今回は「原子力」について解説していきます。

原子力と聞くと多くの人は危険なイメージを連想するでしょう。しかしながら、なぜ危険なのかを説明できるでしょうか。このような問いに言葉を詰まらせてしまう人は少ないはずです。そこで今回は原子力について、物理学の視点から詳しく説明することにした。ぜひ、この機会に原子力についての理解を深めてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

原子力の基本を学ぼう!

皆さんは「原子力」という言葉を聞いて、どのような印象を抱くでしょうか?核兵器や原発事故の印象から危険そうなイメージをもつ方も少なくないことでしょう。このようなイメージが世の中に広まっていますが、原子力のメカニズムを知っている方はあまりおられません。

以下では、原子力とはどのようなエネルギーなのか原子力にはどのような種類があるのか、といった点を深堀りしていきます。また、記事の後半では原子力を活用した技術についてもご紹介しますね。それでは早速解説をはじめていきます。

原子力とは?

原子力とは、原子核が変換されることで放出されるエネルギーのことを指します。原子核の変換とは、原子核を構成する陽子や中性子の数が変化する反応のことをさしますよ。一般的な化学反応では原子核のまわりに存在する電子の配置が変わるだけですが、核反応では陽子や中性子の配置も変わるのです。

核反応によって得られるエネルギーは、化学反応で得られるエネルギーの100万倍以上とされています。このことからも原子力がいかに巨大なエネルギーであるかが理解できますよね。以上が原子力という概念の説明になります。

原子力のメリット

原子力を利用することの最大のメリットは、少ない燃料で膨大なエネルギーを得られることであると言えます。この恩恵は、火力発電と原子力発電が生み出す電力の大きさの違いについて考えると簡単に理解することができますよ。

火力発電発電所において天然ガス500kgが生み出す電力量は、原子力発電においてウラン10gが生み出す電力量に等しいのです。このようなメリットから、原子力エネルギーには備蓄が容易であるという副次的な効果も存在しますよ

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原子力のデメリット

原子核が変換される際には、必ずアルファ線・ベータ線・ガンマ線・中性子線などの放射線が発生します。この放射線をたくさん浴びると、人体に有害であることが知られていますよ。以上の事柄は、原子力を利用することのデメリットの1つとして挙げられます。

また、核反応後に生成される物質の中には、その物質自体が長い期間放射線を出し続けるものが含まれているのです。これらは放射性廃棄物と呼ばれ、処理方法などにおいて課題が残っています。

原子力は二つに分類できる?

ここまで、原子力が原子核変換にともなうエネルギーであることを繰り返し述べてきました。ですが、原子核変換には様々な種類があり、それぞれで特性が異なります。今回は、原子力の最も簡単な分類法として、「核融合反応」と「核分裂反応」の2つをご紹介しますね。

この2つの違いを知らずに原子力に関する議論をすると間違った結論が出てしまうので要注意です。ぜひ知っておきたい内容なので、必ず目を通してみてくださいね。

1.核分裂反応

1.核分裂反応

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核分裂反応は、原子番号が大きな原子の核子が真っ二つに割れて、より小さな原子核が生じる反応のことを指します。原子番号が大きな原子は自分の身体の一部を捨てて、別の原子核に変化しようとする性質があると理解すれば、イメージが湧きやすいでしょう。

一般に、原子番号が26である鉄よりも大きな原子は、核分裂反応を起こしやすいことが知られています。現在の原子力技術では、この核分裂反応が主流です。原子力発電や諸外国が保有する核兵器では、核分裂反応のメカニズムが利用されていますよ。

2.核融合反応

2.核融合反応

image by Study-Z編集部

核融合反応は、原子番号が小さな原子の核子同士がくっついて、より大きな1つの原子核が生じる反応のことを指します。原子番号が小さな原子は、自分以外の原子核を飲み込み、成長していくというイメージをもつとよいでしょう。例えば、太陽が燃える反応は核融合反応になっていますよ。

一般に、原子番号が26である鉄よりも小さな原子は、核融合反応を起こしやすいと考えられています。現在、核融合炉はまだ実用化されていません。しかしながら、核分裂反応よりも核融合反応のほうが安全性に優れていることから、夢の次世代技術として期待が高まっています。

原子力の活用例

最後のチャプターでは、原子力技術が社会の中でどのように活用されているのかを学びます。具体的には、発電電池推進力の3分野で利用される原子力技術についてご紹介しますね。

