「他家受粉」という用語は生物の授業でよく耳にするでしょう。この他家受粉と自家受粉の違いは何でしょうか。また、他家受粉のメリットやデメリットを説明できるでしょうか。今回は生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

他家受粉って何?

そもそも、「受粉」とは雄しべから放出される花粉が雌しべの柱頭にくっつくことを言うのでしたね。「他家受粉(たかじゅふん)」、もしくは「他花受粉」とは、同じ種類の植物が異なる個体間で受粉することを意味します。

他家受粉と自家受粉の違い

他家受粉と自家受粉の違い

image by Study-Z編集部

他家受粉の対となる言葉である「自家受粉(じかじゅふん)」。自家受粉は花粉が同じ個体の雌しべの柱頭に付くことを意味します。このことから、他家受粉は異なる個体同士で受粉することで、自家受粉は同一個体内で受粉するという違いがあることがわかりますね。しっかりと他家受粉と自家受粉を区別するようにしましょう。

他家受粉のメリット

雄しべと雌しべの両方を持つ花が多く存在する中、なぜわざわざ異なる個体間で花粉のやり取りをする必要があるのでしょうか。これには、主に2つのメリットがあるからだと考えられています。ここからは他家受粉するメリットについて解説しますね。

1. 遺伝的多様性を維持できる

自家受粉を繰り返すと子孫が持つ遺伝子の種類が変わることなく引き継がれていきます。一方で他家受粉の場合、多種多様な環境下で育った株の遺伝子が取り込まれた花粉が受粉するため、遺伝子の組み合わせが増えることになるのです。遺伝子のバリエーションが豊富であるほど、その生物の環境への適応度が高くなります。これは、急に環境に大きな変化(例えば世界的な寒冷化など)が生じても、様々な遺伝子があることで生き延びやすくなることを意味するのです。

このように、遺伝的多様性を維持することで新しい環境でも生き残りやすく、子孫も残しやすくなります。

2. 近交弱勢を防ぐことができる

そもそも「近交弱勢」とは、遺伝子が近いもの同士が交配することで、隠れていた有害な遺伝子が集団内に広がってしまい、生存率の低下などを招いてしまうことです。自家受粉は同一個体内で受粉が行われるので、近い遺伝子同士が交配することになります。しかし、他家受粉では、異なる個体に受粉するため、様々な形質を持った遺伝子同士が交配することになり、有害な遺伝子は発現することはほとんどありません。このため、他家受粉は近交弱勢を防ぐことができるのです。

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他家受粉のデメリット

他家受粉をすることで、子孫を残しやすいというメリットがありますが、デメリットもあることを理解しておく必要があります。ここでは、他家受粉のデメリットについて解説しますね。

1. 受粉できる確率が低い

他家受粉は、花粉を異なる個体の雌しべの柱頭に付ける必要があるので、自家受粉と比べると花粉が柱頭に辿り付く確率が低くなってしまいます。運ばれている花粉が途中で落下してしまうことや、他種の花についてしまうといったハプニングが多々起こっているのです。このことから、他家受粉の場合、受粉が成功する確率が低いことが言えますね。

2. 花の構造にかけるコストが多い

詳しい花粉の運ばれ方は後ほど解説しますが、他家受粉の花の花粉は風や虫に頼らなければなりません。虫に花粉を運んでもらうには、虫を誘う花びらや蜜、香りなど花の構造に工夫を施すためのコストがかかってしまうのです。

また、花粉が無事、同じ種類の花の柱頭に辿り着く確率が低いので、たくさんの花粉を作る必要があります。このように、花の構造を工夫することや花粉量の増加させるために余計なコストがかかってしまうというデメリットがあるのです。

他家受粉する方法

他家受粉するには、花粉を何かしらに運んでもらう必要があります。植物種によって送粉方法(花粉が運ばれる方法)は異なりますが、ここでは4つの送粉方法について解説しますね。定期試験や受験でも出題されることが多いので、しっかりと頭に入れておきましょう。

