネルギーに変換する装置です

熱エネルギーから電気エネルギーへの変換には、ペルチェ素子のような熱電変換素子を用いることが多くなっています。近年は太陽電池の性能が向上したことから、人工衛星に原子力電池が搭載されるケースは少なくなっていますよ

プルトニウムについて学ぶ意義

この記事では、プルトニウムの性質を化学や物理学の視点で詳しく説明しました。そして、人類がプルトニウムをどのように扱ってきたのかという歴史についても触れましたよね。その歴史の中には、繰り返してはならない核兵器による悲劇も含まれていましたよね。

私たち人類の生活を豊かにしてくれる核エネルギーの技術は、使い方を誤ると多くの人々を苦しめてしまうことを理解して、今後どのように核エネルギーを利用するかを真剣に考えることが大切であることをこの記事を通して実感していただけますと幸いです。ぜひこの機会にプルトニウムについて学んでみてくださいね。

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プルトニウムとはどのような物質?核分裂連鎖反応と関係がある?現役理系学生ライターが5分でわかりやすく解説

今回は「プルトニウム」という元素について解説していきます。

プルトニウムは核燃料の原料になるもので、有名な核物質の1つです。核エネルギーは人々の生活を便利にするために使われているが、そのエネルギーを利用した残虐な兵器も存在する。それゆえ、プルトニウムをはじめとした核物質の平和利用を推進するという国際枠組みもあるぞ。この記事では、プルトニウムの性質や用途だけでなく、プルトニウムに関する条約についても言及するつもりです。ぜひ、この機会にプルトニウムについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

プルトニウムについて学ぼう!

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皆さんはプルトニウムという元素に対してどのようなイメージをもっているでしょうか?原子爆弾のような核兵器を連想する人が多いかと思います。このような恐ろしいイメージに結び付くプルトニウムですが、化学的な性質や核物質としての特徴について詳しく知っているという方は多くはないでしょう。

今回の記事では、化学・物理学などの様々な学問の視点で、プルトニウムについて解明していきます。また、プルトニウムが核兵器以外でどのように平和利用されているのかということも述べますよ。それでは早速、プルトニウムがどのような物質であるのかを説明していきます。

プルトニウムとは?

プルトニウムとは?

image by Study-Z編集部

プルトニウムは元素記号がPuで、原子番号が94金属元素です。元素周期表の中では、プルトニウムは上から7行目に位置しており、アクチノイド元素に分類されます。プルトニウムの同位体は10種類を超え、いずれも放射性物質に分類されますよ

単体のプルトニウムは銀白色の金属光沢をもっています。金属プルトニウムは、硝酸中や濃硫酸中では表面に酸化被膜をつくり、溶解することはありません。プルトニウムは不動態のような性質をもつのです。また、プルトニウムは非常に重く、金属プルトニウムの比重は約19.8となっています。化学的な毒性は他の重金属と同程度とされていますよ。

しかしながら、プルトニウムには化学的な毒性だけでなく、放射性物質としての毒性もあります。プルトニウムは原子核崩壊のときにアルファ線を放出するため、動物の肺などに蓄積されると強い発がん性を示すことで知られていますよ。

プルトニウムの核分裂連鎖反応

プルトニウムという物質の最大の特徴は、核分裂連鎖反応を引き起こすことができるという点です核分裂連鎖反応が発生する際には、膨大なエネルギーが放出されることが知られています。核分裂連鎖反応は以下で述べるような反応です。

プルトニウム239に中性子を当てると、プルトニウム原子核が2つの原子核に分かれます。このとき、平均で中性子が2.5個放出されますよこの中性子が他のプルトニウムに当たると、そのプルトニウム原子核が分裂します。このように、プルトニウムに一度中性子を当てるだけで、連鎖的に核分裂を続けることができるようになるのです。これが核分裂連鎖反応ですよ。

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