キセノン(Xe)という元素は知っているか?周期表では18族に属していて、18族の元素は「希ガス」と呼ばれている。キセノンは、医療や建築分野での活躍が期待されていて、実は人々の身近なところでも使われているんです。今回はキセノンについて、大学は理工学部で化学専攻だったライターyuaと一緒に解説していきます。

ライター/yua

理工学部化学科を卒業している理系女子。有機化学が好き。だが理系には見えず、だいたいの人にびっくりされるらしい。塾講師の経験もあり、化学が苦手な人にもわかりやすく解説できるように努力している。

キセノンについて知ろう!

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キセノンのという名前の由来は、ギリシア語のxenos(異質なもの)です。どのような性質からこの名がついたのでしょうか。キセノンについて詳しく解説していきます。

キセノンとは希ガスの一種!

キセノンとは希ガスの一種!

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キセノンは原子番号54の元素で、原子記号はXeと表します。常温常圧では無色、無臭、無味の気体です。

周期表で見ると右端の第18族に属していますね。第18族元素のことを希ガスと呼びます。希ガスの電子配置を見ると、最外殻電子が閉殻構造をとっているため、一般的には反応性がほとんどありません。しかし、キセノンは原子核から最外殻までの距離が遠いため、他の電子の遮蔽効果によって束縛が弱まっています。なので、他の希ガスと比べるとイオン化しやすい元素というのがわかるでしょう。

また、キセノンは不燃性なので、扱うときに火災や爆発などの心配もありません。

キセノンの歴史

キセノンは、1898年にイギリスのラムゼーとトラバースの液体空気の分留によって発見されました。窒素、アルゴン、酸素を取り除き、残った物質のスペクトルを計測すると、新たなスペクトル線が表れたのです。その物質の比重はアルゴンより大きく、化学的な性質からもアルゴンと同じ第18族に属する元素だということがわかりました。

クリプトン、ネオン、最後にキセノンの順で発見され、ラムゼーは1904年にノーベル化学賞を受賞しています。

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キセノンはどのように精製される?

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キセノンの原料は、人々が生きていく上でなくてはならない空気です。しかし、空気中から単独では精製されません。工業ガスとして利用される液体酸素や液体窒素を製造するための空気分離プラントの副産物から精製されます。

ここで、一般的な空気分離プラントである複式精留塔で仕組みを学んでいきましょう。まず、原料である空気を精留塔の下段へ送ります。沸点が低い窒素は上へ、沸点が高い酸素は液化し下部に溜まっていきますね。この液体酸素は上段へ移動され、さらに蒸留が行われます。キセノンは酸素より沸点が高いため、この液体酸素の中に濃縮されているのです。

キセノンの化合物

キセノンは電子配置から、他の希ガスに比べてイオン化エネルギーが大きいことは理解できたでしょうか?では、具体的にどのように反応するのか解説していきます。

キセノンのハロゲン化物

キセノンは、ハロゲンであるフッ素と反応します。キセノンとフッ素の混合気体をニッケル管内で加熱、または紫外線や放射線を当てることで、二フッ化キセノン(XeF₂)が生成されるのです。加圧条件下で加熱すると六フッ化キセノン(XeF₆)、加熱したものを急冷すると四フッ化キセノン(XeF₄)が生成されるなど、条件によってフッ素の数が変わります

中でも、XeF₄やXeF₆は強力なフッ素化剤です。XeF₄は、ベンゼンなどの芳香族化合物の水素をフッ素化でき、XeF₆は石英(SiO₂)と反応してSiF₄を生成することができます。

キセノンの酸化物

キセノンのフッ化物は、どれも水で簡単に加水分解されます

例えば六フッ化キセノン(XeF₆)は、水と反応して三酸化キセノン(XeO₃)が生成されるのです。ちなみにXeO₃は、有機物と接すると爆発してしまうので、扱いは注意しなければいけません

また、六フッ化キセノン(XeF₆)と石英(SiO₂)の反応では、四フッ化酸化キセノン(XeOF₄)が生成されます。

六フッ化キセノン(XeF₆)の加水分解

XeF₆+H₂O → XeOF₄+2HF

XeOF₄+H₂O → XeO₂F₂+2HF

XeO₂F₂+H₂O → XeO₃+2HF

キセノンの利用例を4つ紹介!