1. 虫媒花

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虫媒花はハチやチョウと言った昆虫に花粉を運ばせる花のことです。花はハチやチョウのエサとなる蜜を作り、花粉は昆虫の体に付きやすいように大きく粘り気の多いものを作ります。花によっては蜜腺(蜜を分泌する腺)が花の奥深くにあり、これにより昆虫が潜り込むことで確実に花粉を体に付けることができるのです。

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2. 鳥媒花

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鳥媒花とは、鳥を介して受粉を行う花のことを言います。ハチドリやハナドリといった一部の鳥は花の蜜を主食としており、花の中にくちばしを差し込んで蜜を吸うのです。これらの鳥を引き寄せるために、多くの鳥媒花の花びらは赤色といった派手な色をしており、大量の蜜を作り出します。例として、アロエやハイビスカスなど熱帯地域に生息しているものがほとんどです。そのため、鳥媒花は日本ではほとんど見られません。

3. 風媒花

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風媒花は、花粉を風に乗せて運ばせる花のことです。風で運搬される花粉は送粉が失敗する確率が特に高いので、花粉を大量に作り、まき散らさなければなりません。さらに、花粉は風に乗りやすいように軽く細かいつくりになっています。例として、マツやスギ、イネが挙げられますよ。

4.水媒花

水媒花は、水を利用して花粉を運ぶ花のことです。水上で受粉するものと水中で受粉するものの2種類があります。

水上で受粉するものとしてセンショウモが代表種です。水中にいた雄花が受粉する時期になると水面上に浮上し花粉が水面を漂います。雌花も長いつるを伸ばして水面に浮上するので、水面上を漂う花粉は雌花に到達し受粉するのです。

水中で受粉する植物例として、キンギョモがあり、この花の雄花と雌花はどちらも水中に生息します。このため、花粉は水中で拡散するように運ばれて受粉するのです。

自家受粉を避ける仕組みと植物例

花粉を動物や風に運んでもらうだけでは他家受粉が完全にできるとは限りません。多くの花は、同じ花の中に雄しべと雌しべがあるので、自家受粉しないように対策をしなければなりません。ここからは、主な自家受粉を避けるための対策方法について学んでいきましょう。

1. 自家不和合成

通常、柱頭に花粉が付いて受粉すると、花粉から「花粉管」が伸び、花粉内の「精細胞」と雌しべの「子房」内にある「卵細胞」が受精します。しかし、他家受粉する花は自家受粉を避けるために、自身の花粉と受粉しても受精に至らせないという仕組みがあるのです。これを「自家不和合成」と呼びます。自家不和合成に関わる遺伝子には「S遺伝子」があり、雄しべと雌しべのS遺伝子が同じであると、花粉管の伸長阻害、発芽抑制が起こり、受精を阻止するのです。一方で雄しべと雌しべのS遺伝子が一致しなければ、花粉管が伸長し受精することができます。自家不和合成をする植物例としてナシやリンゴ、ダイコン、ハクサイなどがあるので覚えておきましょう。

\次のページで「2. 単性花」を解説!/

2. 単性花

単性花とは雄しべのみが発達した「雄花」と雌しべのみが発達した「雌花」のことです。雌雄異花の中には、雄花と雌花が同じ株に存在する「雌雄同株」と雄花と雌花が異なる株に存在する「雌雄異株」があります。特に雌雄異株の場合、人間のように生物学的にオスの個体とメスの個体が存在することになるので、確実に他家受粉をすることができるのです。雌雄異株の例としてイチョウやホウレンソウなどがあり、雌雄同株にはクリ、キュウリ、カボチャなどがあります。