ここまでは原子力という概念の説明が中心だったので、抽象的な表現が多く、理解が難しい部分もあったかもしれません。ですが、具体例を知ることで原子力技術の理解はきっとさらに深まります

発電:二酸化炭素を排出しない発電方法

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原子力発電所では、核分裂反応によって生じた熱エネルギーを電気エネルギーに変換することで、大量の電力を供給していますよ。核分裂による熱エネルギーによって加熱された水は水蒸気になり、その水蒸気は発電機につながれたタービンを回します。これが原子力発電の原理です。

世界的な脱炭素の流れの中、発電時に二酸化炭素を排出しない原子力発電の重要性は高まってきています。今後も世界中で原子力発電の新設は進んでいくことが予想されていますよ。

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電池:宇宙探査で活用

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原子力電池は、核分裂で生じる熱エネルギーを電気に変換する装置です。原子力電池では、熱エネルギーと電気エネルギーの変換に熱電変換材料を用いています。これが原子力電池と原子力発電の大きな違いです。

原子力電池は小型で非常に長持ちすることから、宇宙探査機などのバッテリーとして使用されます。また、心臓のペースメーカーなどにおいても原子力電池が利用されていますよ。

推進力:原子力空母や原子力潜水艦

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原子炉で得られた熱エネルギーから蒸気とタービンを介して得られる回転エネルギーを、推進力として利用する乗り物があります。原子力空母原子力潜水艦がそれに該当しますよ。

これらの乗り物は、従来の化石燃料を用いるものよりも格段に航続距離が伸びています。コスト面の問題から民生部門では原子力の推進力が活用されていませんが、軍事分野では原子力で動く乗り物が多数存在しますよ

原子力についての正しい知識を身に着けよう!

世間一般に、原子力は怖いものというイメージが広がっています。しかしながら、なぜ怖いのかという点について深堀される機会はほとんどありません。学校の理科の授業でも、核化学についての説明はほとんどなされていません。原子力の研究は現在も世界中で進められているにも関わらずです。

この記事は原子力についての基礎知識を少しでも多くの方に知ってほしいという想いで執筆しました。ぜひこの機会に原子力について本質的に学んでみてくださいね。

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化学原子・元素物理理科生活と物質量子力学・原子物理学

3分で簡単にわかる原子力!本当に危険?核分裂と核融合の違いは?現役理系学生ライターがわかりやすく解説!

今回は「原子力」について解説していきます。

原子力と聞くと多くの人は危険なイメージを連想するでしょう。しかしながら、なぜ危険なのかを説明できるでしょうか。このような問いに言葉を詰まらせてしまう人は少ないはずです。そこで今回は原子力について、物理学の視点から詳しく説明することにした。ぜひ、この機会に原子力についての理解を深めてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

原子力の基本を学ぼう!

皆さんは「原子力」という言葉を聞いて、どのような印象を抱くでしょうか?核兵器や原発事故の印象から危険そうなイメージをもつ方も少なくないことでしょう。このようなイメージが世の中に広まっていますが、原子力のメカニズムを知っている方はあまりおられません。

以下では、原子力とはどのようなエネルギーなのか原子力にはどのような種類があるのか、といった点を深堀りしていきます。また、記事の後半では原子力を活用した技術についてもご紹介しますね。それでは早速解説をはじめていきます。

原子力とは?

原子力とは、原子核が変換されることで放出されるエネルギーのことを指します。原子核の変換とは、原子核を構成する陽子や中性子の数が変化する反応のことをさしますよ。一般的な化学反応では原子核のまわりに存在する電子の配置が変わるだけですが、核反応では陽子や中性子の配置も変わるのです。

核反応によって得られるエネルギーは、化学反応で得られるエネルギーの100万倍以上とされています。このことからも原子力がいかに巨大なエネルギーであるかが理解できますよね。以上が原子力という概念の説明になります。

原子力のメリット

原子力を利用することの最大のメリットは、少ない燃料で膨大なエネルギーを得られることであると言えます。この恩恵は、火力発電と原子力発電が生み出す電力の大きさの違いについて考えると簡単に理解することができますよ。

火力発電発電所において天然ガス500kgが生み出す電力量は、原子力発電においてウラン10gが生み出す電力量に等しいのです。このようなメリットから、原子力エネルギーには備蓄が容易であるという副次的な効果も存在しますよ

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