今回は「ウラン」という元素について解説していきます。

ウランは核燃料の原料になる物質で、原子力発電などを支える重要な資源です。そして、ウランから取り出すことのできるエネルギーは、核兵器の仕組みを支えるものでもあるぞ。それゆえ、ウランの平和利用を推進するという国際枠組みもある。この記事では、ウランの性質や用途だけでなく、ウランの平和利用の理念についても言及するつもりです。ぜひ、この機会にウランについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

ウランについて学ぼう!

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皆さんはウランという元素をご存知でしょうか?ウランは原子力発電で用いる核燃料の原料になる物質ですから、言葉だけは耳にしたことがあるという方も多いかと思います。また、第二次世界大戦末期に広島に投下された原子爆弾の原料もウランです。学校の授業などで原子爆弾について学んだ際にウランという言葉が登場したことで覚えている方もおられることでしょう。

今回の記事では、化学・物理学などの様々な学問の視点から、ウランについての解説を進めていきます。また、ウランから生み出される核エネルギーに対して人類がどのように向き合うべきかという点についても考えますよ。それでは早速、ウランがどのような元素であるのかを説明していきます。

ウランとは?

ウランとは?

image by Study-Z編集部

ウランは元素記号がUで、原子番号が92金属元素です。ウランはアクチノイド元素で、元素周期表の中では上から7行目に位置しています。ウランの同位体は複数存在しており、いずれも放射能をもつ放射性物質に分類されますよ

単体のウランは銀白色の金属光沢をもっています。ウランの結晶は、常温では斜方晶668℃以上で正方晶775℃以上で立方晶となりますよ。また、ウランの比重は約19であり、非常に重い金属であると言えます。そして、他の金属と同様にウランも酸などと反応して化合物をつくりますよ。

ウラン鉱石の分布

続いて、ウラン鉱石の分布について説明していきますね。自然界には単体のウランはほとんど存在せず、ウランの化合物で構成される鉱石として地中に埋蔵されています。ウラン鉱石には、閃ウラン鉱燐灰ウラン石カルノー石コフィン石などが含まれますよ。

ウラン鉱石の主要産出国は、カザフスタンカナダオーストラリアニジェールナミビアなどです。毎年、全世界で約6万トンのウランが産出されています。日本でも1960代ごろ、鳥取県と岡山県の県境にある人形峠でウランの採掘がおこなわれており、そこで採掘されるウラン鉱石は人形石を呼ばれていました。

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核分裂性物質としてのウラン

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1つ前のチャプターでは、ウランの化学的な性質に焦点を当てていましたが、ここからは核化学の視点でウランについて考察していきます。ウランは核化学の視点で見ると、非常に特殊な物質であるからです。

以下では、ウランの同位体や核分裂連鎖反応について詳しく解説しますね。また、それらを踏まえてウランを平和的な目的で利用する必要性についても考えてみましょう。

ウランの同位体

あらゆる物質を構成する原子は、陽子と中性子から成る原子核とその周りに存在する電子で構成されています。そして、各元素において原子核の陽子数は固有です。つまり、原子核の陽子数によって元素が決定づけられます。一方で、同じ元素であっても中性子数が異なる原子が存在しますよ。これらが同位体です。

ウランの陽子数は92個で、様々な同位体が存在します。ウランの同位体の中で最も存在比が大きいのはウラン328(中性子数236個)ですよ。しかしながら、資源的な価値が最も高いのはウラン325(中性子数233個)となっています。ウラン325は他の同位体と異なり、核分裂連鎖反応を引き起こすからです。

核分裂連鎖反応とは?

ここでは、核分裂連鎖反応について、ウラン325を例に挙げて説明しますね。ウラン325に中性子を当てると、ウランの原子核が2つに割れて平均で約2.5個の中性子とエネルギーが放出されますここで放出された中性子は再び別のウラン235に当たり、同様の反応が生じるのですこれを繰り返すと、単位時間当たりに反応するウラン235の数は指数関数的に増加し、それに伴い莫大なエネルギーが放出されます

このような現象が核分裂連鎖反応であり、このとき放出されるのが核エネルギーですよ。ウラン235の濃度を限界まで高めて、短時間で最大限のエネルギーを取り出せるようにしたものが核兵器なのです。一方、原子力発電は核分裂連鎖反応のスピードをゆっくりと進むようにして、安全に核エネルギーを取り出しています

\次のページで「ウランの平和利用」を解説!/

ウランの平和利用

第二次世界大戦末期に広島と長崎に原子爆弾が投下され、多くの人々が亡くなりました広島の投下された原子爆弾は先ほど説明したウラン235の核分裂連鎖反応を利用した核兵器だったのです。そして、戦後に核エネルギーは兵器に使用するのではなく、人々の生活を豊かにするために使うべきだという意見が世界に広まりました。