3. 雌雄異熟

「雌雄異熟(しゆういじゅく)」とは、雄しべが花粉を放出するほどに成熟する時期と、雌しべが柱頭に花粉を受粉できるほどに成熟する時期がずれていることです。これにより、自家受粉を避けることができます。雄しべが先に成熟することを「雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)」と言い、キキョウやヤブガラシなどがその代表的な種類です。一方で、雌しべが先に成熟することを「雌性先熟(しせいせんじゅく)」と呼び、ホオノキやタブノキなどがあります。

4. 雌雄離熟

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「雌雄離熟(しゆうりじゅく)」は、雄しべと雌しべが同じ花に存在していながら、雄しべと雌しべの位置がずれている構造を取ることであり、これにより自家受粉を回避することができます。例えばナデシコの場合、雌しべの柱頭が雄しべよりも高く伸びるので花粉が同じ花の柱頭に付くことはありません。このように、雄しべと雌しべが離れたところで成熟することで自家受粉を避けているのです。

他家受粉するには工夫が必要!

他家受粉は自家受粉と違って、異なる個体に花粉を送り受粉することでしたね。他家受粉することで遺伝的多様性が維持できるといったメリットがありますが、他家受粉するには様々な工夫を施す必要があるのでした。他家受粉は、コストはかかるかもしれませんが、植物が子孫を残すために欠かせない生存戦略だと言えますね。

イラスト引用元:いらすとや

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理科生き物・植物生物

他家受粉とは?自家受粉を避ける仕組みや植物例について現役理系学生がわかりやすく解説

「他家受粉」という用語は生物の授業でよく耳にするでしょう。この他家受粉と自家受粉の違いは何でしょうか。また、他家受粉のメリットやデメリットを説明できるでしょうか。今回は生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

他家受粉って何?

そもそも、「受粉」とは雄しべから放出される花粉が雌しべの柱頭にくっつくことを言うのでしたね。「他家受粉(たかじゅふん)」、もしくは「他花受粉」とは、同じ種類の植物が異なる個体間で受粉することを意味します。

他家受粉と自家受粉の違い

他家受粉と自家受粉の違い

image by Study-Z編集部

他家受粉の対となる言葉である「自家受粉(じかじゅふん)」。自家受粉は花粉が同じ個体の雌しべの柱頭に付くことを意味します。このことから、他家受粉は異なる個体同士で受粉することで、自家受粉は同一個体内で受粉するという違いがあることがわかりますね。しっかりと他家受粉と自家受粉を区別するようにしましょう。

他家受粉のメリット

雄しべと雌しべの両方を持つ花が多く存在する中、なぜわざわざ異なる個体間で花粉のやり取りをする必要があるのでしょうか。これには、主に2つのメリットがあるからだと考えられています。ここからは他家受粉するメリットについて解説しますね。

1. 遺伝的多様性を維持できる

自家受粉を繰り返すと子孫が持つ遺伝子の種類が変わることなく引き継がれていきます。一方で他家受粉の場合、多種多様な環境下で育った株の遺伝子が取り込まれた花粉が受粉するため、遺伝子の組み合わせが増えることになるのです。遺伝子のバリエーションが豊富であるほど、その生物の環境への適応度が高くなります。これは、急に環境に大きな変化(例えば世界的な寒冷化など)が生じても、様々な遺伝子があることで生き延びやすくなることを意味するのです。

このように、遺伝的多様性を維持することで新しい環境でも生き残りやすく、子孫も残しやすくなります。

2. 近交弱勢を防ぐことができる

そもそも「近交弱勢」とは、遺伝子が近いもの同士が交配することで、隠れていた有害な遺伝子が集団内に広がってしまい、生存率の低下などを招いてしまうことです。自家受粉は同一個体内で受粉が行われるので、近い遺伝子同士が交配することになります。しかし、他家受粉では、異なる個体に受粉するため、様々な形質を持った遺伝子同士が交配することになり、有害な遺伝子は発現することはほとんどありません。このため、他家受粉は近交弱勢を防ぐことができるのです。

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