キセノンという名前は普段あまり耳にすることはないと思いますが、意外とわたしたちの生活の中で利用されているのです。

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車のヘッドライトにも!照明として利用

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最近では、電車や車のヘッドライトにはキセノンガスが使用されています。キセノンガスは、外部からのエネルギーによって原子、分子のエネルギーが高まり放電し発光するのです。これをキセノンランプと言います。一般的な白熱電球はフィラメントという電線に電気を通すことで発光するので、キセノンランプの方が消費電力が低く、長寿命だといえますね。

また、キセノンランプは太陽光に近い白色光源なので、写真用のストロボや映写機用のランプにも用いられています。

宇宙衛星のイオンエンジン!

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小惑星探査機「はやぶさ」のような宇宙衛星は、軌道を制御するためにイオンエンジンが用いられています。イオンエンジンは、キセノンガスをプラズマにし電気的に加速させ、高速で噴射させることで推進するのです。

化学燃料だと重く、宇宙まで持っていくとその分スペースを取られてしまいますが、イオンエンジンではそのような心配はありませんね。ちなみに電力は衛星に搭載されている太陽電池で充てんできます。

医療分野でも活躍!

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キセノンは1946年に麻酔作用があることが発見され、長きにわたり研究されてきました。導入と覚醒が早く、鎮痛作用や脳を保護する作用があることから、理想的な麻酔薬と言えるでしょう。しかし、キセノン単体は高価で、副作用の心配もあることから一般的に普及されていないのが現状です。

また、キセノンはX線を減らし電気信号に変えて、高エネルギー電磁波の透過を防ぐことができます。その性質から、人体のCTスキャナーの造影剤として利用されているのです。

さらに、キセノンの光を照射する光線療法があります。キセノン光線は身体の深部まで届くので、細胞を活性化し、筋肉や自律神経をコントロールするのです。慢性的な痛みやスポーツ障害などに効果が期待されています。

塗料の実験に!キセノンウェザーメーター

キセノンウェザーメーターとは、高促進耐候性試験機のことです。

キセノンの光は太陽光の分光エネルギー分布に類似しています。そのことから主に建築分野において太陽光、温度、湿度など屋内外の条件を人工的に再現し、製品や材料の劣化を促進させる試験に利用されているのです。

キセノンは今後期待されているレアなガス!

キセノンはあまり聞きなじみがないだけで、実際は車や電車、医療や建築分野など、世の中にさまざまな形で利用されている元素であることがわかっていただけましたか?

ただ、キセノンは原料である空気中に微量しか含まれていないため、日本国内だけの生産では追い付かず、海外からの輸入に頼っているのが現状です。今後キセノンの需要が高まってきたら、外国との関係性や安定的に原料を確保することが大切になってくるでしょう。

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化学理科

キセノンとはどんな元素?性質や化合物、利用例などを理系ライターが詳しくわかりやすく解説!

キセノン(Xe)という元素は知っているか?周期表では18族に属していて、18族の元素は「希ガス」と呼ばれている。キセノンは、医療や建築分野での活躍が期待されていて、実は人々の身近なところでも使われているんです。今回はキセノンについて、大学は理工学部で化学専攻だったライターyuaと一緒に解説していきます。

ライター/yua

理工学部化学科を卒業している理系女子。有機化学が好き。だが理系には見えず、だいたいの人にびっくりされるらしい。塾講師の経験もあり、化学が苦手な人にもわかりやすく解説できるように努力している。

キセノンについて知ろう!

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キセノンのという名前の由来は、ギリシア語のxenos(異質なもの)です。どのような性質からこの名がついたのでしょうか。キセノンについて詳しく解説していきます。

キセノンとは希ガスの一種!

キセノンとは希ガスの一種!

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キセノンは原子番号54の元素で、原子記号はXeと表します。常温常圧では無色、無臭、無味の気体です。

周期表で見ると右端の第18族に属していますね。第18族元素のことを希ガスと呼びます。希ガスの電子配置を見ると、最外殻電子が閉殻構造をとっているため、一般的には反応性がほとんどありません。しかし、キセノンは原子核から最外殻までの距離が遠いため、他の電子の遮蔽効果によって束縛が弱まっています。なので、他の希ガスと比べるとイオン化しやすい元素というのがわかるでしょう。

また、キセノンは不燃性なので、扱うときに火災や爆発などの心配もありません。

キセノンの歴史

キセノンは、1898年にイギリスのラムゼーとトラバースの液体空気の分留によって発見されました。窒素、アルゴン、酸素を取り除き、残った物質のスペクトルを計測すると、新たなスペクトル線が表れたのです。その物質の比重はアルゴンより大きく、化学的な性質からもアルゴンと同じ第18族に属する元素だということがわかりました。

クリプトン、ネオン、最後にキセノンの順で発見され、ラムゼーは1904年にノーベル化学賞を受賞しています。

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