そして、核兵器を制限する様々な条約も締結されるようになりました。現在は、核エネルギーの平和利用の一環として原子力発電が世界各国に普及しています

ウランの用途

最後に、ウランがどのような用途で利用されているのかということを考察していきましょう。以下では、原子力発電の核燃料金属材料への添加剤をウランの使用例としてご紹介します。

それぞれが人々生活をどのように支えているかそれらの技術になぜウランという物質が用いられているか、といった点に注目して記事を読み進めてみてくださいね。

原子力発電の核燃料

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ウラン235を含んだ核燃料は、多くの原子力発電において使用されていますよ。日本国内の商用原子力発電はすべて軽水炉であり、その多くがウラン235系の核燃料に特化したものになっています。

ウラン235系の核燃料の組成のうち、ウラン235が全体の4%ほどを占めており、残りはウラン328などの非核分裂性の物質となっていますよ。この点が核兵器に用いるウラン燃料と異なるのです。

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金属材料への添加剤

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ウランは他の金属に比べて、高密度で、高強度であるという特徴をもちます。このような特徴を活かして、航空機ロケット鉄道車両の部品などに添加して利用することがあるのです。また、装甲車などを貫通させるための砲弾などにもウラン材料が使われることがありますよ。

ここで説明したような用途に使われるウランは、劣化ウランと呼ばれるウラン253の含有比が少ないウランとなっています。劣化ウランは、核燃料の製造時に余ったウランから製造されますよ。

ウランについて学ぶ意義

この記事では、ウランの特徴について化学や物理学の視点から詳しく説明しました。そして、ウラン235の最大の特徴である核分裂連鎖反応についても述べましたよね。この反応は私たちの生活を豊かにする技術で用いられている一方で、核兵器のメカニズムそのものでもあります。

この記事を読むことで、ウランの核分裂連鎖反応の使い方を人類が誤ってはならない理由を、化学の視点から理解できることでしょう。ぜひこの機会にウランについて詳しく学んでみてくださいね。

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化学原子・元素無機物質物理理科生活と物質量子力学・原子物理学

ウランとはどのような物質?原子力発電との関係は?現役理系学生ライターが5分でわかりやすく解説

今回は「ウラン」という元素について解説していきます。

ウランは核燃料の原料になる物質で、原子力発電などを支える重要な資源です。そして、ウランから取り出すことのできるエネルギーは、核兵器の仕組みを支えるものでもあるぞ。それゆえ、ウランの平和利用を推進するという国際枠組みもある。この記事では、ウランの性質や用途だけでなく、ウランの平和利用の理念についても言及するつもりです。ぜひ、この機会にウランについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

ウランについて学ぼう!

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皆さんはウランという元素をご存知でしょうか?ウランは原子力発電で用いる核燃料の原料になる物質ですから、言葉だけは耳にしたことがあるという方も多いかと思います。また、第二次世界大戦末期に広島に投下された原子爆弾の原料もウランです。学校の授業などで原子爆弾について学んだ際にウランという言葉が登場したことで覚えている方もおられることでしょう。

今回の記事では、化学・物理学などの様々な学問の視点から、ウランについての解説を進めていきます。また、ウランから生み出される核エネルギーに対して人類がどのように向き合うべきかという点についても考えますよ。それでは早速、ウランがどのような元素であるのかを説明していきます。

ウランとは?

ウランとは?

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ウランは元素記号がUで、原子番号が92金属元素です。ウランはアクチノイド元素で、元素周期表の中では上から7行目に位置しています。ウランの同位体は複数存在しており、いずれも放射能をもつ放射性物質に分類されますよ

単体のウランは銀白色の金属光沢をもっています。ウランの結晶は、常温では斜方晶668℃以上で正方晶775℃以上で立方晶となりますよ。また、ウランの比重は約19であり、非常に重い金属であると言えます。そして、他の金属と同様にウランも酸などと反応して化合物をつくりますよ。

ウラン鉱石の分布

続いて、ウラン鉱石の分布について説明していきますね。自然界には単体のウランはほとんど存在せず、ウランの化合物で構成される鉱石として地中に埋蔵されています。ウラン鉱石には、閃ウラン鉱燐灰ウラン石カルノー石コフィン石などが含まれますよ。

ウラン鉱石の主要産出国は、カザフスタンカナダオーストラリアニジェールナミビアなどです。毎年、全世界で約6万トンのウランが産出されています。日本でも1960代ごろ、鳥取県と岡山県の県境にある人形峠でウランの採掘がおこなわれており、そこで採掘されるウラン鉱石は人形石を呼ばれていました。

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